「あ、銀時さん」
宴の会場に入って最初に声をかけて来たのは白蓮だった。彼女は憑き物が取れたかのようにスッキリした表情をしていて、元々魅力的だった雰囲気にさらに磨きがかかっているように見えた。
「よぅ、尼さん。いい面構えしてんじゃねえか」
「えぇ。貴方と小太郎さんのおかげで、私のやるべきことが見つかりましたから……この寺も、その第一歩のようなものです」
かつて宝船と称され続けた彼女達の船を改造して、白蓮達はこの命蓮寺を建てた。妖怪からも人里の人間からも慕われるこの寺の信仰は、守矢神社にも匹敵すると言われている。それにしても、どんどん新しい寺や神社に信仰が奪われていく博麗神社は果たして存続していけるのだろうか。
「偶然とはいえ、私達が力を貸したことによって貴女は復活することが出来、こうして尽力出来るようにまでなった、ということね……」
霊夢の言う通り、銀時達が協力したのはあくまで偶然。元々は宝船を追いかけていて辿り着いたのだ。偶然の産物というものは時としていい働きをするものである。
「えぇ。けど、貴女達がいなければ、私はいつまでも復活することが出来ず、今でも封印されたままだったでしょう……彼女達にも会えず、一人で……それは、苦しいことですから……」
「独り……」
銀時の腕に抱きついているフランの腕に力が入る。
495年間地下室に閉じ込められて孤独を感じていた彼女にとって、白蓮の言葉は思うところがあったのだろう。
そんなフランの頭を、銀時は優しく撫でる。そして銀時は、フランにも白蓮にも言い聞かせるように、
「もう、テメェは独りじゃねえだろ?」
「……うん」
「えぇ」
フランは嬉しそうに銀時に抱きつき、白蓮は笑顔で答えた。
「ま、寺で宴とかいう宗教的にはどうなんだって感じはするけどな」
「構いませんよ。今日だけの無礼講ですし、宴を行う場所は厳密に言うと寺としては関係のない場所ですから……ただ、私は飲めませんが」
意外とそういうところは真面目な白蓮だった。
彼女は尼。酒を飲んではいけない規律を課しているのだ。
「封印から解放されたばかりなんだし、仏の道に仕えるのは明日からでも文句は言われねぇと思うけどなぁ」
「いえ、この寺を建てた時から決めていたことですから」
白蓮は一度決めたことに関してはなかなか曲げない性格のようだ。そう考えると、銀時と桂の二人が、白蓮の思想の奥底に気付かせることが出来たのは相当凄いことなのかもしれない。
「ま、私たちは遠慮なく飲むけどね」
「そうだぜ! こう言う時は飲まなきゃ損損、ってやつだぜ!」
「いつの間に魔理沙さんがやって来たんですか!?」
今まで黙って話を聞いていた新八も、突然現れた魔理沙には流石に反応してしまったようだ。
魔理沙は平然とした表情で新八の言葉をかわす。
「……そうですね。私はあくまで提供する側ですから」
どうやら白蓮は、今宵の宴の主催者は自分であることを認識している。今まで開かれて来た宴の中でも、トップクラスの自覚だろう。これまで開かれた宴は、そもそも場所提供こそされていたものの、ほとんどただの宅飲みみたいなものだったからだ。
「時に、銀時さん」
周りを気にしたのち、白蓮は銀時の耳元に近付き、誰にも聞かれないような小さな声で尋ねようとする。
ちなみに、フランには丸聞こえである。何せ銀時に抱きついているのだから。その結果、フランの表情が少し不機嫌になるのは当然の結果だろう。
だが、彼女の次の言葉は、意外なものであった。
「小太郎さんは、今回の宴には参加してないのでしょうか……?」
顔を赤くしながら尋ねてきた白蓮の口から発せられたのは、桂の名前だった。
これには銀時も目を丸くし、フランも驚いたような表情を浮かべる。
そして銀時は、
「アイツも本当は来たかったらしいが、元の世界では警察に追われている身だからな……その警察がオフとはいえこっちにきているから、顔を出しづらいんだろう」
「そうですか……」
少し寂しそうな表情を浮かべる白蓮。
その一連の流れで銀時は察する。
白蓮は桂のことが気になっているのではないか、と。
「まぁ、アイツのことだからな……実はどこかでスタンばってるかもしれねぇ」
桂ならばあり得ない話でもない。実際、ほぼ毎回何かしらの形でスタンばっているようではあるが、単純に出るタイミングとかその他諸々が合わなくて登場出来なかっただけの時も何度もあるようだ。
「……うふふ。面白いお方ですね」
これは、桂小太郎にも春が来たのだろうか?
銀魂×東方project
銀色幻想狂想曲
第百七十二訓 人が人のことを気にするようになるきっかけなんて些細なこと