からっぽ島開拓記~ナザリック風味~   作:甲斐太郎

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オッカムル島編 その③

昔、金属を加工する鍛冶屋だったという住人のカルロから銅の鉱脈を見つけ、それなりの数を持って帰ってきてくれと頼まれたビルドは、あらくれの1人であるマッシモと共に炭鉱の奥へと向かう。

 

久しぶりの冒険に心躍る俺たちだったのだが、ユリをはじめとしたメイドたちに引き留められる。モンゾーラ島でもあったやり取りであったため、何とか言いくるめて炭鉱探索に戦闘メイドであるユリを同行させることで決着がついた。

 

「カロリックストーンを手にする為に鉱山を所有するということがあったけど、こうやってまじまじと見ながら進むってことはしなかったなぁ」

 

「そうだね。それにボクは、ユリとこうやって一緒に冒険に出かけられるっていうのは嬉しいかな」

 

「やまいこさま。ボ、ボクも嬉しいです」

 

今回、所々土砂によって埋没した炭鉱を、爆弾を使用して開通させつつ先行するビルドとマッシモのコンビを追うのは、俺とぺロロンチーノさんとやまいこさんとユリの4人である。というのもビルドたちが炭鉱に突入した直後に町の東側から、いっかくうさぎと金色のサソリのような魔物の群れが押し寄せてきたのである。強さはそこまでではなかったが、モンゾーラ島のような防壁が作られていないので、結構奥まで魔物に侵入されることとなった。

 

町の防衛のためにペロやナザリックのメイドたちも奮起する中、あらくれの男たちは建物の中に隠れてしまって、やまいこさんが怒っていた。そのため、町の防衛のためにヘロヘロさんとぶくぶく茶釜さん、それに階層守護者としての戦闘経験を持つアウラとマーレを配置することとなった。

 

途中途中湧いて出るAOG教団に属する緑色のドラキーやスコップを持ったモグラの魔物たちを蹴散らしながら思ったのは、俺以外の全員が戦いにくそうだということ。ぺロロンチーノさんは石の剣、やまいこさんとユリは魔導士の杖を持っているが、職業と武器がマッチングしていないらしく、どこか動きもぎこちない。特にぺロロンチーノさんは羽があって浮いて移動も可能なのに戦う時は地面に降りて戦わないといけないという無駄が生じている。

 

「うーん、土砂で埋まっているところが多いのかな?ビルドくんたち、盛大にやっているみたいだけど」

 

「景気よくやってんなー。爆弾を使うって言っていたっけ?耳がキーンってするぜ」

 

「遠く離れていても、これなんですから直近でやっているビルドとマッシモは更にそうでしょうね」

 

長い間、人の手が入らず放置され続けた炭坑内は荒れ果てた様子だった。

 

船着き場にもあったトロッコの線路は落下した石や土砂に埋もれ、天井を支える柱も所々が腐食していて危ないが、先行するビルドたちが砂の壁で所々を補修した跡があった。

 

その後も魔物を討伐しながら先に進んでいくと爆発音が聞こえない時間が長くなり、代わりに甲高いカンカンカンという音が反響するようになった。俺たちがビルドたちに追いつくとすでに2人は銅の鉱脈を見つけ、ハンマーとツルハシで掘る作業に従事していた。地面に無造作に転がっている銅鉱石を手にしたぺロロンチーノさんがまじまじと見ながら呟く。

 

「ユグドラシルの時は、手に入れた瞬間にアイテムに変わってインベントリに収納されていたから、こうやって実際に手に持つっていうのは新しいよな」

 

「リアルでは天然資源は取りつくされて枯渇しきっていたからね。こういった光景を実際に見れるのは1人の教育者としてもボクは嬉しいかな」

 

そう言ってやまいこさんも銅鉱石を手に取って嬉しそうに目を細めた。その横ではユリが青い表情を浮かべている。どんなことを想像しているのやら。ちなみにビルドはあらかた数を確保したのか、満足したように頷いて更に奥へ向かおうとしたが、マッシモから銅鉱石をカルロに渡してくれと言われて渋々来た道を引き返すことになった。俺たちは来たばかりということ、マッシモがもう少し掘ってみるというので、しばらくここに残ることにして町に帰るビルドを見送る。

 

そうして、ビルドがいなくなった炭鉱内でマッシモのツルハシの音だけが響く中、何かが近づいてくる気配を感じて俺たちは炭鉱の奥を見る。すると炭鉱の奥から頭から布を被りビキニパンツを履いただけの筋肉隆々で大きな斧を持った大男がAOG教団の魔物を率いて現れた。魔物が苦手だと言うマッシモは一目散に逃げ出し、必然的に対峙することになるのは俺たちだった。

 

「へっ!丁度いい肩慣らしになりそうだ。今まで炭坑内で戦ってきた敵は弱かったしな!」

 

ぺロロンチーノさんがそう吼え、やまいこさんたちも戦闘準備を執った時、大男が手に持った斧を高々と掲げた。すると大男の周りにいたスコップを持った魔物たちから放たれるプレッシャーが跳ね上がる。それを感じ取った俺は全員に注意を促す。

 

「ぺロロンチーノさん、気を付けて今までの魔物とは違います!」

 

「え?それってどういう意mへぶらっぱぁっ!?」

 

油断してモグラの攻撃を受けたぺロロンチーノさんが吹っ飛ばされて炭坑内の壁と天井や床をピンポン玉のように跳ねて、ぐったりと倒れ込む。

 

「魔物全体の攻撃力が跳ね上がっている!?さっきの大男のポーズの所為って、ユリ!防御するんだ!」

 

「分かりました、やまいこさま!ぐぅっ、きゃあっ!?」

 

魔導士の杖でモグラのスコップ攻撃をガードしたユリが吹き飛ばされる。その際、木が素材の魔導士の杖はぽっきりと折れてしまっていて、ただの棒と化してしまった。

 

やまいこさんはその巨体を持つため、大男が直接相手しており斧の攻撃を受けて血を流している。俺はやまいこさんに撤退を指示し、魔導士の杖と自ら詠唱して2連続でメラを発動させ火の壁を作りあげると気絶したぺロロンチーノさんとメイドのユリを肩に担いで、一目散に逃げる。やまいこさんも俺が作った火の壁を跨いで、追ってくる。彼女の手や胸には斧による痛々しい切り傷が残っており、装備を整えてこなかったのと、戦いを前にして慢心してしまったことを悔やむ。

 

「モモンガさん、ボクは大丈夫。こんななりだから、体力はあるんだ。それより、戦力強化の目途はあるんだね?」

 

「ええ。町の防衛も俺たちの装備強化もビルドに任せっきりになるので心苦しいところがあるんですが、その分は働いて返そうと考えています」

 

俺が担いでいたユリを町に向かって走りながら向かう中で受け取り、お姫さまだっこするやまいこさん。町に着く直前で起きたユリは自身の現状を鑑み、幸せ死したが特に記述するようなことではなかった。

 

ちなみに先に帰ったマッシモの談で俺たちが負傷している可能性があるということを聞いていたメイドたちによる救護所がすでに建っており、俺たちは押しの強いメイドたちの手で手厚い看護を受けることになる。

 

 

 

全身が石の身体でストーンマンと呼ばれる状態だったゴルドン。ビルドとマッシモが採ってきた銅鉱石をもらって頭だけが銅のカッパーマン?となった。皆の視線が集まる中、恥ずかしそうに告白するゴルドン。彼が完全なカッパーマンとなるには残り2990個の銅鉱石が必要になるということを。

 

「っていうことは、全部で3000個!?今のペースだと、ゴールドマンになるには何年掛かるんだよ!」

 

体中の至る所に包帯を巻かれたぺロロンチーノさんが吼えた。ゴルドンは力のすべてが封印されていたのだから仕方がないじゃないか、と開き直っている。彼のことを悪く言うのは俺たちには出来ないと思っているので、さらに言葉を告げようとしているぺロロンチーノさんを止める。

 

「とにかく冷静になろう。必要なのは、誰が悪いと責めることじゃない。これからどうするかだ」

 

「モモンガさん。……悪い、ゴルドン。言い過ぎた」

 

【俺もすまない。初めに言っておけばよかったな】

 

仲直りするような言葉を交わすぺロロンチーノさんとゴルドンの姿を、メイドたちがハンカチで目を押さえながら見ているが、別に感動する場面じゃないからな。俺は大男の斧による攻撃を受けて負傷し、ぺロロンチーノさんと同じように包帯を巻かれ、もはや巨大なミイラのような見た目となったやまいこさんを見る。

 

「とにもかくにも人手が足りない、何か当てがあるのかな」

 

「ええ。モンゾーラ島でもそうでしたが、村の西側に置かれている『ビルダーの鐘』を鳴らすといいんです。あれをビルダーであるビルドが鳴らすことで、鐘の音を聞いた住人たちは物作りが出来るようになり、鐘の周りに人々が集まってくるという寸法です」

 

「とにもかくにもビルドくんの力が必要ってことだね。……っと、その本人は渋っているみたいだが」

 

「え?」

 

俺がやまいこさんの視線を追ってビルドを見るとバーの店主であるアーマンやペロ、あらくれのミルズとマッシモに鐘を鳴らすように頼まれるが、まだ鐘はつけないと拒否するビルドの姿があった。

 

何か考えがあるのだろうかと俺がビルドに近づく前に、ヘロヘロさんやぶくぶく茶釜さん、ぺロロンチーノさんが彼を囲み、今後のことも考えてビルダーの鐘を鳴らしてくれと懇願している。現状を打破したいという気持ちが分かる光景だった。

 

その中でビルドの視線が俺に向けられる。それと同時に、炭鉱の町の住人である人々の視線、ヘロヘロさんやぺロロンチーノさんといったギルドメンバーたちの視線、俺たちの生活を支えるメイドたちの視線が集まる。鐘を鳴らすのに反対意見なのはビルドだけのようだったので、俺も彼に鐘を鳴らすように頼んだ。

 

 

ぼくは いやだって いったからね

 

そう念押ししてビルドは大木槌を大きく振りかぶってビルダーの鐘を鳴らす。

 

心地よい鐘の音色に心酔いしれる中、町の住人たちが体の奥から溢れ出る物作りへの意欲にやる気を出す姿を見て、やはり鐘を鳴らす必要があったのだと俺は頷いた。

 

しかし、その後に起きた展開で状況は一変する。

 

ビルドが鳴らした鐘の音を聞き、モンゾーラ島の時のように人々が集まってきたのだが、想定していた人数よりも遥かに多かったのである。

 

セルジというAOG教団を敬う青年、

ミルズやマッシモと同じ炭鉱夫のあらくれたち6人、

ナザリックのメイドたち18人、

頭部が犬の顔を持つナザリックのメイド長であるペストーニャ・S・ワンコ。

加えて、戦闘メイドのプレアデスの1人であるショゴスのソリュシャン・イプシロン。

そして、アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーであるベルリバーさんがやってきたのである。

 

新しい人員が町にやってきて活気に沸く中、鐘をつき終えたビルドは喧騒から離れるようにして炭坑に繋がる階段を下りて行こうとしたので、俺はそれを呼び止める。しかし、ビルドの俺を見る眼はかなり冷めていた。まるで現状を理解していない愚か者を見るかのように。

 

ぼく これから たんこうの ふっきゅうを しないと いけないから

ももんがさんたちは なかまたちと たのしめば いいんじゃないの

 

突き放すような物言いに俺はムッとしてしまい、ビルドをそのまま行かせてしまう。彼の様子を階段の上から眺めているとゴルドンが土砂に埋まっていたところに壁を作り、松明を置いて灯を確保、扉を置いて簡易的な部屋を作った。わらベッドを敷くのが見えたから、当分の間ビルドはあそこで寝泊まりするようだ。

 

あそこまで怒る必要があるのかと思いつつ、広場に上がると再会に色めき立つ集団の中に、じっと俺を見据える存在がいた。体中の至る所に歯茎が剥き出しの口がある肉塊という見た目のベルリバーさんだ。その外見から炭鉱の住民たちは近寄りもしない。俺は人の波を掻き分けてベルリバーさんの下へ向かい、

 

「下手打ちましたね、モモンガさん」

 

再会を喜ぶ発言を期待していた俺だったが、ベルリバーさんの淡々とした声で、いきなり諫言を受けることになった。

 

「ヘロヘロさんやぺロロンチーノさんから、この世界の理についてあらかた聞かせていただきました。やまいこさんやぶくぶく茶釜さんから、ここが鉱山の町で鉱物を集めるのに人手がいるという話も聞きました。メイドたちにここで生活する上で必要になるものも聞かせてもらいました。その上で、俺はギルドマスターという立場にあるモモンガさんに言わなければならない」

 

ベルリバーさんの言葉が先ほどのビルドの視線も相まってグサッと心に突き刺さる。

 

「鐘の音でここにこれた俺が言えることではないが。……何故、人を呼ぶのをためらったあの少年の意見を聞かなかった?見ろ、この人数を。ゲームとは違うんだ。俺たちもメイドたちも腹が減る。ホムンクルスという種族の特性で普通の人間よりも俺たちよりで量を食べるメイドたちのことにモモンガさんは気づいていたか?魔物を狩って得られる肉の量など高が知れる。だから、あの少年は肉以外の食事で賄えるようにサボテン畑を作ったり、キノコ部屋を作ったりして食料の供給を彼なりに考えていた。それで十分に皆が食べていける量を確保してから……というのは俺の勘だが、あながち外れてはいないだろう。それで、キーマンとなる少年との関係に溝を作ったモモンガさんはどんな行動を取る。今の少年にはどんな言葉も通じないだろうよ」

 

ベルリバーさんはそう言って「俺とは気が合いそうだ」と言って、階段の下にあるビルドの仮宿へと向かっていった。

 

 

 

俺は1人、シンプルキッチンに向かう。

 

そして、設置されている収納箱の中を確認し、愕然とする。今まで通り、ここにいる住人とメイドたちに自分たちがいつもの量を食べると、明日の朝には食料が尽きてしまうことに。

 

俺はシンプルキッチンから出て、ビルドが育てているサボテン畑に向かう。そこにはぴょこんと砂から頭を出した背丈の低いサボテンたちが並んでいるだけで、これでこの町に集まった人員、全てを賄えることが出来るとは思えなかった。

 

だが、ユグドラシル出身の俺たちは作業台どころかたき火すらまともに使えない。階層守護者であるアウラとマーレも同様にだ。俺たちは戦うことでしか貢献できない。にも係わらず、俺たちは目先の利益に飛びつき、もう後戻りできない失態を犯してしまった。

 

ベルリバーさんの言う通り、ビルドの信頼関係に罅を入れたのは俺自身だ。あの時、縋るような視線を向けてきたビルドの手を振り払い、このどうしようもない現状を生み出したのは俺の責任だ。

 

せめて、今の俺に出来ることをしようと武器と装備を整えて、町の外のいっかくうさぎを狩ろうと向かう。すると、ぶくぶく茶釜さんが声を掛けて来た。

 

「一緒に行くよ、モモちゃん。……モモちゃんとベルリバーさんとの会話、聞いちゃった。私たち、考えが浅はかだったね」

 

「仕方がないですよ。モンゾーラ島では勢いで乗り越えられてしまいましたから。ここでも大丈夫だって、どこかで驕っていたんでしょうね」

 

「ビルドくん、私たちに愛想尽かしちゃったかなぁ」

 

ぶくぶく茶釜さんは悲しそうに彼がいる方角へ視線を向ける。しかし、そちらには向かわず、俺と一緒に並んで町の外へ向かう。すると目の間に現れたウサギが鞭で叩かれた挙句、『ボォッ』と発火してこんがりと焼けたステーキになって砂の上に落ちた。

 

「モモンガさまー!私とマーレも手伝います」

 

「何でも言いつけられてください。ボクもお姉ちゃんも全力でお手伝いします!」

 

「お前たち……」

 

俺はアウラとマーレの頭を撫でると魔導士の杖を握りしめ、メラを発動させ近づいてきた金色のサソリを燃やす。今の俺に出来ることをするために、俺はぶくぶく茶釜さんたちを引き連れて、町の東側の魔物たちを討伐するのだった。

 




誤字脱字修正ありがとうございます。
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