「くっ……!」
三人がかりで挑んでいるというのに、幽々子に触れることすら叶わないで居る霊夢達。その理由は明白で、ここが冥界であり、彼女に力を与えるように、西行妖がその花を開こうとしているからだ。
今宵に限り、彼女の力は絶大である。
「やられっ放しってわけにはいかないのよ……っ」
霊夢は自身の持ち得る力をすべて出し、彼女を圧倒しようと試みる。
「霊符『夢想妙珠』!」
七色の弾が、幽々子目掛けて飛んで行く。
それに合わせるかのように、
「星符『メテオニックシャワー』!」
魔理沙が星型の弾幕を張り巡らせる。
一見すると、そう簡単には躱せる筈のない密度の弾幕。
しかし、
「あらあら。そんな薄い弾幕で私を倒せると本気で思っているのかしら?」
死符『ギャストリドリーム』。
美しく輝く蝶の形をした弾幕が、彼女達の弾幕をすべて打ち消してしまった。
「まだだよー! 禁忌『レーヴァテイン』!」
弾幕を打ち消した直後、今度はフランが神話の槍を模した光弾を投げつける。
スペルカードを発動した直後だ。そう簡単に動きに移れる筈はなく、甘んじてその攻撃を受ける他ない筈。そう考えてのフランの一撃だった。
しかし、
「動きもいいし、連携も確かなようだけれど……そのすべてが、私を捉える決定打にはなり得ないわよ?」
亡郷『亡我郷 -宿罪-』。
弾幕を降らせながら、三本のレーザーを放つ幽々子。その内の一本と、フランの放ったレーヴァテインが衝突し、音もなく消し飛んでしまった。
だが、他の二本のレーザーと、張り巡らされた弾幕だけは、三人に襲い掛かる。
「くっそー! 数が多すぎるぜ!」
魔理沙は箒にまたがり、宙を舞う。
霊夢もまた宙を飛び、フランは縦横無尽に駆け巡る。
「それなら……っ!」
フランは周囲に使い魔を召喚し、その使い魔より弾幕を放たせる。
禁忌『クランベリートラップ』。
彼女の使用するスペルカードの一種だ。
「亡舞『生者必滅の理 -死蝶-』」
しかし、使い魔が弾幕を放ち続けている最中に、蝶を模した無数の弾幕によって撃ち落されてしまう。
「また密度の濃い弾幕かよ……それなら、マスタースパークで消し飛ばしてやるぜ!!」
弾幕は火力。
それを信じて止まない魔理沙は、自身の持ち得る最大火力を以て、相手をねじ伏せようと試みる。
「まだまだお遊びの時間は終わらないわよ? 一気に終わらせようとするなんて、悲しいこと言わないで頂戴?」
幽々子はマスタースパークを放とうとする魔理沙に近づき、
「冥符『黄泉平坂行路』」
「なっ……」
すぐ近くで、手元より霊弾を発射した。
魔理沙はとっさに箒でガードをするが、その際に箒は真っ二つに折れてしまった。
「しまっ……」
「マリサ!」
フランがすぐに魔理沙を掴むことによって、地面への落下は免れる。
「嫌なやつね……力が上であることを示しておきながら、それでも尚まだ遊ぼうというなんて」
「退屈凌ぎにはちょうどいいのよ。それに私は、貴女達を完膚なきまでに叩き伏せる必要はないもの」
「なる程……時間稼ぎをして、桜を満開にさせることが目的ってわけね。そこまでして大きな桜で花見をしたいのかしら?」
札と紅で構成された弾幕を放ちながら、霊夢は尋ねる。
蝶の弾幕にて打ち消す幽々子は、
「西行妖が満開になれば、この下に眠る何者かが蘇る……」
「なんですって?」
その言葉に、霊夢は言葉を失う。
それは恐らく彼女の真意に違いないだろう。
だからこそ、幽々子の言う言葉が信じ切れない。
「とある文献で私が読んだものよ。それで、この下に誰が眠るのかを確かめたいと思ったのよ。花見のついでに行われる余興としては十分でしょう?」
おかしそうに笑う幽々子。
一方で、霊夢は不機嫌そうな表情を浮かべながら、
「そう……最悪の余興ね。こうして寒い中ここまで出張ってこなきゃならなかったのに、聞いてみればそんなくだらない理由で桜の花を咲かせようだなんて。巨大な桜の元で花見をして美味しい酒が飲みたいと言ってくれた方がまだ健全よ」
「あらあら、つれないわねぇ。正体不明の可哀想な人を蘇らせてあげるのも人の良さではなくて?」
「冗談言わないで頂戴。死んだ者は幽霊にこそなれど、蘇らせるなんて以ての外よ」
霊夢の言葉に合わせて、魔理沙とフランの二人もまた、幽々子のことを見つめる。
「怪しい企みもそこまでだぜ! 私達が来たからには、打ち破らせてもらうぜ!」
「ギン兄様と……お姉様と……みんなと花見がしたいから! だから貴女を倒させてもらうよ!」
「……うふふ。力の差は歴然よ? それでも尚、まだ私に挑むのかしら?」
三人でまとめてかかった所で、今のところ幽々子相手に傷一つ付けられていない状況。吸血鬼であるフランも居ると言うのに、それでも尚届いていない。状況としてはあまり好ましくはない。
だが、それでも三人は信じている。
「何言ってるのよ。私達三人だけじゃないわよ……すぐに加勢が来るわ」
「銀髪の侍のことかしら? 彼なら今頃……」
「アイツだけじゃねえぜ」
「ギン兄様だけじゃなくて……」
「「「万事屋のみんなが」」」
彼女達は信じている。
銀時が、新八が、神楽が。
万事屋が、ここに来てくれることを。
だからそれまでの間、彼女達は戦い続けるのだ。あわよくば倒せてしまえば運が良い所だが、そうもいかない可能性の方が高い。
だが、倒れるわけにはいかない。
「そう……なら、まとめてねじ伏せてあげるわ」
彼女達の弾幕ごっこは、まだ終わらない。
※
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
斬る、叩く、殴る、蹴る。
出来得る限りの暴力を使用して、銀時と仁蔵は相手をねじ伏せようと試みる。
その最中で、銀時はあることに気付く。
「……ん?」
一瞬、仁蔵の姿が薄らいだのだ。
「あぁ、まだ完璧ってわけじゃあねえみてぇだからなぁ。けど、アンタを叩き斬るのに不都合なんざありゃしねぇ。だから関係ねぇってことよ、そんなこと……っ!」
仁蔵が望むのは、銀時を叩き斬ること。今この状況において、それが叶うのだとすれば、その身がたとえ朽ち果ててしまおうとも関係ないと言ったような感じを出す。
銀時は舌打ちをする。目の前の男が立ち塞がるという事実はもちろんのこと、こうしている内に手遅れになってしまうのではないかと言うこと。
「今宵はまだまだ長いんだろう? それなら存分に楽しまなくちゃな……っ!」
「いえ、貴方の夜はこれで終わりです」
「……あ?」
声が聞こえた。
その声につられるように、仁蔵の動きは止まる。
銀時もまた、自身の後ろより聞こえてきた女性の声に、後ろを振り向く。
「お前……っ」
そこに立っていたのは、新八と神楽に支えられて立っている。
「……貴方のような侵入者まで許してしまったのは私の落ち度です。ですから……」
自身の刀――白楼剣を握りしめ、仁蔵に刃を向けている、魂魄妖夢の姿があった。
「銀さん……どうして人斬り仁蔵が……」
目の前に現れた男が仁蔵であることを認識した新八が、事の真相を確かめる為に銀時に尋ねる。
「ここが冥界だからだ」
「あっ……」
その一言で新八は理解する。
神楽もまた余計な言葉を挟むことはない。目の前に対峙する男は、かつて自らも相手をしたことのある、化け物に他ならなかった為だ。
「もう大丈夫です、お二人とも……ありがとうございました。銀時さんも、下がってもらえないでしょうか」
二人の支えを優しく振り払い、銀時の前に立ち、白楼剣を構える妖夢。
その姿を確認した仁蔵は、
「おいおい、コイツぁどういうことだ? 俺は白夜叉とやりあいてぇって言うのに、か弱く小さな銀色の光を放つ女が現れやがったぞ? 遊びに来たのならそこを退いてもらえるかい?」
「遊びじゃありません、本気で貴方を――殺します」
その勝負は、一瞬だった。
先程まで拮抗していたのがまるで嘘のように。
いや、仁蔵が妖夢に対して油断していたことも助けになっていたのだろう。
神速で抜かれた刀は、仁蔵の身体を真っ二つに斬り裂いた。
「……へぇ、なかなかやるじゃないか、嬢ちゃん。だけど俺は幽霊。斬った所で――」
「えぇ、貴方は亡霊です。だからこそ、私は貴方を、殺せます」
「何を……っ!?」
仁蔵は、自身の身体に起きている違和感に気付く。
彼が銀時に勝負を仕掛けた際、実のところ幽霊であることで有利になっていたのだ。彼は不完全な形で蘇りかけた。即ち、受肉していなかったのだ。霊体である彼を、人間である銀時が殺すことは出来ない。
「私が半人前でよかった……もし一人前だったならば、私は貴方に斬り殺されていたでしょう」
「どういうことだ……アンタ、何しやがった……?!」
消えゆく身体。
そんな中で、仁蔵は怒鳴る。尋ねる。
妖夢は、最早彼の顔を見ようともしない。代わりに、言葉だけ投げかける。
「死にゆく貴方に最後の言葉です。この刀――白楼剣は、対象を文字通り斬り伏せるもの。相手が亡霊であるならば、成仏させることが出来る。貴方が亡霊で安心しました」
「グォオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
断末魔のような叫び声をあげながら、仁蔵は今度こそ、この世から完全に消え去った。
「……やるじゃねえか、妖夢」
銀時は素直に賛辞の言葉を投げかける。
妖夢は今ので体力を使い果たしたのか、その場に座り込んでしまう。
「妖夢さん!」
「大丈夫カ!?」
慌てて歩み寄る新八と神楽。
そんな二人を制止しながら、
「えぇ、大丈夫です……あの男は……」
「……お前の考えている通りだ。すべてはあの桜が原因だ」
「なる程……西行妖が満開に近づくことにより、亡霊の動きが活発化して、あの男が目を醒ました、と」
「そういうことになる……これで分かったか? お前の主がやっていることの、恐ろしさが」
「……」
言葉を発しない。
彼女は幽々子を守る為に戦っている。故に、彼女がどんな道を歩もうが、それを否定することはない。
だが、時として言葉に出さなくても、それが肯定の意を示している証明になってしまうこともある。
「……まぁ、今は休んでろ。後は俺達万事屋が引き受ける。いくぞ、新八、神楽」
「はい」
「任せるネ。体力は十分回復した。後は大暴れするだけアル!」
その場から立ち去る三人の後ろ姿を確認し、今度こそ妖夢は、感じる。
「……坂田銀時さん。貴方は、私に道を示してくれるでしょうか……師匠と同じように……」
そこに芽生えた感情は、恐らく彼女にとって、とても大事なものとなるに違いない。
銀魂×東方project
銀色幻想狂想曲
第三十二訓 迷いを断ち切るのはなかなかに難しい
そろそろ戦闘の方も佳境へ突入していきますよ!!