アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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久々に間に合わなくなるかと思った……。


Lesson57 良太郎の一手 2

 

 

 

 日曜日。世間一般では学生も会社員も休日となる一日。俺もトップアイドルである以前に高校生であるため当然休日……とはいかず、午後からお仕事である。まぁ昨日ジュピターとのコラボ結成の記者会見をした翌日から一日オフになるほど甘くなく、しかし夕方まで自由な時間が作れたこと自体が奇跡的だった。

 

「うーん、まさかほとんどの新聞の一面に載るとは……流石にこれは予想外だった」

 

「ホントお前は突拍子もないことをしてくれるよ」

 

 新聞の表紙を見つつコーヒーを飲む俺の独り言に、箒と塵取りを使って床の掃除をしていた恭也が呆れた声を出す。

 

 何故恭也が反応したのかというとただ単にここが翠屋の店内だからで、恭也が店の手伝いをしている真っ最中だからである。花の高校生が折角の日曜日に実家の手伝いとは何とも殊勝な心掛けであるが、店の裏には手伝いに来ている月村がいるので実質自宅デート中みたいなものである。ぐぬぬ。

 

「一切の自覚が無かったのだったらお前の精神を疑うところだ。昨日はウチでもなのはが騒いで大変だったんだぞ?」

 

 果たして俺がコラボすることについての何に対して騒いでいたのかは定かではないが、ワタワタと慌てるなのはちゃんの姿が容易に想像できた。

 

 さて、いくら昔から翠屋に通っている身とはいえここまで露骨な会話を翠屋の店内で堂々としていればいくら何でも問題だが、店内に誰もお客さんがいないので関係ない。もちろん日曜日と言う稼ぎ時に限って定休日のはずがない。

 

「ホントありがとうございます、桃子さん。こんな無茶なお願いを聞いてもらって」

 

「ふふ、いいのよ良太郎君。ランチタイムは終わってるから、少しぐらいなら問題ないわ」

 

 桃子さんとの会話で推測してもらえるように、つまり無理を言ってほんのわずかな時間であるが翠屋を貸切状態にさせてもらったということだ。というわけで今の俺は伊達眼鏡も帽子も身に付けていない非変装状態。他にお客さんがおらず変装もしていないのでまるで実家のような安心感でリラックスモードだ。

 

 ちなみに士郎さんは諸事情により不在。なのはちゃんは塾で、美由希ちゃんは以下省略。

 

「それにしても何故わざわざ貸切にするんだ?」

 

「ちょっと今から会う人が会う人で、話す内容が内容だから他の人が来れないような場所が欲しかったんだよ」

 

 所謂密会場所が欲しかったわけだ。

 

「俺たちはいるが」

 

「例え聞いてたとしても、お前も桃子さんも他言しないって信頼してるから」

 

「……全く」

 

 などと言いながら床掃除を終えて離れていく恭也。多分照れているんだろうけど男の照れとかいらないから。

 

 さて、そろそろ約束した時間なんだが……。

 

 ガチャリという店の扉が開く音がした。店の前には開店準備中の立て看板があるので一般客が入ってくることはまずない。だから今このタイミングで入って来るのは翠屋の関係者、もしくは――。

 

 

 

「来てあげたわよ、良太郎」

 

「いらっしゃい、麗華」

 

 

 

 ――俺の待ち人、である。

 

 恐らく今回のことで事情説明を求められるだろうと最初から予想していた。そこで前回は麗華のホームに呼び出されたので今回はこちらにと思い立ち、ある意味三つ目の実家とも言える翠屋(二つ目は高町家)に呼び出した訳だ。

 

 ……訳なのだが。

 

「……おい麗華、ここは普通一人で来るところじゃないか?」

 

「あら、メールには一人で来いなんて書いてなかったわよ?」

 

「りょーくんジュピターとコラボってどういうこと!?」

 

「流石に説明して欲しい。あ、桃子さんお邪魔します」

 

 クスクスと笑う麗華の後ろから一緒に店内に入って来たのはお察しの通り、りんとともみ。りんは入ってくるなり麗華を追い越して俺に詰め寄ってきて、ともみはカウンターにいる桃子さんに挨拶をしていた。相変わらずちょくちょく来ている様子である。

 

 それにしても、確かに人数指定はしなかったが……俺の時は一人だったのにそっちはメンバー全員とかちょっと狡いような気がしないでもない。いやまぁ、絶対二人には聞かれたくない話をするわけでもないが。

 

「とりあえず桃子さん、コーヒー二つと紅茶一つとオレンジジュース一つお願いします」

 

 折角翠屋を利用させてもらうのに注文しないのも失礼。各々の好みの飲み物は理解しているので勝手に注文させてもらう。

 

「シュークリームもお願いします、良太郎の奢りで」

 

「あ、私もお願いします、りょーくんの奢りで」

 

「全部で三つお願いします、リョウの奢りで」

 

「容赦ないなオイ」

 

 何だろう、最近女の子に物を奢ることが快感になりつつあるなんてことは絶対にありえないビクンビクン。

 

 

 

「さて、それじゃあそろそろ説明してもらおうかしら?」

 

 全員に飲み物とシュークリームが行き渡り、店内の一番隅のテーブルに全員が座る。別に他の客がいないのだからわざわざ隅のテーブルにする必要はないのだが、そこは気分の問題である。ちなみに席の位置としては左隣にりん、向かいに麗華、その隣にともみである。この面子で四人掛けのテーブルに座る場合は大体この座り方だ。

 

「一体どーしたの、りょーくん。今まで他のアイドルとのコラボなんてしたことなかったのに。ジュピターからコラボしようって持ち掛けられたの?」

 

「いや、今回は俺から961プロに話を持ち掛けたんだよ」

 

「えー!?」

 

 以前からりんに「一緒にステージに立ちたい」と言われていたので、言外に「何故自分達とはコラボを組んでくれないのか」と言われているような気がした。やめて! 隣から涙目で覗き込まないで! 演技の涙だと分かっていても心揺れて今すぐジュピターとのコラボ止めて魔王とのコラボにしたくなっちゃうから!

 

「……もしかして、765プロと関係があるの?」

 

「え? ともみは知ってたのか?」

 

「噂を小耳に挟んだだけ」

 

 765プロと961プロの件に関しては麗華としか話をしていなかったので、ともみが今回の件をそこに結び付けることが出来たことに対して驚いた。どうやら彼女は彼女なりに気付いて調べていたようだ。

 

「え? どういうこと?」

 

 この中で唯一事情を把握できていないりんが困惑しながら俺たち三人の顔を順番に見る。

 

「まぁ掻い摘んで説明すると、961プロの黒井社長が765プロのみんなにちょっかいをかけてるからそれを何とかしたかったんだよ」

 

「それが一体どうしたらジュピターとコラボを組むことになるのよ」

 

 ジトッとした目つきの麗華。確かに何の説明も無ければこれは俺が765プロを見捨てて961プロに味方したと見られてもおかしくないだろう。

 

「一つ目の理由は、俺自身がジュピターの動きを抑制するためだ」

 

 現在、黒井社長が765プロに対する主に行っているのは、765プロの仕事をジュピターで横取りする嫌がらせ、要するにジュピターを利用した妨害行為だ。つまりジュピターと一緒に仕事をして動きを監視すれば抑制になる、ということだ。一緒に仕事をする以上、こちらもジュピターの動きを把握することになる。動きを第三者に把握されている状態でジュピターを動かすほど黒井社長も愚かではないだろう。

 

「二つ目の理由は、黒井社長の注意をこちらに向けて765プロに対する嫌がらせをする暇を無くすため」

 

 留美さんによれば、俺が手回しをして嫌がらせの妨害をしていることに対して黒井社長が腹を立てているとのこと。そんな俺が唐突にコラボを持ちかけてきたら当然怪しむだろう。何かしようとしている相手を放置するほど黒井社長も愚かではないだろうし。

 

「でもりょーくん、黒井社長がコラボの提案を受けないっていう可能性は考えなかったの?」

 

「そりゃ考えたさ」

 

「だったら……」

 

「でも、受けるという確信もあった」

 

 さっきも言ったが、黒井社長は愚かではない。一代であの961プロを立ち上げた人物が有能じゃないはずがない。

 

 だからこそ、黒井社長は『周藤良太郎とコラボ』をすることによる『利益』を無視することが出来ないと考えたのだ。

 

「……まぁ、元々知っていたこととはいえ、こんなのを見せられちゃったら納得せざるを得ないわね」

 

 呆れた様子で先ほど俺が見ていた新聞を持ち上げる麗華。これだけでもジュピターの知名度が周藤良太郎の知名度にだいぶ近づいたと思う。また、ネットをチラリと覗いてみたが、コラボに対する賛成や反対で様々な議論がなされていた。これも十分に宣伝効果となるだろう。

 

「でも、まだ根本的な解決になってないってことには当然気付いてるのよね」

 

「そりゃもちろん」

 

 この二つはあくまで俺がジュピターとコラボユニットを結成している間のみ効力を発揮するものであって、十二月の『アイドルJAM』出演でそれは終わってしまう。

 

「だからこれはあくまでも時間稼ぎだよ」

 

「時間稼ぎ?」

 

「そう」

 

 本当だったらもう少し長めに時間を稼ぎたかったのだが、リアルの事情を考えると流石にこれが限界だった。本当だったら既に仕事を減らして受験モードに入る予定だったのだから、これでも頑張った方だ。

 

「たかだか一か月時間を稼いだところで、何か出来るの?」

 

「するさ」

 

「……言い切るわね」

 

 挑戦的な麗華の言い方に対して、俺はハッキリと肯定する。

 

「結局リョウは何をどうやって黒井社長を止めるつもりなの?」

 

「そこは流石に企業秘密だ」

 

 三人から非難めいた目で睨まれるが『これ』が今回の解決策の肝、それも俺と兄貴で分担作業し、そして様々な人の協力を得て初めて成り立つのだ。こればかりはこの三人にも話すことは出来ない。

 

 

 

 ――何せ、ある意味俺や兄貴の『将来』にも関わってくる話だしな。

 

 

 

「……どうしてりょーくんはそこまでするの?」

 

 不意に、りんがそんなことを尋ねてきた。

 

「昔のことから、他の虐げられているアイドルを助けたいっていう気持ちは分かるよ? でも、りょーくんはどうしてそこまで全てのアイドルが傷つかない方法を選びたがるの?」

 

 そのりんの表情は怒っているようにも悲しんでいるようにも見え、それでいて只々純粋な疑問を感じているようだった。

 

「……りんはさ、俺がアイドルとしてなんて呼ばれてるか知ってるだろ?」

 

「え? そりゃあ、もちろん……」

 

「『覇王』とか」

 

「『キングオブアイドル』とか」

 

「『アイドルの頂点』とか」

 

 そう。『覇王』で『キングオブアイドル』で『アイドルの頂点』なのだ。

 

 たとえ、それが自らが名乗ったものでなくても、人から呼ばれたものであろうとも。

 

 俺はそれを誇りに思っているし、拒絶するつもりもない。

 

 

 

「『王様』が全ての『(アイドル)』を護ろうとするのは当然のことだろ?」

 

 

 

 少し傲慢な考えかもしれないが……ま、それも王様らしいだろ。

 

 

 




・ワタワタと慌てるなのはちゃん
尚慌てていてもしっかりと翌日の朝刊は確保していた模様。

・実家のような安心感
決してホモネタなんかじゃない(確信)

・ビクンビクン
まだ穢れていなかった頃に見てしまったクリムゾンは結構トラウマ。

・良太郎の事情説明
色々とツッコミどころがありそうな気がしないでもないが、こういう理由。

・「そこは流石に企業秘密だ」
「理由」は説明しましたので「解決策」はまだまだ引っ張らせていただきます。

・「『王様』が全ての『民』を護ろうとするのは当然のことだろ?」
キャーリョータローサーン!



 ツッコミどころ多そうですがマイルドめのご感想をよろしくお願いします(震え声)

 説明しきれなかったところは次回補足する……予定。

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