「……」
魔理沙とパチュリーが居なくなった後、一人図書館に取り残された少女がいた。
彼女の名前は、小悪魔。
「あのー……私……」
ポツリとこぼした後、
「置いていかれちゃったんですけどぉおおおおおおおおおおおお!!」
涙をこぼしながら一気に叫んだ。
「出番が今か今かとスタンバってたのに、気付いたらお二人だけで出てしまって、出るタイミング完全に見失ったんですけどぉおおおおおおおお!!」
本来ならば、それでもパチェリーや魔理沙の後を追うべきなのだろうが、小悪魔は周囲を見渡して、溜息をつく。
「片付け、しなきゃ……」
図書館で働く身分として、
※
霊夢と咲夜による弾幕ごっこは、激しい攻防を繰り返していた。
一瞬でも油断しようものならば、相手の弾幕に忽ちやられてしまう。密度が濃いだけではなく、その速度もまた速い。ここで戦っている二人が人間であることを忘れてしまいそうな程、その戦いぶりは客観的に見ても賞賛に値する内容だった。
「なかなかやりますね。流石は博麗の巫女と言ったところでしょうか?」
「そういう貴女もなかなかのメイドね。訪問客に対してここまで大層なおもてなしをしてくれるなんて、身に余る光栄だわ」
「それは大変喜ばしいことです。精々見惚れていて下さい」
「冗談。生憎時間が押してるの。主人の所まで連れて行ってもらえないかしら?」
「そう仰らずにもう少しおもてなしさせてください。その方がメイド冥利に尽きます故」
勝負の間、軽口を叩いている二人であったが、それでも決して油断することはない。視線は確実に相手を追っていて、弾幕は常に張り巡らされている。霊夢と咲夜はその中を縦横無尽に飛び回る。最早それは動きの読み合いと、ある一定の直感によって生み出されている芸術だった。
「メイドならば、主人の過ちを正すのも道理だと思うのだけど?」
敵の周囲に赤青の弾幕を張り巡らせつつ、尋ねる。
咲夜はそれらを、ナイフで撃墜しながらも、
「過ち? 何をおっしゃっているのです? 御嬢様は過ちなど犯しておりません。それに、たとえそうであったとしても、主人の命に従うのが従者としての道理。説得しようとしているのでしたら、無意味です」
涼し気な声でそう告げた。
「ちぇ、やっぱりそう来るか……」
これでもし気が変わっているようであれば、十六夜咲夜という人間はどれ程単純な女性であったことだろうか。しかしその実、彼女は気高きメイド長。主人の為に命を差し出し、付き従う。それが従者として、彼女が行うべき行為であることを重々理解している。
霊夢は、これ以上の説得は無意味だと悟り、一刻も早く本命の元へ向かおうと試みる。
だが、それ以上に、
「……え?」
十六夜咲夜の姿が、目の前から突如消えた。
「なっ……!」
そして次の瞬間には、自身の周囲に張り巡らされた無数のナイフを目の当たりにする。
咄嗟に、彼女は周囲に弾幕を張り巡らせてすべてを撃墜する。
しかし、
「よそ見をしている暇がありまして?」
その隙に、一本のナイフを握った咲夜が、霊夢の背後より首筋を狙っていた。
「あら、私ったらつい見惚れていたようね。けど安心なさい。勘はいい方なの」
「っ!」
しゃがむことでナイフを避け、そのまま霊夢は後ろ蹴りを放つ。蹴りの先には、ナイフを握る手。彼女が握るナイフを叩き落とし、そのまま一回転。着地と同時に、
「霊符『夢想封印』!」
光の弾と札を混ぜた弾幕を放つ。
「幻在『ジャック・ザ・ルドビレ』」
対する咲夜は、小さな弾の弾幕を放つ。
「それだけで私の弾幕を……」
「ご安心を。そちらはあくまで囮ですので」
「なっ……!」
霊夢の気付かぬ内に、小さな弾に混じって、無数のナイフが襲い掛かってきた。
彼女の放った弾幕は、ナイフと弾を撃墜する。
「どういうこと……? 何もない空間から突然ナイフが……」
霊夢の思考は、相手の攻撃手段へと移る。
突然放たれるナイフの弾幕。
予期せぬ咲夜の瞬間移動。
これらの合わせ技を何度も繰り出す咲夜の能力。
「意識外からの攻撃……なら……あの技で対抗するしかない、か……」
ポツリと呟かれた霊夢は、弾幕を放つのを止め、その場に留まる。
「降参でしょうか? しかし残念です。この屋敷を出て頂けるまで、私は攻撃するのを止めることが出来ません。どうか無礼をお許しください。そして、二度とこちらの屋敷まで出向かぬよう、お願い申し上げます」
咲夜の挨拶と共に、霊夢の周囲には、最早避けることすら叶わない数のナイフが設置される。
それらは即座に、霊夢の身体を串刺しに――。
「…………え?」
しかし、それらのナイフは、霊夢の身体を貫通し、すべて地面に突き刺さった。
だというのに、霊夢の身体には傷一つついていない。
「どういうこと……?」
今度は彼女自らが近づき、そのナイフを心臓目がけて突き刺そうとする。これがもし決まれば、相手の命を確実に刈り取ることが出来る一撃。
だが、そのナイフすら、彼女の身体をすり抜ける。
「まさか……っ!」
「気付いたようね。そうよ、今の私には、攻撃を当てることが出来ない」
夢想天生。
あらゆる害悪から身を守り、すべての攻撃を無に帰す。
博麗霊夢はあらゆる物から『浮き』、何人たりとも触れることすら叶わない。
「最も、使うと次に使うまでに時間がかかるわけだけど、貴女程の相手をするならばちょうどいいわ。どう? これでもまだ続ける気? その気になれば、このままいつまでも弾幕を放ち続けることが出来るわよ。ただしその場合、私の弾幕はあんたを射抜き、あんたのナイフは私の身体をすり抜けるだけだけど」
「…………」
目を瞑り、ナイフを落とす。
十六夜咲夜が、博麗霊夢に降参したことを認める行動だ。
「それが懸命よ。あんたを叩く気はないの。私は異変を解決しに来ただけ。その元凶に説教しにきただけよ。案内してくれないかしら?」
「……かしこまりました。メイドとして、客人を主人の元まで送り届けます」
「そう。ありがとう」
悔しそうに、咲夜は霊夢の前を歩く。
咲夜の判断は間違っていなかった。
もしあのまま続けていたとしても、結局のところ悪戯に時間だけが過ぎていき、どの道敗北していたことだろう。何せ自分の攻撃は通らず、延々と敵の攻撃を受け続けるのみ。博麗の巫女を相手に時間稼ぎをしたところで、何の意味もないことを悟ってしまったのだ。
「内心ひやっとしたわ。あんたはメイドとしても、戦う相手としても、間違いなく強者の部類ね」
「有り難きお言葉ですね。その言葉、そのままそっくりお返しします」
「やめてよ。私は元々そんなに動きたくない方なんだから。仕事はしっかりするけれど、それ以外は基本ぐうたらしたいのよ」
「駄目人間街道を歩み続けるおつもりですか?」
「別に私は天然パーマ侍じゃないんだから、あいつよりは真っ当な道を進むつもりよ」
「天然パーマ侍……もう一人のお客人ですね。姿が見えないようですが……」
「どうせ館にはいるわよ。その内来るでしょう」
霊夢は咲夜に連れられて、館の主人がいる部屋まで向かう。
その先に何が待ち受けているのかは、まだ分からない。
銀魂×東方project
銀色幻想狂想曲
第八訓 今時の主人公はチート能力を持つべきか
予想に反して、霊夢と咲夜戦のみで終わってしまいました……。
次回は、フランvs銀時・魔理沙・パチェリー連合軍戦となりそうですー。
おぜう様の出番は今しばらくお待ちくださいませ……。