銀色幻想狂想曲   作:風並将吾

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第ニ十五訓 戦いの火蓋はいつ切って落とされるのか分からない

「…………は? へ? ころしあい?」

 

 当然ではあるが、銀時は幽香の発言を受け止めることが出来ずにいた。当然だろう。話していた相手からいきなり殺し合いをしましょうと言われて、是非やりましょうなどと言える人はそう多くはいないはずである。

 だから彼は、最初ただの聞き間違いかと思ったが、

 

「えぇ、殺し合い」

「聞き間違いじゃねぇのかよ!?」

 

 現実を受け止めるほかなかった。

 

「あー……坂田さん! 私は新八さんと神楽さんと他の場所案内してますね!」

「あ、てめぇ! こら逃げるな!!」

「えぇ?! ちょ、文さん!?」

「こらー! 離すネー!」

 

 身の危険を察した文は、新八と神楽の手をつかみ、何処かへ飛び去ってしまった。

 その様子を、幽香は嬉しそうに眺めている。なにせ今の状態は、邪魔者がいない状態なのだから。

 

「あらあら。気が効く人じゃないの。こうして男女を二人きりにさせてくれるなんて。ムード出るじゃない?」

「そうだなぁ……相手が殺気を全開にしてなきゃ、これ以上ない程いいムードだったんだけどなぁ……」

「そんなことないわよ? 私、楽しい時間は長く過ごしたいタイプなのよ。だから、簡単に壊れてもらっちゃ困るわ」

 

 日傘を閉じ、構える。

 

「……ったく、しかたねぇ。こんだけ美人さんからのお誘いだ。せっかくだから一緒に踊ってやらぁ」

「嬉しいこと言ってくれるのね。よろしくお願いするわね……!」

 

 銀時が木刀を構えたのを皮切りに、幽香は一気に距離を縮めてきた。

 

「なっ……!」

 

 そして、閉じていた日傘を一気に振り下ろす。

 咄嗟に銀時は木刀で抑える、が。

 

「お、おめぇ……そんな華奢な身体に、どんだけ力宿してんだ……っ!」

 

 妖怪と人間の間にある、絶対的な力の差。

 見た目とは裏腹に、幽香の攻撃は圧倒的に重さがあった。受け止めてるだけなのに、全身の筋肉が悲鳴をあげ、骨が軋む音が聞こえてくる。

 

「へぇ。やっぱり貴方面白いわ……人間で私の一撃を防げたのは初めてよ」

「そいつぁどうも。生憎、日傘を武器に馬鹿力振りまく奴とは、戦った経験があるからな……その影響だ」

「なかなか面白い経験してるわね。その経験はとても貴重よ。今後も積み重ねていくことね」

「あぁ、そうかい……!」

 

 振り払い、打ち合う。

 互いの急所を狙うように、力いっぱい振り回す。

 ただし、そこに読み合いは存在しない。そんなことをしても無駄。結局防がれるだけ。

 ゆえに、彼らの勝負はほぼ直感。深読みなんて以ての外。

 

「お得意の弾幕はつかわねぇのか?」

「えぇ。そんなことより、こうして打ち合ってた方が面白いもの!」

「そうかよ!」

 

 幽香の日傘が銀時の肩を目掛けて振り下ろされるときは、交わして反撃に転ずる。それを交わした幽香が再び別の箇所に攻撃し、それを避けて……。

 それは勝負などという生易し言葉では説明出来ない。幽香の宣言通り、殺し合い。

 

「うぉおおおおおおおおお!!」

「はぁあああああああああ!!」

 

 打ち合う。

 力のぶつかり合い。

 戦うごとに、銀時の身体の奥底から、戦いの記憶が呼び覚まされていく。

 白夜叉として戦っていた頃の、あの記憶。

 

「っ!」

 

 振り下ろすのとほぼ同時、銀時は左足で脇腹を蹴ろうと試みる。

 しかしそれは、幽香が掴んだことによって防がれた。

 

「あら、レディに向かって蹴りを入れようなんて、酷いことをするのね」

「止められてんだからいいじゃねえかよ。ただ、掴んでくれてありがとな!」

 

 そのまま、勢いを殺すことなく、銀時は己の手にしている木刀を、幽香めがけて投げつけた。

 

「なっ!」

 

 咄嗟に幽香は、日傘を利用して弾きとばし、銀時を地面に叩きつける。

 しかし、飛ばした先にあったのは……。

 

「しまっ……っ!」

 

 一面に広がる向日葵畑だった。

 彼女は咄嗟に地面を蹴ろうとし、

 

「……え?」

 

 それよりも先に動いている、銀時の姿をとらえた。

 

「うぉおおおおおおおおお!!」

 

 地面に叩きつけられた後で身体にダメージが残っているはずなのに、彼は木刀まで全力で駆けて、向日葵に当たる前に、それを掴んでみせた。

 そのまま勢いに負けて、地面を盛大に転がる。

 

「なっ……貴方……っ!」

 

 慌てて、幽香は銀時のそばに駆け寄る。

 転がった時に擦り傷が出来上がったものの、それ以外は大した傷を負っている様子はない。

 そのことに、戦っているはずの幽香は安心してしまっていた。

 

「……え?」

 

 その気持ちに、彼女は動揺する。

 戦闘しているのだから、何かしらの形で怪我をするのは当然のこと。なのに、今彼が軽傷で済んだことに対して安堵していた。

 さらに、

 

「ったく……無事でよかったぜ。てめぇの大切にしてる向日葵畑なんだろ? もちっと周り見ろって」

 

 銀時のおかげで向日葵に傷がつくこともなかった。

 

「貴方……自分の身を呈してまで、私の向日葵を……」

「……好きなんだろう? だったら、傷つけちゃならねぇと思ったからな」

 

 その一言に、幽香の心は跳ね上がる。

 鼓動が早くなってくるのを彼女は感じ取っていた。

 この感覚は、彼女が今まで感じたことのないもの。

 つまりは……。

 

「そう……ありがとう」

「なに、いいってことよ……で、まだやるか?」

 

 木刀を再び構える銀時。

 しかし、それに対して幽香は、

 

「……やめておくわ。今日はもうそんな気分じゃない」

 

 日傘を開き、そして自身の身体をその中に入れる。

 即ち、戦闘はここまでで終了ということを意味していた。

 

「そうか……はぁ……つかれた……」

 

 頭をボリボリと掻きながら、銀時はその場を後にしようとする。

 

「……待って」

 

 それを呼び止めたのは、幽香だった。

 銀時は歩みを止めて、振り返る。

 

「どうした?」

「……また、ここに来てくれるかしら? 今度は向日葵畑を見ながら、のんびりお茶でも」

 

 提案し、幽香は自分自身に驚いていた。

 彼女は別に孤独というわけではない。ただ、一人でいることの方が気が楽だと考えているし、その方がいいとさえ思っていた。

 しかし、今この男を前にして、まるでデートに誘っているかのような感覚を覚えているのだ。彼女にとって、それは未知なる感情。

 銀時は頭をガシガシと掻きながら、

 

「……団子も頼むな」

「……えぇ、甘いものを用意しとくわ」

「そうか。そいつぁ助かる。じゃ、またな……」

 

 そう言って、その場を後にした。

 

「……」

 

 立ち去る銀時の背中を見送りながら、幽香は考える。

 彼と戦っている時に感じた高揚感。話す時に感じた胸の高鳴り。立ち去る背中を見送る時の物悲しさ。

 

「あぁ……私らしくもないわね。けど、これは嫌じゃない……」

 

 風見幽香の心に、一輪の花が咲いた瞬間だった。

 

 ※

 

「あいつら……どこ行きやがったァアアアアアアアアアア!!」

 

 戦いの後、幻想郷を駆け足で巡る、一人の天然パーマの姿が目撃されたそうな……。

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

第ニ十五訓 戦いの火蓋はいつ切って落とされるのか分からない




次回予告

その日、幻想郷から……『春』が失われた。
いつまでも降り続ける雪。
告げられない春の訪れ。
そして辿り着く、犯人の目的。
そこに隠された真実はーー。

次回、『春雪異変篇』開幕ーー。

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