異変解決組と万事屋組に関しては、何処までも続く長い回廊を進んでいた。
「何なんでしょう、これ……全然先が見えないですよ……」
新八がポツリと呟く。
確かに、今回の回廊に関しては明らかに違和感があった。
「まるで紅魔館を歩いている時と同じ感覚ね……」
「あぁ。見た目と中身が全く異なるあの感覚だろ? おかしくなりそうだぜ……」
霊夢と魔理沙は感じていた。その違和感は、紅魔館で咲夜によって経験させられたものと似ている。歩かせ続けることによって、相手の心を折りに行っているのかもしれない。
だが、それも唐突に終わる。
「な、なにアルか!?」
突然、彼女達が歩いていた足元がぐらつき、一気に消滅する。
「っ! 捕まりなさい!」
咄嗟にアリスが神楽を掴み、魔理沙が箒の上に新八を乗せることによって、事なきを得る。
だが、霊夢達は突然、何もない空間に一気に放り出されてしまった。
そこに広がっているのは、まるで宇宙空間。ただし本物の宇宙であるわけではない。それをほぼ完璧に模したミニチュアのような何か。
そんな中に、一人の女性が立っていた。
「ここまで辿り着くとは恐れ入ったわ。鈴仙が倒されたってことかしらね」
長い銀髪を三つ編みに縛り、青と赤で構成されている服を着た女性。色の配置は、上着と下では青と赤が左右逆転しており、頭には紺色をベースとして赤い十字が描かれたナースキャップみたいなものを被っている。
「けれど、それもここまで。貴女達の冒険はここでおしまいよ。姫様の所へ行かせるわけにはいかない」
「……アンタ、名前は?」
霊夢は睨み付けながら、女性に問う。
女性は、弓を構えながら、質問に答えた。
「八意永琳。姫様を守る為、今回の異変を起こした張本人だ」
その一言を以て、彼女達の戦いは幕を開けた。
※
「……輝夜姫が一体こんな所で何してるってんだ?」
銀時は、輝夜の顔をしっかりと捉えながら、尋ねる。
輝夜は表情を変えることなく、
「私はただ、この世界でひっそりと暮らせればそれでよかったのよ。けれど、この幻想郷にも美しい満月の日が訪れてしまった。かつて私が月へと帰らざるを得なかった日と同じ満月が……」
彼女は被害者であることを語る。
しかし銀時は、
「そんなのテメェの都合じゃねえか。おかげさまでこっちは夜が明けなくて困ってんだ」
「夜が明けないことに関しては私達の責任ではないわ。そもそもこんな不完全な永遠なんて、私にとっては反吐が出るもの。私ならばもっと上手く事を運んでいる所だわ」
「なんだと……?」
夜が明けないこと自体は、彼女達の関与する所ではないと告げた。
それならば、一体誰が犯人であるというのだろうか。
銀時は少し考え、そして答えを告げる。
「……そうか。この異変で被害を被るのは妖怪しかいねぇ。つまりこの夜を止めたのは……」
「……その妖怪達、ってことになるわね。ついでに言うと、たぶんここに来ている妖怪達とは全く別、ということになるのかしら」
そう。
夜を止めた真犯人は、ここにはいない。
輝夜達が行ったのは、あくまで月を偽物に変えただけ。
「この一夜が過ぎ去れば、私達にとってどうでもよかったのよ。その後は本物の月と入れ替えてしまえばそれで片付く話だったから。だけど、月が偽物に変わったことによって焦った幻想郷の妖怪共が、夜を止めて朝が来ないようにしてしまった。私達から見たらとんだとばっちりよ。酷いったらありゃしない」
少し不服そうに輝夜は言う。
「それならば、私達はいつまでも月を隠しているだけよ」
「それだと困るんだよなぁ……俺達も異変解決の為に来てるわけだから、何とかしてくれねぇと困るわけだわ」
「それならば永琳を倒せたら考えてもいいわよ。どの道私じゃ本物の月を持ってくることは出来ない。だから、もし貴方達が本物の月を持って来れたなら、私の重い腰を動かしてあげるわ」
「……その言葉、本当だな?」
「えぇ、嘘だけはつかないわ。無理難題を吹っ掛けることはあってもね」
何処までもおかしそうに、輝夜は笑う。
彼女は今、竹取物語に登場する輝夜姫として、銀時に無理難題を吹っ掛けている気持ちで伝えているのだ。
「なる程。もしこれが成功すりゃ、結婚でもしてくれんのか?」
「そうね。考えてあげてもいいかもしれないわ。貴方が輝夜姫に惚れているとすれば、だけどね」
「冗談。テメェみてぇな絶世の美女、一介の侍にゃ勿体ねぇよ」
「あら、そうでもないわよ? 私は貴方のこと、結構気に入り始めている所なんだから」
「ソイツぁどうも」
銀時は輝夜に背を向けて、そこから動こうとする。
「……本当、貴方は一体何者なの? 自分で言うのもあれだけど、私は貴方達から見れば間違いなく美人の部類に入る筈よ。そんな人を前にして、貴方は何故心を動かすことなく平然と立っていられるの? そして何故、私のことを不意にすることが出来るの?」
それは、かつて多くの人々を魅了してきた彼女だからこそ尋ねるもの。
絶世の美女という言葉に嘘偽りはなく、男性ならばほぼ無条件で相手を惚れさせてしまう程のもの。
なのに、銀時は動じなかった。彼女の言葉に同情しなかった。
「……俺の身体には、まげちゃならねぇ大切なもんがある。ソイツぁ俺の頭から股間までを貫いて、俺の身体を真っ直ぐ立たせてくれる。揺らぐことなく、前へ進むことが出来るんだ……俺の、
彼には曲げられない信念がある。
だからこそ、目の前に居る人物の言葉に惑わされたりはしない。
自分が信じたものを、変えることなど絶対にない。
「……そう」
輝夜は目を丸くした。
かつてこれほどまで、自分を貫き通すことが出来た男を見たことがあったろうか。皆美貌にやられ、あっという間に信念など崩れ去り、輝夜を自分のものにしようと躍起になっていた。中には甘い言葉で惑わそうとし、その実下心に満ちた男も居たことだろう。
目の前に居る坂田銀時という男は、聖人君主という訳ではない。もちろん下心もあり、男として持っている汚い部分もあるだろう。
だが、彼の生き様は、それ以上に美しかった。
素直に惚れこんでしまう程、何処までも真っ直ぐだった。
まさしく、侍。
「じゃあな。今の言葉、ぜってぇ忘れんじゃねえぞ? 約束、守ってくれよな」
それだけを告げると、銀時は今度こそ輝夜の前から走り去る。
彼の背中を見送りながら、輝夜は嬉しそうに呟いた。
「……貴方ならば、妃になるのも悪くないわね」
「あら、それは頂けない言葉を聞いてしまいましたわ」
そんな呟きを取り消さんとばかりに、スキマ妖怪――八雲紫が、輝夜の前に姿を現した。
銀魂×東方project
銀色幻想狂想曲
第五十五訓 折ってはならない大切な物
まだまだ続きますよー