「…………は? へ? ころしあい?」
当然ではあるが、銀時は幽香の発言を受け止めることが出来ずにいた。当然だろう。話していた相手からいきなり殺し合いをしましょうと言われて、是非やりましょうなどと言える人はそう多くはいないはずである。
だから彼は、最初ただの聞き間違いかと思ったが、
「えぇ、殺し合い」
「聞き間違いじゃねぇのかよ!?」
現実を受け止めるほかなかった。
「あー……坂田さん! 私は新八さんと神楽さんと他の場所案内してますね!」
「あ、てめぇ! こら逃げるな!!」
「えぇ?! ちょ、文さん!?」
「こらー! 離すネー!」
身の危険を察した文は、新八と神楽の手をつかみ、何処かへ飛び去ってしまった。
その様子を、幽香は嬉しそうに眺めている。なにせ今の状態は、邪魔者がいない状態なのだから。
「あらあら。気が効く人じゃないの。こうして男女を二人きりにさせてくれるなんて。ムード出るじゃない?」
「そうだなぁ……相手が殺気を全開にしてなきゃ、これ以上ない程いいムードだったんだけどなぁ……」
「そんなことないわよ? 私、楽しい時間は長く過ごしたいタイプなのよ。だから、簡単に壊れてもらっちゃ困るわ」
日傘を閉じ、構える。
「……ったく、しかたねぇ。こんだけ美人さんからのお誘いだ。せっかくだから一緒に踊ってやらぁ」
「嬉しいこと言ってくれるのね。よろしくお願いするわね……!」
銀時が木刀を構えたのを皮切りに、幽香は一気に距離を縮めてきた。
「なっ……!」
そして、閉じていた日傘を一気に振り下ろす。
咄嗟に銀時は木刀で抑える、が。
「お、おめぇ……そんな華奢な身体に、どんだけ力宿してんだ……っ!」
妖怪と人間の間にある、絶対的な力の差。
見た目とは裏腹に、幽香の攻撃は圧倒的に重さがあった。受け止めてるだけなのに、全身の筋肉が悲鳴をあげ、骨が軋む音が聞こえてくる。
「へぇ。やっぱり貴方面白いわ……人間で私の一撃を防げたのは初めてよ」
「そいつぁどうも。生憎、日傘を武器に馬鹿力振りまく奴とは、戦った経験があるからな……その影響だ」
「なかなか面白い経験してるわね。その経験はとても貴重よ。今後も積み重ねていくことね」
「あぁ、そうかい……!」
振り払い、打ち合う。
互いの急所を狙うように、力いっぱい振り回す。
ただし、そこに読み合いは存在しない。そんなことをしても無駄。結局防がれるだけ。
ゆえに、彼らの勝負はほぼ直感。深読みなんて以ての外。
「お得意の弾幕はつかわねぇのか?」
「えぇ。そんなことより、こうして打ち合ってた方が面白いもの!」
「そうかよ!」
幽香の日傘が銀時の肩を目掛けて振り下ろされるときは、交わして反撃に転ずる。それを交わした幽香が再び別の箇所に攻撃し、それを避けて……。
それは勝負などという生易し言葉では説明出来ない。幽香の宣言通り、殺し合い。
「うぉおおおおおおおおお!!」
「はぁあああああああああ!!」
打ち合う。
力のぶつかり合い。
戦うごとに、銀時の身体の奥底から、戦いの記憶が呼び覚まされていく。
白夜叉として戦っていた頃の、あの記憶。
「っ!」
振り下ろすのとほぼ同時、銀時は左足で脇腹を蹴ろうと試みる。
しかしそれは、幽香が掴んだことによって防がれた。
「あら、レディに向かって蹴りを入れようなんて、酷いことをするのね」
「止められてんだからいいじゃねえかよ。ただ、掴んでくれてありがとな!」
そのまま、勢いを殺すことなく、銀時は己の手にしている木刀を、幽香めがけて投げつけた。
「なっ!」
咄嗟に幽香は、日傘を利用して弾きとばし、銀時を地面に叩きつける。
しかし、飛ばした先にあったのは……。
「しまっ……っ!」
一面に広がる向日葵畑だった。
彼女は咄嗟に地面を蹴ろうとし、
「……え?」
それよりも先に動いている、銀時の姿をとらえた。
「うぉおおおおおおおおお!!」
地面に叩きつけられた後で身体にダメージが残っているはずなのに、彼は木刀まで全力で駆けて、向日葵に当たる前に、それを掴んでみせた。
そのまま勢いに負けて、地面を盛大に転がる。
「なっ……貴方……っ!」
慌てて、幽香は銀時のそばに駆け寄る。
転がった時に擦り傷が出来上がったものの、それ以外は大した傷を負っている様子はない。
そのことに、戦っているはずの幽香は安心してしまっていた。
「……え?」
その気持ちに、彼女は動揺する。
戦闘しているのだから、何かしらの形で怪我をするのは当然のこと。なのに、今彼が軽傷で済んだことに対して安堵していた。
さらに、
「ったく……無事でよかったぜ。てめぇの大切にしてる向日葵畑なんだろ? もちっと周り見ろって」
銀時のおかげで向日葵に傷がつくこともなかった。
「貴方……自分の身を呈してまで、私の向日葵を……」
「……好きなんだろう? だったら、傷つけちゃならねぇと思ったからな」
その一言に、幽香の心は跳ね上がる。
鼓動が早くなってくるのを彼女は感じ取っていた。
この感覚は、彼女が今まで感じたことのないもの。
つまりは……。
「そう……ありがとう」
「なに、いいってことよ……で、まだやるか?」
木刀を再び構える銀時。
しかし、それに対して幽香は、
「……やめておくわ。今日はもうそんな気分じゃない」
日傘を開き、そして自身の身体をその中に入れる。
即ち、戦闘はここまでで終了ということを意味していた。
「そうか……はぁ……つかれた……」
頭をボリボリと掻きながら、銀時はその場を後にしようとする。
「……待って」
それを呼び止めたのは、幽香だった。
銀時は歩みを止めて、振り返る。
「どうした?」
「……また、ここに来てくれるかしら? 今度は向日葵畑を見ながら、のんびりお茶でも」
提案し、幽香は自分自身に驚いていた。
彼女は別に孤独というわけではない。ただ、一人でいることの方が気が楽だと考えているし、その方がいいとさえ思っていた。
しかし、今この男を前にして、まるでデートに誘っているかのような感覚を覚えているのだ。彼女にとって、それは未知なる感情。
銀時は頭をガシガシと掻きながら、
「……団子も頼むな」
「……えぇ、甘いものを用意しとくわ」
「そうか。そいつぁ助かる。じゃ、またな……」
そう言って、その場を後にした。
「……」
立ち去る銀時の背中を見送りながら、幽香は考える。
彼と戦っている時に感じた高揚感。話す時に感じた胸の高鳴り。立ち去る背中を見送る時の物悲しさ。
「あぁ……私らしくもないわね。けど、これは嫌じゃない……」
風見幽香の心に、一輪の花が咲いた瞬間だった。
※
「あいつら……どこ行きやがったァアアアアアアアアアア!!」
戦いの後、幻想郷を駆け足で巡る、一人の天然パーマの姿が目撃されたそうな……。
銀魂×東方project
銀色幻想狂想曲
第ニ十五訓 戦いの火蓋はいつ切って落とされるのか分からない
次回予告
その日、幻想郷から……『春』が失われた。
いつまでも降り続ける雪。
告げられない春の訪れ。
そして辿り着く、犯人の目的。
そこに隠された真実はーー。
次回、『春雪異変篇』開幕ーー。