「それで、説明してくださるのでしょうね……?」
白玉楼にて。
西行寺幽々子は、かつて自分に仕えていた魂魄妖忌に尋ねる。妖忌は、妖夢と同じように──いや、本来ならば彼が剣術指南役兼庭師を勤めていた。しかし、ある日を境に突如として姿を消し、その役目は妖夢へと流れたのである。
そんな彼に、幽々子は聞かざるを得なかった。
「貴方は何故帰ってきたのか……そして、今まで貴方は何処で何をしていたのかしら……?」
幽々子や妖夢の前に姿を現すことのなかった空白の期間。その中で彼は何をしてきたのか。そして、どんな理由があってその空白の期間に終わりを告げることとなったのか。幽々子としては、どうしても気になるところだった。
「……幻想郷の危機が迫っております。儂が貴女様方の前から姿を消したのも、こうして貴女様方の前に現れたのも、貴女様の愛する場所を護るためでございます」
妖忌は真剣な眼差しでそう語る。
「幻想郷の、危機……?」
幽々子のすぐ近くに控えている妖夢が、ポツリと言葉を溢す。
「左様。幻想郷を狙う怪しき輩が暗躍しておる。その者達から白玉楼を護る……儂はその為に帰ってきたのだ、妖夢」
「……っ!」
その眼差しは、かつての物と変わりなかった。剣術の師匠としての厳しい目。白玉楼に住まう者としての目。そして、祖父としての優しい目。
温かいのだ。妖夢が欲していた、求めていた、羨んでいたものがそこにある。そんな気さえ彼女はしていた。
「此度の戦はそう簡単に収まるものとは違います。何処でどう動いているのか判断に迷います。即ち……」
そこで言葉を区切る妖忌。
押し黙る彼に、幽々子と妖夢の二人は不思議そうな表情を浮かべる。
「……このように、いつ何処で何が起こるか分かりませぬ故。出来ることはその時に行わせて頂きます」
「!?」
妖忌は腰に差していた刀を抜き、それを振るう。
刃が幽々子と妖夢の間を斬り裂く。
……しかし、その刃は何者も斬ることはなかった。
「ほう……よもやこの儂の攻撃を止めるか。このような地に生まれ落ちた理由は分からぬが、夜兎の攻撃を神速の刃を以て受け止める者がいようとはな」
そこに居たのは、彼女達が知り得る筈のない人物。
かつて吉原を支配していた男――夜王鳳仙。
「お主が何者かどうか等構わぬ。仇為す者は叩き斬る。ただそれだけだ」
「分かりやすくて結構じゃないか。貴様が、儂の野望を絶ち斬るのが先か、儂が貴様の信念をへし折るのが先か。勝負といこうではないか!」
「剣に傘を振るう場所としてこの場所は好かぬ。外に出てはどうだ」
「なるほどな。それも一興!」
傘を突き刺すように振るう鳳仙。
妖忌はその攻撃を躱し、そのまま部屋の外へと出る。
鳳仙もまた、妖夢と幽々子には目もくれず、そのまま外へと出た。
「……幽々子様。あの者は」
「えぇ。亡霊ね……けれど、おかしいわ。幽霊に関する異変は、以前解決した筈……」
幽々子は考える。
大結界異変に関しては既に解決し、次の周期までは時間がかかる筈。
しかし、こうも早く異変が起こるのは不思議な現象ともいえる。
「……まさか。命蓮寺が関係している? あの亡霊もまた、人間の欲が形となったもの……何者かの強い欲に引っ張られることによって、この地へ姿を現した?」
人の欲が具現化した存在――『神霊』。
鳳仙をかたどった欲は、恐らく支配欲。
幻想郷を取り巻く状況に相応しき相手とも言えるだろう。
当然、その答えに幽々子達が辿り着くわけがないが。
「とにかく、今は妖忌のサポートを。妖夢、お願い出来るかしら?」
「かしこまりました。魂魄妖夢。誠心誠意援護して参ります!」
妖夢は己の持つ剣を握り締め、幽々子が居る部屋を出る。
「……妖夢。妖忌」
部屋から出て、戦場へと向かった二人の名前を呟く幽々子。
彼女が今出来るのは、二人の戦いぶりを見守ることのみではない。
「……私も私で、出来ることを探してくるわ。この地は任せましたよ、二人とも」
幽々子は、今回の異変に関する調査を始める。
――異変は複雑に絡み合う。
銀魂×東方project
銀色幻想狂想曲
第百八十七訓 欲に忠実な者は時に横暴になる