中に入った銀時の目に映ったのは、壁から何まで真っ赤に染まった内装だった。すごく単純に言ってしまうと、目が痛くなるのである。
「いや、これやべぇだろ。何? この屋敷の主人は紅いのが好きなの? 厨二病なの?」
銀時の呟きに答えるものはいない。
既に魔理沙と霊夢の姿はなく、恐らく奥へと進んでいるのだろうということが予想出来た。
「こういうダンジョンは、下に進めば進むほど、ボスに近付いたりすんだよなぁ。いや、ゲームによっちゃあ上に進むこともあるけどよ。何なの? 上か下が好きなの? 見下ろさないと気が済まないの?」
ボスに対する悪態を吐く。ものすごく失礼な発言が飛んでいるも、彼の暴言を止めてくれるような人物はここにはいなかった。
そうして銀時は、手がかりもなくどんどん下へと下がっていく。
「しかし、おかしい……外と中、明らかに釣り合ってねぇ」
ふと湧き出た疑問。
外観と比べて、明らかに内部が広すぎるのだ。おかげでどんな弊害が起きるのかというと、
「歩くのに苦労するわ、迷子になるわ……絶対いいことねぇだろこれ」
少し息が上がっている様子の銀時。
ただでさえ落とされて数時間。まともな休憩もなしにここまできているのだ。流石に少しくらい体力に響いてくることだろう。
中のだだっ広さに悪態をつきながらも、歩くことおよそ数分。
「なんだ……ここは」
一つの部屋があった。
いや、部屋と称しているのは、扉があるからであり、もしそれがなかったら、銀時はこんなところに部屋があるなどと思わなかっただろう。
館を降りに降りたところにポツンとある、鉄の扉。それはおよそ、今回の異変を起こした張本人がいるとは思えなかった。それどころか、上の世界との隔離を目的としたような、そんな雰囲気を感じ取る。
「超開けたくねぇ……」
本能が察知している。
開けたら碌な目に遭わないということを。
しかし、何かしらの手がかりを掴むためにも、その鉄扉を開けないことには始まらないのだ。恐る恐る、銀時は鉄扉に手をかけて、
「ん?」
ガチャガチャ、と鍵がかかっていることに気付いた。
「なんだよ、鍵かかってるのか。それなら仕方ねぇな。うん。開けられねぇからな」
一瞬にして諦めて、元来た道を引き返そうとして、
「だれ?」
例えるなら、それはミサイルが高層ビルを撃ち落とす時に発せられるような、空気を斬り裂き、爆ぜる音。銀時の耳にとてつもない轟音が響いた後に、幼い少女の声が聞こえてきた。
正体を確かめるために振り向くと、そこにいたのは、
「あなたは、だぁれ?」
金髪の幼女だった。
真紅を基調とした半袖とミニスカート、サイドテールにまとめた金色の髪には、紅いリボンのついたナイトキャップを被せている。何より特徴的なのは、真紅の瞳と、七色の結晶がついた、木の枝にも似た翼が生えていること。少なからず、銀時が知っているような人間ではないことは確かだった。
「こんなガキが、この館の主人? ……いや、主人に幽閉されていた?」
疑問に思うことは数多くある。しかし、今は少女の問いに答えるのが道理であると考えた銀時は、
「俺は坂田銀時。好きな食べ物は甘いもの全般、嫌いなものは犬の餌とも言えるマヨネーズ。少年ジャンプをこよなく愛する心は少年でーす」
「ギントキ……私はフラン。フランドール・スカーレット」
「フラン、ね……んで、お前はこんなところで何してんの? 引きこもりのニート生活か?」
口ではいつもの通りに話しているものの、銀時が木刀を握り締める手が強くなっているのが伺える。つまり、目の前の少女が並々ならぬ雰囲気を漂わせていることが分かり、警戒しているのだ。
「私はね、ずーっとここで暮らしてるの。ところであなたは、なぁに?」
「見たまんまの人間だ。そう言うテメェは?」
「私? 私はね、吸血鬼だよ」
銀時の目が見開かれる。
こんなに幼い少女が、吸血鬼であると言う。信じられないという思いと、何処か納得する思いの両方が混じっていた。
「人間って、咲夜以外の人間を初めて見たー。へぇ……こんな感じなんだぁ……」
じろじろと銀時のことを見つめる。それこそ本当に、新しいおもちゃを見つけた子供のように。その後、納得したように、そして、何処までも無邪気そうに、
「じゃあ、ギントキ。あなたの血をいただきます」
「……は?」
言うや否や、フランは銀時の首筋目掛けて飛び付く。
咄嗟に前へ転がり、部屋の中に入ることで銀時は避ける。
そこで、彼は目撃してしまった。
「なっ……!」
そこに広がっていたのは、およそ部屋と呼べる光景ではなかった。
夥しい数の、肉片。腕、足、腰、肩、指、脳、胃、腸、目、鼻、耳、頭。
遥か昔に風化したものから、つい最近のものまで。人間のものなのか、或いは他の獣の物なのか。最早その区別すらつかない程、部屋の中は完全に荒れていた。鉄が錆びたような匂いに、肉が腐敗した匂い、鼻を突き刺すのは不快さを刺激するものばかり。
「にげないでよー。血を吸えないじゃん」
まるで友達に語りかけるように、本当にそれが悪いことだと理解していないかのように、フランは無邪気な怒りを見せる。
吸血鬼である彼女は今、銀時の血を吸うことを考えている。
「おいおい、コイツぁどういうことだ? そこらへんに転がってんのは、何かの撮影で使った小道具か何かか?」
「これ? えーとね、咲夜が持ってきてくれた、食料用の人間だよ。大丈夫だよ、私は誰一人殺してないよ。ここに来るまでにすでに死んじゃった人間を持ってきてるんだって」
だけど、とフランは続ける。
「私、ギントキのことが気になってるんだー。人間って、どんな風に壊れるんだろう、って」
「っ!!」
無邪気なのに。
何処までも子供っぽいのに。
その中に隠しきれていない、狂気。
彼女を支配しているのは、人間を壊すということに対する興味。そして、自らが自らの手で血を吸うという行為に対する、関心。
つまり、銀時は運が悪かったのだ。
「ったく、こりゃ異変解決よりも先に、コイツをどうにかしなきゃいけねぇのかよ……貧乏くじ引かされたようなもんだぜ……」
「むー、それはなんか納得出来ないー。私はこんなに楽しいのにー」
「こっちは全然楽しくないっての。どうせ遊ぶなら、二人とも楽しく遊ぼうぜ? 銀さんばっかり疲れちまうわ」
「アハハ! それもいいかもね! じゃあギントキ……」
目を大きく見開いて、銀時のことをじっと見つめ、
「先に死んだ方が負けってことで、一緒に遊ぼ?」
新しい遊びを見つけた子供のような眼差しで、銀時めがけて飛びかかってきた。
銀魂×東方project
銀色幻想狂想曲
第五訓 無邪気の裏には狂気がある