銀色幻想狂想曲   作:風並将吾

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第十二訓 大切な居場所はそう簡単に手放したくなくなる

「……どうやら正しき判断だったみたいね」

 

 スキマからすべてを覗いていた女性――八雲紫は、ぽつりとそう零した。

 坂田銀時を今回の異変に絡ませることで、紅霧異変は通常よりも早く解決に導かれた。本来ならば介入する筈のなかったところまで至ることが出来、すべてが解決し、ハッピーエンドと称しても文句のつけようがない程であった。異変解決のみならず、レミリアとフランの姉妹関係の改善という部分まで到達するという奇跡。

 『あのお方』の、坂田銀時という男を見る目に間違いはなかったのだ。

 ただ、裏を返せば、銀時が存在しなかったとしても異変自体は解決に導くことが可能であったと言うことを指す。

 

「坂田銀時……白夜叉がこの幻想郷にもたらす物は、果たして一体何なのか……楽しみに待っておりますわ」

 

 彼女は幻想郷を愛している。

 故に、幻想郷を守る者に対しては最大限の礼を尽くし。

 故に、幻想郷を破壊しかねない者に対しては最大限の力を以て潰しにかかる。

 彼女は今のところ、銀時を信用している。故に、彼にしてしまった無礼については、彼女なりの方法で返すのだろう。

 

「その前に、お礼を申し上げなければなりませんね……ありがとう、吉田松陽。貴方の弟子は、とても良い働きをしてくださいましたわ」

 

 彼女はこれからも見守り続ける。

 幻想郷の行く末を。

 

 

「ん……」

 

 目を覚ますと、彼は何処かのベッドで寝かされていた。

 

「知らない天井だ……」

 

 どこぞの中学生が呟きそうな台詞を零しながら、銀時は辺りを見渡す。

 全体的に紅い空間であることより、今いる場所が間違いなく紅魔館だろうと確信出来た。

 次に、自分の全身に巻かれた包帯を見る。

 

「目が覚めましたか?」

「ん……?」

 

 銀時の耳に飛び込んできたのは、女性の声だった。

 声のした方を見ると、替えの包帯を持っている咲夜の姿があった。

 

「俺……どれだけ寝てた?」

「丸二日。正直、生死を彷徨っていたとしても不思議ではない傷でしたからね。一応のこと手当は済んでいますので、大事には至らない筈です」

「そうか……こりゃまた、随分と寝過ごしちまったものだな……ん?」

 

 少しずつ身体の感覚が戻ってきたことにより、咲夜が居るのとは反対側に、何者かが居る感触を覚える。

 その方向を見ると、

 

「……すー、すー」

 

 目から涙を流しながら、銀時の腕にしがみ付いて眠っているフランの姿があった。

 

「最初は私も驚きました。何せ、妹様がこうして銀時様の傍を離れたくないとおっしゃるものでしたから……何か脅されているのかと」

「ちょっと待て。何で俺がフランを脅していうこと聞かせてるみたいになってんだ」

「もし本当にそうであったならば……脳天ぶち抜きますからね」

「冗談じゃねぇよ! 殺気を隠せ殺気を!」

 

 館の主人達に対する忠誠心は本物のようだ。

 彼女にとって、フランもまたレミリア同様忠誠を誓うに値する相手。

 故に、彼女達にとって敵となる存在については、容赦なく排除するだろう。

 

「しかし、貴方が寝ている間に行われた、御嬢様と妹様の『けんか』によって、その真意を理解しました」

「……そうか。コイツら、やっと自分の本心打ち明けたんだな」

 

 優しく、寝ているフランの頭を撫でる銀時。

 咲夜の話によると、銀時が寝ていた二日間に、フランはレミリアに本心を告げ、レミリアもまた自身の胸の内を明かしたのだそうだ。

 二人の間にあった蟠りも消え去り、徐々に距離も近づくことだろう。

 それだけでなく、彼女の狂気が消え去ったことにより、紅魔館の外に出ることも許されたのだそうだ。

 地下室については廃棄され、彼女には新たなる部屋が設けられるという。

 

「まったく、とんでもない奴だなお前は……」

 

 ちょうどその時、館の主人であるレミリア・スカーレットが、部屋の中へと入ってきた。

 

「よぅ、強情な御嬢様。腹割って話し合った気分はどうだ?」

「おかげさまで今は最高の気分よ。お気遣いどうも。けど……フランがそこまでアンタに懐くのは頂けないわ。姉として、妹に纏わりつく害虫は、駆除するわ」

「俺が寝てる間にテメェの心境にどんな変化があったんだ!? 一周回ってとんでもねぇシスコンに変化してるじゃねえか!!」

「フランは最高に可愛い妹なのよ!? 可愛い妹を愛して何が悪いって言うの!?」

「いや悪いとか一言も言ってねぇけど、そのせいで俺に被害が飛んでくるのが真っ平御免だって言ってんだよ!!」

 

 戦闘していた時のカリスマ性は何処へ消え去ってしまったのやら。

 二人はギャーギャーと喧嘩し合う形となっていた。

 その様子がどことなくおかしくて、咲夜は一人笑っていた。

 

「ふふふ……御嬢様、とても可愛い、です」

「こいつもとんでもねぇレズじゃねえか!!」

 

 訂正、咲夜は一人、レミリアを眺めて、愛でていた。

 

「そういや、霊夢や魔理沙はどうしたんだ?」

 

 ここまで来て、二人がやってくる様子がないことが気になった銀時は、そんなことを尋ねる。

 

「あぁ、あの二人なら宴の準備をしているわ。何でも、異変が解決したから、パァーっと宴をするそうよ。で、うちからは小悪魔と美鈴が手伝いに行ってる」

「小悪魔?」

「図書館で働いている者です。そういえば銀時様はまだお会いしたことありませんでしたね」

「まぁ……図書館関係なら、引きこもりニート娘しか知らねぇからな」

「それ、パチェのこと?」

 

 笑いがこみ上げてくることを耐えることなく、おかしいと言いたげな声色で尋ねるレミリア。

 特に何にも考えることなく、銀時は頷いた。

 

「ったく、宴ってこたぁ、美味い酒が飲めるってことだな?」

「その通りよ。で、宴は明日行われるってわけ。今日はここに泊まっていきなさい。どうせアンタ、行く宛ないんでしょう?」

 

 レミリアからの提案は、銀時にとっても魅力的なものだった。

 思えば銀時は、紫に『スキマ』から落とされてから数日しか経過していないのだ。その上、彼女はろくに説明することもなく、本当に放置した。故に、ここでの活動拠点などあるわけないし、まして仮住まいなどというものも存在しない。

 更に言うと、そもそもの話どうやって元の場所まで帰るのだろうという問題が生じる。

 色々問題は山積みだが、とりあえず銀時は、次に紫に会ったらぶん殴ることを決意していた。

 

「食事の用意が出来るまではまだお時間があります。どうかその間、ゆっくりとお休みください」

「そうね。フランも起きる気配がなさそうだし、食事が出来たら咲夜と一緒に来るわ。それまで傷を癒してなさい」

 

 そう告げると、咲夜とレミリアは部屋から出て行った。

 残されたのは、銀時とフランの二人のみ。

 

「……さて、起きてるな? フラン」

 

 頭を少し乱暴に撫でまわすと、

 

「ふにゃっ」

 

 という、なんとも腑抜けた声を出して、フランは目を開けた。

 

「ちぇー、いつから気付いてたの? ギン兄様」

「二人が部屋から出て行くちょっと前だな……って、ギン兄様?」

 

 いつの間にやら自分の呼び方が変わっていることに違和感を覚えた銀時は、思わず尋ねていた。

 対するフランは、

 

「ギン兄様はギン兄様だよ?」

 

 と言った感じで、特に気にしていない様子。

 ちょっとした変化が気になった銀時だが、答えが返ってくる様子はないので、とりあえず流すことにした。

 

「ま、仲直り出来たようで何よりだわ。銀さんが頑張った甲斐はあったもんだなぁ」

「……本当に、ありがとう。ギン兄様がいなかったら、私は今頃、ずっと地下に閉じこもったまま、お姉様との関係も元に戻ることが出来なかった……全部、ギン兄様のおかげ」

「んなことねぇよ。ちょっくら手を貸しただけだ。後はお前達が歩み寄ることが出来たから、仲直り出来ただけの話だよ」

 

 もちろん、多少なりとも銀時が関与していたからこそ、こうやって話し合うことが出来たのは百も承知だろう。

 それでも、本人達にその気がまったくなかったとしたら、一生訪れることのない機会だったのかもしれない。

 そんな『もしも』を考えると、フランは感謝せずにはいられなかったのだ。

 

「これからは、二人仲良く……いや、他の奴らも一緒に居るわけなんだから、テメェらでしっかり仲良くやれよ。そうすりゃ、家族の絆が結ばれるだろうから」

「……ギン兄様、そこに、貴方はいないの?」

 

 寂しそうに、瞳に涙を溜め込みながら、フランは尋ねる。

 そんな彼女を安心させるように、フランの頭を撫でながら、

 

「……テメェはもう独りぼっちじゃねえだろ? 大切な家族が居る。それでいいんだよ。こんなチャランポランよりもずっと魅力的な奴らが、たくさんいる。それで十分だろ」

「……嫌だ」

「え?」

 

 溜め込んでいた涙は一気に流れ、最早フランは泣き出してしまう。

 

「え、えぇえええええ!?」

 

 あまりの展開に、銀時は処理しきれていない様子だ。

 目の前でいきなり女の子が号泣する場面など、彼にとってそう訪れるものでもないのだろう。

 そうして何も出来ずにオロオロしている銀時に、フランは抱き着いていた。

 

「ギン兄様がいないと嫌だ。もっとたくさんお話したいし、もっとたくさん触れ合いたい。遊びたい。一緒に居たい。ずっと居たい! だからギン兄様、行っちゃヤダ! お別れなんて嫌だ! 寂しいのは嫌だ! フランを……フランを置いていかないでよ!」

「……っ」

 

 思えば彼女は、495年もの間、誰にも弱さを見せることなく、ずっと独りで生きてきたのだ。地下室という閉ざされた空間の中で、鳥籠に閉じ込められた鳥のように、自由などなく、ぶつける先もなく、感情を押し殺して生きてきたのだ。

 そんな彼女にとって、坂田銀時とは心の支えになり得る存在。レミリアに対する愛情とほぼ同等。いや、種類が違うことからも、まったく別で、とても強い感情を覚えていることだろう。

 だからこそ、彼女は失いたくないと思っている。

 

「……別に今生の別れってわけじゃねえ。ただ、テメェにも帰る場所があるように、俺にも、帰らなきゃなんねぇ場所がある。だから、いつまでもずっと一緒ってわけにゃいかねぇよ。だが、俺は一度交わした約束は最大限果たそうとする。だから俺と約束してくれ」

「やく、そく?」

 

 銀時を抱きしめるフランの力が強くなる。

 それだけ、彼女は銀時を手放したくないという意思が強い。

 そのことを理解しながら、銀時は告げる。

 

「いつまでもずっとってわけにはいかねぇから、なるべく一緒に居られる時は、テメェの遊び相手でも、相談相手でも、何にだってなってやるよ。今日だってある。明日だって宴がある。その次もまた別の何かがあるだろう。そん時は、一緒に居てやるよ。だからよ、泣くなって……『またな』、って奴だ」

「また、会える……? ギン兄様とたくさん、お話出来る……?」

「おうよ。テメェが飽きねぇ程おもしれぇ話、たくさん持ってっからよ。だからまぁ、今はこれで勘弁してくれや」

 

 子どもをあやすように。

 彼は、自分自身の身体に感じられる温もりを確かめる。

 フランもまた、目の前に居る銀時の温もりをしっかり感じ取る。

 彼女にとって、誰かの温もりを感じることは、本当に久しぶりのこと。

 その感覚は、永久的ではないにしろ、『また』味わうことが出来る。

 

「……うん。だけど、今だけは、このまま……ギン兄様がいなくなっちゃうの、嫌だから……今日一日は、ずっと、一緒に……」

「……」

 

 何も言わず、銀時はただフランの頭を撫でる。

 フランは、彼の優しさを一身に受け止める。

 

「ギン兄様……」

 

 ポツリと呟かれた少女の言葉は、悲しさを帯びていることなく、何処か安心したものへと変わっていた。

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

第十二訓 大切な居場所はそう簡単に手放したくなくなる

 

 

 




宴までが東方の異変解決!
というわけで、宴までは紅霧異変篇は続きますー。
それにしても……フランが銀時にべたべた……。
くっそうらやまけしからん。
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