館の主人が控える部屋の前。霊夢と咲夜は、一足先に辿り着いていた。
「この先に、今回の異変の犯人がいるってわけね……」
ポツリと呟かれた霊夢の言葉は、咲夜の耳にも入っていたようだ。少ししかめっ面を浮かべるも、首を頷かせて肯定の意を示した。
まさしくちょうど中に入ろうとしたそのタイミングで、
「霊夢ー! 遅くなってすまないぜー!」
魔理沙の声が聞こえてきた。
「まったく、遅刻寸前、って……」
霊夢は呆然としてしまった。
彼女の視界に映ったのは、先導しながら宙を舞うパチュリーと、箒に跨り空を飛ぶ魔理沙、そして……。
「またんかいこのやろぅうううううううううううううううう!!」
ボロボロになりながら全力疾走をする銀時の姿だった。
「飛んで移動するとか聞いてねぇぞ!? 第一こちとらフランとの戦いでボロボロだっつってんのに、連れて行くとか慈悲の想いとかねぇのかよ!?」
「地下から私達の速度に合わせられる段階で大層元気そうじゃない。身体が鈍ってる貴方にはちょうどいい準備運動になったんじゃないかしら?」
「るせぇ魔法馬鹿! 本当はテメェの方が体力なくなってんのに気張ってんのが見え見えなんだよ!!」
「むきゅー……」
何を隠そうパチュリーは、体力が元々ない方なのだ。図書館で魔理沙を相手に弾幕を放ち、フランとの大立ち回りを繰り広げ、その足でそのままここに来ている。となると、体力を一番消費しているのは……。
「パチュリー様……お疲れ様でした」
目を回してその場に倒れこむパチュリーの姿があった。
「……引きこもりなの? こいつ」
「当たらずとも遠からずだろうな。それなのにさっきまで魔法使いまくってた。そりゃぶっ倒れるに決まってらぁ」
「そう。まぁ、自業自得だって言うなら、私も何も言えないわね……見てる分には楽しいし」
「ぐうたらコンビのくせにドエスコンビにまでなるのは厄介だぜ!?」
霊夢と銀時が合わさったことにより、いつもの調子が取り戻された彼ら。それはつまり、魔理沙がツッコミ役としての役目を全うしなくてはいけなくなったと言うことを意味していた。もちろん倒れ込んでいるパチュリーに出来るわけがなく、咲夜は関わろうともしてない。
「ところで、そっちのメイドは一体何者なんだ?」
咲夜に気付いた銀時が尋ねる。
「お初にお目にかかります。私、十六夜咲夜と申します。この館のメイド長を勤めさせて頂いております故、今後もどこかでお世話させていただくことになるかと思います」
「そうか……俺は坂田銀時。さっき、この館の主人の妹とどんぱちしてきたところだ」
「!?」
銀時からの言葉を聞いた瞬間、咲夜の顔色が変わる。それだけ、彼の放った言葉には重大な意味が隠されていたと言っても過言ではない。
「フラン様とお会いしたのですか?」
恐る恐る、といった感じで咲夜は尋ねる。彼女の認識で間違っていなければ、少なくとも無事でここまで来れる保証などない筈だ。にも関わらず、坂田銀時という男は、戦闘後でボロボロではあるものの、五体満足の状態でここまで来ている。それはとても信じられないことだったのだ。
「あぁ。テメェが持ってきていた食料とやらも見てきた。正直、見てて気分のいい部屋ではなかったな……もう少しまともな食事用意してやれよ」
「お見苦しいところを……いえ、そうではなく、なぜ貴方は無事で……」
咲夜が気になるのはそのことであった。一体どんなことをしたというのだろうか。その真実を知ろうとしていたのだ。
だが、彼女の疑問は、銀時によって遮られる。
「言いてぇことはたくさんあるだろうが、とりあえず俺からも一つ言わせてくれな? これから俺は、フランの姉貴に、フランの正直な気持ちをぶつけてくる所だ。だから、邪魔しないでくれよな?」
「正直な、気持ち?」
「……アイツが、テメェらの側にいてぇって想いだよ。アイツの姉も、外で門番やってる女も、そこに倒れてる奴も、メイドやってる奴も。そんな奴らの側に居続けたい、隣で笑っていてぇって願いだよ。大層なものじゃねえか。495年もの長い間、ずっとそんな気持ちを押し殺し続けてたんだぜ? テメェらを傷付けたくない一心で」
倒れていたパチュリーも、突っ立っていた咲夜も、銀時の言葉に息を呑む。
彼から語られたのは、たった一人の少女が抱き続けた願いだった。大切な家族と共に生きていきたいという、そんな単純な祈りだった。
「だからよ、その為にも俺は説教してくるわけよ。分からず屋の姉の根性を叩きに行くわけだ。そのついでに、霊夢や魔理沙の手助けしてやらぁ。だから、そいつの事は、頼んだぜ」
木刀を握る手に力が篭る。
優しい表情を浮かべている銀時に、咲夜は暫し見惚れてしまっていた。
「全く、いつの間にやら厄介ごと持ち込んでたようね。本当飽きない外来人だわ」
「それはこっちの台詞だ。銀さんはこっちきてまだ数時間だってのに、ここまで色んなことに巻き込みやがって」
「まぁまぁ。こうして生きてるんだから別に良いじゃないか。とりあえず、異変解決と行こうぜ!」
「……まぁ、大凡この異変を起こした理由に検討はついてる。それも踏まえて、物分かりの悪い奴にお仕置きしてやらねぇとな」
異変を起こした犯人との戦いを目前にして、三人は余裕の表情を浮かべていた。まるでこの一件は、もう解決寸前だと言わんばかりに。
「……パチュリー様は私が責任を持って看護致します。どうか、ご無事で」
「なぁに、こちとら何も死にに行くわけじゃねぇんだ。ちょっくら行ってくらぁ」
銀時を先頭に、霊夢と魔理沙もその後に続く。
パチュリーを抱き上げながら、咲夜は彼らの背中を見送り、
「……ご武運を」
気付けばそんな一言を零していたのだった。
※
「よく来たな、人間。待ちくたびれたぞ」
真紅の瞳を輝かせながら、紅魔館の主人であるレミリア・スカーレットが姿を現す。
そんな彼女を見た銀時が、ポツリと一言。
「なんだ、ただのガキか」
瞬間、彼の真横を紅い槍が通り過ぎた。
「……おい、人間。今、その口でなんて言った? もう一度言ってみろ」
青筋を立てながら、レミリアは怒りを隠しきれてない表情で、極めて冷静を装いながら、銀時に尋ねる。
一方の銀時は、槍の先端が髪の毛を数本持っていったことにより、
「あぶねぇじゃねえかこのクソガキィ!! 人と喋る時には槍を投げるなって教わんなかったのか常識外れの大馬鹿野郎がぁああああ!!」
「知らないわよ!! 第一アンタら来るの遅いんだよ!! この私がいつまで待ったと思ってんのよ!! 正直何度も寝落ちしかけたわ!!」
「高みの見物どころか布団で寝んねするとは、パジャマ着てるしやっぱり夜は長く起きられねぇ子どもじゃねえか!!」
「じゃあかぁしいわ!! 私は高潔で誇り高き吸血鬼なのよ!! 返せ!! 数分前までのカリスマを返せ!!」
「テメェにカリスマなんてあるわきゃねぇだろうが!! どうせ色物で終わるのがオチなんだよ!!」
本当は気が合うのではないかと思われる程、銀時とレミリアによる言葉のキャッチボール(時速百六十キロ相当)が繰り広げられていた。
それは、霊夢や魔理沙が間に入ることが出来ない程の勢い。何時ぞやに見せていた魅力的なカリスマを持つ吸血鬼の姿を微塵に砕き切ったような、そんな雰囲気。
「ったく、大凡この紅い霧だって、日差しがあると満足に外も歩くことが出来ねぇとかそんな理由だろ?」
「もちろんそれもあるが、それだけでは……」
「あとは妹のためか?」
瞬間、レミリアの雰囲気は一気に変わる。
先程までの喚き散らしていた彼女から一変。見る者に恐怖を与えるような、吸血鬼としての鋭き眼差し。
「私の妹が、どうかしたって?」
「こいつ、急に雰囲気が変わったぜ……」
その変わり身の速さはもちろんのこと、放たれる殺気は魔理沙の足を震わせる程のもの。
しかし、銀時は動じない。経験上、彼はこの手のことには慣れている。たとえそれが、500年以上も生き続けた吸血鬼の放つものであっても、彼は身を引くわけにはいかない。
「テメェの妹が抱えてきた想いをテメェに伝えてきた。いわば俺はメッセンジャーみてぇなものだ。だから耳の穴かっぽじってよく聞きやがれ」
「ほざくな。たかだか人間如きの意見を、この私が聞き入れるとでも?」
「人間だとか、吸血鬼だとか、そんなもんどうでもいい。俺はただ、物分かりの悪い背伸びしたガキに説教しに来ただけだ」
「……減らず口を叩けないようにしてやろうか?」
宙を舞い、翼を羽ばたかせる。
そんな彼女に、霊夢は宣言する。
「……レミリア・スカーレット。今回の異変を引き起こした犯人である貴方を、博麗の巫女として裁く。異論はないわね?」
「霧雨魔理沙! 普通の魔法使いの力、とくと味わうがいいぜ!」
魔理沙もまた、自身の恐怖を抑え込み、果敢にも相手に挑む。
そんな彼女達を一瞥し、レミリアは宣言する。
「面白い……この私を倒すと? やぅてみるがいい、人間! 全身全霊をもって相手をしよう! 我が名はレミリア・スカーレット! 誇り高き吸血鬼として、貴様らに鉄槌を下す!」
対する銀時も、
「姉妹ですれ違いを起こすような勘違い馬鹿姉貴にゃもったいねぇが、このまま霧に包まれたばっかってのも気分が悪いし、その根性、叩き直してやるよ」
人間と吸血鬼。
ここに、今回の異変の最終決戦が幕を開けた。
銀魂×東方project
銀色幻想狂想曲
第十訓 決戦の前は意味もなく気が抜ける
次回、決戦がはじまる……!