夢を見ていた。
それは恐らく、見たこともないような光景。
足元には何かがたくさん転がっていて、男はただ一人、その中で歩いていた。
先などない。
行く宛などない。
そんな中で、一人の男は、木刀をしっかりと握りしめて、ただ前へと足を運ぶ。
単調な作業に過ぎないのだろう。
その夢には、色がなかった。
その夢には、匂いがなかった。
その夢には、人がいなかった。
その夢には、何もなかった。
「はぁ……はぁ……」
男の息は上がっていく。
単なる疲れからなのか、それとも何かの重圧からだろうか。
いずれにせよ、このまま歩き続けることに抵抗を感じ始めた男は、
「あっ……」
自分の足元に広がる光景を、その目で見てしまった。
「あ、あぁ……」
転がっていた何かは、死体だった。
あるいは腕。
あるいは足。
あるいは腰。
あるいは指。
あるいは肩。
あるいは踝。
あるいは髪。
あるいは目。
あるいは耳。
あるいは鼻。
あるいは口。
あるいは頭。
あるいは、あるいは、あるいは……。
「なん、で……」
見覚えがなければ、どれだけ救われたことだろう。
知らない人のものであれば、まだ耐えられただろう。
そこに広がっているのは、男――坂田銀時が今まで出会って来た者の死体だった。
「なんだよ、これ……」
「お前がいずれ辿り着く運命だ」
声が聞こえた。
その声はとても低く、嘲るように笑う。
「お前は……」
「お前はいずれ、その身を以て仲間を傷つける。お前に守れる者など、いない」
死体の中には、霊夢がいた。
死体の中には、魔理沙がいた。
死体の中には、フランがいた。
死体の中には……。
「離れた方が余程利口だ、白夜叉。貴様に守れる背中などない。取りこぼし、そして、すべてが無に帰る」
番傘を被り、杖を持ち、全身を白い包帯でぐるぐる巻きにしている男は、包帯の中から見える紅色の瞳を銀時に向けて、告げる。
「忘れるな。貴様はいずれ崩壊を招く。逃れたければ――」
※
夢は唐突に終わりを告げる。
今まで見ていた光景の重苦しさに、銀時の全身から冷や汗が流れ出る。それは着ている服に染みわたり、湿った布が肌に張り付いて余計に不快感を与えていた。
「夢……」
思わずポツリとこぼしてしまう銀時。
ふと、昨日のことを思い出した彼は、咄嗟に隣を見る。
「……すー、すー」
安心しきったように、身を委ねるように、ぐっすりと眠っているフランの姿があった。
彼女は銀時を離さないように、左腕にしっかりとしがみ付いている。
その様子を見た銀時は、思わず安堵の溜息をもらしていた。
「ったく、余計な奴まで夢に出やがって……」
ぽつりと、そんな一言を零す。
そして銀時は、カーテンの開いていない窓に目を配り、
「…………あ?」
そこに、カメラを向けた少女が立っていた。
「…………あん?」
そして、カメラからは無慈悲にもシャッター音が鳴り響いた。
「よっしゃあああああああ! 特ダネゲットだぜ☆」
「何してんだこのアマぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
黒いフリルつきのスカートを履き、フォーマルな白い服。頭に赤い山伏風の帽子を被った黒髪の少女は、手にしているカメラのシャッターを何回も押し、満面の笑みを浮かべながら、少女は勝ち誇ったかのように宣言する。
「お騒がせします! 私は、清く正しく美しく、何処よりも素早く情報をお届けする『文々。新聞』の射命丸文です! この度は異変について調べていた所だったのですが、こんなところに特ダネがあったので、写真を撮らせていただきました! 坂田銀時さん!」
「所詮マスゴミの仕事じゃねえか! テメェふざけんじゃねえぞマジで!? こんな所記事にされた日には二度と外歩けねぇじゃねえか!!」
「えーいいじゃないですかぁ~。幻想郷中の人気者になれますよ?」
「んなわけねぇだろうが! テメェのせいで社会的に抹殺されるわ!!」
「うぅ……ギン兄様、どうしたの……?」
ちょうどその時、銀時と文の口喧嘩を聞いて、フランの目が覚めたようだ。
眠気眼を擦り、目の前に繰り広げられている光景を見て、一言。
「…………ギン兄様、その女、誰?」
「マスゴミです」
「扱い雑過ぎじゃないですかね!?」
流石にこれには文も納得いかなかったようで、全力でツッコミを入れていた。
「いいかフラン? マスゴミってのはな、事実を捻じ曲げて面白おかしく書き、読者からの人気を得て内心ほくそ笑んでいるような悪い奴だ。ソイツはその仲間だってわけ」
「なる程……つまり、悪い人ってこと?」
「簡単に言えばそういうことだな」
「さっき言いましたよね!? 私は清く正しく美しく、何処よりも素早く情報をお届けするって!」
「その割には今の状況を見て『特ダネ、ゲットだぜ☆』ってどこぞのマサラタウン在住の小学生みたいなこと言ってたよね? 完全に面白おかしく書く気満々だよね? 銀さんの社会的地位をどん底に突き落とそうとしてたよね?」
「いやだって、今の状況を自分で見て思い返してくださいよ」
「え?」
朝方。
寝起き。
隣には目を擦っている幼女。
そしてその幼女は、成人男性の腕に抱き着いている。
「完全に朝ちゅんじゃないですか」
「言わないで?! 完全に誤解だからね!?」
「というわけで本日の記事は、『異変を解決に導いた英雄、紅魔館にてスキャンダル!?』で決定ですね☆」
「ですね☆じゃねえんだよ!! テメェそのカメラ寄越しやがれ!!」
「じゃ、というわけで今日の宴楽しみにしてますからねー!!」
銀時が飛びかかろうとした時、文はそのまま窓から飛び出てしまった。
それこそ、人間の動体視力では追うことなど不可能なほど、素早い速度で。
「な…なん……だと……このままでは……このままでは……!」
今の状態を放置すると、銀時は文によってとんでもない記事を書かれることとなる。
そうなった場合、次の日から外をまともに歩けなくなってしまう。
「大丈夫だよ、ギン兄様……たとえ外歩けなくなったとしても、フランと一緒にずーっと、ずーっと一緒に居ればいいんだから」
「そういう問題じゃねえんだよ!!」
どうやら彼に味方してくれる存在はいなさそうである。
銀魂×東方project
銀色幻想狂想曲
第十四訓 マスコミは常に特ダネを求める上にどんなことでもする
射命丸さん登場回&ちょっとした不穏な空気を醸し出す回となりましたー。
たぶん次回辺りは宴でのエピソードになる……と思います。