銀色幻想狂想曲   作:風並将吾

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第二百八訓 かつての番人

 銀時はただひたすらに駆ける。ここまで仲間達が切り開いてくれた道を無駄にしない為にも、彼は前へと突き進む。道中で襲い来る妖怪達をいなしつつ、とうとう彼は最深奥に辿り着いた。

 

「ほぅ……おもったよりも随分と早いではないか、下等な猿」

「江戸じゃ世話になったな。博打好きのねーちゃんよぉ」

 

 そこにいたのは、邪悪なる笑みを浮かべる華陀と、真剣な面持ちで銀時を見据えるぬえの二人。そしてここが、異変の最終地点であると銀時は悟った。

 

「たかだか猿が一匹ここに迷い込んできたところで、一体何を見せてくれるというのじゃ? 道化としての催し物を見せるにしても、貴様一人ではつまらん」

「つれないこと言うなよ。せっかくこうして密室に女二人男一人って状況なんだ。ちったぁこの状況楽しませてくれよ」

「生憎じゃが、今この場で開かれるパーティーは別の物じゃ。それに、妾が招き寄せた者共は、まだ他に居る。みな其々今宵の宴を楽しもうとしている者共じゃ」

 

 華陀の言葉と共に、部屋に備え付けられている襖が開かれる。四方から流れ込んできたのは、大量の妖怪。そして……。

 

「天人……!?」

「今、幻想郷では二つの異変が起きてるのさ。一つは輝針城を起点とした、『すべてがひっくり返る』異変。もう一つは、偶発的に起こった神霊異変。私達はこの神霊異変を利用させてもらった……封獣ぬえが、完璧に人間を幻想郷から追放する為に」

 

 元より幻想郷に居着いていた妖怪、新たに妖怪として生まれた道具達。そして、神霊騒動によって生み落とされた欲の塊。

 

「……なるほど。顔黒ジジイはこんな状況だったってわけか。これは実に愉快極まりない光景だな……思わず笑顔が溢れちまいそうだ」

「痩せ我慢ならば今の内じゃぞ? 負けを認めるのなら、せめて優しく嬲り殺してやろうぞ」

「冗談抜かせよ。昇天するならもっと美人さんにしてもらいたいものだね。テメェみてぇな女狐の前でおっ死ぬなんざ真っ平御免だ。そもそも、俺はこの場で死ぬつもりなんざねぇよ」

「ならば、其方はこの状況におかれても生きて帰ると? 圧倒的な物量を前に物怖じせぬと?」

「雑魚が何人寄って集ろうが所詮雑魚だ。むしろこうして人数かき集めて後ろでのうのうと隠れなければならねぇテメェらの方が、よっぽど追い詰められてるんじゃねえか?」

 

 銀時はこの状況下でも動じない。それどころか、華陀とぬえを挑発するような口振りすら窺える。彼は自分で確信しているのだ。

 

 坂田銀時は、ここでは死なない、と。

 

「……言ってくれるじゃないか。人間風情が……びくびく怯えて震えるしか能の無い人間が、私達妖怪を馬鹿にするだと?」

「そもそもそうして人間やら妖怪やらの区別に拘ってる段階で、テメェはまだまだ甘ちゃんだっての。妖怪だろうが天人だろうが関係ねぇ。等しく命与えられて生きてる奴を追い出そうなんざ、許せる筈がねぇだろうが」

 

 銀時は木刀を握りしめる手に力を込める。まさしく今から戦いが繰り広げられそうな所で。

 

「随分と聞き捨てならない状況におかれてんじゃねえか。何処の誰だはしらねぇが、加勢するぜ。銀髪の兄ちゃん」

「「「!?」」」

 

 三人にとって聞き覚えのない男の声が届いて来た。それは若い男の物。今輝針城にいる者の中で、該当する人物は存在しない。だとすれば、天人達が神霊として現れた時に、偶発的に現れたのだろうか? 

 兎にも角にも、この場において加勢が一人。

 

「な、何奴じゃ……?」

「馬鹿な……ここにはもう、余計な奴なんていない筈なのに……っ」

 

 華陀もぬえも、信じられないといったような表情を浮かべている。つまり、彼女達からしても予想していなかったということ。

 

「俺としても、天人相手に大立ち回り出来るのは本望だからな。せいぜい暴れさせてもらうぜ……」

 

 右手で十手を弄び、左手で煙管をふかせる。銀時は出会ったことはないものの、その男のことを知っている。

 

「あ、アンタ……まさか……!?」

 

 かつて一人の男がいた。

 江戸を護る番人として戦い、その果てに倒れた一人の男。

 その男に勝手に約束を交わした銀髪の男。

 その、約束した相手……。

 

「俺もそのパーティーに参加させてくれよ。まさか招待券がもうないなんざ言わせねぇよ? どうせ今宵限りの身体なんだ。客人が一人紛れ込んだ所で関係ないさ。だから勝手に参加させてもらうぜ……この、寺田辰五郎が」

 

 人々を護るという欲から生まれた存在……寺田辰五郎がそこに居た。

 

 

 

 

 

 

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