からっぽ島開拓記~ナザリック風味~   作:甲斐太郎

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オッカムル島編 その⑦

夜も更け、人は眠り、死神が徘徊する深夜。

 

ゴージャスプールのバーの裏にある発酵所に入り込む人影があった。発酵所には酒樽が計8個ほど置かれ、それぞれに違った素材から作られた酒が入っており、飲まれるのを今か今かと待っている。そんな発酵所の奥に向かうとカーテンに隠された扉が現れる。扉を軽くノックすると中から声が聞こえてきた。

 

「シャルティアの胸の大きさ」

 

「ちっぱい」

 

本人が聞いたら絶望しそうな合言葉を告げると、かちゃりと鍵が開く音がして奥の部屋に入れるようになる。扉を開け、中に入るとそこにはすでにメンバーが揃っていた。

 

ビルドにベルリバーさん、俺、そして先日キノコの群生地で救出されたナザリック地下大墳墓の副料理長である茸生物の通称『ピッキー』の4人である。その中でピッキーが小さく声を発する。

 

「このような機会を設けていただき、大変恐縮でございます。ビルドくんの協力の下、開発した新しいドリンクでございます。ご賞味のほどをよろしくお願い致します」

 

ピッキーは、「まずは……」と緑色の液体が注がれたコップを俺とベルリバーさんに差し出した。

 

 

 

翌朝、スケルトンの癖に二日酔いで気怠い状態だった俺は、今日も元気にゴージャスプールの完成に向けて建築を進めるビルドを眺めている。

 

最初は砂に腰掛け、岩にもたれ掛かるだけの態勢だったのに、メイドが木で作られたビーチチェアを持ってきて俺に座らせ、「お暑いでしょう」とビーチパラソルが差され、メイドの1人が団扇を扇いで心地よい風を送ってくる。いつのまにか木のテーブルが置かれ、氷の入った冷たいジュースまで準備され、快適空間になってしまっていた。どこの大富豪だ、俺は。

 

ビルドはゴージャスプールの設計図で素材が金の物以外を設置し終わり、建築物の上の方で、ぐっと背伸びしている。

 

ビルドから視線を外して下のバーを見るとピッキーがシェイカー振っている。彼はナザリック地下大墳墓の副料理長という肩書を持つと同時に、9階層のバーのマスターも兼任していた設定を持つNPCだ。

 

キノコの群生地にて、数十年前に炭鉱に閉じ込められてしまったオンバという女性と共に救出された彼は、鉱山の町の顔であるアーマンのバーを見て、どこかウキウキした様子だったらしいのだが、そこには店主がちゃんといて、お客も入っていて、自分の居場所はないとがっくりと項垂れていたらしい。

 

だが、ビルドが建築中のゴージャスプールに備え付けられているバーは誰も使っていなかったので、そこがピッキーの城となった。しかも、裏には発酵所があり、ドリンク作成スキルを持つ彼には天国の様な環境だという。

 

そんなピッキーのバーで飲める酒はアーマンの店の物と何ら変わらない。彼が、というか俺たちが新作のドリンクを作って夜な夜な試飲という名の酒盛りをしている事実を知るのは、俺たち4人だけなのだ。

 

お披露目はちゃんとする予定だ。ビルドが建築しているゴージャスプールが完成した暁には盛大なパーティーが開かれる。そこでペロのハッスルダンスを見ながら、ピッキーの頑張りとしてバブル麦汁(ビール)やチャキーラ、常夏ドリンクなどを提供する予定である。サボテンから作った野菜ジュースと、薬の葉を使った青汁は、何とも言えない味だった。後者はすごく回復した気がするけれど、もしかしたらユグドラシルで使っていたポーションもあんな味だったのかもしれないと思うと感慨深いものがあった。

 

三か所の銀鉱脈から得られる銀を以って、ゴルドンがシルバーマンへと進化するのに必要であった6000個の銀が集まった。それを使って、カッパーマンからシルバーマンへと進化を果たしたゴルドンであったが、彼は申し訳なさそうに人差し指をいっぽんだけ立てつつ、告げた。

 

【グゴゴ……いち。……ゴールドマンになるのに必要な金の数は、10000個だ】

 

広場に集まっていた全員が予想していた数だったので、特に騒ぎは起きなかったものの、問題は金の鉱脈がどこにあるのかまったく見当がつかないことにあった。銀の時はマッシモのがめつい精神が働いたので少し問題が起きたが、今回は違う。まったくもって何の手掛かりがないのである。

 

【大丈夫だ。探す方法はある】

 

そう言ってゴルドンはビルドに自分が持っていたアイテムを手渡す。それは半分に欠けた笛だった。

 

 

 

「おぉー!作り込みがすっごぉーい!」

 

「なるほど、これは見る価値があったね」

 

ピッキーと一緒に救出されたオンバより、かつてはハーゴン教団のオッカムル島を支配するために送り込まれた総督で、現在のAOG教団の総督でもあるメドーサボールが、オッカムル島の守護神だったゴルドンから奪った宝を封じたという遺跡やってきた俺たち。

 

メンバー構成は、俺とビルドに加えて先の魔物戦で大活躍だった女性メンバーとNPCたちである。地下という限られた空間に作り込まれた遺跡。造形も素晴らしく、要所要所におかれたかがり火が、雰囲気を更にミステリアスに変えている。階段を上った先には、これまた天井が高い広間があった。左右に台座が3つずつあるにも関わらず、石像が2体ずつしかないのを見て、ぶくぶく茶釜さんが「これは何かの仕掛けがあるね」と、どこかの探偵ばりに告げる。

 

その時、かちゃんという音が聞こえたので振り返るとビルドとやまいこさんとユリがミステリアスな雰囲気を醸し出していたかがり火を破壊して採集していた。

 

「って、おいこら!そこの脳筋ども!せめて、この遺跡の謎を解明してから採取しろ!」

 

ぶくぶく茶釜さん。それって、逆に言えば俺たちが楽しんだ後は、遺跡を破壊してもいいっていう許可なのでしょうか。

 

それから俺たちは台座に置くための石像を探して遺跡内を捜索する。謎を解き、床が壊れて落ちた先に待っていた死霊たちを倒し、剣による攻撃や魔法が効かない敵に遭遇したり、『引き返せ』と言ってくる石の不気味な顔のある間を通り抜けようとして、 にゅあんすが ちがった というビルドが不気味な石の顔ごと壁を壊した先に世界樹の葉を見つけたりしながら進んだ。

 

「世界樹の葉かぁ……」

 

俺はそれを手にしたビルドが袋にしまうのを見て、その視線をアウラとマーレへと向ける。彼女たちは自分たちの時のことを思い出したのか、ぶるりと震えた。それを見て、やまいこさんたちがアウラたちに何があったのかを聞いているが、遠い目をしていると思われるぶくぶく茶釜さんは笑ってお茶を濁すのだった。

 

そして、最初の大広間に揃う6体の石像は、何だかこういう遺跡のお約束と言わんばかりに襲い掛かってきた。途中で戦った石人形と同じように魔法や剣の攻撃は効かなかったが、ビルドの大鉄鎚によるフルスイングを受けた石の石像のその部分が砕け散る。それを見て石の石像の動きがピタリと止まった。その気持ちはよく分かる。

 

今の所、俺たちのメンバーに大鉄鎚によるフルスイングを受けた者はいない。だが、今回のAOG教団の幹部がアウラとマーレの時のように黒い瘴気によって周りが見えなくなっていた場合、待っているのはビルドのフルスイングによる治療である。

 

二の足を踏む石の石像たちだったが、にっこりと笑ったビルドから逃げることは出来ず。全て粉砕され、大人しく石材としての第2の石生を全うすることになるのだった。

 

びるどは やまびこのふえのかけらを てにいれた

 

 

 

「「違う……。そうじゃないんだ」」

 

元々ゴルドンが持っていたやまびこの笛を修復し、金の鉱脈をしっかりと見つけたビルドは、掘り起こすのはすべてあらくれたちに任せて、町での作業に没頭している。その中のひとつのお願いで町にいるすべての者が使えるシャワー室を作って欲しいというお願いを受けたビルドだったが、完成したシャワー室を前にしてセルジという青年とペロロンチーノががっくりと項垂れている。話を聞こうと近づくと、2人は逃げるように去ってしまったので話を聞けず、しかたなく設置した本人に尋ねることになった。

 

みたほうが はやいと おもう

 

言葉少なく、そう告げたビルドの案内で、出来上がったばかりのシャワー室を見せてもらうことになった。壁や床はすべて銀タイルという贅沢な作り。まずは男用となっているシャワー室に向かう。2人分の更衣ロッカーと衝立がありプライバシーが確保されている。その先にある扉を開けるとシャワーが2基設置されており、南側の壁はガラス窓で出来ていて青空と共に開放感が半端ない。ただトロッコに乗って鉱山に向かおうとしているあらくれの1人と目が合い、変な空気になった。

 

「……プライバシーはどうしたんだ、このシャワー室!?」

 

せるじと ぺろろんちーのさんが のぞんだ しゃわーしつは すけすけだったんだ

 

「おいっ!エロゲ脳、ビルドになんつーもんを作らせているんだよ!」

 

だいじょうぶ おんなのひとようは ぷらいばしー かんぺき だから

 

 

そう言うビルドの案内で女用のシャワー室を見せてもらった。更衣室はまったく同じ作りで、シャワー室だけが壁が完全な銀ブロックで囲まれている。明るさを確保するために上の方に壁掛け松明がつけられているくらいだ。

 

「なるほどな。男用と女用のシャワー室を作り、男用をスケスケにすることで依頼は達成しつつ、セルジやぺロロンチーノさんの好き通りにさせなかった訳か。よく考えたな」

 

じつは このおねがいが されたときに やまいこさんに そうだんしたんだ

 

そうしたら かんせいするまでに すけすけの ようぼうを てっかいしなかったばあい

 

わたしたちが おしおきする って

 

「うん?私たち……?」

 

 

その時、町の方で男2人分の悲鳴が聞こえた。まるで身体をそれ以上捩じることが出来ないのに捩じられているような切実な痛みを訴えかける悲鳴。俺は静かに合掌し、ビルドを連れてピッキーのバーへと向かうのだった。

 

 

 

 

踊り子のステージとブルーメタルという貴重な鉱石を使って作られたペロの電飾がゴージャスプールに設置され、長らくビルドが建築に携わって作り上げた金と銀をふんだんに使ったゴージャスプールが完成した。

 

リアルの富豪いえどもこんな馬鹿げたプールに入った人間はいないだろうと思われる。ちなみにリアルを知る俺たちアインズ・ウール・ゴウンのメンバーは、ビルドが作ったペロの電飾のカラフルな光を見て唖然としている。電気という概念がないのに、暗くなったら勝手に光る時点であれだが。

 

それと金10000個を使ってシルバーマンからゴールドマンへと進化したゴルドン。あともう少しでオッカムル島の守護神と言われていた頃の力を完全に取り戻すらしい。そうしたら、ペロと結婚するんだと言ってあらくれたちと揉めていた。そうは言っても、口喧嘩はいつも通りの調子だし、今日は炭鉱復旧とゴルドンからビルドに課せられていたミッションの達成を祝してパーティーが開かれる。

 

いっかくうさぎの肉を使ったステーキやキノコハンバーグ、サボテンステーキや焼き魚が所狭しとテーブルに並ぶ。そして、満を持して振舞われるバブル麦汁を飲んで、ギルドメンバーたちが狂喜乱舞する。あらくれたちもその味に惚れ込み、ステージでハッスルダンスを踊るペロを見て、更に歓声を上げた。その後、ペロの後ろで踊るバックダンサーのあらくれを蹴り落とし、ステージに上がる酔っぱらったピンク色のスライムとヘロヘロさんの推しで上がったソリュシャンの妖艶な踊りにペロのダンスが霞みかけることもあったが、ここにいる全員はみんなで飲んで騒いで、これまでの苦労を吹き飛ばす勢いで笑った。

 

その中で、キョロキョロと周囲を注意深く警戒するビルド、ただ1人を除いて。

 

パーティーのフィナーレに近づくにつれて、汗を掻いてでも踊り続けるペロ。彼女はステージの上で輝いていた。

 

炭鉱の入り口が封鎖され、あらくれの炭鉱夫たちが町を去っていく姿を知っている。

 

好きなバーの経営が出来なくて落ち込む父、病を患って早くに亡くなった母。

 

何をする気力を奪われて、ただ無為に時間を過ごす中でも、彼女だけは諦めなかった。

 

俺たちとビルドがこの炭鉱の町に来て、確かに変わった。ゴルドンも力を取り戻した。だが、それはこれまでずっと炭鉱の町を再興したいと頑張り続けたペロがいたから成ったことだ。

 

「なるほど、ペロは輝いている。認めよう、鉱山で採れるどんな鉱石よりも、ずっと輝いて見えるよ。これから大変だなぁ、ゴルドン。ライバルがいっぱいだぞ?」

 

【俺は負けない。必ず、ペロをお嫁さんにする】

 

そんなゴルドンの決意を聞いていた、その時だった。白い光線がステージの上で踊っていたペロに直撃し、そのまま石像の姿へと変えてしまったのは。

 

光線を放った奴を見れば、崖の上に“彼女たち”はいた。中央に大きな目玉があり、多数の蛇で体が出来ている巨大な魔物メドーサボール、そして夕闇に映える深紅の全身鎧と神器級アイテムのスポイトランスを装備した戦乙女。

 

ナザリック地下大墳墓第一、第二、第三階層守護者にして、守護者における序列一位『総合力最強』のシャルティア・ブラッドフォールン。ぺロロンチーノさんが創造したNPCだ。

 

そんな彼女がAOG教団のオッカムル島の総督であるメドーサボールと一緒に俺たちを蔑むように見下ろしている。

 

「シャ……シャルティア?」

 

ぺロロンチーノさんが驚き、戸惑うように名を呟いた瞬間、にっこりと笑みを浮かべたシャルティアが消える。そして、どすっと突き刺さる音が響き渡った。見れば、あの一瞬でぺロロンチーノさんの懐に入り込んだシャルティアが彼の腹部にランスを突き立てて、なおも深く刺そうとしていた。

 

「がっ…は、……どうして……」

 

「どうして?そんなの決まっているでありんしょう。下等生物如きが、偉大なる創造主さまから頂いた名を気安く呼んだからでありんすよ。どうして、お前の様な下等生物が私の名前を知っているのか、気にならないわけではありせんしが、とりあえず……っと!」

 

ぺロロンチーノさんに止めを刺そうと動こうとしたシャルティアは、その場から凄い勢いでバックステップし避ける。今まで彼女がいた所に、振り下ろされるビルドの大鉄鎚とアウラの蹴りによる一撃は水しぶきを高く上げさせるだけに留まった。

 

「おや、ビルダーのお前さんからは酒の匂いがしないでありんすねぇ。私たちの襲来を予測していたでありんすかぁ?けど残念だったでありんすね。目的はすでに達したでありんす。では、また会うことがあったら、その時に殺してあげましょう」

 

メドーサボールと共に地中深く消えていくシャルティア。我に返った俺たちが見たのは、ランスで貫かれた腹を押さえて蹲るぺロロンチーノさんと、彼の血で赤く染まるゴージャスプールの水。

 

その時に上がった噴水は、赤く染まっていて、場違いな感想であるが、酷く美しい光景だった。

 

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