時間は少し流れて。
「よぅ、銀さん! 無事で何よりだぜ!」
アリスを連れた魔理沙が、銀時の元へやってきた。
「魔理沙……と、コイツは?」
「初めまして。アリス・マーガトロイド。魔法使いよ」
「また魔法使いか? この世界には何人魔法使いがいやがるんだよまったく……」
魔理沙をはじめとして、パチュリーやアリスといった、魔法を扱う人物が少なくとも三人は存在している。
そもそもの話、吸血鬼が居たり、妖精がいたり、九尾の狐がいたり、化け猫がいたり、なんでもありな幻想郷において、今更という感想を抱かなくはない、と銀時は考えていた。
「それぞれがみんな、異なる魔法使いよ。私は人形を扱うことの方が多いし、紅魔館にいるパチュリーって人は、さっき聞いた限りだと五大元素を得意としてるみたいね」
「んで、コイツは火力ブッパの特攻野郎Aチームってわけね」
「そうそう……ってその感想は頂けないぜ!? たしかに弾幕は火力が一番だとは思うけどな!」
「発想がすでに物語ってるじゃねえか」
誰がいうのでもなく、魔理沙が火力を第一に考えていることは明白だった。
「にしても、お前は人形遣いたぁ、なかなか可愛い趣味を持ってるじゃねえか」
「か、可愛いってなによ。人形を複数同時に操るのって、それだけでも十分大変なのよ?」
可愛いって言われたことで顔を少し赤くするアリス。元々そこまで他人に興味がなかった彼女にとって、こういった形の素直な言葉は弱いのだろう。
「なんだぁ? いっちょまえに照れてやがるのか? 本当に可愛いこってぇ」
「まぁまぁ、そこまでにしてやってくれよ銀さん。アリスったら照れて顔から湯気でまくってるぜ?」
「…………魔理沙。後で弾幕ごっこ。付き合いなさい」
「なんで強制なんだ!? それはおかしいぜ!?」
照れ隠しなのか、それとももっと別の何かがあるのか。
アリスは魔理沙を引っ張って、そのまま別の場所へと行ってしまった。
「あやや。面白そうな状況でしたのに……英雄色を好むとは事実なんじゃないですか」
次に現れたのは、ニヤニヤしながらカメラを構える、文だった。
彼女を見た銀時の顔に青筋が入る。
「おいマスゴミ。テメェのせいでどれほど大変な目に遭ったのか分かってんのかゴラ」
「いやー、なんのことかさっぱりですねー。ていうかほとんど自業自得じゃないですか? 一緒の布団に入ってたのは事実ですし、何も間違っちゃいませんよ?」
「それを面白おかしく伝えたのはテメェの仕業だろうが!!」
「ネタは新鮮なうちに料理するのが一番なんですよ? そこに面白いネタが転がってたら、すぐさま食らいつくしかないじゃないですか!!」
「マスゴミ精神全開のコメントだなオイ!! お前本当いい性格してやがるな!!」
「まぁまぁー、今日は宴なんですから、飲んでくださいよー。お注ぎしましょーか? 盃空いてますよ?」
いつの間にやら日本酒の入った徳利を持っている文。
「……仕方ねぇ。次やったらタダじゃおかねぇからな?」
「どうでしょうかねー? 坂田さんは面白いお方なので、追っていると次から次へと面白ネタが入って来そうなんですよねー。妖怪の山にいるあの子達にも会わせてあげたいところです」
並んで酒を飲みながら、そんな会話を交わしてる二人。
あの子達、と話している時の文の顔は笑顔だったが、特ダネを掴んだ時の顔とはまた違い、優しそうな表情を浮かべていた。
「友人か何かか?」
「そんなところですかねー。みんないい子達ばかりですよ? ただ、妖怪の山にいる天狗達はみんな警戒心がものすごく強いですからねー。一度入ろうものなら、二度と出られなくなってしまいます……坂田さんなら平気そうですけどね」
「買い被りすぎだ。銀さんはそんな危険なところに、わざわざ行こうとするほど仕事してぇわけじゃねぇから」
「そういうと思いましたよー」
程々に酔っているのか、文の顔は心なしか赤く染まっている。宴が始まってから結構な時間が経過しているのだ。酔っ払いが出てきてもおかしくはない頃合いだろう。
「坂田さん。これからも何卒よろしくお願いしますねー」
「マスゴミなんざ真っ平御免被るぜ」
「酷いですー! 私には射命丸文って名前があるんですから、ちゃんと名前呼んでください!!」
名前を呼ばれないことに不満を抱いているらしい文は、あろうことか突然銀時に抱きついた。
「なっ……!」
これには流石の銀時も動揺する。
フランは見た目が幼い為かまだなんとか抑えることが出来たが、今目の前にいる文は、いくらマスゴミとはいえ美人の部類に入る。しかも、出るところはある程度しっかり出ており、服越しからでもわかるほど、柔らかい何かが銀時の身体に当たっていた。
「てめぇ、酔ってやがるな!?」
「そんなんじゃないですよー。私はただ、坂田さんに名前を呼んでもらいたいだけなんですからー。呼ぶまでずーっとこうしてますからねー」
「あぁもう酒クセェ!! うっぜぇ!! めんどくせぇぞこの酔っ払い!!」
柔らかさを堪能する前に、銀時の鼻を刺激するアルコールの香り。それが、否が応でも彼女が酔っている証拠を示している。
「ギン兄様から離れろ!!」
そこに割って入ってきたのは、もう明らかに嫉妬の眼差しを向けているフランだった。
彼女は銀時達の騒ぎを見て、居ても立っても居られなかったのだ。
文を押しのけ、銀時に正面から抱き着く。
「ちょ、ふ、フラン?」
「ギン兄様もギン兄様だよ! 私の前でいろんな女の人とイチャイチャと……ギン兄様は、フランのなんだから!! 離れちゃダメなの!!」
何という宣戦布告。
涙目で上目遣いで抱きしめながら叫ぶそれは、まさしく恋する乙女そのもの。
フランより真正面から好意をぶつけられていることを自覚している銀時だが、これには流石に驚きを隠しきれていない様子。
というか、新たなる特ダネを発見した文が、酔っ払いながらもシャッターを押しまくっていた。
「いよっしゃあああああ!! 坂田さんの渾身の特ダネゲットぉおおおおお!!」
「言った矢先にこれかよ!! 今すぐ消せや射命丸ぅううううううう!!」
「おぉ! 私のことちゃんと呼んでくれましたね!! その記念に、明日の新聞ではしっかりとスクープ載せておきますからね☆」
「物凄い満面の笑みで死刑宣告すんのやめてくんない!?」
ホットなネタを仕入れることが出来たことと、名前をきちんと呼んでもらえたことが嬉しかったのか、あざとい笑みを浮かべる文は、満足げにその場を後にする。
そんな彼女とばかり話している銀時を見て、フランが抱きしめる腕に力を込めながら、
「ギン兄様。なんで他の人達とばかり喋るの……? 私と喋るの、そんなに嫌……?」
寂しそうに、懇願するように、そう尋ねてきた。
「……そうじゃねえよ。そんなに不安になるなって。お前も色んな奴と会話してぇだろ?」
「私はギン兄様とお話がしたい。お姉様や他の人達とももちろん話はしたいけど、一番はギン兄様なの」
「そ、そうなのか……」
「だって、ギン兄様……この宴が終わったら、帰っちゃうんでしょう?」
「……聞いてたのか、フラン」
頰を掻きながら、先ほどの紫との会話を聞かれていたことを自覚する銀時。
確かに約束はした。
しかし、いざその時が迫るとなると、フランの中で余計に寂しさがこみ上げて来るのだろう。
「また来るっつったろ? フランはもう一人じゃねえし、帰る場所だって、大切な奴らだっている」
「ギン兄様だって、とても大切な人だもん……分かってる。ギン兄様にも大切な人がいて、帰るべき場所があるのは分かってるけど……わかってるのに……さみしいよ……」
楽しいだけの時間であるとは限らない。
宴とは、始まりがあれば終わりもある。
明確な終わりの時間は存在しないが、きっと夜が明ければ終わることだろう。
或いは、誰かが終わりと宣言するのかもしれない。
だからこそ、フランは嫌という程感じ取ってしまう。
宴の終わりは、銀時との別れを意味するのだから。
「……はぁ。ったく、ちったぁ俺を信じろって。そうして不安になるのは、信じる心が足りないからだろ?」
「えっ……?」
「言ったろ? 俺は約束を守るって。だから必ず、またお前のところに来るって。そしてその時は、最大限お前との時間を作るって。俺だって、一度背負ったもんを、そう簡単に手放すつもりはねぇよ……」
そう言って、銀時はフランの頭を優しく撫でる。それだけで、フランの気持ちはとても穏やかになっていった。
彼女は心の何処かで、信じきれていなかったのかもしれない。だからこそ不安に思い、だからこそ手離したくないと願った。
しかし、銀時の言葉は、彼女の不安を解き放っていく。
寂しさは残る。離れて欲しくないとも思う。
それよりも、再会出来るという想いが生まれ、大丈夫と思うことが出来るようになった。
「……ありがとう、ギン兄様。大好き」
「……そうか。ありがとな」
そう言うと、フランは銀時に抱きついたまま、寝息を立てているのだった。
「まったく、宴でもなかなかにハラハラさせる奴だなギントキ。見ていて正直飽きない」
「レミリアか……ったく、お前の妹、やっぱりちょっと俺に懐きすぎじゃねえか?」
眠っているフランを見守りながら、優しい笑顔を浮かべるレミリアが彼の元へとやってくる。その後ろには、咲夜が控えていた。
「それは私も思っていたところだ。だから、ギントキが帰っている間に私に振り向かせてみせるさ」
「こんな時にもシスコン全開かよ。今までのカリスマはどこいった?」
「可愛い妹を前にしてカリスマなんて発揮出来ない……っ!」
「そこは妹の前で見栄を晴れよ。張れる程の大きいものはねぇのかもしれねぇが」
「おいテメェ。今フランがそこにいなかったら血を吸い尽くして空っぽの人形にしてやったところだぞ?」
「変な殺人予告しないでくんない? まじコエェから。年甲斐もなく恐怖のあまり叫んじまうから。この辺一帯が火サスばりの惨状になるから」
牙をむき出し(物理)にしてくるレミリアに対して、割とガチでビビっている様子の銀時。
「そう挑発しないでください、銀時様。御嬢様も妹様も、私を含めた紅魔館の人々は、貴方に感謝しています。そして何より、貴方のことを気に入っているのです。美鈴は今度、貴方にリベンジしたいと言っていましたよ?」
微笑みながら胸中を語る咲夜。その時の顔は、年齢相応の楽しそうなものだった。
「あの門番が? 確かにあいつ、武術は凄かったな……正直、油断してたら勝てなかったかもしれねぇ」
「後程その言葉、お伝えしておきますね。美鈴も喜ぶことでしょう」
「そいつぁどうも」
盃に入った酒を一気にあおる銀時。
「それにしても、本当に無防備な寝顔だな……悔しいけど、余程信頼されてるな、ギントキ」
寝ているフランの頭を優しく撫でるレミリア。彼女の表情は、妹を想う姉そのもの。一度犯した過ちを二度としないように、胸に刻みつけている。
「そりゃお前もだろ、レミリア。フランの会話の内容のほとんどは、テメェとのことだぜ? あとは紅魔館の奴らのこととかな」
「……そうか」
フランもまた、レミリアのことを想っている。互いのことを想い合う関係。紅魔館の住人は、それぞれがそれぞれのことを想っている。これからも、優しい時間が流れるに違いないのだ。
「ギントキ。今夜は付き合ってくれ。フランの可愛い一面とかを語りたい」
「思い出しながら鼻血とか出すんじゃねえぞ? 側にいる十六夜に迷惑がかかるだろう」
「ふふふ。それはそれでごほ……仕事ですから安心して下さい、銀時様」
「今、ご褒美って言いかけたよな?」
「なんでもありません」
「いや、だから……」
「なんでもありません」
「あ、はい」
力技によって言いくるめられた銀時だった。
兎にも角にも、こうして宴の時間は続いていく。
その日の夜は、誰もが存分に語り尽くし、雰囲気の良い宴となったのだった。
銀魂×東方project
銀色幻想狂想曲
第十七訓 酒は時に人の意外な一面を見せる時がある
次回、紅霧異変篇最終話!
そこから春雪異変篇に入るまでは、しばらく短編エピソードをちまちま更新する流れとなるかなーって思います。