銀色幻想狂想曲   作:風並将吾

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第四十訓 男はいつでも世話の焼ける奴が多い

 宴が行われている裏側。

 紫は一人、紅魔館2ndGの屋上にて歌舞伎町を一望していた。忙しなく歩き回る人々を見て、彼女は思わず微笑んでいた。

 

「相変わらずそうやって一人物思いに耽るのが好きね、紫は」

 

 そこに、一人の女性ーー西行寺幽々子が現れる。

 

「どうしたのかしら? こんなところまで来て」

「……貴女が気付いていないわけがないけれど、念の為報告しようと思って」

 

 一度幽々子は前置きをおいて、そして告げる。

 

「幻想郷における生死の概念が曖昧になってきているわ……私が蒔いた種であることは自覚しているけれど、それでも今、あの世界は死者が現れる可能性を孕んでいる」

 

 きっかけは西行妖。

 一度冥界に集められた『春』が解放されたことにより、冥界にあった西行妖の力の一部もまた、幻想郷に流れ込んでいた。それは即ち、幻想郷という場所において死者の存在が現れる可能性を秘めていること。わかりやすく言えば、幽霊が出る可能性があるということ。

 元より幻想郷は、『外の世界で忘れ去られた者』が辿り着くか、『自らの意思で行こうとする者』が訪れるか、『誰かの力によって招待された者』が巡るかのどれかでしかない。そして、幻想郷における『冥界』とは元々は『幻想郷で死んだ者』が辿り着く場所であった。

 だからこそ、幽々子は一つのことが気がかりとなった。

 

「そして、貴女が行ったエゴにより、幻想郷と『この世界』は繋がった……だからこそ、坂田銀時がかつて斬り伏せた者の亡霊が、西行の誘いによって招かれた……」

「そうなるわね……元々意識して行ったことではないけれど、副産物としてそのような現象が起きてしまうとは誤算だったわ」

 

 やはり紫も、その事実に気付いていた。

 本来、幻想郷に『岡田仁蔵』という人物は存在しない。しかし、実際に銀時は彼と対峙している。

 

「過ぎてしまったことを変える事は出来ないけれど、注意することは出来るかと思って……だから紫。私から一つお願いがあるの」

 

 紫の目を真剣に見つめつつ、幽々子はとあることを依頼する。

 それは……。

 

「坂田銀時に気を付けて。彼、放っておくと何をしでかすか分からない」

「……それは敵として彼を認識しろ、ということかしら?」

「そうじゃないわ。むしろ彼は幻想郷をより良くしてくれる存在だと思っているわ。だけどその生き方は、酷く歪よ……彼は助ける事は出来ても、救う事は出来ない。いずれその生き様が、より多くの人々を傷付けることになる。貴女もそのことに気付いているでしょう?」

「……そうね。褒められた生き方では無いと思うわ。幻想郷を取り巻く現状を前にして、彼は取り返しのつかないことをしてしまうかもしれない。そうなってしまっては元も子もない……」

「何より、今の幻想郷には彼が不可欠よ。妖夢も導いてもらいたいと願っているし、吸血鬼の少女なんて、彼が死にかけただけで精神が崩壊しかけた程よ? 博麗の巫女もまた、彼に惹かれつつある……こんな状況で、いつまでも今の生き方を続けさせていいものかしら?」

「流石は昔馴染みね。そこまで坂田さんのことをしっかり見ているとは」

「あらあら、それはお互い様ではなくて?」

「「……うふふふふ」」

 

 今や幻想郷において、坂田銀時の存在は必要不可欠。いることが当たり前となっている。それは逆に、坂田銀時が何らかの要因によって幻想郷を取り巻く環境からいなくなってしまった場合、どうなってしまうのか予想をすることが出来ないことを意味していた。

 

「まったく、困ったお方ですわね。幻想郷を取り巻く女性たちを次から次へと虜にしていくなんて。まさか紫までもとは思わなかったけど」

「それはこちらの台詞よ。幽々子だって同じじゃない」

 

 そうして二人は会話を続ける。

 銀時が与えた影響というものが、果たしてどれ程大きなものであったのだろうか。

 

 

 宴も終わり、その夜のこと。

 紅魔館メンバーはそのまま2ndGへ居残り、他のメンバーはほぼ全員帰っていた。帰っていないのは、フランと一緒に寝ることを約束した銀時と、住み込みバイトの長谷川のみ。神楽も新八も、月詠や猿飛も帰っていた。

 銀時と長谷川は、二人で杯を交わしていた。

 

「にしても銀さん、まさかこんな日が来るとは思ってなかったぜ」

「俺もだよ、長谷川さん。今回のバイトは長続きしそうで何よりじゃねえか」

「紅魔館のみなさんがいい人ばかりだからなぁ。給料もいいし、これで生活困らねぇぜ」

 

 おちょこに入れられた日本酒を煽り、空いたら注いでいく。そんな流れを繰り返す二人なのだった。

 

「まぁ、何より咲夜さんも含めてみんな可愛いんだよ!」

「ナイフで後ろから刺されないように気をつけろよ長谷川さん。特にフランに近づこうものなら、シスコン吸血鬼がどう出るかわかったもんじゃねえ」

 

「私がどうしたって? ギントキ」

 

 ちょうどその時、たまたまその場を通りかかったレミリアが、満面の笑みを浮かべつつ二人に近づいてくる。

 

「お、御嬢様!!」

 

 慌てて酒を飲みほした長谷川は、服を整えて頭を下げる。

 

「良い。今は勤務時間外だろう。宴会での働きぶり、ご苦労。私はこの後ギントキと話があるから、少し二人きりにさせてはくれないだろうか」

「わ、分かりました!」

 

 挨拶をすると、長谷川は杯を持ったままその場を後にする。

 長谷川が座っていた席に、レミリアが座る。自然と銀時とレミリアが横並びになった。

 

「私にもその酒、もらえないか?」

「いいけど、これ日本酒だぜ? おめぇの好きなワインとは違うけどいいのか?」

「いいんだよ。せっかくギントキと酒を飲むんだ。お互い同じものを共有した方がいいだろう」

「分かったよ」

 

 レミリアに催促される形で、銀時は杯を用意して、その中に日本酒を注いだ。

 レミリアはそれを一瞥した後、ゆっくりと口につけた。

 

「……なる程。こう言った酒の楽しみ方もあるのか」

「まぁな。ワインもいいが、こういう酒も悪くねぇだろ? 特に、こうして月を仰ぎ見ながらの酒っていうのも、なかなか乙な物だろう?」

「そうね。それは確かだわ」

 

 にこっと微笑みながら、レミリアは言葉を返す。

 

「……ねぇ、ギントキ」

「あ?」

「今回の一件で、フランがアンタのことをどれだけ大事に想っているのか。流石のアンタも理解しているでしょう? それが家族愛で収まらないことも」

「……」

 

 銀時は言葉を発しない。沈黙を肯定と捉え、レミリアは話を続ける。

 

「あの子はまだ幼いの。だから、自分自身でも感情に名前を付けられていない。だけど、私達から見ればそれは明確な『恋』だと考えている。今はそのおかげで抑えられている部分もあるが、それは危険も孕んでいる。ギントキもそれに気付いているんじゃないか?」

「……流石はシスコンだな。よく妹のこと見てるじゃねえか」

「当然だ。私はフランの幸せを祈っている。だからこそ、これだけは伝えたいと思った」

 

 真剣な眼差しを向けつつ、レミリアは銀時に、今最も伝えなければならない言葉を伝える。

 

「お願いだ。どんなことがあろうとも、『自分から死にに行かない』ことを約束して欲しい。このままでは、ギントキが死ぬ『運命』に辿り着いてしまう」

「……能力で、何か見たのか?」

 

 彼女の能力では、その過程として他人の運命を覗くことが出来る。故にレミリアは、今のままの状態でギントキがいずれ辿ることとなる『運命』を導いてしまった。そしてそれを変える為に、彼女はその第一歩として、その運命の存在を銀時に伝えた。

 

「いずれ辿る地獄よ。アンタはこのままでは、間違いなく死ぬ。それがいつなのかは私にも分からない……だけど、私はこんな運命を変えたいと思うの。だから……フランの為にも、私達の為にも、『自分から死にに行かない』と約束して欲しい」

 

 懇願の言葉。

 しかしそれは、レミリア個人のお願いだけではなく、『姉』として、『紅魔館の主人』として、すべてを込めた約束であった。

 銀時は少し考える素振りを見せて、その後でこう告げる。

 

「散々言われたからな。これからは『生きる』ことを前提にして考えてやらぁ。だからまぁ、安心しろよ」

 

 酒を飲み干して、杯をテーブルの上に置き、そして銀時はその場を後にする。

 残されたレミリアは、彼の背中を見てポツリと呟く。

 

「まったく、世話の焼ける男ね……」

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第四十訓 男はいつでも世話の焼ける奴が多い

 

 




これにて春雪異変篇は一先ず終了となります。
恐らく、この世界の幻想郷につきましては、彼がもたらした影響というのはとてつもなく大きく、かつ、最早いなくてはならない中心になっているのではないかと考えながら書いたエピソードとなりました。
次回からは『ポロリ篇その弐』をお送りしますー。
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