華陀は心底恐れていた。
数では圧倒的に有利な筈なのに、攻めきれないどころか押されている。かつて二人の侍に倒された彼女は、改めて侍という存在に脅かされることとなった。
更に、歌舞伎町で見たことのない技を繰り出す二人組の少女も居る。このまま戦闘を繰り返した所で自分の負けが確定していることは明らかだった。
「「はぁあああああああああああ!!」」
対する新八は、今までで一番心が躍っていた。
かつて尊敬していた兄貴分と共に、背中を預けて剣を振るう。侍にとってこれほど幸せなことなど存在しないだろう。
「やるのぅ、新坊! これほどまでに強うなっとるとはのぅ!」
「伊達に毎日戦国時代送ってませんよ、一兄!」
「そうかぁ! やはりあの場所は間違っていなかったようだ!!」
それぞれの剣を以て、迫りくる敵を斬り伏せる。
彼ら二人の活躍が、周囲のやる気を鼓舞する。
「新八にばっかり、いい所譲るわけにはいかないネ!」
「へぇ、いっちょ前に吠えるじゃねえか。どうだい? ぶっ倒した敵の数で競い合うってのは?」
「チンピラチワワに言われる筋合いはないアル。いいネ、その戦い乗るアル!」
「面白そうなことしてるな! 私も混ぜて欲しいぜ!」
ドエスコンビに魔理沙が便乗する形で、次々と敵を倒していく。
神楽が蹴飛ばし、総悟が切り倒し、魔理沙が吹き飛ばす。
「まったく……少しは自重しなさいよね」
「そういうもんじゃないさ。これだけ暴れるに十分な場所だ。アンタだって、少しばかり楽しんでるんじゃねえのか?」
溜め息を吐くアリスに対して、近藤が尋ねる。
「まさか。私は戦闘狂じゃないわ。出来ることならこんな無益な戦い、さっさと終わらせたいところよ」
「随分と弱気なこと言うじゃねえか」
タバコをふかしながら、土方はアリスに言い放つ。
その一言に対しても、アリスは冷静さを保つ。
「やる気がないだけよ。私としては少しでも平穏な時が続くことを望んでるのよ」
「平和を望むのは結構なことだが、そうするにゃちと骨が折れそうだぜ?」
「みたいね。仕方ないから手を貸すわ。だからここで倒れるんじゃないわよ?」
「「へいへい」」
アリスの言葉に対して、土方と近藤はニヤリと口元を歪ませる。
「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」
そして、眼前に迫る敵を、一閃の内に斬り伏せる。
アリスもまた、人形遣いとして無数の人形を操り、弾幕を放ち続ける。
やがて、敵の数もあと少しと言うところで、
「……っ!?」
土方は、何かを見つけてしまった。
「どうした? トシ」
様子の変化に真っ先に気付いたのは近藤だった。
彼は土方の表情が怒りに染まっているのを見て、思わず尋ねずにはいられなかった。
しかし土方は、
「……すまねぇ、近藤さん。ここは任せた」
そう言葉を捨てて、走り去ろうとする。
「お、おい待てトシ!」
そんな彼に近藤は手を伸ばそうとするが、
「……わりぃ。今やらなきゃならねぇこと見つけちまったんだ。だからここは任せます、近藤さん」
刀を握る手に、自然と力が宿る。
土方は、近藤の返答を聞く前に走り去ってしまう。
「考えている暇はないわ。今は目の前の敵を倒すことに集中しなさい!」
敵を弾幕で一掃しているアリスに言われ、近藤はすぐに目を敵に向ける。
「……トシ、何をしてぇのかわからねぇが、信じてるぞ」
近藤は、土方の判断を信じることにした。
「くっ……馬鹿な……こんなことがあってはならぬ……っ!!」
華陀は悔しそうに唇を噛み締める。
しかし、とうとう自分の元に仕えていた辰羅が一人残らず始末されてしまった。
「どうするんですか? まだ、やりますか?」
「降参するなら今の内じゃ!」
新八と一が、不敵な笑みを浮かべながら華陀に告げる。
誰がどう見ても、負けたのはどちらなのか明白だった。
「……覚えておれ、下等な人間共。この借りは、必ずや返す!!」
悔しそうな表情を浮かべながら、華陀はその場から立ち去っていった。
無理に追いかける必要はないと判断した彼らは、一気にその場に座り込んだ。
「ふぅ……終わったネ……」
「流石にちと疲れちまったぜ。こんだけの敵を相手にするのは中々に骨が折れちまいそうだぜ」
神楽と魔理沙の二人は、息を少し荒くしながら互いの健闘を褒め合っていた。
「……あれ、ザキと土方さんが見当たりませんね」
総悟は、周囲を見渡して、土方と山崎がいないことを確認する。
「トシなら、何かを見つけて追いかけていった。山崎は……まさかトシについて行ったのか?」
「この戦闘の最中、優先するようなことが起きていたっていうんですかい?」
幻想郷において、土方達が優先するべきことなどそう多くはない。
だからこそ、土方の行動が分からなかったし、山崎の行動はいよいよ分からなかった。
「まぁ、考えていても仕方ないわ。探しに行きましょう」
アリスの提案によって、真選組のメンバーと、神楽・魔理沙・アリスの三人も合わせて走り出す。
「一兄、僕達も……」
新八は、一の手を取ろうとして、
「……すまん、新坊。わしゃ、ここまでのようじゃ」
「一兄、何を……っ」
その時、新八は気付いてしまった。
後ろから来る、とある一人の女性の存在を。
「……兄弟会話の中申し訳ねぇが、迎えに来たぞ」
赤い髪をツインテールにまとめた少女――
「随分早かったのぅ。けど、タイミングはばっちりじゃ! 見守ってくれとったのか?」
「あたいは空気は読める方だからな! 流石にあんな大立ち回りを邪魔するわけにもいかないだろう?」
屈託のない笑顔を浮かべながら、小町は言う。
「あ、あの、貴方は……?」
新八だけは、彼女の正体も、一が冷静でいる理由も分からなかった。
だからまずは、
「あぁ、悪い悪い! 自己紹介がまだだったね! あたいは小野塚小町。三途の川へと魂を導く船頭だよ!」
「さんずの、かわ……?」
自己紹介を聞いた新八は、それでも何の事だか分からないという表情を浮かべる。
「ま、簡単に言うと、幽霊をしっかりと然るべきところに送り届ける仕事ってことだ。そして、元々その人は、あたいが送り届けようとしていた人だったってわけ」
「じゃから、互いに互いのことを知っていたってわけじゃ」
「……っ」
その時、新八は気付いてしまう。
いや、最初から分かっていたことではあったのだが――尾美一は既に死んでしまっている。
つまり今目の前にいる一は――。
「……そんな。せっかく再会出来たって言うのに……」
「はははっ! 泣くな! 新坊! 辛い時こそ笑えって言うたじゃろ!」
そう優しく語り掛けてくる一の顔は、笑っていた。
「ほれ、新坊! 早く行かないと追いつけなくなるぞ?」
「……ありがとう、一兄」
涙混じりの笑顔を浮かべながら、新八はその場を走り去る。
そんな彼の背中を見送る二人。
「……よかったのかい?」
小町は尋ねる。
「……よかったさ。新坊の元気な姿、見られたんじゃ。思い残すことなぞ、もうない」
「そっか……それじゃあさ、三途の川に行くまでの間、あたいの話し相手になってくれないかい?」
「お、いいねぇ! それじゃあ存分に語り尽くそう!」
小町と一は、笑いながらその場を立ち去っていく。
去り際に、一は新八の背中を見ながら、
「……新坊。お妙ちゃんによろしくな」
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第八十五訓 笑顔