「うぉおおおおおおおお!!」
先陣を切ったのは銀時だった。木刀を構えて、レミリアに向かって全力で駆ける。後を追う形で、霊夢と魔理沙も続く。彼女達はそれぞれの弾幕を張りながら、レミリアの逃げ場をなくしていく。
一方のレミリアもまた、丸弾とリング弾による弾幕を張り対抗する。互いに弾幕を打ち消し合うその光景は、光によって生み出された一種の芸術のように美しさを表現していた。
「人間風情が吸血鬼に逆らうなど烏滸がましい。私が直々に天罰を下す! 天罰『スターオブダビデ』!」
「へっ! ガキが偉そうに宣うじゃねえか! 大人しく狸寝入りでも泣き寝入りでも、ガキ寝入りでもしてやがれ!!」
先程までの弾幕の中に、部屋のいたるところより紅いレーザーが放出される。
「火力には火力だぜ! 星符『ドラゴンメテオ』!」
高火力で放たれる極太のレーザー。
人間の魔法使いが放つレーザーが、吸血鬼の放つレーザーと拮抗し、衝撃が所々に散らばっていく。
「ナイスよ、魔理沙」
その中に乗じて、霊夢もまた弾幕を放つ。
「霊符『夢想封印』!」
赤い弾と札によって織りなす弾幕。レーザーの撃ち合いに集中している彼女にとって、これを避けるのは至難のはず。
「甘い」
だが、レミリアは簡単に撃ち合いを放棄した。こうなると、魔理沙の放った攻撃をその身に受けることになる。
「なっ……!」
瞬間、霊夢達は思い知ることになる。
吸血鬼の持つ元々の身体能力の高さを。
銀時は、フランとの戦闘で相手がある程度の戦闘能力を持つことは理解していた。だが、彼女のそれは、予想をはるかに上回る程の俊敏さ、剛力さ、耐久性を持っている。持久戦に持ち込まれてしまえば、彼らに勝ち目がないのは明白だった。
「うぉおおおおおおおおおおおお!!」
最低限の動きで弾幕を避け、避けきれなかったものについてはその身で受け止めて、尚も銀時は足を止めない。
とうとう彼は、彼女の懐まで到達する。手に握る木刀を振り下ろし、
「必殺『ハートブレイク』!」
光の槍に阻まれた。
「くっ……」
「ここまで来るとはやるではないか、人間。だが、私に傷を付けることは出来ない!」
紅く光る槍は、銀時の腹部を狙って放たれる。なんとかギリギリ躱すも、腹部を少し抉られる。
「銀さん!」
思わず、魔理沙は叫んだ。追撃と言わんばかりに、七色に輝く星々をレミリアに放つ。
しかし、今度は自身の速度を誇るかのように、すべてをレミリアの動きのみでかわされる。
「なっ……!」
「なかなか面白いものを持っている。だが、私には、届かない」
羽を大きく広げ、わざとらしく自身の力を存分に見せつけながら、
「紅符『スカーレットシュート』!」
大きな弾幕に、中小の弾幕を付随させたものをばら撒く。すぐ近くまで来てしまっていた魔理沙には、これを避ける術はなく。
「うわぁあああああああ!!」
まともに食らってしまった魔理沙は、箒から落ちてしまい、その場で気絶してしまった。
「魔理沙!!」
声を荒げたのは霊夢だった。自身の友人が、レミリアによって倒されてしまったのだ。命を奪われていないだけマシとはいえ、それは許されざるべきことだった。
「どうした? 私を倒すのではなかったか? 私はお前らにとってガキではなかったのか? そのガキにコテンパンにされるお前らは、生き物としての風上にもおけないな?」
「精々ほざいてやがれ。やっぱしテメェら姉妹は何処か似てやがる……妙に自分を隠そうとしてくるところまでそっくりだ」
「……まだそんな減らず口が叩けるか、侍」
口元を歪ませて、銀時はレミリアを挑発する。対するレミリアは、自身の方が格上であることを十分に示した筈なのに、それでも尚逆らってくる坂田銀時という男に、不快感を隠すことなく見せていた。
「霊夢、まだいけるか?」
「冗談。アンタこそ息上がってるじゃない。ちょっとは休憩したらどうかしら?」
「悪りぃが、俺は約束しちまったからな……果たすまでぶっ倒れるわけにゃいかねぇのよ。だからよぉ……」
「「死ぬんじゃねぇぞ?」」
銀時と霊夢は、お互いに背中を任せ合う。共に主人公として、この異変を終わらせようと最強の敵に挑む。
「耳の穴かっぽじってよく聞きやがれ! フランはテメェらの横に立つことを願った! ただ隣で笑って泣いて、そんな当たり前の日常を願ってんだよ! テメェがフランを地下に追いやったのも、アイツを思ってなのも分かってるが、アイツはもう、テメェが思ってる以上によっぽど強くなってる。だから! 一度は腹割って話しやがれ! いつまでも逃げてんじゃねぇぞ弱虫がぁあああああ!!」
レミリアがフランを地下に閉じ込めたのには、いくつか理由がある。当然ながら、フランが持つ力は強大で、使い方を間違えてしまえば世界など簡単に消し飛ばせるものだ。それを恐れたことが理由の一つであるだろう。
だが、それだけではない。
精神が幼いフランが、その事実に耐えられなくなってしまったとしたら?
自分を責め続け、自分を壊し続けることになってしまったとしたら?
本当にレミリアが恐れていたのは、そのことなのではないだろうか。
だからこそ、銀時はぶつける。
彼女の魂を突き動かす為にも。
「黙れぇ!! フランは私の唯一の肉親だ! 家族だ! 妹だ!! そんな妹を守りたくて何が悪い!!」
「……なるほどね。ようやく理解出来たわ。この異変を、吸血鬼たるアンタが起こした理由。アンタも望んでいたんじゃないの……妹と並んで歩く、細やかな幸せを」
「っ!!」
霊夢の言葉は、核心をついた。
レミリア・スカーレットが今回の異変を起こした最大の理由。
もちろん、吸血鬼として自身の力を誇示する為でもあったのだろう。幻想郷を支配することも目的の一つなのかもしれない。
だが、それよりも。
彼女は姉として、妹と共に幻想郷の地を歩みたかったのだ。その為の地盤を用意して、いつか狂気が消え去る時が来れば、霧が晴れたとしてもこの地を並んで歩く未来が待ち受けていると信じて。
「そこまで分かってるなら……そこまで知ってるなら、何故止める! いいじゃないか! 私だってそんな細やかな幸せを願ったって! 野望を抱いたって構わないじゃないか!!」
彼女の周りに、徐々に紅い光が集まっていく。それはやがて十字架の形を造りだす。
「私だって……フランと一緒に遊びたいんだ!! もっと話したいんだ!!」
紅符『不夜城レッド』。
彼女が背負う十字架の紅は、あらゆる敵を飲み込んで、血の色に染め上げようとする。
霊夢は咄嗟に、気絶している魔理沙を救い上げる。
その一方で、銀時は。
「やっと言えたじゃねえか、テメェの本音を」
優しげに微笑んだ。
「えっ……」
木刀一本で、彼女の放つ光を抑えつける。身体中が軋み、骨は泣き叫び、全身が砕けそうになったとしても、彼は止まらない。
「それなら、その願いはもう叶う。だから安心しろ。テメェは安心して、フランと話し合え」
木刀を真上に振り上げる。
「っ!」
咄嗟に彼女は、紅い槍を創り出す。
神槍『スピア・ザ・グングニル』。
北欧神話でオーディンが持っていたとされる、使用者に勝利をもたらすと言われる槍。だがそれは、使用者の絶対的な自信によるものだ。彼女の心が砕かれているとしたら、話は変わる。
「テメェの想いは、もうアイツに伝わる。だからいい加減仲直りしやがれ」
銀時の振り下ろした木刀は、彼女の槍を粉々に砕き、レミリアの身体を壁まで吹き飛ばした。
文字通り、渾身の一撃。
この一撃をもって、勝敗は決した。
「……そこまでよ。動けば私の弾幕でアンタを倒す。つまり、この意味分かってるわよね? 吸血鬼」
「…………参ったわ。私の負けよ」
武装を解除し、自身に抵抗の意がないことを示すレミリア。
それを見て、霊夢も戦闘態勢を解く。
「…………」
一連の流れを見届けた後、
「なっ……銀時!?」
銀時の意識は、そこからプツンと切れたのだった。
銀魂×東方project
銀色幻想狂想曲
第十一訓 想いの重さ
なんとか決戦を終えることが出来ました……。
次回から数話かけて、紅霧異変篇を終わらせる流れとなるでしょう……。