からっぽ島開拓記~ナザリック風味~   作:甲斐太郎

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終わりとはじまり

俺の名前は、モモンガ。

 

異形種のメンバーのみで構成されたギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のギルドメンバーにしてギルドマスター。とはいえ、栄華を極めたのは昔の話。DMMO-RPGのパッケージのひとつである『ユグドラシル』の世界においての話だ。リアルは小卒のカースト最低位のただの人、鈴木悟という名の普通の中年一歩手前の男でしかない。

 

過去の栄華を忘れられず、自分がこのギルドを、拠点を維持し続けてさえいれば、いつかきっと引退していったギルドメンバーも戻ってきてくれる。そう思っていたのに、彼らが帰ってくる日を待たずにユグドラシルの終焉、サービス終了の日が訪れた。俺が出したメールを受け、久しぶりにゲームにログインしてくれたメンバーは片手で数えられる程度。己の青春だったと豪語できる『アインズ・ウール・ゴウン』として活動した日々が、他のギルドメンバーにとってはそう大事なものでなかったと、ギルドメンバーの1人で社畜になってしまって寝落ちしたヘロヘロさんを笑顔で送り出した俺は、玉座で1人打ちのめされていた。

 

玉座に腰掛け、駆け抜けた楽しくも慌ただしい青春の日々を思い返し、溢れかえる虚しさで胸がいっぱいになる。そんな時だった。突然メッセージボックスに届いた一通のメール。差出人は不明で、題名も無し。心当たりはなかったが、俺はコンソールを浮かび上がらせ、そのメッセージを開いて、文章を読み上げる。

 

『次の世界に行くには選択する必要があります。『仲間と共に築き上げた拠点や集めた数々のアイテム』か『貴方と共に在りし者たち』のどちらかを選んでください。選ばなかった方は即座に消滅します』

 

「……サービス終了を待たずにデリートするとか、本当にクソ運営だな」

 

俺は玉座の傍らに微笑を浮かべて佇むNPCを見る。他にもこの玉座に来るまでに連れてきたNPCたち1人ひとりを眺め、俺は仲間たちと共に築き上げたナザリック地下大墳墓や世界を変える力を持つワールドアイテムや希少なアイテム等を切り捨てることを選んだ。

 

アイコンをタッチすると同時にコンソールが消え、握っていたギルド武器である『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』が消える。傍に控えるアルベドが身に纏っていた光沢のある白いドレスも消え、ボンッキュッボンの染みひとつない艶しい肉体が露になる。

 

って、おい、運営!お前ら正気かっ!?ハラスメント行為に引っかか……。

 

 

 

目覚めて~少年漂着

 

乾いた土の匂いと身体を撫でる風の感触で目を覚ますと、俺は何の装備もつけていない状態で洞窟らしき場所に倒れていた。

 

身体を起こし周囲をゆっくりと見渡すと白い砂浜と青い海が見えた。ゆっくりと起き上がり、洞窟から出て骨の身体で砂浜に立ち、浜辺をぴょんぴょん跳ねて移動する可愛いデフォルメの青色のスライムを見て、1発でユグドラシルではないことを悟る。

 

これからどうしようかと砂浜で沈む夕日を見ながら考えていたら、突然腹の虫が鳴った。内臓は無いはずなのに、連続して空腹を訴えてくる腹の虫の大合唱に俺はそこでようやく食料を集めないといけないと悟り、ようやく行動に移ろうとしたのだが、すでに辺りは目の前すらまともに見えないくらい真っ暗闇。その夜、俺は空腹に耐えつつ、気絶していた洞窟で一夜を明かした。凍えるくらい寒くて心まで凍り付きそうだった。

 

翌朝、空腹に耐えかねて浜辺に流れ着いていたコンブを生で食べる。しょっぱい上に、口の中が物凄く生臭い。それでも腹の足しになるからと遠い目をしながらもごもごと口を動かし、弾力のありすぎる新鮮なコンブを噛み続ける。潮の香りで満腹になったものの、さすがにコンブだけの生活は辛いと辺りを探索することにしたのだが、俺が気絶していた場所は絶海の孤島だったようだ。

 

しかも草木一本生えていない痩せた土地、ユグドラシルでも見かけたことのない魔物たちが跋扈するだけの島だった。食料となり得るのは、コンブと桃色の貝のみ。魔物たちを倒して何か得られないかと思ったが、ユグドラシルで最高レベルまで上げた種族レベルや職業レベルの恩恵は受けられない上、スキルも魔法も使えなくなっていた俺に、魔物を倒す力は無かった。返り討ちになって死ななかったことだけが救いだった。

 

食事内容が生のコンブと海水だけの日々に終わりが来たのは、とある嵐で海が大荒れだった日の翌朝のこと。嵐によって大荒れだった海の波によって、砂浜にいつもよりも多く流れ着いているコンブを遠い目をしながら回収していたら、綺麗な白い砂浜を隔てていた崖の壁が内側から破壊され、背丈くらいの大きな木槌を背負った金髪の少年が現れた。

 

大量のコンブを抱えた骨な俺と、木槌を背負いなおした金髪の少年。この島にいる魔物と同等に見られるかもしれないと焦る俺。討伐待ったなしかと思われたが、少年は勇敢にも俺に話しかけてきた。よくよく考えれば、ただの魔物がコンブを抱えてうろつくなんて阿呆な姿を晒すわけがなかった。

 

少年の名前はビルド。モノづくりのエキスパートであるビルダーという職業の見習いだという。ビルドはその辺の砂浜を背負った木槌を使って叩いて立方体のブロック状へと変える。砂を叩いてブロック状にするという原理は分からなかったが、この世界の法則なのだろうと思って理解するのを俺は諦めた。その後、ビルドは砂浜にまっすぐ伸ばして乾かしてあるコンブを見て、首を傾げながら俺に何をしているのかを尋ねてくる。

 

「……この島で食べられるようなものは、コンブか桃色の貝しかなくてな」

 

ビルドにそうしょんぼりしながら俺が伝えると彼は木槌とは別に背負っていた分厚い本を取り出し、ペラペラと捲った後で大きく頷く。そして、その分厚い本を背負い直して、浜辺に流れ着いていた船の破片を木槌で破壊し木材に変えた後、崖の下に無造作に置かれた木製の台を使って何かを作り始めた。そして、出来上がったのは不格好な杖。

 

かしのつえ だよ ももんがさん

 

そう言ってビルドは俺に杖を手渡してくる。これが武器か、と軽い気持ちで受け取った俺であったが、樫の杖を握った瞬間にこの世界で使える魔法の情報が頭の中でピカッと閃いた。杖を構え、浜辺をぴょんぴょん跳ねて無邪気に移動する青色のスライムに狙いを定めた俺はその魔法の名を口にする。

 

「メラッ!」

 

握りこぶしくらいの大きさの火球が杖から発射されてスライムに直撃。『ピギィッ!?』という断末魔を上げたスライムはオレンジ色の液体をその場に残し消滅した。その残った液体をビルドはすぐに回収し、この世界でも魔法が使えたという感動に打ち震える俺を見ながら告げた。

 

さぁ あぶらを いっぱいあつめよう

 

あの時はテンションがハイになっていたから気にならなかったが、ビルドよ。君の中での認識は、スライム=油なのか?

 

際限なく現れるスライムを討伐しまくった俺とビルド。久しぶりに身体を動かし、程よい疲労感を得ていた俺の横でビルドが作業台で作成したのは周囲の灯を確保するための松明と、たき火。特にたき火はスライムを倒して得た油を全部使いきって計5つ作成した。

 

何をするのかと思えば、ビルドはそのたき火を使って俺が集めたコンブをあぶり始めた。そして、待つこと暫し。出来上がったのは、焼きコンブ。生のコンブとは違う、程よい噛み応え、噛めば噛むほど溢れ出る旨味。ついでに桃色の貝、モモガイも焼かれていたが砂抜きが出来切っておらずジャリジャリとした食感だった。

 

その夜は、ビルドが2段以上ブロックを積み重ねて囲って作った部屋で、松明の暖かな灯に照らされつつ、ビルドが枯れ草を編んで作ったわらベッドで休むことになった。今まで洞窟の冷たい石の上で寝ていたこともあったのだろう、俺は何を考える間もなく寝落ちした。

 

「ヒギィイイイイ。ウァアアアアー」

 

翌日はスライムの悲鳴で目が覚めた。

 

隣のわらベッドに寝ていたはずのビルドの姿がなかったので、「朝から精が出るな」と思って木の扉を開けて外に出る。すると、『僕怒ってます』と言わんばかりの表情を浮かべ仁王立ちしているビルドの前で、並べられた“たき火5つの上でコールタールのような暗い色の大きなスライムが焼かれていた”。

 

そのスライムはアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーの1人であるヘロヘロさんによく似ているような気がした。……というか本人だった。

 

「ぴゃぁあああ。あつぅうういぃいいいー」

 

「ヘロヘロさぁあああんっ!?」

 

俺はなりふり構わずヘロヘロさんを救出するべく火の中に飛び込み、一緒に焼かれた。

 

 

容疑者ヘロヘロ「立ち昇る美味しそうな匂いに我慢できなかった。全部食べてごめんなさい」

 

と、砂浜にべちょっと潰れた状態で謝罪するスライム。事の発端は太陽が昇るくらいの朝早くに起きて俺が大量に確保していた生コンブを焼きコンブにする作業をしていたビルドの頑張りが詰まった収納箱を、ヘロヘロさんが一瞬で丸ごと取り込み無にしたこと。

 

本人もその所業は火炙りの刑に処されて当然だったと自負している。ちなみにビルドの話ではスライムを火で焙ると一定時間で油が抽出されるらしい。だからと言ってヘロヘロさんを焙るのは今回だけにしてもらいたい。俺も彼を救出する際にこんがり焼かれたし。

 

「でも、まさか。寝て起きたら、別の世界に転移しているなんて思いもよらなかったですよ。それにモモンガさんがいてくれて良かった。ビルドくんだけだったら、友好関係はきっと築けなかったでしょうし」

 

きっとあのまま油を出すまで焼かれていた、と乾いた笑い声を漏らすヘロヘロさんに、何とも言えない俺だった。

 

さて、ユグドラシル出身のプレイヤーである俺とヘロヘロさんが揃ったので、浜辺に流れ着いたものをブロック状の資材に大木槌で変えていくビルドを眺めつつ、現状の確認を行う。種族と職業レベルの恩恵がないこと、ユグドラシルの魔法やスキルは使用不可なこと、異形種であるにも関わらず精神状態は人間のそれであること、何より死にはしないが空腹の飢餓状態はヤバイこと。

 

「……僕たちはこうやってビルドくんがいるからいいですけど、他はどんな感じなんでしょうか。NPCたちとか」

 

ヘロヘロさんには玉座の間での選択の話をしてある。その上で、リアルを優先しユグドラシルに俺一人を残して去ってしまった自分たちに、俺の選択に対して文句は言えない、と。だから気にすることはないと慰められた。

 

「この島に関しては歩いて探索して、ナザリックのNPCたちがいないのは確認しています。……にも関わらず、ヘロヘロさんが現れたってことは、あの洞窟にあるあの模様が書かれた丸い床はワープゲートといったところでしょうか?」

 

「うーん。……他のメンバーが出てくれば分かりそうですが、食料がコンブと貝だけの今、ただ人数増えたら詰みますね」

 

「けど、この島を開拓しようにも資材がまったくないんですよね」

 

『ふぉっふぉっふぉ。お困りのようじゃな?』

 

「「ふぁっ!?」」

 

遠い目をしながら海を眺めていた俺とヘロヘロさんの横にふっと湧いて出た白い毛むくじゃらの物体。浮遊し身体は半透明なところから見て霊的な感じだが、俺たちと敵対するような雰囲気ではなかった。俺は今も浜辺を走り回って資材の回収に精を出すビルドを呼んで、その白い毛むくじゃらのしろじいという存在の話を聞くこととなった。

 

 

 

「要するに、この『からっぽ島』の所有権をビルダーであるビルドに譲り渡す代わりに、かつてのように緑ある豊かな島に開拓してほしい。……ということでいいのか、しろじいとやら」

 

『ふぉっふぉっふぉ。その通りじゃよ、モモンガどの。まぁ、ビルドはあのようにピンと来ておらんようじゃが、お主らのようにしっかりとした考えを持つ者たちがおるんじゃから大丈夫じゃろう』

 

しろじいの説明を受ける際も、ビルドは神殿跡地の建材が気になるのか話をそっちのけにして壁や柱を木槌で壊せないか試していたもんなぁ。その時、話を聞いていたヘロヘロが疑問を呈する。

 

「けど、この島には何もないじゃないですか?どうやって開拓すれば」

 

『このからっぽ島がある海域には大小様々な島があるんじゃよ。中でも農業が盛んな島、モンゾーラ島に行けば、痩せた土地を緑のある土地に生まれ変わらせる方法があるかもしれんのう。丁度、浜辺の方に船も着いたようだし、どうじゃろうか。モンゾーラ島に行ってその方法や物資を得てきてくれんかの?』

 

「「「え?」」」

 

しろじいの言葉を聞いて見下ろすと、確かに俺たちが寝食をしている仮拠点の近くに小さな船が接岸していた。それを見たビルドは背負っていた大木槌をフルスイングし、ぼんやり船のある下の方を見ていたヘロヘロさんを空中に弾き飛ばすと彼に飛び乗って一緒に崖下の方へ落下していった。突然の展開にパニックになったヘロヘロさんの悲鳴が遠のいていく。

 

「って、おいぃいいいいいいい!?」

 

俺は急いで来た道を引き返し、落下という方法で船に向かっていったビルドとヘロヘロさんの後を追うのだった。

 

 

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