「急いで人里に向かうわよ。あのろくろ首が言っていたことが妙に引っかかるわ」
人里に向かうまでの道を、霊夢達は飛んでいた。霊夢は神楽を抱えながら、魔理沙は新八を箒に乗せて、幻想郷上空を飛んでいく。
『「この状況」さえ作ることが出来れば勝ったと同然だったんだ……人里に行くお前達を足止め出来れば、それでよかったんだ』
確かに赤蛮奇はそう言った。それはつまり、これから人里で何が起きるか、あるいは……。
「なんだか嫌な予感がするぜ……」
辺りを見渡しながら、魔理沙はほとんど呟くように言った。
四人の誰もが、不自然な違和感を覚えている。着々と進んでいる割には、既に手遅れになりかけているのではないかと思わされる程の焦りを感じている。そんな思いを抱きながら辿り着いた人里は、
「なっ……!?」
新八が思わず言葉を失ってしまう程壮絶な光景。
――幻想郷にいる妖怪達が、人里に攻め込んできている様子がそこにあった。
※
上白沢慧音は、なんとも言えない不安を抱いていた。とても漠然としているが、あまり感じなくない部類の直感。
幻想郷における人間と妖怪の関係性は、大凡完全に安定しているとは言い難い。当然のことながら襲ってくる妖怪もいる。人里に来ることは滅多にないが、ゼロという訳ではない。そもそもそんなことが本当にあり得るのならば、こうして慧音が見回りをする理由もない。
「一体何をそこまで不安がってるのさ」
藤原妹紅は、隣で何やら少し焦っている様子の友人に対してそう尋ねる。時折こうして慧音と共に人里の警邏に付き合っている彼女としても、慧音の不安がり方は少々特殊だった。
「今日、寺子屋に来ていた子達の様子が少し変だったのよ……いつもは大人しい筈の子がはっちゃけていたり、元気にはしゃぎ回る子が嘘のように引っ込み思案になっていたり……」
「まるで全てがひっくり返っている……?」
「そう。それに加えて、人里周辺で見られた幽霊現象……」
人里の周辺で、正体不明の幽霊が複数確認される事象が起きた。慧音が普段よりも警戒している理由がまさしくそれなのだが、何故幽霊が生み出されたのかを確認する手段がない。それに、寺子屋に来ている子達……特に妖精や妖怪達の心がまるでひっくり返ったかのような現象。そのどれもが、偶然だからで片付けて良いはずがない代物。
確かに、慧音や妹紅の知らないところで解決に向き始めているとはいえ、それを知らない彼女達からしてみれば懸念材料になるのは当然のこと。
「何かが起きようとしてるのは確かなんだ……人里にとって良くないことが……」
慧音は、可能ならば人里に何も起きないことを祈っている。彼女が大切にしている人達が、何者かの邪悪なる意思によって傷つけられてしまうのは彼女にとって不本意以外の何物でもない。
「……慧音。あれ」
その時。
何かを見つけたらしい妹紅が、慧音の背後を指差した。
気になった慧音がその方向を見てみると。
「なん、で……」
人里に流れ込んでくる、妖怪達。
彼らの目は血走っていて、決して正気ではないことを物語っている。その数は膨大で、もしこの数が人里に流れ込んで来たら、人々が襲われるのは容易に想像出来た。
「こんなに妖怪が来ることなんて普段ならばあり得ない……まさか何かが起こっているというのか!?」
妹紅が驚いたような口調で言う。
「とにかく、今はこの妖怪達を何とか退けなければいけない……妹紅、手伝って!!」
産霊『ファーストピラミッド』。
三角形に配置した魔法陣より、大玉の弾幕が妖怪達目掛けて飛んでいく。
弾幕を喰らった妖怪達は、一度は退くも――すぐに立ち上がる。
「なっ……力が強まっている!?」
「普段は弱い妖怪達の力も、『すべてがひっくり返っている』から強くなっているのかもしれない……妹紅、気を付けて」
「分かってるさ。どの道私は死なない身。こんな奴らに後れを取ることもない!!」
不死『火の鳥-鳳翼天翔-』。
妖怪達に向かって突進しながら、妹紅は炎を纏いし鳥を放つ。
炎に身を包まれた敵は、その場から逃げ去る――ことなく、尚も果敢に立ち向かう。
いや、それは勇猛果敢というよりは、猪突猛進が正しい。
「どうなってるんだこれは……?!」
「……とにかく、今は少しでも被害を食い止めるしかない」
人里で奮闘する二人を嘲笑うかのように、妖怪達はどんどん押し寄せてくるのであった。
銀魂×東方project
銀色幻想狂想曲
第二百六訓 恐れを失くした敵程怖い奴はいない