第一訓 妖艶の美女が持ってくる依頼に碌なものはない
天人が蔓延る江戸は歌舞伎町。
木造建築が立ち並ぶ街中。スナックお登勢と書かれた看板が置かれている建物の二階に、万事屋銀ちゃんはあった。
そこの家主である坂田銀時は、
「あぁ……金がねぇ……」
仕事もせず、ソファに寝転がってだらしなく
「ここんとこまともな仕事もねぇからなぁ……原作者のゴリラも結局完結させられてねぇし」
「いきなりタイムリーなネタ打っ込むのやめてやれよ! ゴリラだって必死こいて仕事して……るんですかねぇ……」
「そこで疑問持っちゃいけねぇぜ、ぱっつぁん。そこは自信満々に『ゴリラだってニートしてるんだぞ』って言って、銀さんに暖かなエールを送らなきゃ」
「アンタは進んでこの状況受け入れてんだろ! そんなアンタを心から暖かく応援する気になれるか!!」
ぐうたらしている銀時に対して、室内を掃除しながらも律儀にツッコミを入れている新八。本来ならばそこに神楽と定春もいるのだが、彼女達は散歩に出かけている為、今はいない。
「仕方ねぇだろぉ……ここんところ依頼なんて来やしねぇんだから……仕事したくても仕事できねぇっての……」
「少しは自分で仕事取ってきてくださいよ。求人雑誌持ってきますから」
「それバイトじゃねえか。実写映画ネタを無理に入れなくていいんだよ? 新八」
「別にそういう意味で言ったわけじゃねえよ! 隙あらばボケ入れるなアンタ!」
こういうところの頭の回転だけは無駄に早い銀時。
呆れを通り越して、むしろ尊敬に値するレベルだと新八は感じていた。
「はぁ……とりあえず、僕もちょっと外出してきます。買い出ししてきますから、その間に依頼の一つや二つ、受け取ってくださいよ」
「あいよ。あ、新八。ジャンプ買ってきてくれ」
「アンタのパシリに行く訳じゃねえよ! 自分で買ってこいや!!」
捨て台詞のようにツッコミをおいていった新八。
その場に残ったのは銀時のみとなり、辺りに静けさが訪れる。
少しソファで寝そべった後、銀時は気怠そうにゆっくりと立ち上がり、
「そろそろ入ってきたらどうなんだ? さっきから様子窺ってるようだが、いい加減そこに居られるのもむずがゆいんだわ」
まるでその部屋に誰かが居るかのように、何もない空間に向かって話しかける。
すると、寝室の襖が開かれて、そこから一人の女性が現れた。
「あら、気付いていらしたのね。いつ頃からでしたの?」
現れたのは、金髪の女性。白と紫を基調とした幅広のスカートタイプの服を身に纏い、赤いリボンが施された帽子を被る女性。右手に大きな傘を握る彼女の容姿は、まるで『人間を超越したかのような』美貌。この世ならざる者の存在を匂わせるような、絶世の美女という表現が相応しかった。
「人ん家勝手に忍び込んでおいてよく言うぜ。さっきから人を試すような視線向けやがって……何が目的なんだ? ただ単に遊びでここに来たわけじゃねえんだろ?」
「用事ならもちろんあるわ。先程の眼鏡をかけた少年が言っていたことよ」
「あん? まさか……」
「えぇ。貴方に依頼しに来たのよ。万事屋、坂田銀時……白夜叉に、ね」
妖艶な笑みを浮かべながら、女性は銀時に話しかける。
一方で、銀時は警戒を解くことをやめない。
少なからず、坂田銀時がかつて白夜叉と呼ばれていたことを知る者という時点で、警戒するには十分過ぎる理由だった。その上、どうやって目の前に居る女性が、誰にも気付かれることなく、この部屋まで訪れたのかも分かっていない。そんな女性から『依頼』という単語が飛び交うことこそ、怪しさの塊でしかないのだ。
「で? どんな依頼なんだ……?」
当然、銀時は尋ねる。
すると、女性は傘を自身の身体の前に置き、静かに頭を下げながら、
「どうか、これから起こる異変から、『幻想郷』を守ってもらえないでしょうか?」
一切のブレもなく、心からの誠意の元、彼女は銀時にそう告げた。
ここまでされてしまっては、銀時も何も言い返せなかった。
頭をガシガシと掻き毟り、
「……いくつか、教えろ。まずはアンタの名前からだ」
依頼主の名前を尋ねる。
女性は、銀時に向かって微笑みながら、
「八雲紫。幻想郷を愛する者の名前を、どうぞお見知りおきください。坂田銀時さん」
女性――八雲紫は、自己紹介を済ませたのであった。
「で? 幻想郷ってのはどんな場所なんだよ」
「つれないですね。せっかく自己紹介したというのに、名前を呼んですらもらえないなんて」
「さっきから胡散臭さぷんぷん匂わせておいてその台詞たぁ、なかなかいい趣味してんじゃねえか。ったく、喋ってりゃあんたがただの人間じゃねえこと位、ある程度予想つくっての」
普段は死んだ魚の目をしている銀時。
しかし、今の彼は――侍の目をしている。
八雲紫が、ただの依頼人としてこの場に来ていないことを、重々理解している。
「あら、依頼に来たのは本当のことですわよ? それと、質問の答えですが……」
一度間を置いて、それから紫は微笑みながら言葉を発する。
「幻想郷は、人と妖怪が入り混じる場所。あるいは忘れ去られた者が辿り着く場所。あるいは妖怪や幽霊、そして人間が住まう理想郷」
「幽霊、だと……?」
その言葉を聞いた瞬間、銀時の身体中から冷や汗が流れ出る。
何を隠そうこの男、幽霊の類が――大の苦手なのだ。
「えぇ。そんな幻想郷にも『異変』が起きようとしていますの。なので貴方には、異変解決の手伝いをして頂きたいと思いまして、こうして馳せ参じたわけです」
「ゆゆゆ、ユウレイなんてファンタジーな言葉がががが、本当にああああああるんですねぇぇえええ」
めっちゃ動揺していた。
めっちゃ身体がたがた震えていた。
「あらあら。身体が震えていましてよ? 大丈夫ですわ。ほとんどがこうして、『私』のように、人の形をとっていますから」
「……っ!」
瞬時に悟ってしまう。
目の前に居る紫は――人間ではない。
そう、文字通り、人間ではなく――妖怪。
「時間もあまりありませんし、導入部分をだらだらとやっていた所で飽きが生じてきてしまいますから、そろそろ幻想郷までご案内させていただきましょう」
「お、おいちょっと待て。導入部分ってなんだ? 飽きって何? え、何? マジでこんな意味不明な状態のまま、俺、幻想郷とやらに飛ばされるの? 妖怪美人さんとランデブーなの?」
「妖怪美人さんだなんて恐れ多いわ。これから貴方を迎え入れるというのに、つい手が滑っちゃいそうじゃない」
紫は、銀時が褒め言葉でそのような言葉を発していたわけではないことを理解した。
理解した上で、敢えて言葉では乗せられているように振る舞っていた。
内心、どれだけの怒りを抱えているかなど、銀時は知る由もないだろう。
「それじゃあそろそろ、ご案内♪」
「あんた最初のキャラから随分ブレてんじゃねえか! そっちが本性かよどちきしょぉおおおおおおおおお!!」
呆気なく、銀時は紫が創り出した『スキマ』によって、その場から消え去ってしまった。
「……あ、あの子達にも伝えなきゃいけないわね。主がいきなりいなくなってしまっては、説明のしようもないだろうから……」
何かを思いついたかのように、紫は『スキマ』から紙と筆を出し、さらさらと何かを書く。
書いた紙を机の上に置き、
「これでよし、と……さて、私もそろそろ向かいましょう。『あのお方』が見出した男が、どれ程幻想郷の為に働いてくださるか……楽しみね」
自身も『スキマ』に入っていき、その場からは誰もいなくなった。
※
数分後。
「ただいまー……銀さーん、神楽ちゃんと定春も一緒に帰ってきたんですけどー」
「ただいまネ、銀ちゃんー……あれ、いないアルか?」
「おっかしいなぁ……依頼の一つや二つもらってこいって言ったのに……って、何か机の上にある」
「ホントネ。何が書いてあるの?」
「えーと……」
新八・神楽へ
銀さんはちょっくら自分探しの旅へ出かけるので
くれぐれも探さないでください
たぶん結構長い期間旅することになると思うけど
くれぐれも探さないでください
酒飲んでるわけじゃないんだよ?
くれぐれも探さないでください
くれごれも、探さないで、ください。
「なんじゃこの手紙はぁあああああああああああああ!!」
意味不明過ぎる文面は、即座に新八の手によって破り去られたという……。
※
これは物語の導入。
一人の侍が、幻想郷という場所を経て、様々な出会いを果たし、様々な者へ影響を与えていく物語。
銀魂×東方project
銀色幻想狂想曲
第一訓 妖艶の美女が持ってくる依頼に碌なものはない