妖夢と桂の二人は、ようやっと戦いから解放された。襲いかかってきていた天人の姿はもうない。
「素晴らしき太刀筋でした。貴方の太刀筋はとても真っ直ぐで迷いがないのですね」
「それを言うなら、お主の太刀筋は美しいではないか。だが……心の何処かに迷いがあるのか? 時々ブレていたように見えたぞ」
「……っ」
桂と共に戦っている中で、妖夢は銀時に告げられた言葉を思い出していた。
あの時の自分は間違いなく半人前だった。銀時に指摘されるまで、妖夢は何故半人前なのかを理解していなかったのだ。より正確に言えば、『理解しようとしていなかった』。しかし、銀時が間違いを指摘し、正しい道へと誘ってくれた。それはまぎれもない事実。
だが、その先を妖夢はまだ見定められていない。時間をかければ見つかるのか、それともーー。
「勘違いしないでもらいたいが、別に俺は、そなたが未熟者であると指摘したいわけではない。半人前であるのは間違いないが、恐らくそなたの場合は既に何を目指すべきなのかは分かっているのだろう? ならば後は鍛錬の結果が伴うかによる。故にそこまで迷う必要はない。己の見出した道を信じろ」
「桂さん……」
桂の言葉は、不思議と妖夢の心に響いていた。
「信ずる道にすら迷ってしまっては、定めるべき場所もなくなってしまうぞ。それでは一体何のために今まで鍛錬してきたのかわからなくなる」
「信ずる道に、迷う……」
妖夢は、自分の愚かさを恥じていた。
そして、心を入れ替えることにした。
今までの迷いっぱなしだった自分から、なにかを見出すことが出来る自分へと……。
「ありがとうございます、桂さん。お陰様で、道が見出せそうです」
「そんな大層なことはしていない。俺はただ、自分の思ったことを伝えたに過ぎない」
「それでも、私にとっては大事な言葉です。貴方の言葉も、銀時さんの言葉も、不思議と心に染み渡ります……あなた方ともう少し早く出会いたかったです」
「……そうか」
恐らくそれは、妖夢にとって本音だろう。
剣士としての教えを授けてくれたのは、妖夢にとって祖父しかいない。故に、技術も、心得も、何もかも全て一人の教えのみを受け継いでいる。
見聞を広げたいと言う意味では、より多くの剣士に出会うことこそが近道。幸か不幸か、この幻想郷において魂魄妖夢より実力の勝る剣士はいなかった。それこそが、彼女にとって致命的となる点が今の今まで放置されていた理由にも繋がる。剣以外まで幅を広げれば随分話は違ってくるのだが、剣においては断然彼女の方が上。
そんな中で現れた、坂田銀時や桂小太郎という『侍』の存在。
「これからも、切磋琢磨する仲間として、貴方と剣を交えてもよろしいでしょうか?」
「……ならば今ここで、刀をもって語り合うか?」
「……名案ですね。一度貴方ともやり合いたいと思っていたところです。桂さん」
口元をニヤリとさせる妖夢。
桂は真面目な表情を浮かべつつ、刀を握りしめる。
妖夢も、己の得物を持つ手に力が込められていた。
「先程まで敵を斬り伏せていた所だが、疲れはないか?」
「ウォーミングアップと思えばちょうどよいくらいです。桂さんこそ、覚悟はよろしいですか?」
「俺から持ちかけた話だ。元より出来ている」
「そうでしたね。大変失礼しました」
互いに間合いを取る。
ゆっくりと、ジリジリと
前へ前へと歩みを進め、そしてーー。
「「っ!!」」
動いたのはほぼ同時。
互いに首元を狙った、本気の一閃。
彼らが使っているのは決して模擬刀などではない。斬れば確実に命を刈り取る武器だ。
それなのに彼らはなんの躊躇いもなく剣を振るったということは。
「そうでなくてはな。この一撃でやられていたとすれば、半人前おろか剣士としても認められぬ所だった」
「流石にそれは私を甘く見過ぎていませんか? 仮にも私は、剣技では幻想郷で一番の自信があるのですよ?」
「そうであったな。それは失敬!」
二人の剣戟によって描かれる綺麗な軌跡。本気の仕合であるというのに、他者を魅了する程の美しさを兼ね備えている。これ程までに美しい戦いは果たして存在しただろうか。
だが、綺麗なだけではない。
「くっ……!」
桂と妖夢の綺麗さには、決定的な違いが存在する。
妖夢のそれは、ただ綺麗なだけ。以前よりもマシになっているし、並大抵の相手ならば簡単に斬り伏せられるのだが、型にはまっている状態が抜けきれていないせいで先読みされてしまいがちだ。彼女の剣戟の美しさは、常に教えを再現するものにこそ存在する。
対する桂は、その身を以て幾度となく修羅場を潜り抜けているため、綺麗さの中に獰猛さも潜んでいた。侍としての戦い方の基本を抑えながら、戦闘であるという事を踏まえた上での、所謂『命を守る為』の剣技。
優劣をつけるわけではなく、二人の性質が決定的に違う事を意味しているもの。
「妖夢殿は師の教えを大切にしているのだな。技の綺麗さからそれが伺える」
妖夢の剣戟を捌きつつ、桂は自身の刃を振り下ろす。
「桂さんの剣戟はとても美しいのに、それだけではない何かを感じます……型を守るのに、型を破っているような……」
受け止め、刀を弾き飛ばす。
そのまま追撃の為の、一閃。
「型を守るだけでは、命のやり取りに負けてしまう。俺達は競技のための剣を振るっているわけではない。故に時にはどんな手を使ってでも、相手を打ち負かさなければならない」
「どんな手を使って、でも……」
妖夢が思い出したのは、銀時と刃を交えた時のこと。あの時の銀時は、決まった型など全くなく、その場に応じて戦い方を選んでいるような動き方をしていた。
故に妖夢にとっては『面妖な動き』に見えた。
「そう。妖夢殿の剣に欠けているのは、覚悟や誇りなどではない。むしろその点においては、銀時や俺以上に持っているだろう」
「なら、何が足りないというのです!」
力任せに振るわれた一撃。
だが、桂はいとも容易くそれを避け、
「経験と、命に対する認識だ。この世界では、あくまで弾幕ごっこが主流となっている以上、命が奪われるということは滅多に起きない。故に、自身の命も、相手の命も、どうしても天秤から外れてしまう。結果はどうあれ、勝敗しかないからだ」
一部の例外を除き、弾幕ごっこによる死者はほとんど存在しない。というより、そうなる為のルールとして敷かれたものだ。その前提の元戦っている以上、どうしても身を守ることの優先度が低くなってしまう。
銀時と桂にあって、妖夢にないものは、まさしくその一点だろう。
「……なんとなく、今の私に欠けているものがなんなのか分かった気がします」
剣を鞘に収め、頭を下げる妖夢。
桂もまた、自身の刀を鞘に収めた。
「もう良いのか?」
「えぇ……これではっきりしましたから。私が今後、どうするべきなのか」
「……そうか」
刀を交えることにより、妖夢は見つけることが出来た。
己の目指すべき剣の道が一体どこにあるのかを。
信じてきた道に覆われていた霧は、この時はっきりと霧散したと言っても良いだろう。
坂田銀時と桂小太郎。
二人の侍の存在が、魂魄妖夢という少女の道を切り開く。
銀魂×東方project
銀色幻想狂想曲
第八十七訓 戦いの中で見出せるものもきっとある
今回は、戦いの後の妖夢と桂の様子でした!
さて、そろそろミツバと土方の結末を描かないとですね……。