銀色幻想狂想曲   作:風並将吾

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第三十五訓 護りてぇもん護る為ならどんなことだってする

 気付けば男は、骸の山の上に立っていた。

 何処を見ても、骨しかない。それ以外には何もない。

 男はその上をただ歩く。行く宛もなく、ただ前へ進む。

 前へ、前へ、前へ。

 どれだけ歩いても地獄しか広がっていないことを知りながら、それでも尚歩き続ける。

 男に痛覚はなかった。感覚がなかった。何もなかった。何もかもを、失った。

 

「それでよい、白夜叉」

 

 何もない空間に、番傘を被り、包帯をぐるぐる巻きにした男――魘魅が立っていた。

 彼は目の前に立ち止まった男を見ると、まるで彼を嘲笑うように言葉を紡ぐ。

 

「貴様に守れるものなど何もない。辿り着くのは骸の山だ。生きている価値など存在しない。安心して死んでゆけ。牙の抜けた侍など、最早不要」

 

 魘魅は男を一瞥すると、そのまま前へ歩いて行き、そして男の肩を強く押した。

 男は声もなくその場に倒れる。その際に落ちていた骨がいくつも突き刺さり、彼の身体に無数の穴が空いた。

そこから流れ出るのは、赤黒い血。あたり一面を染め上げていく。白い骨は血の中に溶け、とうとうその場に取り残されたのは男だけとなった。

 しかし、彼は動くことはない。彼にはもう、動く為の体力も、動機も残されてはいない。まして、『自分自身が何者なのかさえ、考えられない』。

 

「……駄目よ。こんなの、認めない」

 

 その時、一人の女性の声が、男の耳に届いた。

 

「貴方はまだ生きなければ……いえ、生きて欲しいの。こんな所で死なないで……」

 

 女性は男の前に座り込む。着ている服が赤黒く染め上げられようとも構わず、まるで愛おしい赤子を抱くかのような慈愛の眼差しを――もしくは、男の生を懇願するかのような眼差しを向ける。

 

「私が愛した幻想郷に、貴方の存在は不可欠なの……こんな形で終わらせるなんて、そんなの願い下げよ」

 

 男の身体を抱きしめながら、彼女は言う。

 

「お願い……生きて。貴方はこんな所で死んではいけないの。だから……」

 

 そして女性は、男の名前を告げる。

 

「死なないで!! 坂田銀時!!!」

 

 

「っ!!!」

 

 それは果たして本当に夢だったのだろうか。それとも全く別の何かだったのだろうか。今の銀時にそれを知るすべはない。

 だが、彼は間違いなく魘魅に会い、その後で、涙ながらに懇願する、八雲紫に出会った。

 彼女は幻想郷を誰よりも愛している。場所はもちろんのこと、その地に生きる全ての者達を愛していると言っても過言ではない。もちろん、幻想郷を何度も窮地から救い出してくれた銀時とて例外ではないだろう。

 だからこそ、彼女のあの言葉は、銀時の心を強く突き動かした。

 そして、目が覚めた銀時が見た光景は。

 

「ここは……俺の家?」

 

 見知った天井、見知った建物。

 そこは間違いなく、彼が住む家ーー万事屋銀ちゃんだった。

 

「気付きましたか?」

「え?」

 

 枕元に立っていたのは、先ほどの光景にも登場した女性ーー八雲紫だった。

 

「お前……どうして……」

「幻想郷とこの場所を繋いだのは私ですわ。だからここまで私が連れて来られたとしても何ら不思議ではありませんわよ」

「そうか……」

 

 平然とそう言われてしまっては、銀時としてもそれ以上追求することが出来ず、何も言えなくなってしまった。

 

「俺、どの位寝ていたんだ?」

 

 ふと湧いた疑問を紫に投げかける銀時。

 紫は、少し勿体ぶるように言葉を溜めてから、

 

「一週間」

「なっ……」

 

 銀時の質問に答えた。

 

「アイツは……幽々子はどうなった?」

「……彼女なら無事です。今度、迷惑をかけたお詫びとして宴会を開くと言っていますわ。当然場所は冥界ではないけど……どこでやるかはまだ未定となっております」

「そうか……妖夢や、ほかの奴らはどうしてる?」

「……妖夢は今、宴会の準備に明け暮れております。新八と神楽なら、今は霊夢と魔理沙のところにおります。二人も宴会に参加するから、せめて食材だけでもって先に準備しております」

「……フランは、どうしてる?」

「……」

 

 紫は何も言葉を発しない。

 銀時もなんとなく、自分がフランを最後に尋ねたことに、意味はあると思っていた。と言うより、知っておくべきなのは彼女のことだと、心の何処かで理解していた。

 だからこそ、最初に大丈夫そうな人達を聞いて、それからフランのことを聞いたのだ。

 

「答えてくれ、紫。フランは?」

「……あの子は今、貴方が倒れたことにショックを受けて、部屋から出て来られなくなっています」

「……そんな状態になっちまってるってのに、俺は一週間も放置してたってわけか」

 

 ポツリと呟く銀時の声には、悔しさがにじんでいる。

 しかし、紫はそんな彼を見て、唇を噛み締めていた。

 

「……どうして貴方は、そこまで他人のことばかり気に出来るの?」

「え……?」

 

 その質問の意図が分からず、銀時は思わず聞き返してしまう。

 

「貴方は今、自分の身体のことを気にするべきなのに、尋ねてくる質問は他の人ばかり……そこまでして、貴方は背負った荷をどうにかしたいと思うの? 貴方が倒れることで悲しむ人が出てしまうことに、気付いていないの?」

「……お互い様だろう、紫」

「え?」

 

 今度は紫が目を丸くする。

 そして銀時は、彼女に言葉を返す。

 

「テメェは幻想郷を守る為にどんなことだってする。俺も、守りてぇもんの為なら、どんなことだってしてやるさ。テメェが倒れる前に、守りてぇ奴らに倒れられる方がよっぽどつれぇんだよ……テメェも同じだろ? だからテメェは、俺の前でそうして涙を流してるんだろう?」

「……」

 

 紫は何も発しない。

 というより、言葉を見つけることが出来ないでいた。

 確かにその通りだ。彼女は幻想郷をこよなく愛する。生きとし生ける者すべてを愛する。そこに明確な優劣は存在せず、幻想郷に関わるすべての人々を愛する。それがたとえ悪人だったとしても、善人であったとしても、構わず愛することが出来てしまう。

 

「まぁ、そういうことだ……だからまぁ、俺は俺のやりてぇようにやった結果、こうなっちまっただけだ。アイツらが気負う必要はねぇ……まぁ、お詫びの印っちゃあれだけど、今から俺を案内してくれねぇか?」

「……何処へ?」

「泣き虫で引きこもりになっちまった、可愛い妹分のところによ」

 

 

 その日から一週間、フランは自らの意思で、かつて自分が閉じ込められていた地下室へ閉じこもった。

 彼女は目の前で、銀時の身体が冷たくなっていくのを見てしまっている。そして、彼女は自分の力が及ばなかったせいで、銀時がああいった手段を取るしかなくなったのだと思っている。

 

「ギン、にいさま……」

 

 使われなくなったその部屋には、何も残されていない。

 彼女は何もない空間に、一人体育座りをして俯いている。内側から鍵をかけてしまっている為、誰も入ることが出来ない鳥籠の中で、フランは一人泣いていた。

 

「いたかったよね……くるしかったよね……ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

 彼女がふさぎ込んでいる理由は、罪の意識からなのか、それとも銀時の喪失からなのか。

 あるいはそのすべてなのかもしれない。いずれにせよ、今の彼女を解き放つことが出来るのは、恐らくただ一人だけ。

 

「会いたいよ……ギン兄様……また、撫でて欲しい……ぎゅーってしたい……もっと触れたい……だけど……」

 

 彼女は改めて、自分の手を見つめて。

 握り締めて。

 そして、認識してしまう。

 

「私は結局、『壊す』んだ……壊れちゃうんだ……望んだものが、壊れちゃう……」

 

 フランの本質は破壊。

 彼女が望んだ大切なものは、たった一人の男の命は。

 彼女と関わったあまりに、壊れてしまうのではないか。

 銀時のことを思えば思う程、彼は崩壊へと歩みを進めてしまうのではないか。

 

「それなら、私は……」

 

 余計な思考は、感情をどんどんマイナス方向へと持っていく。

 フランの感情は、どんどん閉ざされてしまう。元々抑圧されて歪んだ感情が、更に歪な物へと変貌してしまう。

 破壊の概念が、他者から、自分へ――。

 

「私なんて……こわれちゃえばいいんだ……」

 

「なんだ? いい年こいて厨二病発症してんじゃねえぞ? そういう奴はジャンプでも読んで精神鍛え直せ」

 

 声が聞こえた。

 その声は、今この場において聞こえる筈のない、大切な男の声。

 フランが今最も会いたいと願い、最も遠ざけなければと考えていた男――坂田銀時の声。

 

「よぉ、フラン。何こんな所で体育座りしてんだよ」

 

 ただし、声は――フランの真上から聞こえてくる。

 

「って、何処から出てきてるのギン兄様!?」

 

 これには流石にフランも驚く。

 扉から入ってきたのならいざ知らず、あろうことかそう言った常識をすべて取っ払って、『何もない空間』からいきなり登場してみせたからだ。

 一瞬、これは夢なのだと考えたフランは、恐る恐る銀時の身体に触れる。

 

「触れる……本物? 本物のギン兄様?」

「偽物も本物もねぇとは思うが、正真正銘心は少年の坂田銀時お兄さんだぜ?」

「ギン兄様……っ」

 

 分かった瞬間、フランはもっと触れたいという衝動に襲われて、しかしその手を引っ込める。

 自分が触れることで、銀時が壊れてしまうことを恐れ、遠ざけようとする。

 

「……何してんだよ、フラン」

 

 だからこそ銀時は、無理矢理にでもその手を握る。

 

「あっ……」

「無理すんなよ。本当はあまえてぇんだろ? 安心しろよ。銀さんはそう簡単に死にやしねぇよ。あの程度の傷なんざ日常茶飯事なんだ。歌舞伎町で生きてきた銀さんにとって、腹刺された位で死んでやれねぇから……言ったろ? 約束は守るってな」

「で、でも……」

「それと、テメェのせいで俺が傷ついた、なんて言い訳もなしにしてくれ。情けねぇったらありゃしねぇ。あれは俺が勝手にやって勝手に傷ついたことだ。だからテメェは関係ねぇ。だから安心して、今は泣けよ。花見、するんじゃねえのか?」

「あ……」

 

 それは決戦を前にして、提案されたもの。

 幻想郷に春が戻ったら、花見をするという、些細な約束。

 

「俺は……フランは大切な奴だと思ってる。だから勝手に離れようとするんじゃねえよ……」

「あ、あぁ……」

 

 とうとう、フランは銀時に抱き着いた。

 

「ギン兄様ぁああああああああ! 怖かった! 寂しかった! もう会えないんじゃないかって!! 何処かへいっちゃうんじゃないかって!!」

「……ったく、背負った荷、そう簡単に降ろすわけねぇだろ……?」

 

 泣き付くフランの頭を、銀時は優しく撫で続ける。

 何もない空間、悲しみに満ち溢れていた空間は。

 

 一人の男の優しさと、その優しさに包まれて泣きじゃくる少女によって、色づいていた。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三十五訓 護りてぇもん護る為ならどんなことだってする

 

 

 




多分次から宴会の話になるのかなーって感じです!
異変は宴会が終わるまで!
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