銀色幻想狂想曲   作:風並将吾

32 / 254
第三十訓 半人前

 最初に動いたのは妖夢だった。彼女の振るう刀が、銀時の首を捉えようとする。銀時もそれに合わせて木刀を振るう。互いの刃が衝突する音が、辺り一面に響いていた。

 

「全く愉快な花見になっちまったなぁ。プリズムリバー三姉妹の奏でる音楽に合わせて、こんな所で女と二人きりで刀ぶつけ合う羽目になるたぁ、ねぇ!」

「無駄口たたく暇があるんですか? 随分と余裕ですね。そんなに花見がしたければすればいいじゃないですか。ただし、生死の保証はしかねますけどね!」

「へっ! 花見に騒ぎはつきもんだろ? 遠慮すんなよ、妖夢!」

 

 互いに全力で刃を振るう。

 妖夢の攻撃も、銀時の攻撃も、互いの身体を傷つけることはない。

 

「随分と剣筋の変わるお方ですね。お陰で動きが読みづらいったらありゃしません」

「そっちは綺麗で分かりやすいな。お陰で動きが読みやすいったらありゃしねぇぜ」

「たとえ読めたとしても、踏み込めなければ意味がありません。そして、読めなかったとしても……斬りさえすれば勝利は掴める!」

 

 縦に振るわれた剣は、銀時の身体を真っ二つに引き裂かんと襲いかかる。

 銀時はその刃に木刀を合わせ、弾いた要領で後ろへと下り、

 

「ちっ!」

 

 辺りを照らす灯籠の内のひとつを、木刀で思い切りぶっ叩いた。あっという間に粉々になったそれは、妖夢目掛けて襲いかかる。

 

「っ!」

 

 咄嗟に、妖夢はスペルカードを発動する。

 獄界剣『二百由旬の一閃』。

 無数に発射される青い弾幕。そのうちの幾つかを斬り伏せて、速度を増した赤い弾幕へと変貌させた。

 その弾幕は破片を打ち消し、そのまま銀時目掛けて襲い掛かる。

 

「はぁあああああああああああああ!!」

 

 辺りを駆けながら、銀時は他の灯籠を破壊していく。その破片を以て、妖夢の放つ弾幕を相殺しているのだ。

 

「全く面妖な戦法を取りますね」

「そりゃお互い様だろう? やってることはテメェとそうそう変わりねぇよ」

「ですが、そっちには限りがあり、こっちには限りがありません! いつまでそれがもつか……」

「もたせる必要なんざねぇよ。何なら……」

 

 破片となった灯籠の内、まだほとんど大きなを残しているものを力一杯投げつける。咄嗟に妖夢は斬り伏せることで事なきを得たが、

 

「撃たせなければいいんだろう?」

 

 そのせいで、銀時の接近を許してしまった。

 

「くっ……」

 

 再び鍔迫り合いに突入する二人。

 単純な力だけでは銀時の方が有利。それは体格差からくる当然の帰結。それでも尚拮抗出来ているのは、妖夢の技があってこそなのだろう。

 

「わりぃな。あんま時間くってられねぇし、こっちも……」

「それは私の剣を受け切ってからにしてください!!」

「なっ……」

 

 均衡状態を打ち破ったのは妖夢だった。刀を握っている両の手より左手を離し、もう一本の刀を抜いて、別の角度から振り下ろす。

 銀時の判断は早く、妖夢の足を蹴っ飛ばして自身は後ろへ飛んだ。

 体制が崩れたことと、銀時が後方へ飛んだことにより、妖夢の奇襲は失敗に終わる。

 

「くっそ……そっちは飾りだと思ってたら、二刀流だったのかよ」

「失礼ですね。それは私に対する挑発と受け取ります!!」

 

 銀時の言葉を受けて、妖夢の動きはさらに早くなる。二本の刀より繰り広げられる剣戟。休む暇を与えない。銀時に反撃させる隙を与えない、そんな意思を感じさせるもの。

 

「いきなり速くなりやがって……!」

「恨むなら自分を恨んでください。貴方の言葉が原因なんですから!」

 

 とうとう妖夢の刀は、銀時の木刀を弾き飛ばした。

 真上に飛んだそれが落ちる前に、妖夢の刀が振り下ろされる。

 

「なっ!」

 

 が、銀時はそれを白刃どりした。

 仕方なしに妖夢は、もう片方の刀をもって命を断ち切ろうと試みて、

 

「注意を逸らすな。ガラ空きだぜ?」

「え? きゃっ……!」

 

 相手を攻撃することにしか集中しなかったが為に、自身が弾き飛ばした木刀が、自分の頭部めがけて回転してくることに気付いていなかった。唐突なことに対して、妖夢は思わず飛び退いてしまう。

 それが、一瞬の隙となる。

 

「ふっ!」

 

 銀時は右足で、妖夢の手を蹴り飛ばす。

 

「くっ……」

 

 襲い来る痛みに耐え切れず、片方の刀を妖夢は落としてしまう。すぐに拾おうとするが、

 

「おせぇ!!」

 

 落ちてきた木刀を銀時が握りしめ、刀を思い切り遠くまで弾き飛ばす。わざと、妖夢の足を狙うように。

 流石に喰らうわけにもいかず、妖夢はそれを足で止めようとして、

 

「えっ……?」

 

 視線をどこか別の所に向ける度に、妖夢にとって予想外となることが次々と起こる。気付いた時には、銀時が目の前まで近付いており、木刀を振り下ろそうとしていた。

 

「うぅ……っ!」

 

 握っていたもう片方の刀を使って、なんとか猛攻を食い止める。再び鍔迫り合い。だが、圧倒的に有利なのは銀時だった。

 

「おいおいどうした? 動きが鈍くなってんぞ。それに周りが見れなくなって、注意力散漫か?」

「五月蝿いです……! 先ほどからなんなんですか! 私をあざ笑うかのように!!」

 

 口調からも分かる通り、妖夢は焦っていた。自身が教えられた剣術が、目の前の男を相手にほぼ効いている様子がない。確かに数刻前までは拮抗出来ていたはずなのに、手の内が読まれていく。そうすることによって、自身がどんどん離されていく。

 

「テメェがそう感じるならば、それは……」

 

 そして妖夢は、銀時の口より、最も聞きたくない言葉を告げられる。

 

「テメェが剣士として、半人前という証拠だろうな」

 

 瞬間、妖夢の動きがパタリと止まる。

 あれだけ勇猛果敢に攻めていた妖夢の動きが突然止まったことに、違和感を感じ取る。

 だが次の瞬間、

 

「半人前、ですって……?」

 

 涙を浮かべ、怒りの形相を見せる妖夢の姿に、銀時は言葉を失った。

 

「私は半人前なんかじゃない!!!!」

 

 力いっぱいに振り下ろされた剣戟。

 だが、それは剣術と呼ぶにはあまりにも幼稚で、子供が適当に振り下ろす時と同じようなものとなってしまう。

 

「取り消せ! 私は! 半人前じゃないんだ!!!」

「そこで一人前って自分で言えねぇってことは、テメェ自身で薄々気付いてんじゃねぇのか?」

「だまれぇ!!」

 

 先ほどまでとは明らかに質が違う戦い。いや、これはもはや戦いと呼んで良い物なのだろうか。

 ただがむしゃらに剣を振るい、感情をぶつけるだけのそれは、駄々をこねているようにしか見えない。

 

「教えてやるよ。テメェの剣が何故俺にとどかねぇのか……」

 

 間違った道を正すことが出来るのは、剣を打ち合っている者同士のみ。素人からすると、両者は『強い』という括りでまとまってしまう為、妖夢の持つ致命的な弱点に気付けない。だが、銀時は違う。今この場において、彼のみが、魂魄妖夢の間違いを正すことが出来る。

 

「テメェの剣は綺麗過ぎる。師匠を想い過ぎるが故に、その全てが直線的になる」

 

 妖夢は、師である祖父を心より尊敬し、学んだことを忠実に再現する。それは一つの形としてふさわしいものだろう。しかし、それは実戦向きではない。

 

「そして、テメェは師匠の動きを忠実に再現する。テメェの師匠がどんな奴かはしらねぇし、その師弟関係は……決して悪くねぇ筈だ」

 

 妖夢の師弟関係は決して悪くない。それどころか、理想的とも言えるものだろう。師を思う弟子の姿に、銀時の脳裏に幼き頃の自分が重なる。きっと妖夢は、自身に師の動きをトレースしているのだろう。何故それに拘るのかはともかく、その心意気は立派な者である。そしてその剣術をもって、自分の主を守ろうとする姿勢も評価されるに値する。

 だからこそ、誰も気付けない。

 彼女が半人前で止まってしまう、その理由を。

 

「だが、テメェはそこまでで止まっちまった……今のテメェは、その先へ進んじゃいねぇ。そのままだからこそ、一定の強さは持っているくせに半人前と呼ばれる最大の理由だ」

「私が進んでいない、だと?」

 

 刀を握る妖夢の手が震える。

 銀時の言葉を聞いて、彼女の心が揺らいでいる。

 

「テメェは師を追っているだけに過ぎねぇ。追いかけて、追い越そうという気兼ねを感じない。乗り越えようとしねぇ。いつまでもそのままならば、テメェはいつまで経っても半人前のままだ」

「っ!!!!」

 

 その一言は、妖夢の心に深く突き刺さる。感情のままに、彼女は刀を思い切り振り下ろした。

 しかし、その刀は、銀時によって弾き飛ばされる。

 

「ぐっ……」

 

 丸腰となってしまった妖夢。

 それは誰から見ても敗北を意味していた。

 

「……テメェは今後どうなりてぇんだ。半人前のままでいてぇのか? それとも……」

「そんなの……決まっているじゃないですか……」

 

 全身を震わせる。高ぶる感情を全て出すように、妖夢は大声で宣言した。

 

「私は一人前になって、幽々子様をお守りする剣になりたいんです!!!」

「……その気概があるのなら、まだ進めるさ」

「え……?」

 

 その声色は、とても優しい物だった。

 その声色は、とても心に響く物だった。

 妖夢の心を突き動かした。

 

「今は半人前だとしても、いずれ一人前になれんだろ。テメェがその道を諦めなければ、極めることを辞めなければ、いつか必ず一人前になる。だから進め。テメェの心の思うままに」

 

 木刀を腰に挿し直し、銀時は妖夢に背中を見せ、先に進む。

 

「あっ……」

 

 伸ばした手は、彼の背中を捉えることはなかった。

 立ち去る背中を見送りながら、妖夢はポツリと呟く。

 

「……いつか必ず、一人前になります。だから、必ず……また……」

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

第三十訓 半人前

 

 

 

 




銀時vs妖夢戦、完。
次回はとうとう幽々子様が登場されます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。