隣のほうから来ました   作:にせラビア

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LEVEL:47 あなたへのおくりもの

「クロコダイン!」

「むっ、姫!?」

 

――時は、僅かに前後する。

ボラホーンを倒し、次なる戦場へ向かおうとしていた彼に、レオナからの声が掛かる。

 

「チルノを、チルノを助けてあげて!!」

 

そう訴える彼女の顔には、親友の少女を心配していますとありありと書かれていた。当然だろう、誰の援護も受けることなく(ドラゴン)の騎士を相手にたった一人で足止めをしているのだ。心配にならないはずがない。

 

「ぐ……っ」

 

レオナの訴えかけに、クロコダインは僅かに歯噛みした。懸念はポップである。非力な魔法使いが単身で竜騎衆と戦うなど、看過できることではない。

ボラホーンを相手にあまりに余裕で勝利したため忘れてしまいそうになるが、それぞれが選りすぐりの強者たちだ。彼とて、他の二人が相手であった場合にこれほどまで容易く勝利することができたとは思えない。

 

「……承知した!」

 

だが逡巡の末、クロコダインは肯定した。

竜騎衆は確かに恐るべき相手であるが、バランはそれ以上の怪物なのだ。加えて、それぞれが竜騎衆についての情報を持っている。簡単にやられるはずがないだろう。

戦友であるポップのことを信じ、クロコダインはバランへ向けて歩みを進めた。

 

 

 

「立て。狸寝入りなど無駄だ」

 

バランの冷酷な言葉に、チルノは身体をゆっくりと起こす。

 

「べつに……狸寝入りって、わけじゃ……ないんだけどね……」

 

ギガブレイクで受けたダメージは凄まじく、そう返してみせるだけで息も絶え絶えとなってしまう。衝撃でチルノの身体は吹き飛び、電撃のダメージと相まって少女の肉体は全身が十全に動いてくれない。衝撃で"魔道士のローブ"もボロボロになっており、あちこちが焦げ付いていた。

これでもしもまともに(・・・・)ギガブレイクを受けていれば、幾らマイティガードによってダメージを軽減していたところで命を失っていただろう。

 

――土壇場だけど、成功して良かった……

 

手にした剣に一瞬だけ視線を落として、チルノはそう安堵する。彼女が持つ剣には、【魔法剣ラスピル】の効果が付与されていた。バランがギガブレイクを使う瞬間、防御のため咄嗟に使ったものだ。

ラスピルの魔法は、相手の魔力を直接削り取る効果がある。ならばそれを魔法剣として使い、同じ魔法剣であるギガブレイクに当てればどうなるか。その結果がこれだった。

ギガブレイクの威力を軽減することに成功し、どうにか彼女は命をつなげることが出来たのだ。

 

――本来、彼女の知る世界には魔法剣ラスピルという技は存在しない。

類似するものとして、体力を吸収するドレインや魔法力を吸収するアスピルを魔法剣として扱うのであれば存在しているが。

だがそれがどうしたのいうのだ? 存在しないのならば、生み出せば良い。今この場面を切り抜けるためならば、そんな制約の一つや二つ、飛び越えてみせる。

そんな強い覚悟がチルノの行動を後押ししていた。

事実、魔法剣アスピルを選択していたら、返事することもできなかっただろう。

とはいえ、軽減してもこれである。

 

「何をしたかは知らんが、貴様がギガブレイクを無力化したのは事実だ。ならばそれが狸寝入りでなくてなんなのだ?」

「……これで無力化、ねぇ……」

 

今の彼女は、激痛で身体のあちこちが悲鳴を上げている。手にした剣を杖代わりにしなければ、まともに立ち上がれなかったほどだ。

この状況を見て無力化されたと思えるのならば、どれだけ辛口の評価だというのか。だがバランの立場からすれば、その表現もある意味順当だったようだ。

 

「ギガブレイクを耐えた、ならばこれが無力化でなくてなんなのだ?」

 

自身の必殺技で倒すことが出来なければ、それを無力化されたと評する。あまりにも厳しい評価であるが、前回の戦いでは完全に無力化されたのだ。その忌々しい経験を顧みれば、この評価は妥当だろう。

 

「だが、次は防げまい」

「…………っ!」

 

再びバランは剣を構える。彼の言う通り、次にギガブレイクを放てば間違いなくチルノを倒すことが出来るだろう。いや、ギガブレイクで無くとも普通の攻撃だけであってもバランの力ならば眼前の少女の命を散らすことができる。

迫り来る殺気にチルノが息を詰まらせたときだった。

 

「チルノ!!」

「うっ……なんてダメージ……」

「レオナ!? クロコダイン!?」

 

横合いから、二人が合流してきた。クロコダインは自然とバランとチルノの間に割って入るようにして前衛を請け負い、レオナはチルノの傷を癒やすべく彼女の隣へと並んだ。

その二人の様子を見て、バランは驚愕したように口を開いた。

 

「まさか、ボラホーンを倒したのか!?」

「ああ、オレが勝った。次があれば、もう少し腕の立つ相手を用意してくれ」

 

そう言ってクロコダインはニヒルに笑う。

 

「それともバラン。お前が相手をしてくれるか?」

「なるほど、どうやら事実か……だが!」

 

ボラホーンを倒して、自分の元まで来た。その事実を認めたバランは、額の紋章を強く輝かせた。

 

(ドラゴン)の騎士の力をなめるなっ!!」

「紋章が!?」

 

まるで太陽のように神々しく輝く(ドラゴン)の紋章を目にして、この場の全員がバランが大技を使うことを瞬時に予測し、身構える。

クロコダインは防御のために全身に闘気を充満させ、レオナはチルノへと回復呪文を唱えようとした。

 

「ベホ……」

「大丈夫、私は自分で回復できるから……その魔法力は自分のために残しておいて……」

 

だがその行動をチルノは抑える。そう言いながら【ケアルラ】の魔法を自分へと唱え、無駄な消費を抑えるように願った。発動速度を考慮してケアルラを選択したものの、ダメージは癒えていくが、それでもまだ完調には到らないようだ。

 

「バラン、来いっ!!」

 

上空には再び雷雲が集まっていく。その動作からギガブレイクが来ることを予測し、クロコダインはそれを防ごうと防御態勢を取る。だがそんなクロコダインの行動を見て、バランはニヤリと薄く笑った。

 

「いけない!!」

「ギガデイン!!」

 

チルノが慌てて剣を構えると同時に、天空から凄まじい稲妻が降り注いだ。それまでバランの剣へと落ちていた雷撃は、今度はチルノたちに向かって落ちていく。

 

「がああああっ!!」

「ぐううぅぅ!!」

「きゃああああ!!」

「悪いが、貴様らの誘いにはもう乗らん。ギガブレイクを無効化するようなヤツだからな。だがギガデインは防げまい? 雷撃の速度に対応することなど不可能だ……女を殺したくはなかったが、もはやそうも言っておれん」

 

その痛みに全員の口から悲鳴が漏れる。雷撃に身を焼かれる三人の姿を見ながら、バランは冷静に言う。天から落ちる雷の速度は、まさに光の速さのようなものだ。発動すると分かっていても、そう簡単に防げるものではない。

度重なるチルノの足掻きが、バランに着実にダメージを与える方法を選択させていた。そしてそれは彼の狙い通りにダメージを与えるはずだった。

 

「ごめんね、完全には……」

 

――防げなかった。

その言葉を続けることも出来ないまま、チルノは再び崩れ落ちる。

 

「チルノ!?」

 

レオナは、予想よりも自身が受けた衝撃が少なかったことの理由をようやく理解した。

チルノが庇ってくれたのだ。その証拠に、目の前の少女は先ほど癒したはずの傷と遜色ない――いや、下手すればそれ以上のダメージを負っていた。

そうでなければ、レオナは一撃で戦闘不能になっていてもおかしくはなかった。

 

伊達に二度もギガブレイクを相手にしたワケでは無い。伊達にダイのライデインを間近で見ていたワケでは無い。雷雲の様子の違いからバランの狙いを察知した彼女は、瞬時にレオナの上へ覆い被さるようにして剣を突き上げた。

クロコダインを見殺しにしたようで申し訳なかったが、それ以上にレオナが耐えられるとは思えなかったのだ。

未だ魔法剣ラスピルの効果は継続しており、その効果で再び呪文を削り取る事には成功していたが、それでも二人分のダメージを受けてなお意識を保っていたのは賞賛に値する。

 

「ちぃっ!! また貴様か!! どこまで邪魔をすれば気が済むのだっ!!!」

 

二度、三度と続くチルノの妨害には業腹であった。だが、ようやく決定打を与えられたことも確認できた。あの状態では、もはや防ぐこともできまい。とバランは判断する。

 

「だが、これで終わりだ!!」

 

雷雲が三度わななき、稲妻を大地に降り注がせようとする。もはやそれを防ぐ手段は誰の手にも無かった。しかし、予想に反して稲妻が落ちてくることはなかった。

なぜならば――

 

「ディーノ!!」

 

攻撃を忘れ、バランが名を叫ぶ。その視線の先には、テランの地下牢に閉じ込めていたはずのダイの姿があった。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■

 

 

 

「ダイ!?」

「ダイ君!! どうしてここに!?」

 

バランの言葉を耳にして、二人は振り返る。そして、この場には現れるはずのないダイの出現に、驚きの声を上げた。

 

――嘘、でしょ……?

 

チルノもまた、バラン達の反応からダイが来たことを理解して驚いていた。だが彼女の驚きだけは少々違う。

彼女が知る本来の歴史でも、ダイは確かにこの戦場に乱入してきた。それはバランが放つ紋章の力と共鳴することで、まるで操られたかのような様子を見せていた。無意識に自身の(ドラゴン)の騎士としての力を使い、牢を素手でねじ曲げて脱出していた。

だがそれでも、この場に現れるにはもっと時間が掛かり、そのときのバランは奥の手(・・・)を使っていたはずだ。こんなに速く現れるとは、考えてもいなかった。

 

「いかんっ!!」

「ダイ君、逃げて!!」

 

バランとダイが邂逅することを恐れ、クロコダインたちが叫ぶ。だが、ダイの耳にはその言葉など届いていないようだ。ただジッと、バランのことを見つめている。

バランもまた、もはやダイ以外は眼中に無いのか、ゆっくりとした足取りでダイの元へと歩みを進める。それを邪魔できるほどの余力がある者は、この場にはいなかった。

ダメージの度合いだけで言えばレオナが一番軽傷だろう。だが最も脆い彼女では、庇われてなおダメージ影響は大きかった。

 

「……おじさんなの? ぼくを呼んだのは?」

「そうだ」

「おじさんは、誰?」

「私は、お前の父親だ!」

 

――だめ、この状況は!!

 

心の中で叫ぶが、もはやチルノにすらどうすることも出来ない。

本来の歴史でも存在したこの親子の再会は、だがバランは竜魔人と呼ばれる化け物のような姿となっていた。そのせいで一時的とはいえ、ダイはバランの言葉を疑っていた。結局、その疑いも互いの(ドラゴン)の紋章を通じて解消する。

だが今のバランはまだ竜魔人の力を温存している。見た目は同じ人間同士であり、そこに(ドラゴン)の紋章を見せれば、ダイはすぐにでもバランのことを親と認識するだろう。

 

「おじさんが……? ぼくの父さん……?」

「ああ、そうだ。その証拠に……」

 

だが、分かっていてももはや誰にも止めることは出来なかった。バランが額の紋章を輝かせれば、ダイの額にも同じ紋章が輝き出す。互いに共鳴しあう紋章は、以前にダイの記憶を抹消したときとは違う、凪の海ような穏やかさがあった。

バランが伝えようとしており、ダイはそれに抗うことなく無垢に受け入れているためだ。穏やかな共鳴は、まるで心地の良い音色のように辺りに響ていく。

 

「ほんとうだ! おじさんは、ぼくの父さんなんだ!」

「ああ、その額の紋章こそが全ての証、私たちを繋ぐ無言の絆だ」

「くっ……」

 

その音色もゆっくりと静まっていく。そして音が完全に止むと、ダイはバランのことを受け入れていた。屈託の無い笑顔を浮かべててバランを見るその姿は、誰が見ても明らかだ。紋章を介して通じ会った親子が、この場に生まれてしまった。

 

「ダイ……」

 

それを指を咥えて黙って見ている事しかできない腹立たしさに、チルノは弟の名を誰ともなく呟く。だが、誰に向けられたわけでもないはずの声は、一人の少年の耳に届いていた。

 

「私はお前を迎えに来たのだ。さあ、ディーノよ」

「ディーノ……? それがぼくの名前なの?」

「ああ、そうだ」

 

ディーノという聞き慣れぬ単語に首を傾げると、バランは力強く肯定した。

彼にしてみれば、待ちに待った瞬間だろう。いなくなったと諦めていたはずの息子と再会を果たすことが出来た上に、その名を誰にはばかること無く呼べるのだから。

 

「でも、おねえちゃんは、ぼくのことをダイって呼んでたよ」

「…………ッ!?」

 

だからこそ、ダイのその言葉を理解することができなかった。驚愕に目を見開き、ダイが何を言ったのかを反芻しているかのように立ち尽くしている。

その場面だけを切り取れば、バランが史上最強の代名詞である(ドラゴン)の騎士だなどと、誰が信じられようかというほどだ。

 

「レオナ……」

「……! ……ええ」

 

その隙を見逃すことなく、チルノは言葉少なく告げてクロコダインの方を見る。言葉と視線だけでレオナはチルノが何を言いたいのかを察して、痛む身体を動かしてクロコダインの方へと向かった。それを見送りながらチルノもまた【ケアル】の魔法を使って少しでも傷を癒し始めた。バランに気取られる事の無いよう、控えめにゆっくりと。

 

「それは、人間がお前に与えた偽りの名だ! ディーノこそが真の名、私が名付けたのだ!」

「そう、なの……?」

 

まさか再びダイと言う言葉が息子の口から出てくるなど、バランにしてみれば信じられる物ではなかった。それも言い回しからして、忌々しきチルノが関わっていることは明白だ。

だが激怒の感情を必死で制御しながら、バランはダイに言葉を飛ばす。そのあまりの剣幕には、ダイですら多少面食らうほどだ。

 

「ああ、そうだ。ディーノよ、待たせて済まなかった。共に行こう。私と共に、愚かな人間を滅ぼすのだ」

 

自身の言葉を信頼する様子を見せたことで、バランは落ち着きを取り戻していた。冷静さを取り戻したバランの姿を見て、ダイは甘えるように口を開く。

 

「うん……ねぇ、父さん。それ、おねえちゃんも一緒じゃダメ?」

「ダメだ。その小娘はお前とは血の繋がりも何も無い、何の関わりも無い人間だ!」

 

再びチルノの名が出たことで、バランは不機嫌になる。何故こうも邪魔をするのかと怒りが増していき、その感情が表情へと漏れ出ていく。バランの怒りを鋭敏に感じ取ったダイは、だがそれに怯えながらも更に反論する。

 

「でもおねえちゃんはいい人だよ。ぼくに優しくしてくれたんだ。それに、一緒にいるとすごく落ち着いて……」

「ディーノ!!」

 

有無を言わさぬバランの一喝。これによりダイは完全に口を噤んでしまった。ダイの姿はまさに、親に叱られた子供のそれだ。

 

「よせ、バラン!」

「クロコダイン……? 貴様……」

 

さらなる言葉を発するよりも速く、バランの肩をクロコダインが掴む。ギガデインのダメージに苦しんでいたクロコダインが何故生きてきたのか、視線を動かせばそこにはレオナの姿があった。チルノの合図を受けたレオナが、ベホマの呪文を用いて回復させたのだ。

再起したクロコダインは再びバランへ食らいつく。

 

「お前はまだこのような真似を続けるのか!? 二人の仲を引き裂いてまで、ダイが欲しいのか!? そんなことをして手に入れたものに、どれだけの価値があるというのだ!!」

 

親の立場を笠に着て、ダイの意見を封殺する。それは他者から見ればとても見ていられるものではなかった。記憶を失いながらも再び絆を取り戻しつつある姉弟の姿こそ、クロコダインの目には血の繋がり以上に深い絆だと映る。

そのクロコダインの言葉を黙って聞いていたバランであったが、やがて口を開いた。

 

「――わかった」

「バラン!!」

 

――分かってくれたのか!!

 

クロコダインが二の句を告げるよりも速く、彼の顔面にバランの拳が突き刺さった。

 

「ぐうぅ……!!」

「不要な物を取り除いたはずのディーノの心にまたしても巣食っていたとは。記憶を失ったディーノに取り入り、私を懐柔しようとでもしていたのか!? つくづく人間とは愚かな生き物よ!!」

「バ、バラ……ン!!」

 

意識せず顔面に受けた一撃は、クロコダインに深くダメージを刻む。強烈な衝撃に意識を飛ばしそうになりながらも、バランの誤解を解こうと声を絞り出す。

 

「それとも、貴様らのいう心とやらが本当に存在するのなら、その心で守ってみせろ!!」

「と、父さん……?」

 

だがバランは聞く耳など持たない。片腕で更にクロコダインの顔面を殴り続けながら、そう叫ぶ。ダイからすれば、父と慕ったはずの男が見せるあまりにも衝撃的な光景に、どうしたらよいのか分からず、まごまごとしていた。

 

「バラン……クロコダイン……」

 

――どうすればいいの!? 私に、何が出来る!?

 

その光景を見ながら戸惑っていたのは、チルノも同じであった。どうしかせねばという気持ちを持ちながら、解決方法を必死で模索する。

彼女の脳裏に最初に浮かんだのは、メテオと呼ばれる最強の魔法の存在だった。未だ、その魔法を扱うには未熟な身ではあるが、自身の命全てを魔法力へと昇華させれば、おそらくは使えるだろう。

そして、それよりも下級魔法であるコメットがバランにダメージを与えていたのだ。ならばメテオの魔法ならばバランを倒すことは可能なはず。

 

だが、バランを倒してどうなる?

バランを倒してしまえば、ダイは父親と和解する機会を永遠に失うのだ。そんなことをすれば、チルノは自分で自分を許せなくなる。

 

ではどうするのか?

 

仲間を失いたくはない。バランを殺したくもない。でも、ダイは救いたい。そんな都合の良い方法がどこにあるのだろう。堂々巡りの思考を続ける間も、時間は止まらない。

 

「さらばだ、獣王よ」

「ぐ、ぐ……」

 

ひとしきり殴り続け、多少なりとも気持ちが晴れたのか。先ほどよりも冷静さを取り戻した様子で、バランは口にする。

そして片手でクロコダインの巨体を掴み上げ、もう片方の手に握った剣を突きつけた。対するクロコダインは、良いように殴られたままのダメージの影響か、ぐったりとしている。

 

――マズい!! アレはダメ!!

 

あのまま貫かれれば、いかに頑健なクロコダインといえども絶命は免れないだろう。だがダメージの残るチルノに何が出来るのだろうか? そして、父と慕う男が命を奪うシーンを目撃して、今のダイは果たして精神を壊さないだろうか?

 

そこまで考えて、クロコダインの死と同列にダイの心を案じていることに気付いた。そして、その気付きに連想したように、彼女の口からは自然と言葉が流れ出ていた。

 

「月が沈めば、太陽はまた顔を出す……」

 

日が沈めば月が出る。月が沈めば、日はまた昇る。子供でも知っている簡単な理屈だ。

前の戦いの際に、クロコダインは自分とダイをその二つに例えた。もしもその関係が正しいのならば、夜が明けて目覚めの時が来たと言うことだろう。

そして、幸か不幸か、彼女はそれを実現するだけの魔法を持っている事に今さらながら気付いた。

ダイが記憶を失っていた時に、散々試した様々な方法。だが忘れていたため、まだ試していないたった一つの魔法。だが、これならば、なんとかなるのではないか。そんな想いが彼女の中から湧き上がっていた。

 

彼女の脳裏に浮かぶのは、とある物語の一場面だった。

そこには、世界を支配せんとする邪悪と戦う年老いた男の姿があった。仲間が身動きの取れぬ中でたった一人、その命を燃やして抗い続け、孫娘に後を託した英雄の姿。

ほんの少しで良い。千分の一、いや、一億分の一でいい。

わがままな、都合の良い申し出だというのは分かっている。これから自分のやろうとしていることは、猿真似でしかないことも理解している。それでも、同じ世界の力を使う者のよしみとして、僅かでも良いから力を貸して欲しい。

これならばきっと、ダイも少しだけでも思い出してくれるはず。

 

「でも、太陽が寂しがっちゃうかな………」

 

――私は結局、ダメな姉だったみたい……

 

唯一の懸念点はそれだけだった。だが、それも仕方の無いことだろう。何の犠牲も無く理想の結果を掴み取ろうとしているのだ。

自嘲と謝罪の想いを同時に胸へ抱きながら、チルノは動いた。

 

「うあああぁぁっ!!」

 

未だ完治にはほど遠い身体を無理矢理操り、チルノは起き上がるとすぐさまダイへ向けて駆けだしていく。たったそれだけの動作が、今の彼女には酷く辛かった。身体を起こすだけでも痛みが走り、まるで動くことを拒否しているようだ。

ならばこれ幸いとばかりに、チルノは大声で痛みを口にした。そうすればバランからの注意が自分に向く。クロコダインが逃げ出す機会も得られるはずだと考えながら。

 

「貴様ッ!!」

 

そのチルノの狙い通り、バランは素早く反応した。手にしたクロコダインを無造作に投げ捨てると、ダイへと迫るチルノを阻止せんと駆け寄ろうとする。だがそれを由としない者がいた。

 

「ぐ、死に損ないめがッ!!!」

「貴様の思い通りになど……」

 

投げ捨てられたはずのクロコダインが力を振り絞り、バランの足を掴んでいた。予想だにしない邪魔が入り、バランの動きが遅れる。だが、妨害が出来たのは数秒程度のことでしかなかった。

邪魔だとばかりにクロコダインの顔を蹴り飛ばすことで、どうにか拘束から逃れる。しかしその僅かな時間を稼げたおかげで、チルノはダイのところへと辿り着けた。

 

「おねえ、ちゃん……?」

「ダイ……」

 

チルノはまるで恋人同士であるかのように、優しくダイを抱きしめる。

記憶を失った数日間、ダイの心を落ち着かせ、不安を和らげてくれた少女の香りがダイの鼻孔を擽る。暖かな温もりがチルノから伝わり、ダイの心が高鳴る。

 

「――と――ね……」

「え……? おねえちゃん、なにを……?」

 

耳元で囁かれたのは、小さな小さな言葉だった。ダイの耳以外には決して届くことの無いか細い声。だがそんな小さな一言は、ダイへ確かに届いていた。

だが、今のダイにはその言葉の意味が分からない。もしもダイが記憶を取り戻していれば、今のダイが抱いているのとは全く逆の意味合いで、理解が出来なかっただろう。

 

彼女が何を言いたかったのか、その意味を確かめるようにダイは聞き返す。だが、その疑問に答える者はもういなくなろうとしていた。

 

――英雄と呼ばれた皆と一緒にこれだけのことができたんだから……ああ、でも、やっぱり悔しいなぁ……

 

ダイとバランが肩を並べて、笑い合う光景を望んでいた。バランとブラスが腹を割って話し合う姿を、見てみたかった。人から見ればそんなちっぽけな夢を、彼女は諦める。

 

「――【ゆうごう】」

 

二人の身体が、光に包まれた。

 

 




メガンテ? じばく? この命、全てをMPにかえてメテオ?

いえ「ゆうごう」です。

(「ゆうごう」ってなんだっけ? という方の為にまずは説明を。
コイツはFF5、6、14(記載時点情報)に登場した青魔法です。
効果は「使用者は戦闘不能+対象のHPとMPを全回復する」と、早い話が命がけのエリクサーですね)

つまり、お話的な扱いは「自分の命と引き換えに仲間を救う」という事に。
……次話の展開がもうバレバレですね(苦笑)
例えるならバロムワ○か、仮面ラ○ダーWかって感じでしょうか?

……感想で「ガラフ」と書かれていたので、多分バレバレだった気がする。

ぶっちゃけた話、これがやりたかっただけです。
「DQで男だったらメガンテ。じゃあ逆(FFで女)だったら?」
そんな単純な思いつきが全ての発端。
あとはノリと勢いだけでここまで(ダラダラと)書きました。
(なので今回は割と良いようにバランにやられている)

ですが、もう心残りは無いと言っても過言ではありません。
これで(ハドラー達と決着つけて・キルを倒して・ミストを倒して・バーンに勝てば)エタっても悔いは無い。
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