「本当、今日はまた一段と変な夜ね……」
霊夢達が出発する数分前。先に夜の幻想郷に繰り出して異変解決に赴く人物が一人いた。彼女の名前はアリス・マーガトロイド。お馴染み人形遣いの魔法使いである。
「月は偽物に入れ替わるわ、夜は一向に明けなくて朝にならないわ……なんていうか、こんな一夜は初めてよ」
彼女は自分の見たものと勘を信じて行動していた。しかも彼女は魔法使い。真っ先に動くことが出来る人物の一人であろう。ただし、今回に関しては異変解決に伴う手がかりが少ない。なので、夜の幻想郷を練り歩いて、最初のうちは虱潰しに探さなければいけなかった。
「夜っていうと色んな妖怪が現れるのでしょうね」
ポツリと呟いたアリス。その言葉を裏付けるかのように、
「ららら〜らららら〜♪」
歌が聞こえてきた。
その声はとても美しいが、何処か狂気をも感じさせる程の儚さ。美と狂が混じり合った、不思議な音階。これを聞いているのが人間ならば、彼女の歌に惑わされてしまったかもしれない。
「ららら〜」
闇の中から現れてきたのは、雀のようなジャンパースカートを履いた少女。
名前は、ミスティア・ローレライ。夜の闇に現れて、人を歌で魅了し、近付いてきた人間を喰らう妖怪。
「早速現れたわね……夜になるとこういう妖怪も出てくるわけね」
アリスは魔法使いであるが故、彼女の歌に魅了されることはない。しかし、ミスティアからしてみれば彼女もまた貴重な獲物。姿を見せたというのであれば、頂こうとするのが真理である。
「そっちがその気なら、相手になってあげるわ」
アリスは自身の周りに人形を設置する。彼女の戦術は他社に真似ることのできない、数多くの人形を利用した弾幕を放つもの。自身の力を保つのにも精一杯となるはずなのに、人形を操る必要もあるため、相当な精密性を要するもの。
まさしく彼女達の戦いが幕を開けようとした、その時だった。
「きゃああああああああああああ!!」
「……え?」
突然、ミスティアが悲鳴をあげたかと思ったら、次の瞬間にはその場に倒れていた。
ミスティアの後ろから姿を現したのは、
「斬り捨て御免……我が剣に斬れぬものなど、あまりなし」
カチャン、と剣を鞘に収める妖夢だった。
「御機嫌よう、アリスさん。貴女も今宵の異変を解決しに来たの?」
妖夢の後ろからは、ニコニコと手を振りつつ幽々子が近付いてくる。どうやら冥界にいる二人も、今回の異変を勘付いて動き始めていたようだ。
「そんなところよ……どのみち霊夢や魔理沙が動いてるでしょうけど」
「ということは、坂田さんも来ているということね」
幽々子の口から『坂田さん』という言葉を聞いた瞬間、心なしか妖夢が嬉しそうにしていた気がした。彼女にとって銀時は第二の師匠のようなもの。正確には少し違うのだが、それでも道を示してくれた存在であることに変わりはない。
「……そうね」
「あら? 何やら少し浮かない表情を浮かべてるわね。どうしたのかしら?」
アリスの表情が若干曇っていることに気付いた幽々子が尋ねる。
アリスは、自分の胸の内を明かした。
「このままでいいのかな、ってちょっと思ってるのよ……確かに彼がもたらしてくれたことはとても大きいと思うわ。だけど最近こうも思うのよ……」
「大きすぎる、と?」
「……流石は冥界の番人。気付いてたのね」
やはりアリスは、銀時の存在の大きさと、その脆弱性に気付いていたようだ。
良くも悪くも、銀時の存在が大きくなり始めている。今はまだそのままで良い。しかし、いずれ何か飛んでもないことが起きたとしたら?
「安心なさい。幻想郷で彼が死んだとすれば、彼の魂は冥界に導かれるわ。つまり彼が幻想郷からいなくなることはない、ということよ」
「死ぬことを前提に話されても困るけど、その方がまだマシだと思えてしまうからなんとも言えないわね……」
自分でもおかしいことを言っているのは理解してるし、アリスもまた、それに同意することは本来いい意味とは言えないことも理解している。
それでも、銀時の存在が大きくなっている以上、彼の存在が幻想郷から消えてしまうことだけは避けなくてはならない。
「……まぁ、考えていても仕方ないわ。今は一先ず、異変解決に向かうわよ。そして早い所合流しなきゃね」
「……そうね」
「幽々子様の仰せの通りに」
三人はひとまずパーティを組み、異変解決に向けて歩みを進めるのであった。
※
さて、紅魔館から出発した銀時達だったのだが、その道中でとある妖怪に出会う。
「ん?」
銀時の目に入ってきたのは、首元にかかるかかからないか程度の緑色のショートヘアー、燕尾状に分かれたマントを羽織り、白いシャツに紺色のキュロットパンツを履いた人物。頭部には触覚のようなものが生えていた。そんな人物は、銀時達を見つけると、
「こんな夜更けに如何されたのです? この辺りでは見ない方々ばかりですが……」
と、丁寧な口調で尋ねてくる。
「へぇ……幻想郷で始めて男のガキにあったな……名前はなんて言うんだ?」
特に悪びれた様子もなく、銀時は尋ねる。
しかし、目の前にいる人物は、俯き、体をプルプルと震わせている。
「ん? どうしたんだ?」
様子の変化には気付いているものの、何でそうなってるのかは分からない銀時。
「……まさか」
新八は何かに気付いたのか、銀時に声をかけようとする。しかしそれよりも前に、
「私は女ですー!!」
と、涙ながらに答えたのだった。
「え、えぇ!?」
突然泣き出したことに対して、銀時はとっさに行動を取れずにいた。
「銀ちゃん……それはないネ……」
「銀時様……流石にデリカシーのない発言かと……」
「銀さん……乙女を流せた罪は重いぜ……」
「銀時……反省なさい」
「ギン兄様……」
女性陣からの冷たい眼差し攻撃。
銀時の心に大ダメージ!
「だぁああああああ!! うるせぇ!! 分かってるっての!! 俺が悪かったって!!」
「本当に信じてますか!? 私が女の子だって信じてくれますか!?」
余程先ほどの言葉がショックだったのか、涙をボロボロと流して銀時に近付く少女。
思わず銀時は後ずさろうとするも、それよりも速く少女が飛びついてきた。
「女の子だって証明をすればいいんですか!? どうやって証明すればいいんですか!?」
「落ち着けって!! 分かった、分かったよ! 理解したから!! テメェが女の子だって分かったから!!」
「胸……揉ませた方がいいですか……?」
涙目、上目遣い、そして恥じらいながらの言葉。これにやられない男はいない。
逆に、これを見て怒らない女性もほとんどいないわけで。
「…………ギン兄様? ワカッテルヨネ?」
とんでもなく低い声が、フランから出てきた。これには一同も凍りつく。
「分かってるっての!! そんなことすんなって!!」
「……うう」
余程ショックだったのか、少女はその場で踞る。
そんな少女の頭を優しく撫でながら、
「大丈夫ですよ。銀さんももうそんなこと言わないですから、安心してください」
意外にも新八が慰めていた。
これには、霊夢や魔理沙も驚きの表情を見せていた。
「あんた……女の子に触れたのね」
「僕って一体どう見られてたんですか!?」
霊夢のつぶやきに、流石の新八も黙っているわけにはいかなかったようだった。
銀魂×東方project
銀色幻想狂想曲
第五十訓 見た目だけで判断すると痛い目を見ることもある
リグルちゃん……ごめんね……。