しろじいに鉱物が取れる炭鉱を中心に発展したオッカムル島の情報を聞き、チームを編成し、船に乗って揺られること3日。オッカムル島へと上陸した。
農業が盛んだったモンゾーラ島とは違い、吹きさらしの赤い岩の壁と砂の地面の景色。砂浜の砂とはまた違った感触に船をいの一番に降りたアウラとマーレがはしゃいでいる。ビルドは船着き場から降りて右手の方にある木と鉄っぽい何かで作られた建材が気になるようで俺たちとは別行動を取る形となっている。
「あ、モモンガさま。あれって何ですか?」
その時、俺が纏っているマントを『くいっ』と引いたマーレが指さしながら尋ねてくる。彼が指し示した先には砂に埋もれたレールの様なものがあった。俺はマーレやヘロヘロさんたちを連れて、そのレールらしきものがあるところまで移動する。そこで砂を手で払って、何なのかを説明しようとしたその時、地震が起きた。そこまで揺られるものではないなと思った瞬間、俺たちが立っていた場所の底が抜けた。
「「「はいっ!?あっ……」」」
何の抵抗も出来ずにただ落下する俺たち。不幸中の幸いと言うべきか、そこまで深い穴ではなく、斜めに掘ればすぐに出られる程度。ヘロヘロさんが魔導士の杖を使って辺りを掘ろうとした時、カキンッという金属を叩いた時の様な甲高い音が響いた。
続けてカンカンカンと両手に持った杖で辺りの壁を、触手をめいっぱい伸ばして杖で至る所を叩くも同じ手応えらしく、ヘロヘロさんから余裕がなくなった。
「いやいや、杖を使わずとも触手で直接持ち上げ……られないっ!?」
狼狽するヘロヘロさん、ぶくぶく茶釜さんも現状を察したらしく、壁や地面を触って確かめるが縋るような視線を俺に寄こしてくる。アウラの鞭を使って脱出しようにも括り付けられる物体は穴の周りには何もなく、マーレも使える魔法は俺と同じメラ。幸い食料は各自あぶりコンブを持っているので幾日かは持つが、そんなことを考えなくとも俺たちには強い味方がいる。
「おおーい、ビルド。助けてくれー」
俺は穴の外にいる状況を打破する力を持ったビルドに救助を求める。すると遠くの方で、甲高いカンカンカンという音が聞こえてきた。彼も向こうの方で俺たちと同じく地震による陥没によって穴に落ちたらしい。
「ハハハ、ビルドも仕方がないなぁ。……って、詰んだぁっ!?」
「ど、どうしようモモちゃん。いっそ、装備をひも状に結んで脱出を図ってみる?」
「でも周りには何もなかったよね、ぶくぶく茶釜さん。うわーん、誰か助けてー!!」
穴に落ちた俺たちは全員でどうすればいいのかを話し合う。『肩車すればいいんじゃない?』とか、『誰かを穴の外に向かって投げる?』とか、意見が出たが候補に挙がるアウラとマーレが『至高の御身を足蹴にするなんて、死んでもできません!!』と拒否して話にならない。
そんな中、穴に影が差した。異変に気付いたアウラが穴の淵を見上げるとそこには人間の少女の姿があった。彼女は穴に落ちている俺たちを見てゆっくりと両手を口元に持っていくと叫んだ。
「大変、助けが遅くてすでに白骨死体にっ!?」
「いや、俺はスケルトンだから。死んでないぞ、元々こんな身体だ」
「あら、そうなの?じゃあ、穴から出られなくて大変でしょう。これを使って」
そう言って少女は穴の中に砂ブロックを投入してくる。下でその砂ブロックを受け取ったアウラとマーレが階段状に積み重ねることで俺たちは脱出に成功した。穴の外に出れた俺たちは一息を吐き、向こう側で同じように落ちたビルドの下へ駆け寄る。するとビルドは暢気に穴の中で寝そべりながら日向ぼっこをしており、穴を覗き込んだ俺と視線が合う。
「結構、……大丈夫そうだな」
むかし ひいひいじいちゃんの たからものを こわして せっかんされた ろうやに くらべればね
俺は人間の少女からもらった砂ブロックの余りをビルドに投げ渡す。すると彼は早送りするような速さでブロックを直下置きして高台を作るとぴょんとジャンプし、風のマントを使って滑空しながら辺りの様子を確認し、赤い岩壁のところに降り立った。いきなり落下し、壊せない壁に囲まれたのに対して少しトラウマを刺激されたようだ。
「そういえば、お嬢さん。助けてくれてありがとう。でも、意外だね。僕たちのような異形種を見ても驚いたり、怖がったりしないって」
「私が住んでいる町にも外見がおっかないけれど頼りになる人がいるもの。彼女に比べれば、がいこつとスライムなんて別に怖くも恐ろしくもないわ」
「さらりと私たちは問題ないって省かれたね、マーレ」
「確かに人間種に近い姿だけど、なんだか納得いかないね。お姉ちゃん」
少女の話を聞いてアウラとマーレが頬を膨らませた不満の表情を浮かべている。それに気付いたぶくぶく茶釜さんが触手の手で2人の頭を撫でて、宥めている最中、その少女は赤い岩壁に沿って移動し蔦を回収するビルドを見て声を掛けた。
「ねぇ、君ってビルダーなんだって?ちょっと手伝って欲しいことがあるの。一緒に町に来てくれないかしら?」
てつだって ほしいこと?
ビルドが俺を見てくる。俺は大きく頷く。その様子を見て少女は俺たちに向き直りペコリと頭を下げた後に自己紹介を始める。
「私の名前はペロ。ここから少し行った先にある炭鉱の町にあるバーの看板娘……なんだけど。うーん、見てもらった方が早いのよね」
やれやれといった表情をするペロに俺たちは首を傾げる。先導するように歩き始めたペロの後を追って、俺たちも歩み始めたのだが、ヒュンッと擬音がつくだろう速さで駆けだしたビルドが背負っていた大木槌を装備してフルスイングした。
彼の唐突な攻撃の犠牲者となったのは、額に角が生えたウサギだった。ビルドのフルスイングでダメージを受け、吹き飛ばされた先にある赤い岩壁に激突し息絶えたウサギ。そのウサギも魔物だったようで、死体も残らず消滅したのだが、ビルドの手には大きな一枚肉が。
「お肉だぁー!」
目の色を変えるヘロヘロさんは両手に装備した武器を振り回し、他にはいないかと周囲を見渡す。しかし、俺たちの付近にウサギはおらず、(´・ω・`)とした雰囲気をまとわせるヘロヘロさん。ビルドはいそいそと袋に肉をしまい込んでいたが、それを見ていたペロがまた口を開く。
「うーん、食料の問題もあるのよね。はぁ……あの大きな鳥の魔物さえいなければ、もう少しまともになるんだけど」
「鳥の魔物?」
俺が尋ねるとペロは憂鬱なため息を吐きつつ答えてくれる。
「ええ。ビルドが回収した肉を調理したステーキが私たちのメインの食事になるんだけれど、男たちが取りに行くと決まって鳥の魔物が襲ってきて肉を横取りされてしまっていたの。鉱山が閉鎖して落ち込んでいたあらくれ共がますます役立たずの腑抜けになってしまっているのよね」
ペロの短い言葉の中に色々な問題点が集約されていた。
まず、ここでも食料の問題があること。主食が肉だけっていうのはかなり拙い気がするが、鳥の魔物の討伐も考えないといけないらしい。そして、炭鉱の町にも関わらず、肝心の炭鉱が閉鎖しているとはどういうことなのだろうか。
そのことを考えていると町のゲートが見えてきた。その下に剛腕を持つ巨人が立っていた。顔の部分に申し訳程度の布を巻いている。それは紛れもなく、アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーの1人であるやまいこさんだった。
「ペロ!何があるか分からないから、町の外にはボクかユリのどちらかと一緒に出る約束だろう?」
「それは過保護過ぎよ、先生。先生たちが来る前までは私がこの町にいるあらくれたちの面倒を見てきたんだから、そこらの女子と一緒にしないで欲しいわ」
「はぁ、それは分かっている。だけど、君に何かあったら……っと、お客さんか……い?」
無断で外出していたペロを叱っていたやまいこさんの視線がようやく俺たちに向けられる。彼女は身体を震わせると、ふらふらと俺たちの方へ近寄りながら剛腕を向ける。その姿にぶくぶく茶釜さんが近づいて、抱きしめ合った。
「ぶくぶく茶釜さん?ウソ、本物?」
「本物だよ、やまいこさん。久しぶり、相変わらず先生しているね」
「う、うぉおおん!1人じゃなかった、ボクひとりじゃなかったんだ!ユリっ!みんなが、モモンガさんやぶくぶく茶釜さんたちが来たよー!」
やまいこさんの雄叫びを聞いて町から複数人駆け寄ってくる。眼鏡を掛けた黒髪の女性の姿をした戦闘メイドのプレアデスの長女ユリ・アルファを筆頭にナザリックの一般メイドが数人現れ、ゲートのところにいる俺たちを見て涙をこらえつつ、跪いた。
「戦闘メイド、プレアデスリーダー、ユリ・アルファ。以下、メイド4名、御身の前に!」
俯いているため、地面にぽつぽつと涙の痕が残っていく。集まっている面々の視線が俺に突き刺さる。俺はひとつ咳払いすると口を開いた。
「面をあげよ。お前たちの今までの働きを評価する。それと共に、我々はしばらくここに滞在する。これからも忠義に励め」
「はっ!!」
通過儀礼を終えた俺たちはペロの言う炭鉱の町に足を踏み入れる。見てわかったのはモンゾーラ島のチャコの村と同様にまともに雨風を凌げる建物が何一つ残っていない現状だった。
幸い大きく突き出した崖の下にバーの跡地のようなものがあり雨風を凌げるようだが、生活するには心もとない。加えて、ペロが言っていた通り、男たちは全員が傷だらけで、力なく俯き項垂れている。
立って歩いているのがナザリックのメイドたちとペロだけという何とも情けない状態だ。俺はビルドに目配せする。すると彼はタタタッと駆け足で移動し、建物の壁を一箇所壊して分析し、作業台で量産を始める。しかし、すぐに材料がなくなったのか無垢なキラキラとした視線を俺に向けてくる。
「まだ、もう少しだけ待ってくれ、ビルド」
俺はそれを押し留める。話を聞いてからでも遅くはないと考えたからだ。その間、ビルドには町の中を確認してもらって居住スペースを構想しておいてもらうこととした。すでにやまいこさんという存在もあって、がいこつな俺やスライムのヘロヘロさんやぶくぶく茶釜さんを見ても動揺することのなかった男たちだが、口を開けば『もうだめだ』『お終いだ』とかネガティブ発言しかせず、まともな情報を得られない。
「どう、これがこの町の現状なの。エイオウジ教団で悪の象徴とされているビルダーを頼りたくなるのも分かるでしょ?」
「ああ。ちなみにエイオウジではなくAOG(エー・オー・ジー)教団な。これ、重要なことだから念のため」
「そうなの?次からそう言うことにするわね、モモンガさん」
ペロの「モモンガさん」発言を聞き、ユリをはじめとしたメイドたちが殺気立つが俺はそれをすぐに制する。俺はヘロヘロさんやぶくぶく茶釜さんにこれまでの経緯をやまいこさんやメイドたちに教えるように伝え、町の中を歩こうとして気付く。はねた金髪の男の子の姿がないことに。
「……あれ、ビルドはどこに行った?」
「え、ビルドくんならさっきまで、バーの跡地で茶色と鈍色の壁と床を触って。……いないですね」
視線を交わした俺とヘロヘロさん。次第に冷や汗が出てくる。するとおずおずとしながらだが、メイドの1人が俺たちに近寄ってきて告げた。
「モモンガさまたちに馴れ馴れしい態度を取っていたあの人間の子どもでしたら、町の東側から出て行きました」と。
素材島での悪夢を思い出したぶくぶく茶釜さんがその場で硬直し、そのまま地面に倒れた。それを見て慌てる面々を他所に俺とヘロヘロさんは装備を再確認し、すぐに走り出した。後ろからユリの制止を促す声が聞こえてきたが、それを無視して俺たちは町の東側から出てビルドを追う。
「うわぁ……、草木いっぽん残ってないや。いや、元々ないのかもしれないけど」
「岩壁に染みが残っている。あの形状からして、ウサギの他にスライムもいるっぽいですね。あと、大きな8本脚を持つ生物も」
「……砂漠で8本脚だと、昆虫だと思う。けど、こんな足跡を残すような奴に襲われたらただの人間はひとたまりもないでしょうね」
俺たちは周囲を警戒しつつも先に進む。進んだ道中、壁の窪みに隠れるように小さなオアシスがあった。緑色の草と煽情的な赤く派手な花が生えた健康的な土壌、透き通った湧き水。そこにはたき火と草が一箇所に集められた簡易的な拠点のようなものとなっており、誰かがここで過ごしていたことが窺えた。
しかし、そこにもビルドの姿はない。俺とヘロヘロさんは視線を交わし、なおも先に進もうとした。その時、「ぐぺぇあっ!?」という聞き覚えのある声で聞き覚えのない悲鳴と何か硬いものに物がぶち当たる衝撃音が響き渡った。
その発生源へ急いで向かうと、大木槌を背負い直し、むふーっと鼻息を鳴らすビルドの姿があった。その表情はかつてヘロヘロさんが焙りコンブを食べるために収納箱を取り込み、たき火で火炙りの刑にされた時と同様に『僕、怒ってます』の表情だった。
そんなビルドの視線を追うと、赤い岩壁に貼り付けとなっている鳥の魔物、もとい黄金色の羽毛を持つバードマンがいた。それはアインズ・ウール・ゴウンのメンバーの1人で、ぶくぶく茶釜さんのリアルでの弟であるぺロロンチーノ。
「えっと、ビルド。何があったか大体察しが付くのだが、とりあえず何があった?」
よわらせたうさぎを よこどり しようとしたから ふるすいんぐで むかえうった
岩壁からずるりずるりと落ちて砂の地面に気を失った状態で転がるぺロロンチーノ。
これで今のところ、ブループラネットさん以外はコンプリートだなと思いながら俺はぺロロンチーノを肩に担ぐ。するとビルドは不思議そうに俺を見てくる。そして、珍しく疑問を口にした。
ももんがさん まるやき?
「しないよっ!?ぺロロンさんは俺たちの仲間だからな!!」
本気だったのか、冗談だったのか、表情が変わらないビルドの発言に思わずツッコミを入れる俺。ヘロヘロさんはペロの言っていた鳥の魔物は確実にぺロロンチーノのことなんだろうなと、これから起こる騒ぎを案じて少しナイーブになっている。なおも先に進もうとしたビルドを嗜めて、俺たちは炭鉱の町に戻るのだった。