こいしが起きないようにそっと布団から出た銀時は、話をするためにも一度身支度を整えて、客間へと足を運ぶ。そうして彼が入ってきた時には、
「おはようございます。お話があるのですよね?」
さとりは既に椅子に座っていた。
銀時は彼女と向かい合う形で椅子に座り、
「相変わらず心読んでるみてぇだな。だが、一度約束しちゃくれねぇか?」
「何をでしょう?」
さとりは首を傾げる。
そんな彼女に対して、銀時は言った。
「今から話をすることについて、俺の心読むのはかまわねぇ。だが、心を読んだ前提で話を進めるのは勘弁してくれ……ごちゃごちゃして話がまとまらねぇんだ」
「……」
「それに、テメェだって出来ることなら常に使いたいわけじゃねえんだろ? 大凡、こいしの件はそのことと関係がありそうだしな」
「っ!?」
さとりは目を大きく見開いた。
何故なら、彼の口から告げられたのは事実であり、その言葉のほとんどが心を読まれたかのように当たっていたからだ。
「とりあえず、テメェら姉妹の話聞かせてもらうぞ。コミュ障だから話したくねぇとかそういったことは無しな。テメェらの話聞いておかねぇと、こいしの言葉の意味がわからなくて寝れそうにもねぇ」
「あの子が何か言ってたのですか?」
さとりが尋ねてくる。
そして銀時は、その質問をもって確信した。
「やっぱりな……お前、こいしの心だけ読めないんだな?」
「っ!?」
「これは心を読まなくたって安易に想像がついたぜ。テメェらと初めて会った時、俺たちの心はたしかに読みきってたくせに、こいしの時だけは妙に質問してたのが気になってたからな」
もし、さとりがすべての人物の心を読めるとしたら、こいしの心も読んでしまえばいい。しかし、彼女はそうしなかった……いや、出来なかった。
つまり、こいしの問題はそこにある。
「……元々あの子は、私と同じように相手の心を読むことが出来ました。その証拠に、あの子にも私と同じように、第三の目が存在しています」
「なるほどな……けど、こいしの目は閉じていたぞ?」
「……えぇ。こいしが、自分の手で閉じました」
こいしは自らの手で、第三の目を閉じたのだ。
結果、彼女は人の心を読まなくて済むようになった。
「たしかに、相手の心を読むことが出来るのはメリットでもあります。しかし、当然のようにデメリットも存在しているのです……あの子はそれをもろに見てしまっていました……私が、心を読むことによって多くの者たちに嫌われているところを」
「……なるほどな」
特に銀時は驚いた様子を見せなかった。
だが、さとりは勘付いている。
坂田銀時は今、さとりの話を聞いて動揺している。
「自身の手で閉じたこいしは、結果として別の能力を手にしました……それが、無意識を操る程度の能力です。彼女は心を閉ざし、その行動は読みづらくなってしまいました。私には……こいしの心が読めないのです」
「それは、それだけじゃねえんだな?」
「……はい。無意識を操る程度の能力は、自身はもちろん、相手の無意識をも操ります。即ちそれは、誰からも認知されなくなるということ……」
こいしは結果として、誰からも認知されなくなった。その存在は無意識のうちに隠されてしまい、結果誰の目にも触れられなくなる。そうして彼女は、『目の前にいるのに誰にも触れてもらえない。見てもらえない』という状況が生み出されてしまった。
「……これが、私から話せることの全てです」
さとりの話が終わった後、銀時はしばらく黙り込んでいた。
やがて彼は口を開く。
「テメェも大変だったんだな……こいしもそうだが、テメェら姉妹、本当ツレェ思いしてきやがって」
「私は別に……」
「何寝言ほざいてやがる。テメェが丈夫じゃねえことくらい、いちいち心読まなくたって分かってらぁ」
銀時は、さとりの近くまで行く。
そして優しく頭を撫でながら、
「テメェらは欲しかったんだろ? 自分達を認めてくれる居場所ってやつが……」
「……それは認めます。だからこそ私は、この地霊殿で……」
「建物があるかどうかの問題じゃねえよ。心の拠り所の問題だろ?」
「心の拠り所……」
オウム返しに言うさとり。
「……別に俺は、俺たちは、テメェがどれだけ心読めたとしても別に構いやしねぇ。そんな程度で逃げたりしねぇし、怯える必要なんざありゃしねぇ。なんせそれ以上のことなんざ腐る程歌舞伎町にはあったからな」
「……っ」
さとりは、そう告げた銀時の心を読んで、確信した。
彼の言葉は、心で思っていることと同じであると。
つまり銀時は、包み隠すことなく、そのままの言葉を言っているのだ、と。
「……どうして貴方は、そこまで出来るのですか?」
だからこそ、さとりは尋ねる。
彼の心に秘められた奥底を探るように。
そして彼は答える。
「それが、万事屋だからな。あのバカ共と一緒に万事を守ってきたからこそ、これからもテメェらみてぇなバカ共を護り抜くと決めた。大切な荷は、一度背負ったらそう簡単には降ろしたくねぇからな」
「…………っ」
最早さとりは、言葉が浮かばなかった。心の中を締めるのは、彼に対する想い。今まで言われたこともないような言葉に、さとりの心は大きく突き動かされた。
こいしは、彼のことを凄く気に入っていた。
その意味が、ようやっと本当の意味で理解出来たのだ。
「……坂田銀時。貴方は本当に、凄い人なのですね」
「そうそう。いざという時はキリッとするからね? 銀さんは本当はやる時はやる子なのよ」
「おかしいですね……ふふっ」
「ったく、やっと笑ったな……笑顔、可愛いじゃねえか」
「っ!?!?」
一気にさとりの顔が赤く染まる。
最早それは、さとりの心を落とすのにあまりにも充分すぎる言葉のように聞こえた。
その時だった。
「おにいさーん! おにいさんどこー!?」
こいしが、泣きそうな声で銀時を探している声が聞こえてきた。
銀魂×東方project
銀色幻想狂想曲
第百四十一訓 拠り所を見つけるのは一苦労