「おお……」
しばらくして、夕食の準備が出来たということで、銀時とフランは食堂に行った。その道中、片時もフランは銀時の腕から離れることはなく、流石の銀時も困惑気味だった。ここまで真っ直ぐに好意を向けられるのは、ドエム忍びこと猿飛あやめ以来だった為、なかなかに慣れていないのだ。
「なぁフラン、そろそろ……」
「やだ」
「まだ何も言ってねぇんだけど……」
「やだ。離れない」
「ったく、我儘だなぁ……」
食堂の扉をこのまま開けたら、自分の命を刈り取られるのではないかという予感がしている銀時からしてみたら、一刻も早くフランには自分から離れて欲しいと思っている所。とはいえ、彼女が甘えてきていることに対して、自分の言葉がそうさせていることもある為、何も言い返すことが出来ずにいた。
仕方ないので、フランが腕に抱きついたままの状態で扉を開けると、
「来たな……坂田銀時、決着をつけようじゃないか」
「入って早々殺気放つんじゃねえよシスコン」
「なんでお前ばかりフランが懐いているんだ!! 私だってもっとフランを抱きしめてあははうふふな状況を楽しみたいって言うのに!!」
「いやしらねぇよ!? 勝手に妄想しててくれ!? 俺は何も悪くねぇからな!?」
「良いわよ。私のフランへの愛を邪魔するのだとしたら、たとえ恩人だろうとも斬り捨ててやるわよ!!」
「対象さえどうにかなってりゃめちゃくちゃ格好いい台詞なのに全部台無しだなおい!!」
案の定と言うべきかなんと言うべきか。
レミリアはそれこそ青筋を立てて銀時に捲し立てる。対する銀時も、自分としては何も悪くない為ツッコミで対抗する。
「……あんなレミィ初めてみたわ」
「そうですね……私、レミリア様がここまでおもしろ……動揺してる所なんて見たことないです」
「小悪魔? 今明らかに面白いって言ったわよね?」
「ちちちち、違いますよパチュリー様! い、いやだなぁー! そんなことあるわけ、なななな、ないじゃないですかぁー!」
「小悪魔さんの言う通りですよ、パチュリー様! 御嬢様がゆか……いいえ、愉快なことになってるなんて!」
「言い換えられてないわよ。本心ダダ漏れよ。何も守れてないわよ。それでいいの門番」
何というカオス空間。
ストッパーとなり得そうな咲夜は、
「あぁ御嬢様……妹様を想うあまり、あんな可愛いお姿に……」
「鼻血。鼻血出てるわよ咲夜」
珍しいというか何というか、パチュリーによって鼻血の介護を受けている咲夜だった。というか最早ストッパーとしての役割を期待出来そうになかった。
「むぅー……ギン兄様ったら、お姉様ばっかり……私のこともっと見てよ!」
「いででででで! 千切れる! 腕が千切れるぅうううううう!! スポンって抜けちゃうぅううううううう!!」
レミリアとばかり言い合いをしている姿を見て、二人だけで仲良く会話をしていると思ったのか、嫉妬のあまりに銀時の腕を抱きしめる力が強くなる。彼女が力を入れるということは、それだけ銀時の腕が悲鳴をあげるというわけで……。
「早く飯にしようぜ!! このままだといつまで経っても飯食えねぇから!!」
この場をどうにかする為にも、銀時は食堂全体に向けて叫ぶ。
その叫び声によって何とか気を取り戻した咲夜は、食事をテーブルの上へ配膳する。レミリア達はそれぞれの席に座る。
銀時はレミリアと向かいになるように座り、
「私はここ!」
フランは自然な流れで、銀時の膝の上に座っていた。
「まてぇえええええ! 飯食えねぇだろうが!! 邪魔だから降りろ!!」
「えー……ギン兄様、駄目?」
「駄目に決まってんじゃねえか!」
「フラン、その男の膝の上に座ると、チャランポランが移るわ。だから私の膝の上に……」
「隙あらばシスコン精神出しまくるのやめろ!?」
もうシスコンであることに対して誇りを抱いているのではないかと思われる程、いっそ潔い態度を取っているレミリア。
あまりの変貌ぶりに、今回ばかりはパチュリーですら呆れるレベルだった。
「あのー……なんと言いますか、そろそろ食事を取りません? お腹ペコペコなので……」
この状況下で一番の常識人(?)である美鈴が提案する。
渋々と言った形で、フランは銀時の隣に座った。
「それでも銀時さんの隣は譲らないんですね……」
「当然! だって私は、ギン兄様とずっと一緒だもん!」
「ねぇ、さっき言ったよね? ずっとは無理だって言ったよね? あれ、大事な部分スルーしてないフランさん? ちょっと? 聞いてる?」
「…………どうしよう、咲夜。私、もう抑えきれないわ。アイツ、殺してもいいよね?」
「フランを巡ってヤンデレ化すんのやめろぉ!?」
「お姉様……ギン兄様に手を出したら、絶対許さないよ?」
「お前まで挑発すんなこの野郎!!」
何故か食事の場が修羅場と化する。
そんな紅魔館は、本日も平和です。
※
場所は移って、江戸は歌舞伎町。
家主たる銀時がいなくなって、三日が経過した。
「遅いですねぇ……銀さん」
「きっとジャンプ買う時に道端に落ちてたいちご牛乳飲んで腹壊してるネ。ずっとトイレ篭ってるんだヨ」
「どんだけなげぇトイレ行ってんだよ! つか、三日もトイレ篭ってるとか最早ミクロレベルの立て籠もり事件じゃねえか!」
万事屋銀ちゃんのオーナーが不在であることにより、結果的に二人と一匹のみになってしまっている状況。
定春は餌を食べてぐっすり寝ている。
神楽は飯を食べてぐったりしている。
新八は、眼鏡。
「なんか僕だけ雑な扱いされた気がするんだけど!? 眼鏡ってなんだ眼鏡って?! ここでも僕は無機物扱いか!?」
「心配すんなヨ。新八は何処へ行っても同じアル」
「それって僕が眼鏡ってことだよね? 何のフォローにもなってないよね!?」
閑話休題。
「それで、銀さんがいなくなる前に残されたこのメモ……どう見ても銀さんの字じゃないよね」
改めて出される話題は、銀時失踪前に机の上に残されたメモだった。
怪しさ満点のメモ帳は、彼らの疑心もうまいこと擽っている様子だった。
「女の字アル。けど、あんなチャランポランを連れ去るような女なんて、さっちゃん位しか浮かばないネ」
「あの人はある意味こういうことをする人じゃないからなぁ……そこが分からないんだよね」
ある意味彼らが答えに到達しなくても当たり前である。
何故なら彼らが知らない人物が犯人であるのだから。
「あら、坂田銀時の居場所が気になるのかしら?」
その時、二人以外に誰もいない空間から声が聞こえてくる。
「……え?」
新八は辺りを見渡すも、視界に映るのは、ソファでぐうたらしている神楽と、寝ながら●を漏らしている定春だけだった。
「って、漏らしてるぅうううううううううううう!!」
ぷんぷん匂い、モザイクがかかる万事屋の居間。
新八は慣れた手つきで処理をし、新ためてもう一度辺りを見渡す。
「んー……」
視界に映るのは、ソファでぐうたらしている神楽と、寝ている定春と、妖艶な笑みを浮かべてる女性だけだった。
「なんだ、いつもの光景……って誰だぁあああああああああ!?」
「なっ……いつの間にここに来たアルか!?」
あまりにも自然に溶け込んでいた為に、神楽ですら驚く始末。
その様子がおかしかったのか、女性は扇子を口元に当てながら、笑顔を見せる。
「これはこれは失礼致しました。貴方達のやり取りが面白おかしくて、つい笑ってしまいましたわ」
「……新八、この胡散臭いババァは知り合いアルか?」
「おい今なんつったガキ」
「え?」
「何か聞こえたかしら?」
「え?」
「え?」
「……なんでもないっす」
一瞬、神楽の言葉を聞いた女性の笑顔が修羅の物に映ったが、女性の勢いに負けたのもあり、気のせいだと思うことにした新八なのだった。
「所で今、銀さんの名前……」
「えぇ、言いましたわ。彼は今、私からの依頼によって幻想郷という場所に来ております。ご安心ください。もうすぐ一度帰ると思いますので」
「なんだヨ? その幻想郷って」
疑問を伝えた神楽だけでなく、新八もその場所について心当たりがなさそうだった。
女性――八雲紫は、幻想郷について、銀時に依頼した内容について、そしてその顛末を彼らに伝えていた。
「そんな場所が……ってか、銀さん吸血鬼に勝っちゃうなんてなかなか凄いっすね……」
「というか新八。今の話聞いてると女性しか出ていない上、幼女にものすごい勢いで懐かれてるアル。これは異常事態ネ。ていうか警察呼ぶしかないアル。帰ってきたら速攻通報するネ」
「……いつもならツッコミ入れるところですが、今回ばかりは神楽ちゃんに同意するよ……銀さん、一体何したんだ……?」
「どれだけ普段信用されてないのかしら」
これには流石の紫も、同情したという。
※
夜。
銀時には先程まで寝ていた部屋が充てられて、そこで横になっていた。
彼はつい先日起きた異変について思い返し、
「すげぇもんだな……幻想郷ってのは」
ポツリと、そんな言葉を漏らしたのだった。
そんな時だった。
コンコン、と扉が叩かれる。
「誰だ?」
銀時の声を聞き、扉は勢いよく開かれる。
そしてそのまま。
「ギン兄様ー!!」
病人であることなどお構いなしに、吸血鬼タックルを繰り広げるフランの姿があった。
「うぐべはぁっ!」
当然、彼は全身で受け止めるしか方法がなく、危うく傷口が開くんじゃないかと言う程の衝撃を受ける。
それこそ思わず心臓が飛び出る程(物理的に)。
「まーたお前かよ、フラン……いやいい加減慣れたけどよ、流石に病人にタックルかましてくるのは、やべぇって……止めでも刺しに来たのかテメェは……」
「何言ってるの? そんな酷いことするわけないじゃん!」
「言ってることとやってることが矛盾してることに気付いてる?」
流石の銀時も、思わずそうツッコミを入れざるを得なかった。
「ところでどうしたんだよ、フラン。夜にこんな場所に来て。眠れないのか?」
「うん。ギン兄様と一緒に寝たい」
「……レミリアと一緒に寝ればいいだろ?」
「お姉様とは、ギン兄様がこの館からいなくなったらたくさん寝られるから……今の内しか、ギン兄様と一緒に居る時間ないから……少しでも長く一緒に居たいから……駄目、かな?」
上目遣いに。
その瞳に涙を溜めながら。
フランは寂しさを押し殺すように、銀時に尋ねる。
「……はぁ」
頭をガシガシと掻き毟り、溜め息をついた後に、
「仕方ねぇな……来いよ。ただ、見つかった時の言い訳考えておいてくれよな? 銀さんが宴行く前に、ここが血の披露宴になっちまうから」
「大丈夫だよ、ギン兄様。もしギン兄様を傷つけようとする人が居たら、私が壊しちゃうから」
「生意気なことを言うなガキ」
「ぴゃっ」
一瞬、目に光が宿っていなかったフランだったが、銀時にチョップされたことによりすぐに戻った。
「ねぇ、ギン兄様」
「なんだ?」
「ギン兄様は、家族っているの?」
ふと湧いた疑問だったのだろう。
フランの質問を聞いて、銀時の脳裏に浮かんだのは、
「……血のつながってない、家族のような奴らならいるさ。今もソイツらは、俺の帰り待ってくれて……居る筈だ」
「そうなんだ……その人達のこと、好きなの?」
「……背負っていく奴らだ。守りてぇと思った奴らだ。その中には、もちろんテメェらも入ってる」
「あっ……」
銀時は優しくフランの頭を撫でる。
撫でる手が心地よく、フランは目を細くする。
こんな些細な言葉でさえ、フランの胸は弾むのだ。
「ギン兄様は優しいね」
「……そんなことねぇよ。俺はただ、守りてぇもん守りたいだけだ。ただそんだけだ」
そう呟いた時の彼は、何処か遠くを見ていて。
何かを思い出しているかのようで。
フランは少し、つい見惚れていしまっていた。
「……ギン兄様、明日、楽しみだね」
「……そうだな。楽しめよ、フラン」
「ギン兄様もだよ?」
「あぁ……そうだな」
こうして夜は更けていく。
銀時は、自分の背中に、また大切な重みが増えたことを感じた。
銀魂×東方project
銀色幻想狂想曲
第十三訓 抱えていた物の反動は大きい
ちょっと新八と神楽の様子も描きました。
彼らも後々、幻想郷メンバーとの交流を深めることになります故ー。
正直、銀魂サイドのキャラを何処まで出そうか悩み中です。。。
あ、万事屋以外のキャラも出すことは確定しています。
ここは幻想郷ですので、そう言った特徴も加味して、色んなキャラが登場することとなるでしょう……どんな人達が出るのかはお楽しみに。