銀色幻想狂想曲   作:風並将吾

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第八十六訓 恨みを買わないようご用心

「まさかお前もこの世界に居るとは思わなかったよ……ミツバ」

 

 森の中。

 木にミツバを縛り付け、そんな彼女の顔をジッと覗き見る男――蔵場当馬。

 生前、ミツバの婚約者だった男性。しかしその裏では、ミツバを金の生る道具としてしか見ることがなく、真選組の怒りを買ってこの世から立ち去ってしまった男。

 彼もまた、今回の異変において生まれてしまった幽霊だった。

 ミツバは当馬に対して何かを言いたい様子だったが、木に縛り付けられた上に、口を布で覆われてしまっている為、まともに話すことすら叶わない。

 

「別に今すぐお前をどうこうしようというつもりはない。だが、こうしてもう一度生を受けたのだ。お前を使ってもう一度、金儲けをしようというだけだ」

 

 性根から腐っている男。

 生を失って尚、金に固執する商売人。

 彼は恐らく、ミツバを使ってどんな商売にも手を出そうとしているのだろう。

 この幻想郷という土地で、新たにやり直そうとしているのだろう。

 ただし、そのやり直しの仕方は、とても人に褒められたものではない。

 

「大丈夫だ。私達は夫婦なのだから。何度でもやり直せるよ――お前が頑張ってくれさえすれば」

 

 売れるものならばなんだって売る。

 たとえそれが、かつて愛した(愛でた)者であったとしても。

 

「だから私と共にやり直して欲しい。そしてもう一度――私の為に……」

 

「幻想郷って土地で犯罪犯されちゃ、江戸を守る警察としちゃ動くに動けなくなっちまうな」

 

 その時。

 この場において、聞くはずのない声が聞こえてきた。

 

「なっ……」

「……っ!!」

 

 ミツバは、その目に涙を溜め込む。

 当馬は、その目を大きく見開く。

 

「真選組副長、土方十四郎。テメェの首、頂きに来た」

 

 瞳孔を見開き、かつて肩を貫いた男の目を、鋭い眼差しで射抜いていた。

 

「……驚きました。まさか鬼の副長ともあるお方が、こうしてこの地に来ていようとは」

「生憎、こちとらまだ死んでねぇよ。テメェとは来方がちげぇ」

「自ら赴くことも出来るのですね……本当、この地は愉快な場所だ。かつての妻と、かつての仇敵と、こうして相対することになるとは……」

「……テメェが、こいつの妻だと?」

 

 土方の声が、より一層低くなる。

 その声に、最早許しなどない。

 

「テメェの妻縛り付け、口塞いで、挙句の果てにこれから売り飛ばそうと企んでやがる奴が、こいつの夫だと? ふざけるのも大概にしろ」

「これは私達夫婦の問題です。部外者には口を出さないで頂きたい」

「ならこれは、俺達かつての知り合いの問題だ。部外者には口を出さないでもらおうか」

 

 両者共に、譲る気はない。

 

 これは、土方十四郎のやり直しの物語。

 これは、沖田ミツバのやり直しの物語。

 これは、二人のやり直しの物語。

 

 ここで引いてしまっては、もう二度と――。

 

「どうやらこれ以上の話し合いは無意味のようですね。それならば、私のやり方で貴方を始末させて頂きますよ、鬼の副長」

 

 パチン。

 当馬は指を鳴らす。

 すると、木陰に隠れていた男達が、その姿を現した。

 

「……かつての仲間がこうして集まったのは奇跡だと思っています。そして、かつての再現をすることが出来、そして今回は貴方を確実に殺すことが出来る。これほどまでに望んだ展開はありませんよ」

「……テメェの描いた安いシナリオなんざ興味ねぇ。だが、これだけは言える」

 

 土方は刀を構え、そして告げる。

 

「俺は――惚れた女にゃ幸せになってもらいてぇ。だがまず、その障害をぶった切らねぇと、ソイツは永遠に幸せになれねぇ」

「それは気が合いますね。愛する(どうぐ)には幸せになってもらいたいものです。まずはその障害を消さなければ、私達は永遠に幸せになれません」

「「だからテメェが先に逝け!!」」

 

 その言葉を皮切りに、潜んでいた男達は一斉に土方へ襲い掛かった。

 

「――っ!!」

 

 声なき叫び声をあげるミツバ。

 目の前で、愛する者が切り倒されるかもしれない。

 それが彼女にとって、苦痛以外の何物でもないのだ。

 

「うぉおおおおおおあああああああああああああ!!」

 

 土方は、一人で刀を振るう。

 前、後、左、右。

 ありとあらゆる方面から襲い掛かる敵を斬り倒す。

 しかし、先程辰羅との激闘を果たしてきたばかりの彼の身体には、疲労がかなり溜まってしまっていた。

 

「ぐっ……!」

 

 斬られ続ける。

 足から血が流れようとも、腕に激痛が走ろうとも、腹に穴が空こうとも、背中に傷が入ろうとも。

 それでも彼は、眼前に迫る敵を斬り伏せる為に戦い抜く。

 

「鬼の副長ともあろうお方が情けない……この程度でくたばってしまうとは。随分と腕が落ちたみたいですね」

 

 高みの見物と言わんばかりに、ミツバの横で戦いぶりを見続ける当馬。

 

「そんなんじゃ、ねえよ。これはちょうどいいハンデだ。テメェのことなんざ知らねぇが、前に出て戦おうともしねぇ奴にゃ、傷だらけでも倒せるって意思表示だ」

「強がりならばしない方が身のためですよ。既に身体がボロボロなこと位、私にだって容易に想像がつきますからね」

 

 土方の身体は震えている。

 疲れからか、痛みからか、怒りからか、苦しみからか――そのすべてからか。

 

「いつまでもそんな弱弱しくて情けない姿、ミツバに見せておくわけにもいきませんからね……トドメと」

 

「あぁ、そうだな。そんな弱弱しくて情けねぇ面、見せてんじゃねえよ、鬼の副長?」

 

 瞬間、そんな彼らの元に割って入ってきた男の声。

 同時に、一陣の風が土方と敵の間を迸り、巻き込まれた男達の身体は宙に舞った。

 その風は、ミツバを縛り上げていた縄を断ち切り、ミツバの身体を自由にした。

 

「て、テメェは……!?」

「知り合いが誘拐されたって聞いたもんでな。風に乗ってひとっ飛びしに来たぜ」

 

 木刀を握りしめながら、坂田銀時が現れた。

 ミツバの元には、いつの間にか控えていた文。彼女の持つスピードは幻想郷一と言っても過言ではない。だからこそ彼は、文と共に先にこの場所を特定し、こうして割って入ることが出来たのだ。

 

「坂田さん! こっちは無事です!! 後は――」

「あぁ、土方……テメェの用事、済ませてこい」

「……」

 

 土方は答えず、代わりにゆっくりと当馬に近づいていく。

 

「なんなんだ……何なんですかこれは!?」

 

 たった二人の乱入者によって、一気に形勢逆転してしまったこの状況。

 当馬は取り乱さずにはいられない。

 

「……アイツの幸せに、テメェの存在はいらねぇ」

「……いいのかい? 私を殺すということは、ミツバの夫を殺すということと同じ。つまり、ミツバの幸せを奪い去っていくというのと同じことに――」

「ばーか。テメェはもう死んでるだろ? 殺すんじゃね。元居た場所に還るだけだ、くそ野郎」

 

 そして土方の刃は、当馬を真っ二つに斬り裂いたのだった――。

 

 

 

 

 

 

 

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第八十六訓 恨みを買わないようご用心

 

 

 




いよいよ大結界異変篇も大詰め!
もう少しで終わる、というところまで来ました!
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