「……テメェらがいかにあの巫女を大切に想っているのかは理解した。なんてったって家族だもんな……」
家族。
早苗のことをそう称した二人に対して、銀時は自分達が被ると思った。新八と神楽、そして銀時。三人は生まれや育ちは違えど、家族のような存在として成立している。
早苗、諏訪子、神奈子の三人もまた、家族と称するのにふさわしい。
「なら、アイツが不幸になることなんざねぇだろ。俺がいるいないはともかくとして、支えになってるテメェら二人がいるのなら……」
「もちろん、私達だってそのつもりだよ。早苗のことを大切に想っているし、これからも彼女のことを幸せにしたいと思っている。なんて言ったって、私も神奈子も、早苗には感謝してるから」
「感謝……?」
「……幻想郷に行くことを最終的に決めてくれたのは、早苗なんだよ」
諏訪子と神奈子は、自分達が幻想郷に行くきっかけをくれた存在である早苗に感謝をしている。彼女が家族を失った時、諏訪子と神奈子はどうしようか迷っていた。そんな彼女達に対して、自身も苦しい筈の早苗が、幻想郷に行く後押しをしてくれたのだ。
過去も思い出も、すべて捨て去る覚悟をしなければならなかったというのに。
「あの子は良くも悪くも、今まで私達をはじめとした他人の為にしか行動していなかったんだ。だから、たとえ相手がアンタだったとしても、自分の為に行動することが出来るようになったことは好ましい。ただ、早苗自身その変化についていけていない……だから、このままいって、アンタがいなくなってしまったら……それこそ早苗がどうなるか分からない」
神奈子は長年彼女を見てきたのだ。
だからこそ、東風谷早苗という人物がどんな性格をしているのかを把握することが出来る。それは諏訪子も同じ。彼女達は、早苗にとって致命的な点となる部分を把握している。
「……何か、テメェらは勘違いしてねぇか?」
「勘違い?」
諏訪子が尋ねる。
銀時は、頭を掻きながら答えた。
「ソイツは成長してんだろ? なら、ソイツの成長信じてやれよ……確かに今は不安定かもしれねぇ。少なからず、アイツから好意を向けられていることは感じ取れる。そして早苗は、その好意の正体を理解しているんだろ? ならそれで今は十分じゃねえか……ただ、寂しさとかそういった何かを解消出来んのは、俺じゃなくてテメェら家族だろ? 家族ってのは、そういうもんじゃねえのか?」
ただ傍にいるだけなのに、ふと気付くと力が湧いてくる。信頼することが出来る。安心出来る。
共にいる存在というのは、本当に大きいものなのだろう。
「俺なんかより、テメェらがいなくなっちまう方がよっぽど辛い筈だ。だからこそ、早苗はこっちに来ようと提案したんだろう……アイツだって、テメェらのことだって、自分のことだって、しっかり考えてるだろ」
「「……」」
今まで見たことないような観点から、銀時は語る。
早苗にとっても家族なのだとしたら、諏訪子や神奈子の存在が消えてしまうことの方が余程辛かったのかもしれない。追いかけても取り戻せない過去より、近くにあって手放したくない未来を掴んだ、という方が正しい。
「まぁ、忠告は受け取る。俺だってそう早くに死にたいわけじゃねえ。それに……」
スッと立ち上がり、扉の方まで歩く。
そんな彼の背中を、二柱の神が見送る。
「一度背負った荷を、そう簡単に降ろすつもりなんざねぇよ。神に誓って、宣言してやるさ」
そう告げて、扉を開いた。
※
「……」
東風谷早苗は、人里からの帰り道を駆け足で戻った。
理由は単純で、坂田銀時が守矢神社に来てくれているからである。
彼女にとっては初めてとなる、尊敬と情愛の混じった好意を向ける相手。そんな銀時に会えるということをバネに、ここ最近の彼女は行動していた。
そして帰ってきた時に、早苗は銀時達の会話を聞いたのだった。
「諏訪子様……神奈子様……」
扉の前に立ち、漏れ出る声に耳を立てる。
そこから聞こえてくるのは、自分のことを案じてくれている二人と、そんな彼女達に対して自身の心の内を明かす銀時。
彼らの言葉はとても温かく、自分がここまで思われていたことを改めて実感する早苗。
「銀時、さん……」
はじめは尊敬、そこから憧れとなり、追いかけるべき対象となった上で、最終的に共に居たいと思う相手へと昇華した。
もしかしたら、諏訪子や神奈子が言うように依存に近い感情を抱いているのかもしれない。
だが、早苗の心の中にいるのは、銀時だけではない。
その時、
「神との密談を盗み聞きたぁ、趣味の良い巫女もいたもんだなぁ」
「きゃっ!」
目の前の扉が開かれて、そこから現れてきたのは、不敵な笑みを浮かべる銀時だった。
早苗の心臓が高鳴る。嬉しさと恥ずかしさが入り混じった、複雑な心境。
「今までの話、聞いてたんだろ?」
「……っ」
嘘をつくわけにもいかなかったので、早苗は首を頷かせる。
銀時は頭を掻きながら、
「はぁ……ったく、そういうわけだからよ。神に誓っちまったから、これからもよろしくな。けどまぁ、テメェの旦那になるつもりなんざサラサラねぇけどな」
「あっ……」
一度背負った荷を降ろすつもりはない。
つまり、銀時の傍に居てもいいということを指し示しているのだと、早苗は考えた。
そんな彼らを見守る二柱の神は、晴れやかな笑みを浮かべている。
「……ありがとうございます、銀時さん。これからもよろしくお願いします」
そんな彼女の表情は、とても嬉しそうな笑顔だった。
銀魂×東方project
銀色幻想狂想曲
第百十六訓 家族
今回の短編は比較的シリアス色が強い物となりました。
やっぱり一度吹っ切れた後には、こういうお話も必要かと思いまして…。