第二百四十五訓 満月の晩は物を考えるには適している
満月の晩。空を見上げると光り輝く大きな丸い月が見える。美しい月を肴に、煙管を吹かせる男がいた。
とある屋敷。雨戸を開けて空を見上げながら月を眺めるその光景は、客観的に見ればとても様になっている。本人にその気があるのかどうかはともかく、絵になる情景であることは間違いない。
「いたいた。お月見にはまだ早いんじゃないの? 晋助」
そんな彼の元に訪れる一人の男──神威。
「そんなんじゃねえよ。で、何の用だ」
「幻想郷への手掛かりになるかもしれない場所が分かったんだよ。これから皆んなでそこに乗り込もうって話になったわけさ」
彼らにとって、幻想郷に対する情報はあまりにも少なすぎた。それもその筈で、手がかりとして残されていたのは華陀の譫言のみ。そこから正解へと近づいた力については純粋に褒められるべきものなのかもしれない。
「なるほど……で、その場所とやらは何処にあるんだ」
晋助の問いに対して、神威は満面の笑みを浮かべながら答える。
「月」
高杉晋助が今見上げていたもの。そこに、今回の手がかりが隠されているかもしれないのだという。
「より正確に言うと、月からでは幻想郷に入る事は難しいみたいだよ」
「なら、とうして態々月なんかに赴く。餅つく兎でも眺めに行こうってのか?」
「強ち間違ってはないね。この辺りは君の方が詳しいんじゃない? 日本における月が関わる御伽草子。竹から生まれた姫の物語を」
「……竹取物語か」
その名を口にする。
「御伽草子の通り、月に人が住んでいるとすれば試してみる価値はあるだろう?」
「どうだか……所詮は御伽話。そんな世迷言を信じるのか?」
「幻想郷なんて単語が飛び交う時点で、十分御伽話みたいなものじゃない? なら此方も、その世界に飛び込んでみたらいいんじゃないかなって……それに、月にどんなつえぇ奴らが居るのかワクワクすっぞ!」
「勝手にしてろ」
彼らからしてみたら、幻想郷という存在そのものが不確かな場所であることに違いはない。華陀か言い放った世迷言である可能性も否定し切れない。だが、実際に調べていくにつれて月の存在までたどり着いたのも事実。
「まぁそんなわけでさ。今から月面旅行しに行く感じになったから準備して」
最後にそれだけを言うと、神威はそのまま部屋から出ていく。
残された晋助は、もう一度空を見上げる。相変わらず大きな月が天高く登っていた。その光は地上を照らしている。まるで穢れなど知らないかのように、何処までも強い光を放ち続けていた。
※
「……」
幻想郷の月も今宵は満月だった。
座り込み、外を眺めながら輝夜は何やら考え込んでいる。
「どうかなさいましたか?」
そこに現れたのは永琳だった。
彼女の前にお茶を置き、その横に座る。
「あら、気が効くのね。ありがとう」
「珍しく考え込んでいるご様子だったので、気になった次第です……満月、だからでしょうか?」
かつて彼女達は、満月の晩に月を偽物にすり替えた。結果としてそれが異変発生の引き金となり、大騒動を巻き起こしたのである。元々は月の住人たる輝夜達(てゐを除く)。今更ながら帰る気は毛頭ないが、それでも尚何も思わないというわけではないのかもしれない。
「そうかもしれないわね……満月の日は色々と思い出してしまうわ。ただ、彼と巡り合えた日でもあるから、今では一種の記念日にもなっているわね」
「坂田銀時……不思議な方ですよね……」
「そうね。彼は私からの無理難題を成し遂げただけでなく、人としての魅力もある……本人がそれに気付いてるかどうかは分からないけど、相当の女殺しね」
「真面目、とは言い難いですが……誠実、であるのはなんとなく感じます」
「けど、だからこそ……私を含め、彼に好意を寄せている者達は時々不安に思うのかもしれないわ」
溜息をつきながら、輝夜はポロリと零す。
「何をですか?」
永琳は尋ねる。
「……護るべき対象に自分を入れていないが故に、私達を護る為に自分自身を犠牲にする……彼の強すぎる自己犠牲によって、二度と会えなくなってしまうのではないか、という不安」
輝夜は、永琳から出されたお茶を飲み、ホッと一息ついたところで語り出す。
「惚れ込んだ私が言うのも難だけど、『護る』ことに対する彼の執着は最早異常よ。一度護ると決めた物は絶対に護り通す。たいそうな心掛けだし、とても大事なこと。だけど、その為の手段を選ばなさすぎるわ」
「異変毎に大怪我されていた事もありましたし、坂田さんのいる世界での話を聞く限り、身を削らなかった事がないみたいですからね……」
「あれじゃあ紅魔館の吸血鬼の妹が執着する理由も分かるわ。私だってそうしたいもの」
要するに、銀時のことが心配なのだ。近くに居ないうちに、また怪我をしてしまうのではないか。そのまま何処か遠くへ行ってしまうのではないか。そんな不安が過ぎって仕方ないのだ。
「……けど、そもそも彼は別世界の住人。そして寿命ある存在。蓬莱の薬があったとしても、彼はそれを飲むことを決して望まない……そんな人だったからこそ私は惹かれたのだけれど、それならばせめて……いえ、やめておくわね。はしたないわ」
「そんなことありません。今の姫様は何処までも女らしいです」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない」
言いながら、輝夜はもう一度月を見上げる。
「……何かが起きそうな気がするのよ。こういう満月の晩には、何か起こるのが物語での定石でしょう?」
「確かにそれは言えますが、ここは……」
「物語よ。そう称してもいい位には、奇天烈な出来事が起き続けている。もしかしたら、今回も……」
彼女の言葉は空気となって消え去る。
皮肉にも、その予感が的中することに彼女達はまだ気付いていない。
銀魂×東方project
銀色幻想狂想曲
第二百四十五訓 満月の晩は物を考えるには適している
月面戦争篇、開始。
悩みに悩んだ末に新シリーズ開幕です!
今回もまた、東方原作の異変をベースとして、オリジナルのエピソードとなります!