「…………」
聖白蓮は、宴から抜け出して一人夜空を眺めていた。今回の一件は、いわば自分の封印を解き放とうとしてくれたから起きた物。そして、目覚めた彼女の考えを正してくれた、二人の侍がいたこと。その中でも特に印象に残る、あの台詞。
『そもそも『救う』とは行えるものではない。誰かが行動した結果、勝手に救われるものだからな。人間と妖怪を完全に平等にし、救おうとする理想そのものが破綻するというわけだな』
彼女の考えが少しずれていたものであると証明された瞬間であった。
人間は『行動』することが出来る。救いとは、その上で起こりうる結果に過ぎないのだ。そもそも人間である彼女に、妖怪と人間を平等に扱うことは出来ない。本当に彼らを平等にすることが出来るのは、そのどちらでもない存在──いわば神様のみなのだから。
白蓮が追い求めた理想は、根本の段階で正さねばならないものであった。だが、その本質は決して間違っていない。
「誰かを……大切なもの達を、守る……」
思い浮かべるのは、今回尽力してくれた者達の顔。彼女達は白蓮にとって大切な存在となっていた。そんな彼女達を……彼女達を取り巻くすべてを……自分を頼ってくれる存在を……護りたい。
「なんだ……私はあの者達に、『救われた』んですね」
思わず笑顔が溢れてしまった白蓮。
彼女は、坂田銀時と桂小太郎によって、『救われた』のだ。
そして、そのことに気付いた白蓮は、
「あの方にもう一度、お会いしたいですね」
今はこの場にいない男のことを思い浮かべながら、ポツリと自身の小さな理想を口にした。
「どうした? そんな所で一人黄昏て」
「っ!!」
白蓮の背後から声が聞こえた。その声は、今彼女が最も聞きたいと願って欲していた男の声。白蓮を『救った』男の声。一人の侍の、声。
「この場所で準備していた甲斐があったな……なにせ、これ程までの美貌の持ち主と席を共にし、二人で月を眺めることが出来るのだから」
「えぇ、そうですね。私も、宴を抜け出してこの場にいた甲斐がありました。おかげでこうして貴方と、もう一度話をすることが出来るのですから」
男──桂小太郎に対して、白蓮は笑顔を浮かべつつ告げる。
今この場において、白蓮と桂以外の人物はいない。
「しかし、本当に銀時さんの仰ってた通りでしたね。宴には参加していないものとばかり思ってましたが、まさかこうしてすぐ近くで待ち構えていたとは思いもしませんでした」
「少々厄介な事情があるものでな。堂々と参加したかったのだが、そうも言っていられない事情があった。だからせめてこうして、雰囲気だけでも堪能しようと思っていたのだ」
「うふふ。小太郎さんってば冗談がお上手ですね。今度また、命蓮寺に足を運んでくださいね。その時にはご馳走を披露しますから」
「そこまでの気遣いはよい。俺は、一杯のかけ蕎麦でも十分堪能出来るぞ」
「蕎麦、お好きなんですか?」
「嫌いではないな」
「それならば考えておきますね」
「その時はよろしく頼もう」
「はい」
そうして二人は話を続け、思わず笑ってしまった。
「ははは! なかなかによい時間だ……何処か心地よさも感じてしまう」
「えぇ。私もこうして、封印から解き放たれて良かったです……もう一度彼女達と会うことが出来、そして貴方達に巡り会うことが出来ましたから」
「宝探しに尽力した甲斐があった。結果としてこれ程までに素晴らしき宝と巡り合うことが出来たのだから」
「私もです。私も宝物に巡り合うことが出来ました……貴方達のおかげです」
二人にとっての『宝物』。
それが何を意味するのかは、言葉にしなくても何となく伝わっていた。
それを言葉に表そうとするのは、野暮であるだろう。
「まだまだ今宵も月が上る頃合い。陽が出るまで、酒はないがせめて語り合おうぞ」
「それもまた一興、ですね。私でよければ、是非貴方様のお誘いに乗らせてください、小太郎さん」
そして二人は語り合う。
月の光が差し込む中、桂と白蓮の二人は、その場に流れる空気を存分に堪能していた。
「……この光景を写真に収めるのは、野暮ですね。それじゃあ私は、坂田さんの特ダネを撮りにいきますかー!」
そんな光景を眺めていた鴉天狗は、構えていたカメラのシャッターを切ることなく、その場から飛び去ったという。
こうして、今回の異変は終わりを告げる。
だが、この時の彼らはまだ知らなかった。
──いずれ訪れる、幻想郷の危機が迫りつつあること。
銀魂×東方project
銀色幻想狂想曲
第百七十五訓 スタンバイすることはとても重要なこと
これにて星蓮船篇は終了となります。
一旦、予定していた東方原作異変長篇についてはここまでです。
非想天則、ダブルスポイラーのエピソードを交えつつ、次回からはポロリ篇をお送りいたしますー。