盾の勇者の成り上がりのアニメ1話を見て誰もが思ったであろうシチュエーション。メインの連載がいき詰まっているので、リハビリがてら書いてみました。リハビリがてらなのでオチがありません、悪しからず。

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リハビリがてらなので、文章が拙いですがお納めください。




【地雷】剣の勇者がキリトな世界線

「四聖召喚?」

カフェオレ色の肌のマスターが発した言葉を俺は咀嚼するように口に出して反芻した。

日曜の昼下がり、俺こと桐ヶ谷和人はエギルに呼び出され、彼の経営する喫茶店兼バー《ダイシー・カフェ》に来ていた。

 

そこで聞かされたのが、俺も口に出した『四聖召喚《サモン・フォース》』というワードだ。

心当たりがない、という俺の心が顔に出ていたのであろうか。エギルは聞き返された言葉に答えるように、そのまま言葉を続けた。

 

「あぁ、そうだ。昨日の夜のことなんだがな? お前がかなり前に持ち込んできた《ザ・シード》があるだろ? 」

 

《ザ・シード》。

俺が《ALO事件》の際、ゲーム内で茅場晶彦に託された、フルダイブ・システムによる全感覚VR環境を動かす為の一連のプログラム・パッケージである。

 

SAOサーバーで自立制御していた《カーディナル》システムを整理し、小規模なサーバーでも稼動できるようにダウンサイジングし、その上で走るゲームコンポーネントの開発支援環境をもパッケージングしたものとのことだ。

 

つまり、10年ほど前に発売されて一斉ブームを築いた「スーパールイ○ジメイカー」や「RPGツク○ル」のVR版と言えるようなものと言えよう。

 

これを託された俺は、エギルのところに《ザ・シード》を持ち込み、エギルのコネクションを使い2人で徹底的に危険性がないことを確かめ、世界各地のサーバーから、個人、企業に関わらず誰でも落せるよう、いわば『クリエイティブ・コモンズ』なプログラムとしたのだった。

その結果、爆発的に仮想空間は広がりを見せ様々なVRワールドを生み出し続けている。

 

この前まで俺が2年過ごした『アンダーワールド』だって、後から聞くと、これを元にプログラミングされていたらしい。

 

茅場曰く、《世界の種子》。その名の通り、《ザ・シード》は様々な世界を発芽させているといえよう。

 

「その大元──つまりネット上に公開した複製品《コピー》じゃなくて、オリジナルの方だ。それにはサンプルとして、小さい仮想世界が入ってるだろ?そいつのデータの一つにいつのまにかダウンロードされてやがったんだ」

 

ルイー○メ○カーで例えるとわかりやすいだろうか。あれにはこのようにコースが作れますよ、と言うサンプルコースがいくつか含まれている。

同様に《ザ・シード》には《サンプル仮想世界》というべきものが初期ダウンロードされている。そのうちの1つに、いつの間にかその仮想世界が含まれていたと言うのだ。

 

「しかもそいつがうんともすんともいいやしねぇ……、別に害があるものでは無いようなんだが……なんか、キリト、わかるか?」

「いや、わからない。聞いたこともないな」

「そうだよなぁ……」

 

正直、これが何がどうかということはわからない。だが、この不可解な状況、アンダーワールドに明日奈とアリスと共に帰還した時を思い起こす。

 

「だが、この『ザ・シード』のオリジナルを持っているのが俺たちだと分かる奴は限られているからな……」

「おいおい、まさか……」

 

エギルは何かで頭を打たれたかのように手で頭を抑えた。

そう。

この《ザ・シード》については殆どの人に口外していない。それなりに仲良くしていた菊岡にも言っていないくらいだ。まぁ、それは菊岡が怪しい雰囲気だったこともあるが。

 

このオリジナルを持っているのが俺たちと知っているのは明日奈たちや、調査時に協力してもらったエギルの知り合いくらいなのだ。だが、それはないと思えるくらい彼らのことは信頼できる。

 

だが、まだもう1人、知っている人間がいる。

それは、製作者で、俺にこれを託した人物。

 

 

「あぁ、茅場の遺産、かもな」

 

「マジかよ……だが、あいつは死んだはず……って、お前さんはALOで会って、さらにこの前お前らの命を救ったのがその茅場だっんだっけか」

「あぁ……俺はよく知らないんだが、《オーシャン・タートル》で助けられたらしい。ALOの時の本人曰く私はコピーに過ぎないとか言ってたけどな」

 

エギルはますます頭痛がしてきたと言わんばかりにその滑らかな頭皮をゴシゴシと擦った。

何故、茅場が俺たちを助けてくれたのか。答えは出ない。

エギルは茅場の状況に対する思考を放棄したのか、話題を元に戻した。

 

「茅場自身のことはともかく、これはお前へのメッセージって訳か……」

「あぁ、とりあえず俺のナーヴギアにそのファイルを共有しておいてくれ……多分俺のナーヴギアでしかアクセスできないとか、そんな感じかもしれない……」

「だろうな」

 

エギルはあの茅場ならそのくらいのことはするだろう、と言わんばかりにあっけらかんとそう言った。

よほどそちらの方面で茅場を信用しているのだろう。無論悪い意味である。まぁ、【ヒースクリフ】のしたことを思えば当然だろうが。正体を隠して血盟騎士団の団長をやっていたように、そういう回りくどいやり方が好きなのだ。

 

それからエギルの淹れたコーヒーを二杯ほど飲み干した俺は荷物をまとめ、席を立った。

 

「じゃあ、俺は帰るよ……」

「おいおい、ちょっとゆっくりしていけ……キリト……」

「いや、今日はアリスがうちに来るみたいだからな……」

 

一度、俺の家に『宅配便で届けられる系ヒロイン』として送られてきたあの整合騎士サマは、うちが気に入ったのかなんなのか、定期的に遊びに来るようになっていた。

それに対抗して明日奈が遊びに来る回数も増えたため、色々忙しいのだが、ある意味では充実しているとも言えるのかもしれない。

 

エギルは、その言葉に少し顔を引きつらせながら、

 

「……そうか。気をつけろよ……特に夜道には。……刺されるぞ」

「もう懲りてるよ……」

「そういやお前クスリ打たれたんだったな…………じゃなくて女性関係の方だ……って、もう行ってやがる」

 

グラスを拭いていたエギルは、キリトの乗ったバイクの音が店の前を通り過ぎるのを耳にしながら、ほうと大きく息を吐いた。

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

家に帰ると、アリスが来るまで時間があったため、先程の『四聖召喚』を試してみようという気になった。

現実拡張型デバイス《オーグマー》を外し、久しぶりの《ナーヴギア》を起動する。それをネットに接続し、エギルから送られてきていた『四聖召喚』とやらのファイルをダウンロード、インストールを行う。

 

割と時間を食ったが、それでもまだ余裕はあったため、潜ってみることにした。

 

「リンク・スタート」

 

その言葉と同時、俺の意識は仮想空間へと跳躍した。

目の前に現れる文字列。

 

『認証デバイスでのソフトの起動を確認しました。ゲーム『四聖召喚』を起動しますか』

 

やはりと思った。

 

【認証デバイス】。そう書かれている。この認証デバイスというものが、俺の所持デバイスということを指すのか、それともナーヴギアを指すのかはわからないが、それは問題ない。

今やナーヴギアを持っている人間といえば、菊岡と取引した俺くらいのものだからだ。

 

だからこれは、俺へのメッセージであるということは間違いない。

俺は少し逡巡した後、イエスを選択した。

 

すると世界が一瞬で切り替わり、映像が映し出された。どうやら世界観の説明のようだった。

 

要約すると、とある異世界で終末の予言がなされた。

その終末は幾重にも重なる災厄の波がいずれ世界を滅ぼす。

災厄を逃れる為、人々は異世界から勇者を呼んだ。召喚された四人の勇者はそれぞれ武器を所持していた。

剣、槍、弓、そして盾。

 

へえ、ベタベタの異世界召喚ものという感じだな、と思ったが、ベタベタと言ってもそれは小説の中の話だ。あまりVRでは異世界召喚ものは見ないなと思い起こす。

 

そこで。警告音が鳴った。と言っても、ソードアートオンラインの始まりの街での警告というようなものではない。

普通に、体を揺さぶられたら起きる、というような保護プログラムによるものだ。

本来ナーヴギアのそれは強くないのだが、俺は須郷の事件の反省を経て、ユイと共に強い保護プログラムをナーヴギアに入れていた。

 

 

『キリト、キリト! 私が来るというのにフルダイブとはどういう了見ですか、キリト?』

 

 

声が聞こえて、これは仮想空間から現実世界に戻される感覚……と自覚したところで、意識がすーっと遠くなった。

 

 

 

──────────────────

 

 

 

空気に匂いがある。

 

そう言って驚いたのはいつのことだっただろうか。少なくとも、俺はその感覚を2度覚えている。

 

1度目は確か、《ソードアート・オンライン》から解放された直後だったはずだ。2年もの間、あの浮遊城で過ごしていた俺は、現実世界で目を覚ました時、空気の細やかな芳香に驚きを隠せなかった。

 

2度目は、この前──といっても俺の体感では2年も前のことになるのだが──《アンダーワールド》で目覚めた時だ。

あの浮遊城から解放されてしばらくした後は、空気の匂いなんてものを意識することはなくなっていた俺であるが、あの草原で目覚めた時、その感覚を思い出すこととなった。

 

要は、慣れというものであると思う。牧場で労働する人たちは牛の匂いが気にならなくなっていくという。ある匂いに慣れることにより、その匂いが感じられなくなっていくのだ。

 

逆にいうと、いつも感じているはずのことを意識して感じてしまうこの感覚は、ある意味で、今までとは別世界の場所にいるという証左なのだと思う。

 

 

だから。

空気に匂いがある、と感じている自分にまず驚いた。

 

「「「「おぉ……」」」」

 

声がした方向に視線を前に向けると、ローブを着た男達が何やらこちらに向って唖然としていた。

 

「なんだ?」

「あれ?」

「ここは?」

 

下には魔法陣が形成されていて、今、まさに召喚されたというような状況だ。

その魔法陣の上に俺を含めて4人、立っていた。1人は如何にもな上流階級らしき少年、1人は金色の長髪のホストみたいな男、1人は普通の大学生といった出で立ちだった。

 

周りの人たちが全員ローブをかぶっているせいか、普通の格好をしている俺たちは若干この場から浮いている。

といっても俺たちはなぜか武器らしきものを持っているせいで、普通、ともいえないのだが。

状況を飲み込めないままにいると、魔法使いらしき格好をした人が、こちらに向かって向かって話しかけてくる。

 

「おお、勇者様方! どうかこの世界をお救いください!」

「「「はい?」」」

 

俺たちは、まるでバグで同時に出てしまったNPCのように、声を合わせて言った。

話を聞くに、俺たちはこの魔法陣によって召喚されたらしい。

 

(召喚、ねぇ……)

 

いつしか、アンダーワールドに降り立った時に、本当の異世界である確率0.0001%とはいったが、それをまさか引き当ててしまったとでも言うのだろうか。いや、それよりも仮想世界と考えたほうが自然……と、考えていると、視界の端にアイコンを見つけた。

 

(……なんじゃこりゃ)

 

それについて考察する間も無く、

 

「この世界は今、存亡の危機に立たされているのです。勇者様方、どうかお力をお貸しください」

 

ローブを着た男が深々と俺達に頭を下げる。

その頼みを断れそうもなかったのか、普通の大学生らしき男が、優しさを発揮して

 

「まあ……話だけなら――」

 

と言いかけたが、それを他の2人が遮った。

 

「嫌ですね」

「元の世界に帰れるんだよな? 話はそれからだ」

 

最初に断りを入れた俺より3歳ほど……じゃなくて一、二歳ほど下に見える少年はこっちを向いてくる。

 

「こっちの意思をどれだけ汲み取ってくれるんだ?」

「話に寄っては僕達が世界の敵に回るかもしれませんよ、覚悟して置いてください」

 

槍と弓らしきものを持った2人は同時に言った。

バイタリティが凄いな、と考えていると、盾らしきものを持った人がこちらを向いて頷いてくる。おそらく同じ感想を持ったのだろう。

だが、逆に言うと、この2人はしっかりと流されない自分を持っていると言うことだろう。きっと彼らに任せれば異世界召喚ものでよくある利用だけされて終わったらポイ捨てされるようなことにはならないはずだ。

 

と考えているとどうやら交渉が通ったようで、責任者らしき人が疲れた声をして、

 

「ま、まずは王様と謁見して頂きたい。報奨の相談はその場でお願いします」

 

城の魔法使いの偉そうな人が扉を開けさせて案内しようとしてる。

それを聞くと、弓を持った少年と、槍の男がシブシブといった感じに了承したので、その場の流れに乗っておく。

 

「……しょうがないな」

「ですね」

「……そうだな」

「あ、ああ」

 

そうして俺たちは謁見をすることとなったのだった。

 

 

 

 

玉座の間に通された俺たちを待っていたのはいかにも王様、といった感じの男だった。

 

「ほう、こやつ等が古の勇者達か」

 

じろじろと王様(暫定)は値踏みをするようにこちらをみてくる。

だが、その目は値踏みをすると言っても、こちらを推し量ろうという感じではない……何処かで見たことのある……そう、あれは学院で……。

そこで、思考は打ち切った。先程から、こんな状況だというのに、俺は少し考え事をし過ぎかもしれない。

 

考え事をするのはここを乗り切ってからでもいいだろう。

 

「ワシがこの国の王、オルトクレイ=メルロマルク32世だ。勇者共よ、顔を上げい」

 

元々顔は下げていなかったが、ここでそれを主張しても状況を悪くするだけだろう。大人しく説明を聞くこととする。

 

どうやら王(暫定)の話をまとめると、波と言われる怪物の群れから世界を守ってくれ、と言うのが本題のようだ。おそらく波と呼ばれるものは、昔のオンラインゲームでよくあった拠点防衛戦のようなものであろう。クライン辺りからffxlでの実感のこもった過去の愚痴を聞かされたこともある。どうやら拠点がしばらく使えなくなったり物価に変動があったりするらしい。

 

ちなみにあのゲームが流行っていた頃はクラインの年齢から考えて小学生頃だった筈であるが……まあ、ゲーマーならやっていてもおかしくはないだろう。普通にゲームをやっている人たちならともかく、初回ロット一万本を手に入れるようなゲーマーだ。何も不思議はなかった。

 

そんな風にまたトリップしかけた思考を元に戻す。

 

認めたくないことだが。本当に認めたくないごとだが、色々な大変な経験をし過ぎて、俺はこのくらいの異世界召喚ではあまり動じなくなっているらしい。少なくとも自分の一大事に別のことを考えるくらいには。

 

どうやら、話にもだいたい纏まりがついてきたようで、今まで黙っていた温和そうな(どこかクラインに似ている)盾の大学生らしき男も口を出したようだった。

 

「確かに、助ける義理も無いよな。タダ働きした挙句、平和になったら『さようなら』とかされたらたまったもんじゃないし。というか帰れる手段があるのか聞きたいし、その辺りどうなの?」

「ぐぬ……」

 

何というか、信用したくない系の王様である。ぐぬってなんだ。まあ、これで使い捨てということにはならないだろう。下手に口出ししなかったのは我ながらいい判断だったかもしれない。

何も言えなくなった王様に変わって、先程の魔術師の長らしき人が答えた。

 

「もちろん、勇者様方には存分な報酬は与える予定です」

 

勇者達はグッと握り拳を作った。まあ、自分たちの身分保障の言質を取ったのは身寄りのない俺たちに取って朗報だろう。

平静を取り戻していた王様は、いかにも威厳がある風に、

 

「では勇者達よ。それぞれの名を聞こう」

 

「ああ俺の名前は北村元康、年齢は二〇。大学生だ」

 

最初に答えたのは槍を持っている金髪ポニテの男だ。元康とは、どこかの将軍みたいだな、という感想を抱く。

 

「次は僕ですね。僕の名前は川澄樹。年齢は17歳、高校生です」

 

ゆるふわショートの少年はそう言った。まさか同い年とは思わなかった。弓を持つ彼は、幼く見える容姿からか少し下だと思っていた。いや、もしかしたらアンダーワールドで過ごした2年間のうちに年齢感覚がおかしくなっているのかもしれない。

 

「その次は俺だな、俺の名前は岩谷尚文。年齢は20歳、大学生だ」

 

雰囲気が少しクラインに似ている盾の人だ。ながれるような自己紹介。どうやらコミュニケーション能力が相当高いのだろう。SAO初日にグイグイきたクラインを彷彿させる。

先程会話に参加しなかったのはおそらく、状況が飲み込めていなかったためであろう。あの状況で普段通りに過ごせるものなんてそうはいないだろう。

 

それを考えると他の2人は積極性が高すぎる。何ともまぁ、と言ったところだ。

 

そんな風に観察してる間に俺の番がきてしまっていた。昔はVRでの自己紹介は慣れたものであったが、現実はお粗末……と言ったものであったが、案外すんなりと言葉が出た。

どうやら学院でしごかれた毎日は無駄ではなかったようだ。

 

「……俺か。俺の名前は桐ヶ谷和人。年は……17、高校生だ 」

 

危ない。19歳と言いそうになった。アンダーワールドの2年間(実際は200年?)は、俺にこういうギャップで攻めてくるから困りものだ。

 

 

そうして自己紹介が終わって、王様に目を戻すと、王様が尚文さんを舐めるように見ていた。

そこで、ゾワリ、と背筋が凍える思いがした。あの目だ。アンダーワールドの、貴族の目。

 

「ふむ。モトヤスにイツキにカズトか」

「王様、俺を忘れてる」

「おおすまんな。ナオフミ殿……。では皆の者、己がステータスを確認し、自らを客観視して貰いたい」

「へ?」

 

ステータス。

その言葉で俺はたった今見たものの衝撃から立ち直った。

 

おそらく、この言葉があるということは、アンダーワールドの『ステイシアの窓』のように皆が展開できる技術なのか、それともテンプレのごとく水晶か何かで測るのかはわからないが、確認できる術があるのだろう。

 

そしてそれはおそらく前者だと思われる。根拠としては先程から視界の端に見えるアイコンだ。取り敢えず、手を伸ばして押してみる。

 

ピコーンと軽い音がして、よく見なれたようなアイコンが視界に表示された。

 

 

桐ヶ谷和人

 職業 剣の勇者 Lv1

 装備 スモールソード(伝説武器)

    異世界の服

 スキル 無し

 魔法 無し

 

 

ふむ。

レベル1ということは、始まりの直後ということで納得できる。それはそれで現状の受け入れがはやくなっていいのだが、余計にVR空間か本物の異世界なのかが分からなくなってきた。

 

再び記憶を封印されてstlに潜っている可能性、8割。ただし、これについては疑問が残る。

あんなことがあった後だから、勝手なことはしない、と約束したばかりだし、記憶封印はしないでくれと比嘉さんにも言っている。

 

普通のVR空間の可能性、1割。ただし、これはありえないだろう。何しろそれにしたらテクスチャが整美すぎる。

現実の可能性、0割。オーグマーはつけていないのに、ステイタスが見えている。

 

本物の異世界の確率、1割。これもありえないだろう、と言いたいところであるが、シルバークロウのような並行世界(?)の邂逅もあることは身を以て実感している。絶対にありえないとは言い切れないだろう。

 

「えっと、どのようにして見るのでしょうか?」

 

そうしていると、樹がおずおずと王様に進言した。

現実での普及が8割ともはや携帯に迫る勢いのオーグマーであるが、上流階級の人々は、オーグマーを煩わしいと考えて買わない人も一定数いると聞いたことがある。樹はそれなのであろうか。

 

「わからないのか?オーグマーとかは使ったことがないのか? ……ほら、なんとなく視界の端にアイコンが無いか?」

「え?」

「それに意識を集中するようにしてみろ」

 

そう樹に説明しながら、あぁ、そうだ。こんなこともあったっけな。と思い起こす。まるで一層攻略後の明日奈にパーティメンバーの見方を教えた時のようだ。

 

樹はおずおずと彼の視界にあるのであろうアイコンに触れたようで、少しビクッとしたあと、じっくりと虚空を見つめていた。

 

「Lv1ですか……これは不安ですね」

「そうだな、これじゃあ戦えるかどうか分からねぇな」

 

樹に元康さんが続く。しばらくして全員が確認し終わったあと、少し遠い目をして元康はこう王様に切り出した。

 

「……それで、ええと、俺達はどうすれば良いんだ? 確かにこの値は不安だな」

「ふむ、勇者様方にはこれから冒険の旅に出て、自らを磨き、伝説の武器を強化していただきたいのです」

「強化? つまりドロップ品じゃなくて、これを育てていくということなのか……」

「はい。伝承によりますと召喚された勇者様が自らの所持する伝説の武器を育て、強くしていくそうです」

 

 

つまりは成長系の武器だということだ。ドロップ品に次々組み替えていく、という感じではなく、一点もの、といったところだろうか。なんとも燃える武器設定である。

 

オンラインゲームは、オンラインコンテンツだからか、新しい武器を実装したりする関係上、環境についていくためには、新実装された武器が必須になる場合が多々ある。

 

それはあまり個人的には好きではなかった。エクスキャリバーを欲しくなったきっかけだってそんなものだ。最強という設定の武器ならそう簡単に、使えない武器にはならないであろう、という考えから、自分がずっと使い続けられる武器が欲しいと思ったのだ。

 

まぁ、あまり新実装する運営ではないとはいえ、サーバーで一本とかいうオンラインコンテンツであるまじき設定をする運営もどうかとは思うが。まぁ、そこは自分も一点ものを持っているので強くはいえない。

 

周りを見渡すと、夢一杯の状態だ。

樹も尚文も己の武器を注視して興奮冷めやらぬ、といった様子だ。

 

己とともに成長する武器、というものはそれは魅力的なものであるから仕方ないが。

 

───────────────

 

 

 

謁見が終わった俺たち4人は来客用の寝間か何かに通されていた。

そこで会話をするでもなく、ベッドに腰掛けながら俺たちは各々の武器の説明を読み込んでいた。

 

伝説の武器はメンテナンスが不要の万能武器であり、持ち主のLvと武器に融合させる素材、倒したモンスターによってウェポンブックが埋まる、ということらしい。

 

ウェポンブックというのはいわばスキルツリーのようなものであるらしい。そしてそれぞれ習得したスキルに応じた武器形態にチェンジできるようである。まぁ、スキルはその形態の武器をある程度使いこなすと使えるようになるらしいが。要は熟練度のようなものだろうか。

 

俺は、取り敢えずブック一覧を表示させる。

そのどれもがまだ変化不可能と記載されている。半透明に暗く表示させられている剣の種類には様々なものがあった。

 

だが、取り敢えず半分くらいを一通りずらっと確認したので、情報を確認し合うために俺は口を開いた。

 

「なぁ、これはVRMMOなのか?」

 

「VRMMO? バーチャルリアリティMMOか? そんなSFの世界にしかないゲームは科学が追いついてねえって、寝ぼけてるのか?」

 

一瞬の空白。

色々考えていたことが頭の中から全て吹っ飛ぶほどの衝撃。

 

もし仮想世界ならば、共に来た日本人でありそうなこの三人の勇者がテストダイバーであると思っていたのだが、その説が真っ向から否定されたばかりか、今や生活に溶け込んでいるVR技術を知らないと来た。

 

「は!? ちょっと待て《オーグマー》は? 《ソードアート・オンライン》って単語わかるか?」

 

「知らないな」

「わかりませんね」

「初めて聞くんだが?」

 

三者とも同じく、知らないとの回答だ。

これは異様だ。

《ソードアート・オンライン事件》といえば、最早誰もが知っているレベルの事件。一万人が囚われ、四千人以上が死んだ、現代における最も重大な事件百選の中に入るほどの事件だった。

 

日本とあまり関わりのない国ですら、この言葉だけは聞いたことがある、という人が多数だ。ましてや、日本でこの単語を知らないということはありえない。

 

もしかしたら、この4人も、日本から来たという設定の人工フラクトライトじゃないだろうな、ととんでもない考えが思い浮かぶ。

 

「というか、VRとかじゃなくて《ディメンション・ウェーブ》というコンシューマー・ゲームの世界ですよ」

「いや、《エメラルド・オンライン》だろ?」

「え、なにお前ら……」

 

上から樹、元康さん、尚文さんの順番だ。どうやら詳しく聞くと、この世界と似たゲームがあるらしい。恐らく、自分の世界ではあの四聖召喚とやらが、同じ存在であったのかもしれない。

 

だが、いろいろな情報が錯綜して、言い合いになっていて、収集がつかない。

 

「待て待て、情報を整理しよう」

 

 元康が額に手を当て、そう言い放つ。その言葉につられ、言い合いをやめ口を噤んだ俺たちに向け、疑問点について元康は確認していく。

 

「和人、お前の言うVRMMOってのはそのまんまの意味で良いんだよな?」

「おう」

「樹、尚文。お前らも意味は分かるよな」

「SFのゲーム物にあった覚えがありますね」

「ライトノベルとかで読んだ覚えがある」

 

なるほど、VRは空想の産物であると。もしこれが召喚であると仮定するのであれば、時代が違うというのもなんとなく納得できる。

 

俺が並行世界と思われるところと接続してしまった時、ブレインバーストという対戦ゲームの中であった。だが、接続したということは量子ネットワークによるものであるとの証左である。

 

それが対戦ゲームとなっているということは、量子ネットワークに接続できる端末が普及しているということに他ならない。いわば、小型STLであろうか。それが普及しているということは時代が違うとということの何よりの証拠だろう。

 

過程はともかく、同じ結論に至ったのか、元康は別の方向の質問をしてきた。

 

「じゃあ一般常識の問題だ。今の首相の名前は言えるよな」

「ああ」

 

 みんな頷く。

 

「一斉に言うぞ。せーの!」

 

 

 

………

 

 

 

「……はぁ」

「……」

「これは……」

「うーん」

 

なに一つ合わなかった。

首相から始まり、有名人、ネット用語、古今東西の有名ゲームの名前、そのどれもが皆知らないとの結論に至った。

 

「どうやら、僕達は別々の日本から来たようですね」

「並行世界というやつかもな……」

「……日本が複数あってさらに異世界かよ……」

「時代がバラバラの可能性もあったが、幾らなんでもここまで符合しないとなるとそうなるな」

 

その後も議論は続き、様々なことを話し合ったため、皆早々に疲れ切ってしまった。結局俺たちの方針としては、違う日本ではあるものの、俺たちは同じ日本人として協力していくことを約束し、それぞれ寝ることとなった。

 

暗くなった部屋の中、しばらく目を開けたままベッドの上に転がっていた俺は、今日1日のことを考えていた。

結局、この世界が異世界なのかSTLの仮想世界なのかは分からない。

 

だが、俺がすることといえばどちらにしろ変わらないだろう。

 

受け答えからして、この世界の人間はNPCなどではなく、本物の人間か、人工フラクトライトのどちらかではあると思う。

そして、本物の人間か、人工フラクトライトであるのかはわからなくとも、少なくとも『人』であることには変わらない。あの二年間で、実感した思いがそれだ。

 

今日の数時間話しただけの間柄だが、ここにいる4人は死んでほしくないと感じている。ならば、当面はこの世界を脱出する方法を探しつつ、できる限り取りこぼさないように剣を振るうようにしていこうと思う。

 

そう決意を固めたところで開きっぱなしにしていたスキルブックを先ほどは気づかなかったが、《金木犀の剣》という項目が存在した。しかも、軒並《不可》と書いてある中、これだけ《可》と書いてある。

 

手を伸ばして〈解放しますか?〉との問いに応えようとしたところで思いとどまった。これが何か技のようなものであったとしたら、ここで変えるのは危険すぎる。

 

明日になったら試そうと思い、俺は先程の決意とともに、異世界(なのか?)1日目を眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこで。

 

「和人、起きているか?」

「あぁ」

 

隣のベッドから声が聞こえた。暗くてよく見えないが、声からして元康だろう。

 

「どうした?」

「すこし、いいか?」

「いいけど、2人はいいのか?」

「ああ、お前にだけ聞いてほしい。」

 

2人の方を向くと、二つの寝息が聞こえる。どうやらぐっすり寝ているようだ。

元康はその口を開き、その槍を今までのものとは変化させ、少し小さめの声でこう言った。

……言っていない、知るはずのないその名前を。

 

 

 

「俺は、半年後からタイムリープしてきた。力を貸してくれ、キリト(・・・)

 

「……は?」

 

 




超展開ネタ1
「女神との知性間戦争……そんなのアリかよ……」
「お願いだ、みんなを助けるために、力を貸して、世界線を変えてくれ!」
「断る! ユージオの犠牲を無駄にするなんて……」
「戦争を回避する方法が、ユージオの死の回避……と言ったら?」
「!?」
すうじゅっちょうもの~こどうのかいすうさえ~

超展開2
「こちらが武器屋ですよ、勇者様」
「いいや、これ以上はまけられないな。おや、いらっしゃい……って、キリトッ!?」
「エギル……なんでここに?」
「いや、それは言えない……おっ死んじまう」
再開した同郷の友人。彼は神に呪いをかけられていた!キリトは助けることができるのか?(もはやヒロイン)

超展開?3
「え、私の出番なかったんですけど……」
「アスナさん……今放送中のアニメ状態ですよ……」
「そうよ、私たちなんてずっと出番ないんだからね!」
「その点アリスさんは恵まれてますね……」
「ふふふ」

超展開4
「ここは? 俺は……幼馴染を……」
「そこのレンとかいうアバターの人!」
「俺か?」
「ちょっとこの私、セブンに付き合いなさい!」
突然《ALO》に現れた《LEN》。彼と天才少女が交差する時、物語は始まる……。

超展開5
「ええと、君達が仲間ということでいいのか?」
「はい」
「そうです」
「いえす」
「そう……」
「4つ子って、見分けつかないのだが……」
翌日、キリトの仲間になったのはそっくりな4つ子だった!彼らに戦い方を指導することになったキリトは?

超展開6
「フィーロさんを僕にください!」
「断る!」
恋愛には勝者と敗者が存在する!
もしも両思いとなったとしても、その親との対決という勝負が存在する……。ましてや両思いではない時の重圧とはいかほどか!
これは、(キリトのおかげでちょっとだけまともになった)槍の勇者と(人間不信気味の)盾の勇者による、結婚受諾戦である。

超展開7
「僕の名前はユージオ。年は19歳で、学院生です」
「ゲームというと、ALOでしょうか?」
ゲーム世界線のユージオ、参戦!(スマブラ風)

ネタは考えついたけど、一瞬で終わる超展開8
「ようこそお出で下さいました、勇者様!」
「ふむ、雑種か……むっ? ふはははは!喜べ雑種、この我が協力してやろうと言っているのだ!」
「?」
「神を僭称するもの、か……ふふ、ふはははは!」
神は死んだ。

上の超展開は、アニメ放送当時、同時に放送されていたもののオマージュです。


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