シャルティア・ブラッドフォールン。
前衛信仰形職のガチビルド構成で総合力最強の階層守護者序列1位を誇る。単体で物理、魔法、補助、治療、回避が可能で、できないのは索敵くらいだ。ガチのクラス構成ですべての能力の恩恵が噛み合わさり、その強さは俺のユグドラシル時代のステータスをも上回る高い水準を実現している。加えて、装備している神器級の武器であるスポイトランスは攻撃し与えたダメージの数%分を回復する。これは、自分が呼び出した眷属を攻撃しても作用するため、この世界に来て弱体化している俺たちでは太刀打ちが出来ない。
普通ならば。
「ねぇ、モモちゃん。ビルドくん、様子がおかしくない?」
「そうですけど、今はシャルティアの眷属化した魔物を倒すことに集中してください」
ぶくぶく茶釜さんが、シャルティアが呼び出し続ける眷属化したオッカムル島にいる魔物の攻撃を防御し、それでも近寄ってくる魔物をパリィしつつ、全体攻撃魔法ギラを使って焼却している俺に話しかけてくる。シャルティアが呼び出す眷属化された魔物は攻撃力がかなり増しているので、回復魔法が使えるマーレとペストーニャにはかなりシビアなダメージコントロールが要求されるが、それを高台にいるベルリバーさんが指揮を執ることで無駄なく戦うことが出来ている。そう戦えているのだ。
その理由はただひとつ、強力な能力を持つガチビルド構成のシャルティアをビルドがたった1人で抑え込んでいるのである。赤いオーラを纏ったビルドが扱う大鉄鎚での攻撃は、ユグドラシル産の武器や防具にもかなり有効だったようで、シャルティアの全身鎧の防具は兜が粉砕され顔が見える状態になっており、腕や足を守る鎧も所々に罅が入っている状態なのである。
戦い始めた当初の余裕は消え失せ、ビルダーであるビルドを殺そうとシャルティアは本気で戦っているが、戦えば戦うほど強くなっているのは彼女じゃない。ビルドの方である。シャルティアは自分が押されていることを苦渋に満ちた表情を浮かべ認めたのか、足元にゲートを開き、新たに魔物を呼び出す。現れたのはやまびこの笛の欠片を手に入れるために潜った遺跡で現れた石の石像と石人形。
「あれ、その魔物たちってビルドくんと私で倒した?」
やまいこさんが言うように、その魔物はビルドを相手にするには最悪の組み合わせだ。圧倒的にビルドが有利という意味で。
ビルドは目の前に現れた石の石像と石人形たちを大鉄鎚によるフルスイングで木端微塵にし、その魔物たちの破片をシャルティアに向けて放つ。もはや石の弾丸によるガトリング攻撃状態。
魔物たちの後ろにいたシャルティアはその石による弾丸の雨をもろに受けた。満身創痍となったシャルティアと、悠然とした様子で大鉄鎚を肩に担いだビルド。どっちが悪者なのか分からなくなる光景だったが、シャルティアが直下に開いたゲートを使って消えると、俺たちの眼の前に現れた。俺は咄嗟に身を捩って、シャルティアのスポイトランスでの攻撃を避けたが、その先には彼女の眷属化したキノコの魔物がいた。シャルティアの攻撃を受け、体力を失ったのか消滅する。
俺は魔法、やまいこさんは籠手による打撃、アウラが鞭を使って一斉に攻撃するが、シャルティアは避けずに眷属化した魔物をひたすら狩ってビルドとの戦いで負ったダメージを癒す。モグラの魔物にランスを突き立てたシャルティアに迫る黄金色の拳。オッカムル島の守護神としての力を着実に取り戻しつつあるゴルドンの攻撃だったが、それは彼女の左手1本に易々と止められる。
「創造主さまから頂いた鎧がボロボロでありんす。楽には殺してやらんでありんすよ?」
と、俺たちを完全に無視してビルドに向き直ったシャルティアの眼前に、ビルドが振り抜いた大鉄鎚があった。
彼女の左手はゴルドンの拳を受け止めたままなので、必然的に右腕一本で相手しなければならない。しかし、その右手にはビルドの攻撃を受けて、罅の入ったスポイトランスがある。ダメージ計算を一瞬でしたシャルティアはスポイトランスを盾にすることを決め、左手をゴルドンの拳から離し、両手でランスを構える。
ビルドのフルスイングを受けて、シャルティアのスポイトランスは粉砕され、その上で体も弾き飛ばされたが、すぐにゴルドンの拳に打ち付けられる。怒りの表情でビルドを罵倒しようとしたシャルティアだった。しかし彼女の武器を破壊した直後、その場で回転し遠心力を加えた凶悪なビルドのフルスイング2発目がゴルドンの拳を背にしているシャルティアに放たれた。
完熟したザクロが地面に落ちて弾けるように、ゴルドンの拳とビルドの大鉄鎚に挟まれてバラバラ死体となったシャルティアの姿にドン引きする俺たち。ゴルドンも心なしか精神的ダメージを受けている。
ただし、真祖の吸血鬼という種族レベルを持つシャルティアは自身の血を蝙蝠に変えて、ビルドから離れた位置で自己再生する。しかし、彼女の口元には吐血したような痕が残っている。かなりのダメージを負っていることが分かる。
「ビルダーは世界を崩壊させる悪の存在と聞いてありんしたが、本当だったでありんすな。けど、ビルダーのお前も限界みたいでありんすな」
シャルティアの言葉に、はっとした俺たちがビルドを見ると、彼は大鉄鎚を地面に置き、四つ這いになって肩で息をしていた。先ほどまでビルドを覆っていた赤いオーラも消え、いつもの彼の雰囲気に戻っている。
だが、それと同時にシャルティアを守っていた深紅の全身鎧と体力を回復する手段であるスポイトランスはもう存在しない。今の状態のシャルティアには俺たちの攻撃は通るはずだ。
「この偽乳!いい加減にしなさいよっ!」
真っ先に動いたのはアウラだった。あのパーティーの時もビルドと共に唯一動けた彼女が、今回も率先してシャルティアに鞭による攻撃を放つ。
「なんでありんすか、ちびすけ?創造主さまや、ハーゴンさまを裏切る気でありんすか?」
アウラの攻撃を両手の爪を伸ばして剣のようにして斬り返すシャルティア。彼女発した言葉に反論するようにアウラも声を荒げる。
「はぁ?ハーゴンって誰よ。ぶくぶく茶釜さまはちゃんとここにいるわよ。あんたの創造主であるペロロンチーノさまもね!」
「何を言っているでありんすか?創造主さまはナザリック地下大墳墓の部屋でわらわの帰りをちゃんと待っていてくれているでありんす。“これまでも、そしてこれからも”!」
「うあー!もどかしいっ!あれは“まやかし”なの!いい加減に、目を覚ましなさいよ!この、お馬鹿!!」
「ちびすけいえどもその発言は許せないでありんすよ!ナザリック地下大墳墓に連れて帰って、創造主さまにお仕置きをしてもらうでありんす」
アウラの鞭を掴んで彼女を上空に打ち上げたシャルティアが地面に手をかざし、またゲートを開こうとしたその時、杖を捨てたマーレが飛び掛かり、その手を押さえつけた。上空で体勢を整えたアウラが飛び降りて、マーレが押さえていないシャルティアの反対の手を押さえつけた。その行動の意味は、背後から聞こえてきた声が教えてくれた。
「ごめんな、シャルティア。お前は俺の事を見損なってしまっているのかもしれない。それでも、……俺の下に帰ってきてくれよ」
振り向いた先に居たのは、腹部に包帯を巻きつけた状態で弓を構えるペロロンチーノさんの姿。彼の足元にはビルドが仰向けで大の字になって転がっている。それはつまり、ペロロンチーノさんが弓に装填している矢が彼の武器の欠片を使って作った『太陽の矢』であることに他ならない。
ペロロンチーノさんが構える弓矢から嫌な気配を感じ取ったのか、シャルティアがアウラとマーレの拘束を解こうと眷属の魔物を呼び出す。
「ペロロンチーノを援護しろ!魔物に邪魔をさせるな!」
俺の掛け声を聞いて、町の住人たちが、ギルドメンバーが、ゴルドンが魔物を押さえつける。そして、アウラとマーレの姉弟が協力してシャルティアを押さえつけ、出来上がった何も遮る物がないペロロンチーノさんが放つ矢の射線。
「「「「ペロロンチーノ、今だっ!!」」」」
俺たちの声を聞いたペロロンチーノさんは目を見開いて矢を放った。
彼の愛娘であるシャルティアへの想いを乗せた、相棒の武器の欠片を使って作られた太陽の矢は、まっすぐ飛んで呆然とするシャルティアの胸に突き刺さる。刺さったところから暖かな陽光のような光が零れ落ちるように溢れ出てくる。
「ああ……あぁ……、あああああ!!」
シャルティアの身体から黒い靄のようなものが出てきて、彼女の頭上で弾けて消滅。一通り叫んだシャルティアは気を失い、アウラとマーレが支えていなければ、そのまま地面に倒れ込むところだった。
ペロロンチーノさんは無理が祟ったのか、その場で蹲り、鉄の大盾を放り捨てて駆け寄ったぶくぶく茶釜さんにポコポコ頭を叩かれている。面目躍如できたんじゃないかと、俺たちが気を抜いたその時、地面が揺れ始めた。
「まだだ!気を抜くな、オッカムル島の総督メドーサボールが現れるぞ!」
俺が言い終わるのが早いか、メドーサボールが炭鉱へ向かうための足場を壊しながら浮かび上がってくるのが早いかのタイミングだった。悠然と上昇を続けるメドーサボール。それは俺たちではどうやっても届かない位置まで上昇し、はじめて俺たちの前に姿を現した時のように見下ろしてくる。
「え、ちょ……それ反則」
ヘロヘロさんが宙に浮かぶメドーサボールを見上げながら呟く。ベルリバーさんも唖然とし、咄嗟に蹲っているペロロンチーノを見るが、ぶくぶく茶釜さんが戦えないことを伝えるように体を震わせる。やまいこさんは拳をぎゅっと握りしめて、苦悶の声を漏らす。
「どうする、モモンガさん!?」
ヘロヘロさんが悲痛な声で尋ねてくるが、俺だってどうしたらいいかなんてわからない。
その時、甲高い鳴き声が聞こえた見れば、メドーサボールが上空を見上げて力を溜めている。それが十分に溜まったのか、白い光線を上空へ放った。それが何なのかを悟った面々が行動を起こす中、俺は一歩も動けずにいたが、誰かに覆いかぶさられ庇われたのだけは分かった。
光線の雨が、鉱山の町に降り注ぐ。その光線の雨を受けた者は石化し、物言わぬ石像となった。俺は傍にいたヘロヘロさんに庇われた形で石化を逃れた。見れば、ぶくぶく茶釜さんもペロロンチーノさんを守るように石になっていた。
なおも悠然と宙に浮かんで俺たちを見下ろすメドーサボール。そいつは明らかに俺たちの様子を見て嘲笑を浮かべていた。俺は周囲を見渡す、共に汗を流し、共に騒いだ炭鉱夫たちが石像になった仲間を叩いて名を呼んでいる者がいる。驚いた顔で石像となったオンバとカルロの背に守られたセルジが涙を流している。大きく手を広げた状態で石化したやまいこさんに縋りついて泣くユリの姿がある。
ぶつりと、俺の理性を司る何かが切れる音がした。
モンゾーラ島の時はビルドの死を感じ取って覚醒したが、今回は仲間や共に活動してきた住人たちの悲惨な状況を見て、心の底から怒りが溢れ出てきて、逆に心の中は吹雪が吹き荒れているように冷たい。そんな俺が閃いた魔法は、ヒャド系の超威力を誇る魔法だった。
「3発だ。メドーサボール。お前を地獄へ葬る魔法を叩き込む回数だ。覚悟しやがれ、ヘビ野郎っ!!」
俺は杖を天高く掲げて魔力を練り込む。
異変を察したメドーサボールが俺に向かって石化光線を放つが、ビルドがダイヤモンドとカルロから貰った珍しい鉱石で作り上げたみかがみのこてを持つゴルドンがそれを跳ね返す。しかし、メドーサボールは跳ね返ってきた石化光線を横に移動することで避け、角度を変えて俺を狙ってまた光線を放ってくる。
いくら、3発で葬れる威力の魔法を撃てるとはいえ、あんなに空を動き回られたら当てられない。そんな時、普段からは想像もできないマーレの勇ましい声が聞こえた。
「バギマッ!」
それはマーレが使える風属性の魔法。地面に乱気流を起こし、疾風ダメージを与えるものだが、地面を這うように現れるその魔法ではメドーサボールには届かない。そう思った時、俺たちの頭上を小さい影が通り過ぎ、マーレの放った風魔法を受けて、空高く舞い上がった。
【あれは、ビルドか?】
ゴルドンがそう呟く。俺も杖に魔力を込めつつ、目を凝らして空を見上げると風のマントで滑空しながら、空を移動するメドーサボールを追うビルドの姿があった。俺はこの場にいて、石化していない者たちに告げる。
「ビルドを信じろ!あいつなら、確実にメドーサボールを地面に叩き落す。その時が、一斉攻撃のチャンスだ!」
「「「おおぉーっ!!」」」
今まで魔物が怖くて震えているだけだったマッシモが、僕は非力な人間だからと隠れていたセルジが、娘を助けるために立ち上がったアーマンが武器を掲げる。涙を拭ったユリや、憤怒の表情を浮かべるソリュシャン。杖をぎゅっと握りしめているマーレもその瞳に焔を灯し、上空の攻防を見守る。
そして、メドーサボールの身体を構成している蛇たちの攻撃を潜り抜けたビルドが、メドーサボールの脳天に大鉄鎚を振り下ろした。メドーサボールは目を回しながら町の西側にあるシャワー室辺りに落下し、建物を押しつぶした。
そこに武器を構えた住人やユリたちが走る。そして、持っている武器を使って攻撃し、頃合いを見て下がる。俺はそこで溜まりに溜まった魔力を解放し、魔法を解き放つ。
「喰らえ、マヒャデドス!!」
メドーサボールを中心に絶対零度の暴風が吹き荒れ、巨大な氷塊を作り上げる。しばらくすると、氷塊を砕いてメドーサボールが現れる。甲高い鳴き声を発したかと思うとその場で高速回転しはじめる。そして、乱回転しながら石化光線を撃ってきた。
俺はゴルドンによって守られるが、積極的に攻撃に参加したマッシモやセルジ、ユリやソリュシャンまでも石化してしまう。加えて、上空からビルドが落下してきた。受け身も取れずに大ダメージを負う。その横にどさっと落ちたのは、モンゾーラ島でマギールに貰った風のマントだった。
【ビルド、大丈夫かっ!?】
メドーサボールに大ダメージを与えられる俺を護るため、ビルドに声を掛けるしかできないゴルドン。
その姿を建物の影で見ていたナザリックのメイドたちが動いた。手元に薬草を持ってビルドに駆け寄っていく。しかし、そんなことはさせないとメドーサボールが連射型の石化光線を放ち、ビルドに駆け寄ろうとするメイドたちを次々と石像にしていく。
その時、炭鉱へ向かう階段の方からベルリバーさんが現れ、ダメージで身動きできないビルドを口で銜えてアーマンのバーに飛び込むようにして連れ込んだ。それを見て忌々しそうにしながらメドーサボールは再度、上空へと昇っていく。
ビルドが回復しても風のマントという空を飛ぶ手段を奪われた今、宙に浮かぶメドーサボールを地面に引き摺り下ろす手段はない。手詰まりかと思われたその時、メドーサボールに突撃する影があった。
◇
時間は少し遡る―
メドーサボールによる石化光線の雨が降った後、シャルティアはアウラのビンタを受けて目を覚ました。
「ぎにゃっ!?いったい、いきなり何をするんでありんすか、このちびすけー!!」
「はん!今まで夢を見ていて散々モモンガさまやぶくぶく茶釜さま、ペロロンチーノさまに迷惑を掛けたあんたが、そんな偉そうなことを言える立場にあるわけないでしょ!」
「はぁ?いったい、何のことでありん……ひぃっ!?ち、ちが……わらわはそんな……ひっ、この手が、あぁ……ペロロンチーノさまを!愛しのペロロンチーノさまをっ、貫いたでありんすか!?」
今までの記憶を思い出したシャルティアは懺悔するように謝罪の言葉を重ね、ガチガチと歯をかち鳴らす。
アウラは、モンゾーラ島の時に自分がした発言によって創造主であるぶくぶく茶釜を酷く悲しませた記憶を思い出した時、自害しようとして彼女に叩かれて怒られて、泣かれてしまったことを思い出した。そんなつもりじゃなかったのに。己の弱さの所為でまやかしに囚われ、あんなことをしでかしてしまったのに、ぶくぶく茶釜やモモンガたちは自分とマーレを優しく受け入れてくれた。救ってくれたのである。
だから、目の前で自己嫌悪し、「死んで詫びなければ」と言っている“従妹分”にも分からせるために額を強くチョップするアウラ。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ『ゴンッ』いたぁっ!?何をするでありんすか、ちびすけ!……って、ちびすけ。その手足は何でありんすか!?」
アウラの左半身は石化していた。メドーサボールによる石化光線、避けたはずだったが意識を失っていたシャルティアを庇った際も少し掠ったようだった。マーレはそれに気付いた上で、モモンガやビルドの戦いの手伝いに自らの意思で向かったのだ。
「自己嫌悪はいいけど、現状を把握しなさいよ、このお馬鹿。見ての通り、モモンガさまはあいつを倒す魔法を練るために魔力を込めねばならなくて、あそこから動けない。さっきはビルドっていう人間の男の子が叩き落して隙を作ったけど、それが出来なくなっている。今、この場でモモンガさまたちを助けられるのは、飛行の魔法が使えるアンタだけなのよ。分かったら、死ぬ……なんて……言わず……に、責任……とんな」
そこでアウラは完全に石像と化してしまい、シャルティアにすべてを伝えることは出来なかった。だが、思いはすべて伝わっていた。
◇
メドーサボールの前に腕を胸の前に組んで浮かぶシャルティア。
この世界に適合した身体ではないため、身体から光が零れ落ちていっている。だが、ユグドラシルでの肉体であるからこそ、ユグドラシルの魔法を使えて宙に浮かぶメドーサボールと同じ立ち位置に居られる。しかし、彼女の装備はビルドとの戦いで消失してしまっている。
「眷属招来!吸血鬼の狼、古種吸血蝙蝠。メドーサボールの動きを封じるでありんす!」
ゲートから現れた狼と蝙蝠がメドーサボールに殺到し、体を構成する蛇に狼が噛みつき、蝙蝠たちが視界を奪う。シャルティア本人もメドーサボールに取りつき、伸ばした爪をその大きな体に突き立てる。メドーサボールは甲高い叫び声を上げるとその場で高速で回転し、狼や蝙蝠、シャルティアを振り落とそうとする。
しかし、シャルティアはそれに耐えて、反対側の手の爪も鋭く伸ばして体に突き立てた。力が抜けたメドーサボールがシャルティアもろとも地面に落下する。大きな隙が出来たが、シャルティアが爪を突き立てたままであるため、魔法の発動を躊躇ったその時、
「わらわに構わず撃ってくださいまし、モモンガさまーっ!!」
心の底から叫ぶシャルティアの想いに応え、俺は2発目のマヒャデドスを放った。
氷塊に閉じ込められたメドーサボールとシャルティア。1度目と同じように氷塊を砕きながら飛び出てくるメドーサボール。だが、その衝撃で力なく地面に転がったシャルティアをメドーサボールは石化光線を放って石をした後、岩壁を打ち壊して瓦礫で生き埋めにする。俺はその光景をまざまざと見せつけられ、腸が煮えくり返る思いだった。
しかし、これでもう残っているのは俺とゴルドンのみだ。あと、もう1発撃てば倒せるのに。そう思った時、羽ばたく音が聞こえた。
金色の風がメドーサボールの周囲を高速で移動している。それはぶくぶく茶釜さんに守られ、メイドたちの手で治療を受け続け、地面に落下し大ダメージを負ったビルドと共にチャンスを伺い、愛娘の奮闘を見届けたペロロンチーノさんの雄姿だった。
そのペロロンチーノさんの背には、顔の至る所に絆創膏が貼られたビルドがいる。突然現れたペロロンチーノさんとビルドの動きについていけてないメドーサボール。俺は魔力が十分に溜まったことをゴルドンに伝えた。それを受けてゴルドンは大きく、拳を突き上げる。
それを見たペロロンチーノさんは上空へ高く高く舞い上がる。そして、その背を蹴ってビルドが大鉄鎚を振り下ろす体勢を取った。それに対応するようにメドーサボールが石化光線のために力を溜め始める。だが、ビルドの大鉄鎚による振り下ろし攻撃に上空で限界まで加速したペロロンチーノさんの蹴りの力も加わる。
それはさながら流星のようだった。
今までの攻撃の比にならない速さと攻撃力の威力の高さに、メドーサボールの形が大鉄鎚を受けたところから半月状に歪む。そして、その勢いのまま、地面に叩きつけられる。
轟音と砂埃が天高く舞う、その勢いのまま落下したビルドとペロロンチーノさんはゴージャスプールの水の中に落ちて水しぶきを上げた。
正直、3発目はいらないかと思ったが、俺は静かに魔法名を告げ、メドーサボールをこの世から消滅させるのだった。
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