銀色幻想狂想曲   作:風並将吾

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第七十四訓 サボりをするなら人目のつかない所でやれ

 場所は変わって幻想郷。相変わらず四季折々の花が咲き乱れる状況は改善の見込みが見られず、それがむしろ不思議なことに幻想的な風景を作り出してしまっている。もしこの地に降り立つのが初めてだという者がいた場合、勘違いしてしまったとしてもおかしくはないかもしれない。

 

「はぁー……」

 

 そんな幻想郷にある、川辺の土手。草むらの上に寝そべる一人の女性がいた。赤い髪をツインテールにまとめており、白と青の混じった着物を模したロングスカートを着用している女性。腰には黄色の腰巻を着用しているその女性の名前は、小野塚小町。こう見えても彼女は死者の魂を三途の河へと送り届ける船頭なのである。死神に近い存在ではあるものの、彼女自身は魂を奪うことはない。だというのに死神の象徴たる大きな鎌を持っているのは、サービス精神からくるものということらしい。

 そんな彼女は、

 

「はぁー……働かなきゃなー」

 

 ただいま絶賛サボり中である。

 

「いや、これさ、もう私が働いた所で意味ないよなぁ……幽霊多すぎだってぇ……」

 

 彼女はその役職故に、今幻想郷に起きている異変がどのようなものなのかを把握していた。なので、どう対処すればいいのかもある程度予測出来ている。

 しかし、それでも彼女が動かないのは、あまりにも幽霊が多すぎて動く気になれないからだ。

 

「そりゃ仕事楽しいけどなー、けど限度があるよなぁ……あ、でも四季様に怒られる気はする……」

 

 彼女には上司がいる。

 もしその上司にサボりがバレたとすれば、忽ちのうちに雷が落とされて裁きを受けることになるだろう。最も、もうこの異変が起こってしまい、かつ、未だ解決に至っていない段階でサボりがバレているのはほぼ確定のようなものなのだが。

 

「ま、なるようになるだろう! 考えても仕方ない! 今はサボる!」

 

 結局、彼女の中ではしばらくサボりを続行することが決まったようだ。

 

「サボりとはいただけませんわ」

「え?」

 

 ちょうどサボりを決意した瞬間、目の前に大量の目が描かれた空間の裂け目ーー所謂スキマが現れる。そしてそこから出てきたのは、

 

「なんだぁ、八雲紫かぁー。おどかすなよぉー」

 

 現れたのが自分の上司ではないことがわかると、小町は安心してその場に寝そべる。

 

「私が告げ口をするとは考えもしませんの?」

「あたいはお前さんを信じてるからな!」

 

 嘘偽りのない笑顔を見せつつ、小町は堂々と宣言した。考えるのが面倒くさいのだろうと言ってしまえばそれまでだが。

 

「まぁよろしいですわ……幻想郷に周期的に訪れるこの異変……なるべくならば早めに解決して欲しいので、貴女に依頼しに来ましたわ」

「あー、やっぱり? 流石幻想郷の管理人だなぁ。別に直ちに影響しないんだからいいんじゃないかなぁって思うんだけどなぁ」

「早く処理しないと、貴女の上司が説教しに来てしまうのではなくて?」

「そうなんだよなぁ……それが一番困るんだよなぁ……」

 

 小町の上司である四季映姫・ヤマザナドゥは、自身がオフの時にはよく説教しに回っているほど、何かと細かい。特にサボり癖のある小町に対する説教は多く、しかも自身の能力で『白黒はっきりつける程度の能力』があるおかげで、本来ならば曖昧となってしまう判決も、はっきりとつけることが出来てしまう。つまり、有罪か無罪か、彼女は決定づけることができるということだ。

 

「幽霊関係については、先に起きた春雪異変のこともあって結構シビアなのですわ。どんな幽霊が姿を現わすのか、今の私達では判断付かないところで……」

「そりゃまたどうして? もしかしてこの前から来てる外来人と何か関係があるのか?」

 

 外来人――坂田銀時の存在は、今や幻想郷中に知れ渡っている。射命丸文がしょっちゅう新聞記事に銀時を出しているせいで、知らない人の方が珍しいレベルになりつつあった。

 

「えぇ……私のエゴでもあるのですけどね」

「お前さん……相当その外来人に対して入れ込んでるんだなぁ」

 

 小町の言葉に対して、紫は首を頷かせる。最早このことに関して紫が何かを隠すつもりは毛頭なかった。

 事実、彼のおかげで幻想郷は守られている。幻想郷にとって英雄とも言える存在に対して、紫が蔑ろな感情を抱く筈がない。

 

「彼がいなければ、間違いなく今の幻想郷にはなっておりません。そう言った意味で、私はあの方を非常に尊敬しているのですわ」

「なるほど。心から尊敬してるってわけかぁ……いいねぇ、そういう信頼関係も」

 

 純粋に、小町は眩しいと感じていた。

 銀時のことを語る紫の目が、とても優しくて、とても暖かくて、そして女の子の目だったからだ。

 

「ともかく、今は幽霊に関して結構シビアになっているのは確かです。私としては、なるべく早く対処してくださるとありがたいのですが……幻想郷にはびこる幽霊を運べるのは貴女しかおりませんから」

「ったく、そう言われちゃ仕事しないわけにはいかないじゃないかい」

 

 すっと起き上がり、小町は紫に笑顔を見せる。

 

「ま、アンタの愛に免じて動いてやるよ!」

 

 そして小町は、本来の職務を全うする。

 そんな彼女の後姿を見送った後、

 

「紫。ちょっと聞きたいことがあるのだけど」

 

 風見幽香に話しかけられた。

 

「あら、珍しいですわね……そちらの方は?」

 

 幽香の隣に居る女性を見て、紫が尋ねる。

 

「この人は銀時を探しているらしい。名前は――」

 

 幽香が自己紹介するよりも先に、女性が前に出て、自身の名前を明かす。

 

「私は、沖田ミツバ……訳があって、坂田さんを探しています。どうか、ご協力いただけないでしょうか?」

 

 女性――沖田ミツバ。

 かつて想い人と結ばれることなく、重い病気でこの世を去った女性の、第一歩だった。

 

 

 

 

 

 

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