先程までは薄っすらと空中に乗っている程度の薄さだった紅い霧が、いよいよもって濃くなってきている場所に、その館はあった。
「こんな所に館たぁ、しかも結構豪華なものと見える。さぞかし名のある奴が住んでるんだろうなぁ……」
ポツリと、銀時は言葉をこぼす。
「ところで、お前はどうやってここまでの道順分かったんだ? 地図もなかったし、なんなら手がかりなんてなかったと思うが」
銀時が疑問に思ってたのは、ここまでたどり着いた経緯、方法だった。
霊夢は迷う様子もなく、真っ直ぐと進んでいた。確かに今回の異変が紅い霧ならば、濃くなっている方を探すのが自然ではある。しかし、それを加味したとしても霊夢はあまりにも真っ直ぐ歩きすぎていたのだ。そこに一切の迷いもなく、まるで最初から分かっていたかのような。
「え? 勘」
だが、霊夢から告げられた言葉は、銀時の予想を遥かに上回るほど、呆気ないものだった。
「え、勘?」
「そう、勘」
「え、マジ?」
「えぇ、マジ」
しばらく無言。
「まぁ、霊夢の勘はすげぇよく当たるからなぁ……頼りになるぜ」
駄目押しと言わんばかりの魔理沙の言葉。
「ただの御都合主義じゃねぇかぁあああああああああ!!」
あまりにも信じられなかったのか、言ってはいけない禁忌の言葉を叫んでしまう銀時。
「なによ、そんなに不満なの? これくらい主人公ならどうってことないでしょう? ちゃんとWiki見なさいよ。情報として載ってるから」
「突然メタいこと言うのはやめるんだぜ!?」
あまりにもぶっ飛んだ答えに、魔理沙もツッコミとして加入してくるほどだった。
「主人公ならそんな力持ってて当たり前ってか? こちとら持ってんのは糖尿病と鼻糞だけだぞこの野郎!!」
「そりゃ良かったじゃない。駄目人間の王道を貫く主人公像よ。それはそれで立派なキャラよ」
「お前だってどうせコタツとかありゃ毎日ぐうたらするような駄目人間っぽいオーラ出してるぞ!」
「コタツはいいじゃない。あれは人を駄目にする魔道具よ」
「ああ、それに関しては同意する」
「あれ!? さっきまで二人とも喧嘩してたよな!? いきなり仲直りして驚いたぜ!?」
コタツという共通点を見出したことにより、急速に仲直りした二人のテンションに、魔理沙が追いつけていない。
「なんだぁ? そんなんじゃツッコミとして生きていけねぇぞ? この世界きてから貴重なツッコミ要員として頑張ってくれー」
「なんでお前の命令でツッコミ役に任命されなきゃならないんだぜ!?」
「ファイトよー、魔理沙」
「霊夢まで考えるのをやめるんじゃねえぜ!?」
「ほら、よく出来てるじゃねえか。お前はやれば出来る子だと信じてだぞー。いい子いい子」
「全然嬉しくねぇし、そもそもそれ完全に馬鹿にしてるのが丸見えだぜ!?」
繰り広げられるボケのオンパレード。
果たして
「ところで、こんだけ騒いでるってのに、門の前にいる女はいつまで寝てんの? 何? あいつの耳穴空いちゃってんの?」
「いや元々耳には穴あるぜ。なきゃ聞けないぜ?」
銀時が気にしているのは、門の前に立つ女性のことだ。
華人服とチャイナドレスを足して二で割ったような衣装は、緑色をしている。腰まで伸びた赤い髪に、すらっとした身長。そんな女性が、銀時達の目の前で、目を閉じて寝ていた。
「なんなの? こいつが邪魔で中入れないんだけど?」
「いっそのこと、弾幕で吹き飛ばしちゃいましょう。その方が手っ取り早いわ」
「霊夢の言う通りだな。つーわけで魔理沙、派手にぶっ放せ」
「結局他人任せかよ!? いや、やるのは構わないから別にいいぜ? けど、なんか釈然としないっつーか……」
銀時と霊夢に後押しされる形で、魔理沙は先程チルノにぶっ放したあの技をお披露目するーー寸前のことだった。
「っ! 銀時、避けて!」
「あ? ……っ!」
霊夢の叫びに、銀時は一瞬戸惑ったものの、咄嗟にしゃがむ。
そうすることで回避することは出来た。
目の前にいる女性からの、右ストレートによる奇襲攻撃を。
「……おいおい、姉ちゃん。さっきまで俺たち、結構距離離れてたよな? そんな一瞬で詰め寄ったってのかい? 狸寝入りまでこきやがって……」
「てっきり気付いてるものだと思ってたんですけどね。結構なやり手だと思ったので」
「そりゃ御気遣いどうも」
銀時は腰にさした木刀を引き抜き、構える。
「霊夢、魔理沙。先に行け。こいつは俺が倒す」
「……任せたわ。魔理沙、行くわよ」
「お、おう!」
二人のことを敢えて見逃し、少女は銀時と対峙していた。
「なんだ? お前、ここの門番なんじゃねえの? いいのかよ、そんなにホイホイ人招き入れちまって」
「私一人で三人の足止めをすることは出来ませんから。それに、一番止めなきゃならないのが、あんただと思ったからですよ。お嬢様のところへは行かせません」
敵意をむき出しにする女性は、右足を前に踏み出し、両拳を握りしめ、戦闘態勢をとる。
「なんかの拳法を使うってか?」
「そう易々と敵に手の内を明かすとお思いですか?」
「だろうな……」
暫しのやり取りの後、女性は宣言する。
「門番、紅美鈴。全力でお相手させていただきます!」
「……万事屋、坂田銀時。せいぜい手加減してくれよ?」
「お生憎様。そんな要望、聞けるわけがありませんよ!」
美鈴は、踏み込んだ右足に力を込めて、前傾姿勢を取る。そのまま、両足に力を込め、一気に銀時との間合いを詰めた。
銀時は、木刀を横薙ぎに払う。
「っ!」
襲い来る斬撃を、美鈴の拳が防ぐ。そのまま勢いを殺すことなく、空いた左拳を利用して、裏拳。
「ちっ!」
頭部を狙ったその攻撃を、銀時は蹴り上げる。身体が無防備になったその一瞬を狙い、木刀を振り上げて、
「なっ!!」
そのまま木刀を振り下ろすことなく、右膝蹴りを繰り出す。
美鈴の視線は、銀時が木刀を振り上げたことにより、上に向いてしまっていた。その隙をついた攻撃である。
「ぐっ……攻撃が、読めない……っ」
美鈴が戸惑っているのは、銀時の攻撃が読めないことにある。
通常、何かしらの武道や剣術を心得ているものというのは、それに応じた型を持っている。多少の誤差は生じるものの、ある程度読むことは可能である。
しかし、銀時にはそれがない。一見すると、ただがむしゃらに動き回っているようにしか見えないのに、確実に相手にダメージを与えていく。相手が武道の達人であればあるほど、どんどんドツボにはまってしまう。
「どしたぁ? もう終わりか?」
「冗談を。まだやれます!!」
銀時の煽りを受けて、美鈴は態勢を立て直す。
「極光『華厳明星』!!」
美鈴が叫んだのは間違い無くスペルカード。
技名が叫ばれたことにより、銀時は咄嗟に木刀を前に出してガードの姿勢をとる。
美鈴は両手を大きく回すことによって気を練る。七色に輝いた気は、段々と大きくなっていき、やがて美鈴とほぼ同じくらいの大きさになったところで。一気に解き放たれた。
「そんなのありかよ……!!」
防ぎきれないことを悟った銀時は、地面を強く蹴っ飛ばし、後ろへ下がる。そのまま仰向けに倒れ込み、自身を襲う気の塊を避けた。完全に倒れる寸前、銀時は持っていた木刀を、美鈴目掛けて投げつけた。
「こんなの!」
真上に蹴り上げ、木刀からの攻撃を避ける。
だが、それこそが銀時の狙い。
「足元が留守だぜ?」
「しまっ……」
両手を地面につけ、そのままばねの要領で美鈴に近づき、両足を使って足払いをする。蹴り上げた姿勢になっている美鈴を支えているのは、蹴り上げるのに使わなかった一本の足のみ。
そのまま起き上がり、空中で回転している木刀を掴み、それを美鈴の頭部目掛けて振り下ろしーー。
「はい、終了ー」
当てることなく、寸止めで終わらせた。
「っ……」
美鈴は悔しそうに唇を噛みしめる。
あの時、銀時が木刀を振り下ろしていたならば、彼女はその場で気絶してしまったことだろう。つまり、どうあろうとこの勝負、美鈴の負けであったということになる。それを、銀時の情けによって気絶することを免れただけのことだ、と彼女は思っている。
「何故、トドメをささないんですか?」
だからこそ、美鈴は尋ねる。
対する銀時は、やる気なさそうな声で、
「てめぇやったところで何の得にもなりゃしねぇし、面倒だ。それに、居眠りこいてる姉ちゃん叩き起こしただけだからな。これに懲りたら仕事サボるんじゃねえぞ?」
そう言って、自身の頭をガシガシと掻きむしりながら、館の中へと入っていった。
「……」
その後ろ姿を見送った後、美鈴はポツリと呟く。
「戦っている時の目……夜叉のようでした……」
美鈴が仕掛ける前に見せていた、死んだ魚の目とは違う。
戦闘時に見せていた彼の目は、纏っていた雰囲気は。
まさしく、夜叉。
「私の、負けですね……完敗です」
その場に座り込み、美鈴は満足そうな笑みを浮かべる。
「咲夜様からはお叱りを受けてしまうでしょうが、仕方ありませんよ……あんなお方、そうそう見るものじゃありません。幻想郷には、あんな強い方もいらっしゃるのですね。これからが楽しみで仕方ありません」
この戦いは、彼女の……そして銀時の今後の運命を、どのようなものに変えていくのだろうか。
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