しばらくして、
「ギン兄様ー!」
今度はフランの襲撃だ。
フランは銀時を見つけると、一目散に駆け寄り、胸に飛びつく形で抱きついた。後ろからは、紅魔館メンバーが勢揃いしている。
「やぁギントキ。久しぶりだな」
「おう、元気にしてたか?」
フランの頭を撫でながら、レミリアに尋ねる。最早フランが甘えるのが日常茶飯事と化しているので、このメンバーの中では動揺の文字は生まれない。むしろ微笑ましい気持ちになっているほどだ。
「お陰様でな。久しぶりに可愛いフランとのひと時を満喫出来た。一緒の布団でイチャコラもしたからな!!」
「なんでそこだけ妙に自信満々に言うんだよ。そんなの姉妹なら当然だろう?」
「あんなことやこんなことまで……はぁ……フランとイチャコラしたい。もっと融けあいたい」
「やべぇよ。実の妹相手に発情紛いなことしてるよ。おい咲夜からも何か言ってやれ」
「御嬢様がすごく可愛いお姿に……メニアック!!」
「鼻血吹き出すな駄メイド!!」
相変わらずレミリアには弱すぎる咲夜なのであった。
と、その時。抱きついているフランが動きを止め、くんかくんかと銀時の身体を嗅ぎ始めたのだ。そしてある程度嗅ぎ終えて、一言。
「ギン兄様から別の女の匂いがする……」
「待てフラン。お前どんどん吸血鬼としてもレベルたけぇことしてる。どうなってんの? なんでそこまでわかんの?」
「ギン兄様の匂いって本当に落ち着くの。だけど……その中に他の人の匂いが混じってると、なんだか嫌だ……」
そう呟くと、フランはより一層銀時との密着度を増やす。それこそ、フランの匂いが銀時に擦り付けられるのではないかと思われるほど、それはもうかなりぴったりと。時折吐息が漏れる所からも、相当くっ付いていることがうかがえる。側から見ると、如何わしい事をしているようにしか見えない。
「い、妹様!? それは駄目です!!」
流石に美鈴もそのことに気付いたのか、止めに入っていた。割とあっけなく引き剥がされたフランだったが、
「…………はっ! 俺は今何を!?」
あまりの事態に、銀時の思考はシャットダウンされていたようだ。
それを確認したフランは、美鈴から離れると、今度はいつものようにぎゅっと抱き着く。そして満足気に。
「ギン兄様は私の……誰にも渡さないの……」
と、ポツリと呟いていた。
「フラン? フランは私の可愛い妹なんだ!!」
カッ! と目を見開きながら、銀時を睨み付けるレミリア。どれだけ妹のことが大好きなのだろうか。
「テメェがどんだけフランが好きなのかは知ってるっての!!」
「なんだ今のは!? フランがギントキに求愛行動していたようにしか見えなかったぞ!! 私にもしてくれたことないのに!!」
「それはそれであぶねぇよな!? テメェはそれでいいってのか!?」
「私はむしろ毎晩したいぞ!!」
「夢の中に居続けろや変態シスコン吸血鬼!!」
フランが抱き着いているというのに、銀時とレミリアは二人仲良く言い争いをしていた。
そんな彼らを遠巻きに見ているのは、
「パチュリー様、お二人、すごく仲よさそうですねー」
「……そうね。本当、レミィはギントキの前だと、いつものカリスマが消え去るわね……本人も気付いていないでしょうけど……」
パチュリーは、なんとなくそのことに気付いていた。彼女のカリスマが消えるのは、フランと銀時の前でのみ。その他の人達には、気を許している咲夜を相手にするときですらほとんどカリスマを解かない程。
つまり、銀時は家族同然に、あるいはそれ以上に気を許せる相手であるということ、なのかもしれない。
「本当、サカタさんって不思議な方ですね」
「……そうね」
笑顔で眺めつつ、パチュリーは心の何処かで不安もあった。今の状況は間違いなく銀時がいるおかげで生まれているもの。なら、ある日突然彼がいなくなったとしたら?
前回の異変時、銀時はしばらく目を覚ますことはなかった。その時一番ダメージを受けていたのは、間違いなくフランだった。結局銀時が帰ってきたおかげで気を取り戻したのだが、もしあのまま帰らなかったとしたら、彼女は一体どうなっていたことだろうか。
「彼が中心にいすぎるこの状況……いいことだけなのかしら……」
ポツリと呟かれたパチュリーの言葉は、誰の耳にも届かなかった。
※
しばらくして、銀時はフラン達に一度待つように告げて、博麗神社の鳥居の前に立っていた。辺りを見渡して、そして一言。
「いるんだろ? 飲兵衛な鬼さんよ」
すると、何処からともなく足音がして、
「どうしたんだい? 銀の時〜。酒が足りないのか〜?」
酔っている姿を見せている、萃香が現れた。
「そうだな。少し酒が足りねぇのかもな。晩酌に付き合っちゃくれねぇか?」
「おっ、いいねぇ〜。よく飲む人間は好きだぞ?」
そう告げると、神社の境内にある段差に座り込む萃香。銀時も彼女の隣に座り、盃を差し出した。
萃香は手に持つ日本酒を注ぎ、自分の盃にもたっぷりと注いだ。
「どうだ? 『テメェが始めた宴会』は楽しいか?」
「……いつから気付いてた?」
笑顔を消すことはなかったが、声色だけは少し落ちる。
構わず、銀時は続ける。
「これだけの面子を紫が集めたっつったところからだな。確かにアイツなら、それだけのことが出来るだろう。けど、少し考えたらそれこそが印象操作だったってことだな」
盃に入っている酒を飲み、その後で銀時は言葉を続ける。
「前回の宴会にいた奴らがほぼ勢揃いってのがそもそも奇跡にちけぇことなんだ。だからそれで気付いたってわけだ……にしても流石だな。ただ単に宴会がしてぇからってここまでするか?」
「あっはっは! つまり銀の時は私がどうしてそんなことしたのかも気付いたのかい!」
「オメェが最初に言ったんだろう? 『宴会しようぜ』ってな」
そう。
今日の宴会は、萃香が宴会をしたいと望んだから生まれたものだった。
彼女の能力の一部が影響し、こうして勝手に人が集まったというわけだ。
「だってさ? 前回の異変のせいで花見が減ったんだよ? それじゃあつまらないじゃん? だったら宴会開けば解決じゃん?」
「こんなことしなくても、呼べば酒なんて飲めるだろうに……」
「酒を飲むのも大好きだよ? けどさ、こうしてみんなで騒いで飲むのがいいんじゃないか」
盃に入れられた酒を飲み干した萃香は、一升瓶から直接酒を飲む。
「私はさ? 酒を飲むことが好きなんだ。一人で飲むのも、二人で飲むのも、大勢で飲むのも、どんな酒も好きなんだ。けど、どうせ飲むなら、楽しい方がいいだろう?」
満面の笑みでそう告げた萃香。彼女は酒を飲むのと同時に、楽しい時間を共有したかったのかもしれない。かつては鬼として、そんなささやかな幸せすら叶わなかったのだから。
「……そうだな。そういうことなら、今日はとことん付き合うぜ?」
「いいねぇ。少しこうして月見酒を堪能したら、また中に戻って宴会だ!」
嬉しそうに叫ぶ萃香の隣で、銀時は盃に入った酒を一気に煽る。
「お酌頼むわ、鬼さんよ」
「あいよ、侍さん」
今宵の宴会は、そうして一晩中続いたそうな。
銀魂×東方project
銀色幻想狂想曲
第四十五訓 誰かと共に飲む酒は格別に美味しい
次回は多分魔法の森に行きますー。