からっぽ島開拓記~ナザリック風味~   作:甲斐太郎

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オッカムル島編 その②

俺に担がれたぐったりとした状態で炭鉱の町に来ることになったぺロロンチーノさんの姿を見た反応は主に2種類。

 

「いっかくうさぎを倒す際に横取りしてくる鳥の魔物を討伐してくれたんですね、ありがとうございます」なペロをはじめとした住人たち。

 

「ぺロロンチーノさまぁ!痛々しいお姿に!おのれ、下手人はどこの誰だ!」と闘志を燃やすメイドたちである。

 

俺たちの疲れた様子とビルドを交互に見たぶくぶく茶釜さんはすぐに何かを察し、凄い勢いで近寄ってきて触手で俺から彼を奪い取る。そのままぺロロンチーノさんを掴み上げると高く持ち上げて、その真下に叩き落した。

 

それを見て、メイドたちが『ぶくぶく茶釜さまがご乱心!?』と慌てていたが、その衝撃で起きたぺロロンチーノさんは目の前で仁王立ちするピンクのスライムを見て目を白黒させた後、叫んだ。

 

「げぇ!?姉ちゃん、ナンデココニ!?」

 

「黙れ、愚弟。そこに正座しろ」

 

ぶくぶく茶釜さんによるぺロロンチーノさんの説教を見ないようにしながら、俺はペロや住人たちに彼が俺たちの仲間であることを伝える。今まで散々痛めつけられてきたこともあって非難の声を上げる男たちもいたのだが、『ぺロロンチーノさまに獲物を奪われるお前たちが弱かったからいけないんだ』『現にペロちゃんは肉を獲って帰ってきているじゃないか』と、強気のメイドたちに言われてタジタジになっている。

 

「それって、ただ単にぺロロンがペロちゃんを女の子だからって狙わなかっただけじゃないの?」

 

「ヘロヘロさん、少し黙っててください。……お前たち『強者こそ絶対』、そう言いたいのか?」

 

俺は咳払いをして、あらくれたちを押さえつける発言をしたメイドたちに尋ねる。すると、『その通りです』と自信満々に告げた。

 

そして、ユグドラシルで絶対的強者だった俺たち至高の41人を称えるような賛美の言葉が次々と出てくるので、少し止めさせる。賛美を止められて、少ししょんぼりとした表情を浮かべるメイドたちに、俺は『ぺロロンチーノを倒したのがビルドである』ことを伝えた。言葉もなく憤怒のオーラを発するメイドたち、その近くを丁度ビルドが通りかかり、彼女たちは揃って彼に襲い掛かった。俺はすぐにビルドに反撃していいと目配せする。

 

その結果、ビルドの大木槌によるフルスイングを受けて赤い岩壁に貼り付けになったメイドたちは、ずるりずるりと落ちて地面に転がった。

 

 

なんだったの あのひとたち?

 

いきなり襲い掛かってきたメイドたちを一蹴したビルドは、大木槌を背負いなおしつつ疑問を口にする。俺は彼の頭を撫でながら、遠い目をしつつ答える。

 

「気にするな、『強者こそ絶対』なのだそうだ。それで、ビルドは今まで何をしていたんだ?」

 

うん これを つくってた ももんがさんと ヘロヘロさんも ひとつどうぞ

 

そう言ってビルドは湯気を立ち昇らせる緑色の物体の一切れを指でつまんで口に放り込んで咀嚼する。俺とヘロヘロさんも、それをもらって口に放り込んだ。

 

「もぐもぐ……。目立ったクセもなく食べやすいな。例えると、そうだな……。火を通したウリのような食感と味だ。少し口の中がねばねばするが、気になるようなものではない。うん、この濃い味付けのソースがあれば普通に美味い。ビルド、これはいったい?」

 

さぼてんの かにくを すてーきに したものだよ 

これが たべられるのなら たねを とうかんかくに うえとこうかな

 

そう言ってビルドはサボテンステーキの乗った皿を俺に渡すと「いい土地はないかな」と町の中を再度見て回る。俺はこのまま冷ましても勿体ないと思い、残っているサボテンステーキを口にしようとしたのだが、俺の手元に残っていたのは石材を削って作られた皿のみ。見れば、隣にいたヘロヘロさんが残りのサボテンステーキを全部、口に放り込んでいた。口が閉じられ、味わう様をむざむざ見せつけられる。

 

「……おい」

 

「てへペロ♪」

 

『きゃるるーん♪』と可愛くポーズを決めるヘロヘロさんだったが、むかついたので俺は魔導士の杖を取り出してメラを発動し燃やす。しかし、それが分かっていて避けないはずがなく、ヘロヘロさんは器用に粘体の身体を細長くしたり、地面にべちょっと潰れた感じになったりして避けたりする。

 

俺の怒りのボルテージがふつふつとマグマのように上がり始めた頃、マーレが止めに来た。配下の者たちに無様な姿を見せたと俺が猛省していると、住民たちから『彼を許してやってくれ』と懇願される。

 

どういうことだろうと、ヘロヘロさんと一緒に見た彼らの視線の先では、ピンク色のスライムに説教を受けていたバードマンが丸焼きになっていた。どうやら、俺の魔法の流れ弾が直撃したらしい。しかも、彼に背中を向けていて、それに気付いていないぶくぶく茶釜さんの説教は続いている。その上、彼が正座を止めようとするたびに、怒声が上がり、正座を続行せざるを得ないという一種の拷問となっている。ユリやアウラがぶくぶく茶釜さんをどうにか説得しようとしているが、姉として弟のぺロロンチーノの所業に怒っている彼女はテンションも大幅アップしているのか聞かずにいて、2人はすでに心が折れて涙目である。

 

「そこら辺にしようか、茶釜さん」

 

そんなぶくぶく茶釜さんに声を掛けたのはやまいこさんだった。そこでようやく我に返ったぶくぶく茶釜さんが見たのは真っ黒こげになったぺロロンチーノさんの姿。『あれぇ!?』と別の意味で驚愕していた。

 

 

 

 

バーの跡地の東側の建物跡地の壁をすべて取っ払い、崖側に唯一設置されていた木のトイレ便座をどかし、少し広めの空間になるように新たな壁を設置していく。部屋の奥にトイレを備え付け、枯れ草を使ったわらベッドをあらくれの男たちの分と自分の分の計5つを並べるビルド。1階部分はそれで完成。

 

次にその建物の上に同じ広さと間取りの2階部分を作る。そこには外に備え付けた石の階段を上る必要がある。ちなみに2階は女性専用の部屋となり、ペロとメイドたちの分のわらベッドを6つ、加えて誰かが住んでいた痕跡のあった小さいオアシスで回収してきた花の種を部屋の隅に設置した土に植えたようだ。

 

で、バーの跡地の西側に、たき火を3つ並べ収納箱を置いたシンプルキッチンと、机と椅子を4つずつ設置した食事処を建てたビルド。収納箱には彼が採集してきたサボテンの果肉といっかくうさぎを倒して得た肉が入れられる。

 

で、その台所の上のスペースに俺たちの部屋が設けられた。ビルド曰く、あとでバーを建て直すことになるだろうから、それまではこのスペースでってことらしい。

 

「ところでモモンガさん、これらを建てるのに1時間もかけないビルドくんを見てどう思いますか?」

 

「人間技じゃないですよね。ビルダー見習いのビルドでこれなら、プロのビルダーってどんな存在なんだか」

 

「私たちが想像もできないものをパパっと作っちゃいそう。もしかして、このままビルドくんが成長していけば、からっぽ島にナザリック地下大墳墓を再建できる日が来るのかもね」

 

「なぁ、姉ちゃん。その話、もっと詳しく」

 

俺たちのために用意された部屋にて、早速メイドたちが作ったステーキとサボテンステーキを肴にして、やまいこさんとぺロロンチーノさんに簡単な説明を行う。種族レベルと職業レベルの恩恵がなく、ユグドラシルの魔法やスキルも使えないことは2人ともすでに理解していた。

 

その他にもからっぽ島の開拓のことや、モンゾーラ島での冒険と世界樹の作成などを話すとブループラネットさんの時のように「モモンガさんたちだけずるい」と指摘される。

 

「それにしても、飲み物はどうにかなんないのかなー。確かに美味しい水なんだけれど、こう……ね?」

 

「油で焼いて濃いソースを使っているからか、口の中がギトギトするんですよね。炭酸とは言わないけど、何かないかなー」

 

「そんな都合よく、そんなものが手に入る訳が……」

 

「失礼しまーす。大木槌の子からモモンガさまたちへ持って行ってって頼まれました」

 

そこに現れたのはアウラとマーレ。マーレは両手でコップを乗せたトレイを持っている。部屋の中に入ったアウラはトレイに乗ったコップを俺たちに渡していく。コップの中には濃い紅色の液体がなみなみ注がれている。

 

匂いを嗅ぐと植物らしい爽やかな香りがした。皆が俺を見ていて飲もうとしないので、率先して口をつける。フローラルで甘い味のする度数の高いお酒だった。

 

「うまっ!?こんな美味いのリアルでも飲んだことないんですけど!?」

 

あまりの美味さに立ち上がって喜びを表現する俺を見た皆が手に持つコップに視線を落とし、一気に煽る。

 

「「マジで!?ぐびぐび、うまーい!!」」

 

「おぉ……、まさか異世界に来て初めての飲み物がお酒なんて。ちびちび……何これ美味しい!ほら、アウラとマーレも飲んでみて」

 

給仕をしてくれたアウラとマーレがいなくなったので、俺は自らお代わりをビルドにもらいに向かう。すると、ヘロヘロさんとぺロロンチーノさんが部屋の扉を使わずに跳んで降りてきた。バーの跡地で酒樽を使って、その酒を振舞っているビルドの下へ行くと感想を尋ねられる。

 

るびーら おいしかった? 

ぼくは にがてだけど

 

「ああ、美味だった。なるほど、これにツタ実を入れて熟成させるのか」

 

「リアルだったら年単位の熟成が必要になるんだよ?この世界の法則は意味わかんないけど、こういうのは大歓迎だよ!お代わり頂戴」

 

ヘロヘロさんのコップを受け取ったビルドはそれにルビーラという名の酒を注ぐ。そんな彼の横でしどろもどろになっているぺロロンチーノさんが意を決して話しかける。

 

「あ、えっと、その……。襲ってごめんな!俺はぺロロンチーノ、モモンガさんたちと同じギルドのメンバーだ。……コンゴトモ、ヨロシク」

 

少し伏目がちに告げたぺロロンチーノさんのコップを受け取り、何も言わずにルビーラを注いで渡すビルド。そんな彼に好感を抱いたぺロロンチーノさんは、色々と話しかける。俺も無事にお代わりをもらい、味を楽しんでいるとふと脳裏にあるアイディアが閃く。

 

「これって、小麦を入れればビールになるんじゃ?」

 

俺の発言を聞いて目を見開くヘロヘロさんとぺロロンチーノさん。しかし、このオッカルム島に来る際に荷物は何一つ持ってこれなかった。当然であるが、小麦もその種もこの島にはない。いや、もしかしたら島をくまなく探せばあるのかもしれないが、鉱物を求めてオッカルム島に来ている以上、あるかもしれないという不確かな情報で小麦を探索する訳にはいかない。

 

「くっ……、からっぽ島に帰るまで、ビールはお預けか」

 

「酒樽って色々な使い道がありますよね。やばい、からっぽ島にある野菜や果物を使ったらどんなことになるのかを想像するだけでよだれが止まらない」

 

「くっそー。早く炭鉱を調査してからっぽ島に行こうぜ、モモンガさん!」

 

「いや、ぺロロンチーノさん。その肝心な炭鉱が閉鎖している状態なんですよ」

 

「なんでっ!?」

 

ルビーラを飲んで多少なりとも元気を取り戻したあらくれたちであったが、相変わらず炭鉱の入り口が固い岩盤で塞がれている以上何もすることができないのには変わりない。それをようやく理解したぺロロンチーノさんは、ルビーラを配り終えて汗を拭くビルドに声を掛ける。

 

「なぁ、ビルド。お前、すげぇビルダーなんだよな?何か岩盤をぶっ壊せるような何かを作れないのか?」

 

うーん いまは むり いずれはって おもいはするけど

 

ビルドの否定的な言葉にがっくりと項垂れるぺロロンチーノさんだったが、その問答が“彼”に届き、事態は急転する。

 

 

【……ビル……ダー?……頼む、力を貸して……くれ!】

 

 

町にいた全員に聞こえた声。ペロが率先して走り出し、その後をビルドが追う。俺たちも彼らの後を急いで追った。その先でビルドが大木槌を振るいまくり、砂と土によって埋まっていた石の身体を持つゴーレムことゴルドンを助け出す。彼はかつてこのオッカムル島の守護神として、この島のゴールドラッシュを支えた存在だという。

 

しかし、この島を支配する元ハーゴン教団、かつ現AOG教団の総督の手で金の身体を石の身体にされて、その上に埋められて封印されていたらしい。ゴルドンも長い間、封印されており記憶が曖昧になっていたのだ。だが力を封じられているとはいえ、守護神としてのプライドがあるとゴルドンはふらふらとした心許ない足取りで炭鉱の入り口に向かう。

 

そして、ビルドの大木槌でもびくともしなかった岩盤に手を添える。そこで、右腕を大きく振りかぶり、渾身の力を込めて殴った。ゴルドンの拳が突き刺さったところから岩盤に罅が入り、全体へと波及していく。

 

俺たちや住民が見守る中、何人の炭鉱への侵入をこれまで塞いできた硬い岩盤はあっという間に崩れ去ったのだった。

 




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