神威と阿伏兎のコンビは、相手を脅す上ではちょうど良すぎた。二人が持つ圧倒的な力を前に、次の兵士たる兎達がどんどんその場から逃げ出していく。混乱を引き起こすという意味では十分成功していた。
「にしても、随分と月の奴らも弱気じゃないの。奴さん、俺や団長前にするだけでパッと逃げ出しちまう。そんなに嫌がられるようなことしてるかね?」
「いいんじゃない? そのおかげで俺は余計なことをせずにつえぇ奴に会う事が出来るわけだし、Win-Winって奴じゃない?」
「ったく、バトルジャンキーも程々にしてくれよ団長……一体誰がアンタの帰り説得すると思ってんだ……」
阿伏兎は今も尚ワクワクしている様子を隠そうともしていない神威を見ながらため息を吐く。その後で後ろを振り返り、
「なぁ? お嬢さん……おじさん、このスットコドッコイの相手するの疲れたから、代わりにやっといてくれない?」
そこにいるであろう人物に対して声をかける。
声をかけられた女性は、暗がりの中から姿を現す。
薄紫色の髪を黄色いリボンでポニーテールに纏め上げ、白い色の半袖襟広のシャツ。その上に右肩側だけ肩紐のある、赤いサロペットスカートを着けた、赤い瞳の女性。腰に斜めにベルトをつけており、そのバックルには剣の紋章があしらわれている。
そんな女性が、剣を構えながらゆっくりと近づいてきていた。
「ひゅ〜。他の奴らとは随分大違いだね。大体は出会ってすぐに逃走なのに、戦うんだ……へぇ、面白いね」
「まーたはじまったよ悪い癖……頼むからいい加減にしてくれよ? その嬢さん、並の強さじゃなさそうだぜ?」
「だからこそ面白いんじゃないか……月までわざわざ旅行に来て、ただ兎に投げられただけなんざ味気なさすぎるよ」
にこにこと笑顔を浮かべながら、神威は語る。
そんな彼らを前にして、女性が口を開いた。
「この地を踏み荒らそうとする者には立ち去って頂きます」
そこから感じ取れる明確な敵意。侵入者たる彼らを許さないという決意。
「いいねぇ……少し飽き飽きしてたところだけど、面白くなってきたよ……っ!」
神威の顔が、どんどん狂気じみた笑顔へと変貌していく。それはまるで、新しい玩具を渡された子供のように純粋で、何かを殺すことに対して躊躇いのない狂気も秘めたもの。
「目的忘れるんじゃねえぞ! ……って、聞いちゃいねぇ。こうなると本当に団長は聞き分けねぇからなぁ……」
目の前に現れた女性に対する興味に引きつけられ、神威は目的を見失っている。ある意味では正しい選択とも言えなくもないが、余計な戦闘を避けられるのならば避けた方がいいに決まっている。何しろこの地は月。それも自分達が知っている場所とは違いがあり過ぎる場所。相手がどんな戦術を取るのかも分からないのだ。ある意味先程までは、それも合わさって兎達が逃げ出していたと言っても過言ではない。
「喧嘩を売る相手を間違えた事を後悔してください……これから貴方が相手するのは、文字通り『八百万の神々』です。神にたてつく愚かな行為を控えるのなら今の内ですよ」
「へぇ……神々とはまだ戦ったことないから、それはすごく興味あるね。とても貴重な経験させてくれるなんて、月まで来た甲斐があったよ」
「……どうしても引かないというのであれば、力づくでも即刻立ち去ってもらいます……貴方からは、邪悪しか感じられません」
「別に俺達も月を取って食おうってわけじゃないよ。だけど、強い奴と戦うってなれば話は別、かな!」
神威は、足元に転がっていた瓦礫を思い切り蹴り飛ばし、女性の顔面を狙う。
しかし女性は動じない。
「…… 愛宕様の火」
ポツリと呟かれた言葉と共に、彼女は腕を自身の前でクロスさせる。瞬間、その腕は炎そのものへと姿を変えた。瓦礫は炎に焼き尽くされ、その形を失う。
「ひゅ〜……すごいすごい!」
その様子を、神威は心から無邪気に喜んで眺めていた。大道芸でも見ているかのような調子で。
一方の阿伏兎は、
「愛宕様……確か、この国の伝承だと火之迦具土神、とか言ったか? そんな力使えるなんて……お嬢ちゃん、アンタ一体何者だ?」
炎の腕を元に戻し、それから彼女は言う。
「綿月依姫……先ほども言いましたが、これから相手するのは文字通り八百万の神々……立ち去るのでしたら……」
「何を言っちゃってるのさ! そうと決まれば、戦う他ないでしょ!!」
神威は嬉々として依姫に突っ込んでいく。
「おいこのスットコドッコイ! 暴走すんのもいい加減にしてくれよ……っ!!」
「……いいでしょう。ならば全身全霊を以てお相手致します」
神威と依姫。ここに二人の戦いの幕が上がる。
銀魂×東方project
銀色幻想狂想曲
第二百四十九訓 八百万の神