アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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このお話はアニマス13話と14話の間、所謂空白期のお話となります。

REX版の漫画アイマスを参考にして書いておりますので、是非そちらも読んでみてください(ステマ)


Lesson39 HENSHIN!

 

 

 

 あの忘れられない感謝祭ライブからしばらく経ち、私達に対する世間の注目度がだいぶ変わった。その変化は街中など様々なところで窺うことが出来た。

 

 例えば、お店の窓ガラスに私達のポスター(しかも個人別の物)が貼られていたり。

 

 例えば、テレビやラジオで最近活躍しているアイドルとして取り上げられたり。

 

 そして最も顕著なのが……。

 

「え? 春香も?」

 

「も? ってことは、やっぱり真も?」

 

「うん、握手求められたりサイン求められたり……」

 

 そう、周囲の人間の私達に対する反応である。以前までは普通に街を歩いていて声を掛けられるなんてことはほとんど皆無に等しかったというのに、あの感謝祭ライブが終わってからは街中で度々声を掛けられるようになったのだ。昨日も学校帰りに友人二人と歩いていたところ、他の学校の男子学生に握手を求められてしまった。

 

 ちなみにその時「握手ぐらいなら」と私は考えていたのだが「あんたはアイドルとしての自覚を持ちなさい!」と友人に怒鳴られてしまった。律子さんみたいなことを言うなぁと思ったが、確かに意識が薄かったかと少し反省。

 

「だから僕はこうやって帽子を深くかぶって来たんだけど……」

 

 そう言いながら真は帽子を目深に被る。目元を隠した真は、着ている服も相まって男の子のようだった。

 

「私も帽子被ったりマスクしたりしてるよ」

 

「雪歩も?」

 

「うん。普通にマスクしている人も多いから目立たないし」

 

「うーん、やっぱり顔バレしないように気をつけなきゃ駄目かなぁ」

 

 ファンの人に声を掛けられること自体は大変喜ばしいことではあるのだが、騒がれて周りの人に迷惑をかける訳にはいかない。

 

「千早ちゃんはどうしてるの?」

 

「私?」

 

 向かいのソファーに座る千早ちゃんに問いかけると、千早ちゃんは読んでいた雑誌から顔を上げた。

 

「私は特に何もしてないけど」

 

「え?」

 

「握手やサイン求められたりしないの?」

 

「いえ、されるわ。今日も……えっと、三人ほど」

 

「お、男の人に……!?」

 

 未だにプロデューサー以外の男の人に慣れていない雪歩が声を震わしながら千早ちゃんに尋ねる。

 

「ええ。でも普通のことでしょ? 隠す必要無いと思うわ」

 

「む、無理ですー!」

 

 まぁ、男の人か女の人かという点は置いておいて。

 

「でも、今後はみんなますます知名度も上がっていくだろうし、何か対策が必要かもしれないわね」

 

 ホワイトボードにみんなの予定を書き込んでいた小鳥さんが会話に参加してくる。いつも真っ白だったホワイトボードは、あの感謝祭ライブ以降急激に増えた仕事が書き込まれたおかげで今では白いところの方が少なくなってしまっていた。

 

「ただいまー!」

 

「ただいまなのー」

 

「ふひぃ~、クタクタだぞ……」

 

 ホワイトボードに書かれた仕事の量に改めて驚いていると、雑誌撮影に出ていた真美、美希、響、プロデューサーが帰って来た。

 

「って、アレ? 美希、その眼鏡どうしたの?」

 

 美希は以前かけていなかった赤い眼鏡をかけていた。

 

「ふっふーん! りょーたろーさんとお揃いの赤い伊達眼鏡なの!」

 

 そう言いつつ美希は自慢げに眼鏡のつるを指で押し上げる。赤色が美希の金色の髪と良く合っていた。

 

「りょーたろーさんに変装の小道具に赤い伊達眼鏡がきっと似合うって言われたから早速買って来たの!」

 

 なるほど、良太郎さん直々に勧められたのであれば美希が上機嫌なのも頷ける。

 

「もー、ミキミキってば撮影の間ずっとそのこと自慢してくるんだよー!?」

 

 ぷーっと頬を膨らませて怒りを表しながら美希を睨む真美。

 

 そういえば変わったことと言えばもう一点。これは感謝祭ライブとは関係なく、むしろそれ以前からの話になるのだが、真美がすっかり良太郎さんファンになったということだ。別に今まで良太郎さんに興味がなかったというわけではないのだが、美希に続く良太郎さんファン、とでも言えばいいのだろうか。よく二人で良太郎さんの話をしている光景を見るようになった。直接本人に出会って話をして更に携帯電話の番号まで交換して、何か思うところがあったのだろう。

 

「マミもりょーにぃに何が似合うか聞こうと思ったら電話出ないしー……!」

 

 うーん、やっぱり私も変装用の小道具、何か考えないとなぁ……。

 

 

 

 

 

 

「うんうん、注目してた子達がこうして売れていくのを見るとやっぱり自分のことのように嬉しくなるね」

 

 765プロの特集が組まれた雑誌のページを捲りながら独りごちる。

 

「へー、良太郎の一押しだったんだ。わたしも気になってたんだよ?」

 

「お、フィアッセさんのお眼鏡にかなう子がいましたか?」

 

「うん、如月千早っていう凄い歌が上手な子」

 

「あー、なるほど。やっぱり歌手としてはそっちに目が行きますか」

 

「……そろそろ突っ込んでいいか?」

 

「ん?」

 

 喫茶『翠屋』の店内。諸事情により歌手業を休止して翠屋の店員をしつつ日本に滞在中のフィアッセ・クリステラさんと765プロのことについて話していると、何故か恭也が目を瞑ってこめかみを人差し指で抑えていた。

 

「どうした恭也、頭でも痛いか?」

 

「そうなの? 恭也、無理しないで休んでた方がいいよ?」

 

「いや、違う、そうじゃないんだ」

 

 フィアッセさんの優しい言葉に首を振り、恭也は改めて視線をこちらに戻すと一拍置いてから再び口を開いた。

 

「良太郎、お前のその格好は何だ?」

 

「? 見て分からないか?」

 

 何やら俺が今着ている服の名前が分からなかったらしい恭也のために、その場でくるりとターンを決めてから右手を後頭部に、左手を腰に当ててポーズを決める。

 

 

 

「メイド服に決まってるじゃないか」

 

 

 

「……そんな当たり前のように言われても俺が困るんだが」

 

「それに対して俺もどう返答していいのか分からないが」

 

 とりあえず言っておくが、断じて女装趣味に目覚めた訳ではないということだけ明言しておく。

 

 今回メイド服を着ることになったのは、765プロ感謝祭で送った大量の花輪が原因である。

 

 以前早苗ねーちゃん達に向かって自分は高給取りであると言ったが、実際のギャラ全てが俺の懐に入る訳ではない。俺が仕事で稼いだお金は全て兄貴が管理しており、そこから月給と言う形で俺に支給されるという形式になっている。これは一般的な事務所に所属するアイドルと同じはずだ。つまり一ヶ月に使用することが出来るお金は常に一定となっており、それ以上の金額を使用しようとすると貯金を切り崩すしかないのだ。当然貯金はそれなりに貯まっているものの、前世の記憶が庶民的だったためか知らないがあまりそこら辺に頼った生活をしたくない。そこで考えた独自のルールが『一定以上の金額を使用する場合、別途何らかの方法で金銭を稼ぐ』というもの。

 

 まぁ要するに『不足分はアルバイトして稼ぐ』ということだ。

 

 しかしそこで問題になってくるのは『果たして周藤良太郎がアルバイト出来る場所があるのか』ということだ。それは『アルバイトをする能力のある無し』ではなく『周藤良太郎としてアルバイトをした場合に生じる問題』と言う意味である。何度も言うようだが俺はトップアイドルである。老若男女問わず人気のある俺が近所のコンビニでアルバイトすることが出来ようか? 否、出来ない(反語)。

 

 つまり俺がアルバイトをする場合『周藤良太郎を快く受け入れてくれるアルバイト先があるか』という問題と『周藤良太郎としてバレない方法があるか』という問題の二つが挙げられる訳だ。

 

 一つ目は簡単に解決。昔から馴染みのある翠屋に頼めばいいのだ。まだアイドルとして有名になる前からちょいちょいアルバイトをしていたため勝手は知っている。士郎さんと桃子さんに頼んだら二つ返事でOKを貰うことが出来た。いやぁマジ感謝。

 

 そして二つ目の問題。これも当初はいつもの帽子と眼鏡を装着することで解決しようと考えていたのだが、店内で帽子を被るのもどうだろうか。いやまぁこの翠屋の常連さんは俺が良く来ることを知ってるし、別にバレても問題ないといえば問題ないのだが。

 

 

 

「そこでこのメイド服だよ」

 

「話が飛躍しすぎて何が『そこで』なのかが一切分からんぞ」

 

 

 

 もっと行間を読ませろと恭也は愚痴る。

 

 半袖にロングスカートのエプロンドレス、胸元にはさりげなく赤いリボン。黒髪の長いかつらを被り、その上には純白のカチューシャ。本来ならこれは作業中に髪が邪魔にならないように抑えつけるのが目的なので意味がないのだが、そこら辺はご愛敬。さらに桃子さんによって薄く施されたメイクにより見た目は完璧美少女(自画自賛)。常に無表情で笑顔がないのがマイナスポイントだが、それを差し引いてもクールビューティーメイドの誕生だ。

 

 『女装』も十分に変装の一種である。これにより周藤良太郎だとバレずにアルバイトが可能となったのだ。

 

「大体、何処からそのメイド服を持って来たんだ」

 

「いや、この服持ってきたの桃子さんだけど」

 

「母さん……」

 

「さらに言うと本当だったら恭也に着せるつもりだったとも言っていた」

 

「母さんっ!?」

 

 悲鳴のような声を上げて驚愕する恭也がカウンターの向こうの桃子さんに振り向くが、当の桃子さんは「うふふ」とただ笑うだけだった。

 

 なおこのメイド服、本来は高町家長女の美由希ちゃんに着せるつもりで買ってきたがサイズが大きすぎたからサイズを合わせるための手直し待ちだったものらしい。美由希ちゃんの分はまた後日買ってくるとか。美由希ちゃんのメイド服が見れる日も近いな。

 

 ちなみにその美由希ちゃんは友人と遊びに行っているため不在。なんか最近タイミングが合わずに全然会っていない気がするが、気のせいだろうか。

 

「フィアッセはおかしいと思わないのか!?」

 

「似合ってるよねー、良太郎のメイド服」

 

「俺だけか!? 俺だけがこの状況をおかしいと思っているのか!?」

 

 クールな恭也にしては珍しく頭を抱えてうがーっと吠える。

 

「良太郎お兄さん、とっても綺麗です!」

 

「ありがとー、なのはちゃん。でも今はお兄さんだとアレだから『リョウお姉さん』って呼んでくれ」

 

「はい! リョウお姉さん!」

 

 グリグリと頭を撫でると、髪がぐしゃぐしゃになっちゃうよーと言いつつも満更でもない表情で目を細める翠屋の小さな店員さん(俺とお揃いのエプロンドレス着用)。

 

 

 

「……俺に、味方はいないのか」

 

 

 

 というわけで、本日の周藤良太郎は『メイド』として翠屋でアルバイトである。

 

 さ、張り切って働いていこう!

 

 

 




・フィアッセ・クリステラ
以前から名前だけ出ていたとらハ世界の歌姫がようやく登場。しかし原作未プレイの作者の情報源は他の二次創作作品のみ。これでちゃんとフィアッセさんになっているのかが大変不安である。

・「メイド服に決まってるじゃないか」
以前からご要望があった女装ネタ。
第二章開始早々この主人公は一体何をしているんだ(呆れ)

・アルバイトをする理由
感想で何人かの読者に「これだけ売れてるアイドルがそれぐらいで金欠になるのは疑問だ」と言われたので辻褄を合せてみた()

・美由希は不在
やはり不憫だった。

・「良太郎お兄さん、とっても綺麗です!」
純粋なのはちゃんマジ天使。ちなみに何気にメイド服着用。



 前書きでも書いたように、14話までの空白期はREX版の漫画を参考にさせていただいております。

 ちなみに漫画版は他に「The world is all one」「カラフルデイズ」「眠り姫」を既読済み。魔王エンジェルをタグ登録してプッシュしているくせに実は「relations」は読んだことがないという……。

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