最初に動いたのは妖夢だった。彼女の振るう刀が、銀時の首を捉えようとする。銀時もそれに合わせて木刀を振るう。互いの刃が衝突する音が、辺り一面に響いていた。
「全く愉快な花見になっちまったなぁ。プリズムリバー三姉妹の奏でる音楽に合わせて、こんな所で女と二人きりで刀ぶつけ合う羽目になるたぁ、ねぇ!」
「無駄口たたく暇があるんですか? 随分と余裕ですね。そんなに花見がしたければすればいいじゃないですか。ただし、生死の保証はしかねますけどね!」
「へっ! 花見に騒ぎはつきもんだろ? 遠慮すんなよ、妖夢!」
互いに全力で刃を振るう。
妖夢の攻撃も、銀時の攻撃も、互いの身体を傷つけることはない。
「随分と剣筋の変わるお方ですね。お陰で動きが読みづらいったらありゃしません」
「そっちは綺麗で分かりやすいな。お陰で動きが読みやすいったらありゃしねぇぜ」
「たとえ読めたとしても、踏み込めなければ意味がありません。そして、読めなかったとしても……斬りさえすれば勝利は掴める!」
縦に振るわれた剣は、銀時の身体を真っ二つに引き裂かんと襲いかかる。
銀時はその刃に木刀を合わせ、弾いた要領で後ろへと下り、
「ちっ!」
辺りを照らす灯籠の内のひとつを、木刀で思い切りぶっ叩いた。あっという間に粉々になったそれは、妖夢目掛けて襲いかかる。
「っ!」
咄嗟に、妖夢はスペルカードを発動する。
獄界剣『二百由旬の一閃』。
無数に発射される青い弾幕。そのうちの幾つかを斬り伏せて、速度を増した赤い弾幕へと変貌させた。
その弾幕は破片を打ち消し、そのまま銀時目掛けて襲い掛かる。
「はぁあああああああああああああ!!」
辺りを駆けながら、銀時は他の灯籠を破壊していく。その破片を以て、妖夢の放つ弾幕を相殺しているのだ。
「全く面妖な戦法を取りますね」
「そりゃお互い様だろう? やってることはテメェとそうそう変わりねぇよ」
「ですが、そっちには限りがあり、こっちには限りがありません! いつまでそれがもつか……」
「もたせる必要なんざねぇよ。何なら……」
破片となった灯籠の内、まだほとんど大きなを残しているものを力一杯投げつける。咄嗟に妖夢は斬り伏せることで事なきを得たが、
「撃たせなければいいんだろう?」
そのせいで、銀時の接近を許してしまった。
「くっ……」
再び鍔迫り合いに突入する二人。
単純な力だけでは銀時の方が有利。それは体格差からくる当然の帰結。それでも尚拮抗出来ているのは、妖夢の技があってこそなのだろう。
「わりぃな。あんま時間くってられねぇし、こっちも……」
「それは私の剣を受け切ってからにしてください!!」
「なっ……」
均衡状態を打ち破ったのは妖夢だった。刀を握っている両の手より左手を離し、もう一本の刀を抜いて、別の角度から振り下ろす。
銀時の判断は早く、妖夢の足を蹴っ飛ばして自身は後ろへ飛んだ。
体制が崩れたことと、銀時が後方へ飛んだことにより、妖夢の奇襲は失敗に終わる。
「くっそ……そっちは飾りだと思ってたら、二刀流だったのかよ」
「失礼ですね。それは私に対する挑発と受け取ります!!」
銀時の言葉を受けて、妖夢の動きはさらに早くなる。二本の刀より繰り広げられる剣戟。休む暇を与えない。銀時に反撃させる隙を与えない、そんな意思を感じさせるもの。
「いきなり速くなりやがって……!」
「恨むなら自分を恨んでください。貴方の言葉が原因なんですから!」
とうとう妖夢の刀は、銀時の木刀を弾き飛ばした。
真上に飛んだそれが落ちる前に、妖夢の刀が振り下ろされる。
「なっ!」
が、銀時はそれを白刃どりした。
仕方なしに妖夢は、もう片方の刀をもって命を断ち切ろうと試みて、
「注意を逸らすな。ガラ空きだぜ?」
「え? きゃっ……!」
相手を攻撃することにしか集中しなかったが為に、自身が弾き飛ばした木刀が、自分の頭部めがけて回転してくることに気付いていなかった。唐突なことに対して、妖夢は思わず飛び退いてしまう。
それが、一瞬の隙となる。
「ふっ!」
銀時は右足で、妖夢の手を蹴り飛ばす。
「くっ……」
襲い来る痛みに耐え切れず、片方の刀を妖夢は落としてしまう。すぐに拾おうとするが、
「おせぇ!!」
落ちてきた木刀を銀時が握りしめ、刀を思い切り遠くまで弾き飛ばす。わざと、妖夢の足を狙うように。
流石に喰らうわけにもいかず、妖夢はそれを足で止めようとして、
「えっ……?」
視線をどこか別の所に向ける度に、妖夢にとって予想外となることが次々と起こる。気付いた時には、銀時が目の前まで近付いており、木刀を振り下ろそうとしていた。
「うぅ……っ!」
握っていたもう片方の刀を使って、なんとか猛攻を食い止める。再び鍔迫り合い。だが、圧倒的に有利なのは銀時だった。
「おいおいどうした? 動きが鈍くなってんぞ。それに周りが見れなくなって、注意力散漫か?」
「五月蝿いです……! 先ほどからなんなんですか! 私をあざ笑うかのように!!」
口調からも分かる通り、妖夢は焦っていた。自身が教えられた剣術が、目の前の男を相手にほぼ効いている様子がない。確かに数刻前までは拮抗出来ていたはずなのに、手の内が読まれていく。そうすることによって、自身がどんどん離されていく。
「テメェがそう感じるならば、それは……」
そして妖夢は、銀時の口より、最も聞きたくない言葉を告げられる。
「テメェが剣士として、半人前という証拠だろうな」
瞬間、妖夢の動きがパタリと止まる。
あれだけ勇猛果敢に攻めていた妖夢の動きが突然止まったことに、違和感を感じ取る。
だが次の瞬間、
「半人前、ですって……?」
涙を浮かべ、怒りの形相を見せる妖夢の姿に、銀時は言葉を失った。
「私は半人前なんかじゃない!!!!」
力いっぱいに振り下ろされた剣戟。
だが、それは剣術と呼ぶにはあまりにも幼稚で、子供が適当に振り下ろす時と同じようなものとなってしまう。
「取り消せ! 私は! 半人前じゃないんだ!!!」
「そこで一人前って自分で言えねぇってことは、テメェ自身で薄々気付いてんじゃねぇのか?」
「だまれぇ!!」
先ほどまでとは明らかに質が違う戦い。いや、これはもはや戦いと呼んで良い物なのだろうか。
ただがむしゃらに剣を振るい、感情をぶつけるだけのそれは、駄々をこねているようにしか見えない。
「教えてやるよ。テメェの剣が何故俺にとどかねぇのか……」
間違った道を正すことが出来るのは、剣を打ち合っている者同士のみ。素人からすると、両者は『強い』という括りでまとまってしまう為、妖夢の持つ致命的な弱点に気付けない。だが、銀時は違う。今この場において、彼のみが、魂魄妖夢の間違いを正すことが出来る。
「テメェの剣は綺麗過ぎる。師匠を想い過ぎるが故に、その全てが直線的になる」
妖夢は、師である祖父を心より尊敬し、学んだことを忠実に再現する。それは一つの形としてふさわしいものだろう。しかし、それは実戦向きではない。
「そして、テメェは師匠の動きを忠実に再現する。テメェの師匠がどんな奴かはしらねぇし、その師弟関係は……決して悪くねぇ筈だ」
妖夢の師弟関係は決して悪くない。それどころか、理想的とも言えるものだろう。師を思う弟子の姿に、銀時の脳裏に幼き頃の自分が重なる。きっと妖夢は、自身に師の動きをトレースしているのだろう。何故それに拘るのかはともかく、その心意気は立派な者である。そしてその剣術をもって、自分の主を守ろうとする姿勢も評価されるに値する。
だからこそ、誰も気付けない。
彼女が半人前で止まってしまう、その理由を。
「だが、テメェはそこまでで止まっちまった……今のテメェは、その先へ進んじゃいねぇ。そのままだからこそ、一定の強さは持っているくせに半人前と呼ばれる最大の理由だ」
「私が進んでいない、だと?」
刀を握る妖夢の手が震える。
銀時の言葉を聞いて、彼女の心が揺らいでいる。
「テメェは師を追っているだけに過ぎねぇ。追いかけて、追い越そうという気兼ねを感じない。乗り越えようとしねぇ。いつまでもそのままならば、テメェはいつまで経っても半人前のままだ」
「っ!!!!」
その一言は、妖夢の心に深く突き刺さる。感情のままに、彼女は刀を思い切り振り下ろした。
しかし、その刀は、銀時によって弾き飛ばされる。
「ぐっ……」
丸腰となってしまった妖夢。
それは誰から見ても敗北を意味していた。
「……テメェは今後どうなりてぇんだ。半人前のままでいてぇのか? それとも……」
「そんなの……決まっているじゃないですか……」
全身を震わせる。高ぶる感情を全て出すように、妖夢は大声で宣言した。
「私は一人前になって、幽々子様をお守りする剣になりたいんです!!!」
「……その気概があるのなら、まだ進めるさ」
「え……?」
その声色は、とても優しい物だった。
その声色は、とても心に響く物だった。
妖夢の心を突き動かした。
「今は半人前だとしても、いずれ一人前になれんだろ。テメェがその道を諦めなければ、極めることを辞めなければ、いつか必ず一人前になる。だから進め。テメェの心の思うままに」
木刀を腰に挿し直し、銀時は妖夢に背中を見せ、先に進む。
「あっ……」
伸ばした手は、彼の背中を捉えることはなかった。
立ち去る背中を見送りながら、妖夢はポツリと呟く。
「……いつか必ず、一人前になります。だから、必ず……また……」
銀魂×東方project
銀色幻想狂想曲
第三十訓 半人前
銀時vs妖夢戦、完。
次回はとうとう幽々子様が登場されます!