「んで、どうしたんだ霊夢。珍しく真面目な表情見せてっけど、なんかあったのか?」
銀時は、普段の霊夢とは違う何かを感じ取ってそう尋ねていた。無気力な感じを出している彼女が、極端なことを言ってしまえば殺気立っていると言っても過言ではない程にピリピリしている。銀時はもちろんのこと、側にいる時間が長い魔理沙ですらなかなか見ることのないことだった。
「……今回の一件は流石に私一人だけではどうにも出来なさそうなの。だから、万事屋の力を借りたいと思ってここに来たのよ。このまま放っておいたら……幻想郷が崩壊するとまで紫に言われたわ」
「幻想郷が崩壊!? 霊夢そりゃ一体どういうことだぜ!?」
最初に反応したのは魔理沙だった。こいしとフランの二人も、驚きのあまりに目を見開いている。
幻想郷の崩壊。
即ちそれは、彼女達の居場所を取られてしまうことを意味する。
「……順を追って説明するわ」
霊夢による説明が始まった。
※
「いきなり何よ。こんなところまで呼び出して……ここじゃなきゃ出来ない話なの? スキマの中で会話するのって何だか薄気味悪くてあまり好きじゃないんだけど……」
「申し訳ありませんわ。確実に外界との接触をシャットダウンできるような場所がここしかありませんでしたから……」
「……それだけ真面目な話、ってわけね」
周りに無数の目が浮き出ているスキマの世界。八雲紫に呼び出された霊夢は、紫の話を聞いていた。何の話をされるのか具体的に把握しているわけではないものの、その話の重要性が如何程なのかは瞬時に判断出来た。
外部に漏れては困る話。例えばそれは、幻想郷の存在そのものに関わる話である可能性。
「幻想郷を滅ぼそうと企んでいる不埒な輩がいるの」
「幻想郷を滅ぼそうと?」
「より正確に言えば、幻想郷を妖怪のみの力で支配しようと企んでいる、といった方が確実かしら」
「……つまり、幻想郷から人間を排除しようとしている、と?」
「流石は霊夢。話が早くて助かりますわ」
幻想郷から人間を排除する。
即ち、幻想郷のバランスを崩そうとしているというわけだ。
「私としては、幻想郷に生きとし生けるものすべてを愛していますの。そんな彼ら彼女らを脅かす存在は根こそぎ排除したいと考えていますの……幻想郷に流れ着いておきながら、支配しようと企むなどと……」
「なかなかの敵知らずね。ソイツ」
「えぇ。幻想郷を敵に回すことの恐ろしさを、味わうがいいですわ」
紫にしては珍しく、怒りの感情を隠さないでいた。それだけ今回の一件は重い罪となり得るものなのだろう。
「しかし、相手は一体どこのどいつなのよ。紫がそれだけ警戒しているってことは、それなりに腕の立つ相手なの?」
「その女自体に脅威はあまりないですわ。むしろ単体の力ならば今まで異変を起こしてきたどんな人物よりも弱いとまで言えますわ。そもそも弾幕ごっこをする為の能力を持ち合わせておりませんから」
「なによ。それなら一捻り出来るじゃないの」
霊夢としては拍子抜けだった。
八雲紫が警戒するというのだから、それなりの力の持ち主だと思っていたからだ。
しかし、紫が警戒しているのはその人物の力ではなかった。
「厄介なのは、その相手が狡猾であるという点よ。つまり……」
「相手の心に付け入り、仲間を増やしていくのが上手い、ということね」
「ある意味では悪役としてのカリスマだけなら兼ね備えていますわ。既に何人もの妖怪が口車に乗せられて、彼女の仲間として取り込まれていますわ」
「そうやって準備を整えている、ってことね……」
本当の恐怖は、幻想郷に住まう妖怪のほとんどが味方についてしまうこと。
そうなる前に目的の人物を倒さなければならない。
「で、犯人に目星はついてるの?」
「えぇ。その人物の名前は……」
紫の口から、その人物の名前が告げられた。
銀魂×東方project
銀色幻想狂想曲
第百八十五訓 本当に怖いのは人の心に付け入る奴