ホグワーツと月花の狩人   作:榧澤卯月

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継承

人ならぬ声の表音となるカレル文字の1つ
「継承」とは、血の温もりに感傷を見出す様であり
狩人の昏い一面、内臓攻撃により血の遺志を得る

それは狩人の有り様である。すなわち血の遺志を継ぐ者だ



継承

 蛇寮対獅子寮最終戦。

 競技場を満たすのは、罵声の嵐である。それに手を挙げて応えてやれば、実況席からもおよそ人のものとは思えない汚言が飛んできた。

 その理由も理解出来ないではない。既に今期は寮杯もクィディッチ・リーグも蛇寮の優勝が決まっていたが、だからといって手を抜かない者が蛇寮と獅子寮の主将である。獅子寮は昨季のポッター護送船団を改め、例年通りのチェイサー主体の攻撃偏重戦術をとっていた。一方で、蛇寮の戦術はドロテア発案によるブラッジャー砲戦術が引き続き猛威を奮った。

 ビーターであるウィーズリーズは無能ではない。だが、一人のプレイヤーの防御に就いたのであれば他のプレイヤーを狙うだけの事であり、戦場全域を護るには箒の性能が絶望的に不足していた。

 最後のチェイサーを撃ち抜かれ、獅子寮の勝利はポッターがいかに早くスニッチを獲るかに掛かっていたが、フリントキャプテンはチェイサーとしての役割を捨て、ポッターの進路妨害に終始していた。最早護るべきものも無いケントもそれに加わっている。その庇護の下、マルフォイが悠々とスニッチを探していた。

 お兄様が7回目のゴールを決めたところで笛が鳴った。何か反則行為が有ったかと思えば、ヘルマンが空に上がってきた。

 

「マリア、交代だ。僕が出る」

「最終戦くらいはやる気が出たのか」

「否定はしないさ。ディルクとやるのもこれが最後だしね。それに、チェイサーを落とし切ったから君の役割は終わりだ」

 

 ウッド先輩にブラッジャーを撃ち込んだが、受け止められてしまっている。双子は棍棒を持っているため自衛が可能であり、ポッターに撃ち込めば包囲網を崩してしまう。最早砲台の優位性は無いという事だ。

 

「そうか。後は頼んだ」

 

 ヘルマンは片手を挙げて応え、飛び去った。来期はヘルマンが最終学年である。やはり別段クィディッチに興味は持てなかったが、同胞と飛ぶ事は続けようと思う。ドロテアの弁解じみた言葉ではなく、ヘルマンもまた兄の様なものだ。

 ベンチに戻れば、そこにはジェラルドが居た。

 

「ジェラルド。久しいな。蜘蛛狩りにも来ていたはずだろう」

「申し訳ございません。卒業した先輩が顔を出すのは中々恥ずかしいものがありまして。それに、ディルク様が率いていらっしゃるのに、私が出張るのは礼を失する事になりますので」

「分からないでもないが、なら何故今日は顔を見せた?」

「御当主様からディルク様の最後の出場と伺ったので、馳せ参じた次第です」

「お兄様も喜ぶだろう。ヘルマンとは話したのか?」

「来期は最年長として務めを果たす様にと幾つか説教をしていたら、ビッチに出て行きましたね」

 

 ヘルマンはもっともらしい理屈をつけて、実は説教から逃れる為に選手交代となった様だった。お兄様と飛びたいとした言葉の全てが方便ではないと思いたい。

 

「マリア様も箒の扱いが上手くなられた」

「世辞は要らないさ。狩人の力に頼り切って、選手としては二流以下だと分かっているからな」

「ご謙遜を。不安定な箒の上で棍棒を振り抜く技量は、ビーターとしては必須であり神髄です。あのブラッジャー砲台は狩人の力だけで為せるものではありません」

「そう褒められてもな」

 

 あの試合以来、ヘルマンの言葉通り血塗れ女帝の名は確たるものとなり、獅子殺しという二つ名まで戴くこととなった。獅子寮生から恨まれようとどうでもいいが、蛇寮生からも謎の期待を寄せられているのは困る。蛇寮への帰属意識は有るが、学閥抗争に名を連ねる気は全く無い。

 

「狩人の力と言えば、アウレリア様はブラッジャーを掴んで、それで相手を殴り倒して回っていたとか」

「よく死人が出なかったな。いや、それよりも何故私の姉の話を貴公の方が詳しく知っているんだ」

「出場したのは一試合だけ、それ以後は永久出場停止だったそうです。家族に話すには恥ずかしく感じていらっしゃるのでは」

「それを私に話していいのか」

「ご本人がどう思っていらっしゃるかはともかく、私共ヤーナムの民にとってみればそれもまたボーン家のご活躍です」

 

 迷惑な話だ。

 ケントもまた何かを語り継いでいくのかと思うと、恥ずかしいところは見せられないと身の締まる思いがした。

 

「それにしても、秘密の部屋とは。昨年度に続き波乱でしたね。イングリット様とドロテアが傷付けられたと聞き、何故あと一年遅く生まれなかったのかと自らの出生を恨んだものです」

「私が言えたことではないが、お兄様もヘルマンも動転していたな。狩人である以上、死は身近なものであるはずだが、所詮は学校の中と高を括っていた。ホグワーツは地獄だという事を忘れていたよ」

「ヤマムラの子はどうなのです」

「冷静だったさ。少なくとも表面上はな。私も焦ったが、彼の言葉で自分を取り戻した。先輩として恥ずかしい限りだ」

「マリア様も後輩を持ってお変わりになられた。不肖ジェラルド・シュミット、感激の極み」

「止めろ恥ずかしい」

「ヘルマンに最上級としての振る舞いを心掛ける様に言えば、「先に生まれたからってあれこれと押し付けられるのは嫌ですよ面倒臭い」と。

 先輩としての自覚を持って事にあたろうとされるマリア様のお言葉はヤーナムを導くボーン家に相応しいものです」

「貴公、ボーン家の威光で目が眩んではいまいか」

 

 ジェラルドに限らず、ケントは分かりやすく、ドロテアも時折ボーン家への忠誠じみたものを見せる。お兄様とお姉様が良き狩人である事は疑うべくもないが、今のヤーナムはお父様や先人が紡いできたものだ。その民にボーン家の血だからと尊ばれるのは何かが違う様に思う。

 

「はい。ボーン家のもたらした夜明けの光は今もなおヤーナムを照らしております。ですから、ヘルマンもまた照らして頂きたいのです。彼は恐れております。ドロテアを喪いかけ、ボーン家の中でも特に力のあるイングリット様を傷付けられ、そんな場所で最年長としての責任を果たせるのかと。

 ディルク様も同じ様に、校長の策謀が渦巻くところで皆を護れるだろうかと夏に零していらっしゃった。あのお方の事ですから、普段通り、飄々としている様に振舞っていた事でしょう。それでいて、誰よりも自分を盾に皆を護っていらっしゃったはずです。ですが、狩人が2人も倒れた。

 ヘルマンのあの弁舌や振る舞いは、支えられているからこそ出来るものです。一歩退いて、見極めながら的確に急所を突く。彼の狩りと同じです。それは彼も分かっているでしょう。ですから、本を上梓したり、近接戦の訓練を再び始めたりと、一歩前に出る術を学ぼうとしているのです。

 ですが、分かっていない。先輩に成るとは、後に続く者を、支えてくれる者を信じる事も必要なのです。ディルク様はイングリット様やヘルマン、それにドロテアに何かを任せる事が多かったのではないでしょうか」

 

 ジェラルドの先輩としての姿は、お兄様を仰ぎ、お兄様を輝かせる照明係だった。それもまた、支え、支えられる関係だったのだろう。

 今年度のお兄様の姿を思い返してみれば、調査では皆の発言を促し、戦闘では補助に回る事が多かった。だが、祭壇の間に進む時はお兄様が先頭に立ち、継承者の日記を手に取ったのもお兄様だった。

 

「ヘルマンは自らが全てを背負う事で、最上級生となろうとしています。自分がディルク様に支えてもらったから、今度は自分が皆の全てを支えねばと……ですがディルク様でさえ護り切れなかったと、案じているのです。ああ見えて、彼は人一倍人恋しいのです。どうか彼を、孤独にさせないで頂けませんか」

「分かっているさ。貴公とヘルマンもまた、兄だからな。

 それより、一歩進もうと言うならドロテアとの関係もさっさと進めてもらいたいものだが。そちらの方が余程心配だし面倒さ」

「違いありませんね」

 

 滅多に聞かないジェラルドの笑い声は、夏の日差しに良く似合う。その空で、ビーターのヘルマンとチェイサーのお兄様が連携してクアッフルをゴールに叩き込んでいた。

 来季はヘルマンがお兄様を継ぎ、チェイサーに成るだろう。自分はヘルマンを継ぎ、ビーターとしてドロテアと組むだろう。

 先輩と後輩とは、まさに継承の表れである。

 

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