銀色幻想狂想曲   作:風並将吾

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第二百四十八訓 月が綺麗な晩に別嬪が現れるのは恒例

「へぇ……月の中は随分と小洒落てやがるじゃねえか」

 

 侵攻している晋助が抱いたのはそんな感想だった。さすがと評するべきなのか、豪華絢爛さがそこには存在している。

 

「穢れなき浄の世界に、人間という穢れを持ち込んだ時……この楽園は果たしてどうなっちまうのか……」

 

 ポツリと呟いた彼を守るように、前を進む鬼兵隊のメンバー。

 

「晋助様には指一本触れさせないっすよー!」

 

 紅い弾丸──来島また子。高杉晋助を愛し、忠誠を誓っている、二丁拳銃の使い手。彼女が放つ銃弾の嵐は、敵を寄せ付けまいと立ち塞がる月の兵士を散り散りにする。

 

「鎮魂歌を聞かせてやるでござる……」

 

 そうして逃げ出そうとした兵士達を、『人斬り万斉』──河上万斉が、弦を以って捕縛する。絡め取られた兵士達はさらに困惑する。中には自身の死を悟り、気絶してしまう者まで存在していた。

 

「穢れをしらねぇ純粋さはいいもんなのかもしれねぇが、こうして絡め取られたちまうのは考え物だな……壊す価値もねぇ」

 

 つまらなさそうに晋助は言う。

 元より彼らの目的は、月を乗っ取ることではない。今回の一件にせよ、晋助としてはそこまで乗り気ではないのだ。

 最終的な目的を為し遂げるのに、兵力増強については有効な一手に違いない。しかし、その為に月面旅行を楽しむ気が、どうしても彼には起きなかった。

 

「あまり気乗りしてなさそうですね……どうかなさいましたか?」

 

 晋助の後ろに控えていた武市変平太が尋ねる。今回の作戦に関して、彼の編み出した策が一部取り扱われている。鬼兵隊の中でも策略家という立場に位置している為、基本的に彼は前線に出ることは殆どない。

 

「別にどうも……っ!?」

 

 その時、晋助はただならぬ気配を感じとる。咄嗟に後ろを振り向き、腰にさしている刀に手を触れた。

 

「……へぇ。異界から来た者にしては随分と気配に敏感じゃない。貴方、なかなかに面白い人ね……」

 

 女性の声だった。

 闇の中から現れてきたのは、腰元まで伸びている金色の髪、金色の瞳。白い長袖に襟の広いシャツの上に、左肩側だけ肩紐のある、青いサロペットスカートのような物を着ている。そんな女性は、晋助のことを見ながら笑顔を見せている。その様子は、宛ら新しい遊び道具を見つけた子供のよう。しかし同時に、突如として現れた侵入者に対する敵意も秘めている。

 

「なっ……いつの間に……!?」

 

 気配を察知出来ていなかった変平太は思わず冷や汗をかいてしまっていた。晋助が反応していなければ、変平太諸共今頃呼吸していなかったかもしれない。目の前に居る女性が美人かどうかなどさておき、並々ならぬ人物である事は容易に想像出来た。

 

「やれやれ……月面探索の次は女かよ」

「あら、女だと思って舐めてかかると痛い目見るわよ?」

「ちげぇねぇ。月にゃ都があり、其処に住む住人というのは人間には考えられないような技術を持っている……御伽草子にもその伝承は実しやかに囁かれてやがらぁ」

「竹取物語をご存知なのね?」

「いい教師が居たもんでな……」

「それはとてもいいことじゃない」

 

 お互い名前は名乗らない。教える道理もない。

 これから倒す相手の名前など、興味ない。

 

「一瞬でケリをつけてもいいのだけれど、貴方には少し興味あるわ……せめて一秒でも長く生き残りなさい」

「生憎、綺麗な舞踏会で踊る趣味なんざねぇ。ここは……テメェらの首切り台だ……っ」

 

 そうして、処刑人と月の住人の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

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