【ゴルドンの遺言(死んだわけじゃない)】
メドーサボールとの戦いは終わった。
だが、メドーサボールによって石化光線を受けたペロもぶくぶく茶釜さんたちギルドメンバーの面々も、町の住人も元の姿に戻ることはなかった。どうすればよいのかを考えていると、ゴルドンがメドーサボールの消えた位置に落ちていた何かの素材を差し出してきた。
【これを、この炭鉱で採れるすべての鉱物と合わせた時、俺の守護神としての力が戻る。だがお別れだ、モモンガ。恐らくビルドは意識朦朧としているだろうから、あとでモモンガから伝えてほしい。『お前、ゴーレムの扱いテクニシャン。きっと同族も気に入る。仲間になりたいゴーレムいたら仲間にしてやってほしい』と】
「……分かった。その伝言の願い、承った」
【ありがとう、モモンガ。ありがとう、オッカムルの住人たち。ありがとう、ナザリックの者たち。ありがとう、ビルド。そして、本当にありがとう、ペロ。俺、お前たちと一緒に過ごせて、本当に良かった。これからは、俺が皆を、オッカムル島を護る】
ベルリバーさんにもたれ掛かりながら、素材を渡されたビルドは無心でゴルドンの望むアイテムを作成した。俺はビルドが体力を振り絞って作ったアイテムをゴルドンに手渡す。
それを手に、飛び上がったゴルドンはその『黄金のかがやき』を掲げて、ゴルドン酒場と一体化した。
そして、オッカムル島の守護神となったゴルドンの力によって島全体が活性化し、メドーサボールによって石にされていたすべてのものが元に戻ったのだった。
【儀式】
赤い岩壁の下敷きになっていたシャルティアを引き摺りだすと、下半身が潰れ、虫の息となっていた。
石化が解けたナザリックに属する者、鉱山の町の住人。そしてぺロロンチーノさんに囲まれて、今にも息を引き取ろうとしている。ぺロロンチーノさんが必死になって「生きろ」と呼びかけるが、シャルティアは「自分が仕出かしたことへの責任は死んで詫びる他に方法はない」と頑なに拒否する。
アウラとマーレが怒鳴っても、
ぶくぶく茶釜さんが叱りつけても、
やまいこさんやヘロヘロさんが声を掛けても、
硬くなに首を横に振るシャルティアは穏やかな笑みを浮かべて告げる。「わらわのような愚か者にはとても似つかわしくない、過ぎた声掛けでありんす。至高の御方がたに看取られて逝けるなんて、僕冥利に尽きる」と。
その言葉を聞いて、ぺロロンチーノさんが大粒の涙を流しながら「ふざけんな!生きろよ、これから生きて償えばいいじゃねぇか」とシャルティアの上半身を抱いて泣き叫ぶ。
そんな感動の光景であるのだが、俺とベルリバーさんの視線は別方向に向けられている。
シャルティア戦とメドーサボール戦で獅子奮迅の働きだったビルドであるが、怪我による満身創痍で意識朦朧状態、加え八面六臂の活躍の代償である極度の疲労困憊、極めつけにこの長い儀式の前振りによって目から光が失われてレイプ目になっている。幽鬼のようで怖い。
そして、ついに我慢の限界に達したのかビルドが袋の中から遺跡で手に入れた世界樹の葉を取り出すと、右手で大鉄鎚を引き摺りながら歩き出す。
殺気に似た何かのオーラを纏うビルドの気配を察して、道を開ける住人たちとは違い、死を望むシャルティアに集中しているナザリックの者たちは直前までビルドのフルスイングに気付かない。
ソリュシャンはシャワー室の壁に激突し潰れたスライム状となり、
ユリは頭と胴体を別れさせながら空を飛び、
やまいこさんは炭鉱の入り口がある場所へと身体をくの字に曲げたまま落ちていく。
アウラとマーレは一緒になって恐怖に顔を引き攣らせ、
ぶくぶく茶釜さんが許しを請うたが、揃って砂の大地に倒れ伏す。
ヘロヘロさんは謝罪の言葉を口にして星になり、
青い顔をしたぺロロンチーノさんは必死になってシャルティアを護ろうとしたが、思考停止して機械的になっていたビルドは無理やり2人を引き剥がすと、世界樹の葉をシャルティアの額に設置、大鉄鎚を振りかぶった。
先ほどまで死ぬことを望んでいたシャルティアが泣き腫らした顔で「生きたい!」「ペロロンチーノさまと生きていたい!」と叫ぶ。
ぺロロンチーノさんはそれを聞いて、シャルティアの本音を聞きだしてくれたのかとビルドに感謝の言葉を述べた。
そんな訳がない。
そんなぺロロンチーノさんの目の前でビルドの大鉄鎚が振り下ろされて弾けるシャルティアの頭部。彼は泡を吹いて気絶した。
ビルドは世界樹の葉の死者を蘇らせるパワーを使ってこの世界に適合した肉体を得たシャルティアを見て、役目を終えたことを悟り、立ったまま気絶したのだった。
【からっぽ島への帰還】
メドーサボールを倒した3日後、いつものように船着き場に魚釣りに向かったメイドたちが、船着き場に船があると知らせに来た。久しぶりにあった船長に話を聞いたところ、彼は俺たちを送った後にからっぽ島に戻り、モンゾーラ島を往復し、オッカムル島に来ようとしたらしいのだが、時化と嵐が重なり、こんなにも迎えに来るのが遅くなってしまったと語った。
兼ねてより船が来たら帰るように準備をしてたので、その場で班を編成して一番にぺロロンチーノさんとシャルティア、メイド8人はからっぽ島に向かった。その後も、船着き場に船が来る度に仲間たちやメイドたちを俺は送り出した。俺が残ったのは、あの戦いの後からずっと意識不明の状態で昏睡し続けるビルドの姿があったからだ。
からっぽ島に移住を希望したペロ、ミルズ、マッシモの3人もすでにからっぽ島に向かい、炭鉱の町に残っていてからっぽ島に向かう予定なのは、俺とビルド、ベルリバーさんとペストーニャだけである。
ベルリバーさんも先に戻っていても構わないと伝えたのだが、先の戦いにおける最大の功労者に労いの言葉ひとつ掛けないとかありえんと言って、町の付近を浮きながら散歩している姿がよく目撃される。
「モモンガさま、彼が起きます……わん」
ビルドの額に水で冷やしたタオルを乗せていたペストーニャが彼に動きがあったことを、すぐに俺に伝える。俺はビルドが寝ているわらベッドの側に移動して、じっと顔を見つめる。すると瞼が震え、海の様な青い瞳が見えた。キョロキョロと辺りを見回したビルドが俺を捉える。
ももんがさん めどーさぼーるは
「ああ、倒した。もうオッカムル島は大丈夫だ」
そっか よかった くぅ……
それだけを言ってビルドはまた静かな寝息を立て始める。ペストーニャに確認すれば、もう大丈夫だと太鼓判を押された。
【帰還は?】
シャルティア戦とメドーサボール戦で想像以上のダメージを負って昏睡状態にあったビルドが回復した。その日の夜は久しぶりに俺とベルリバーさんはお酒を飲み交わし、ようやくほっと息を吐けたと思っていたのだが。
おはよう ももんがさん べるりばーさん
「……ああ、おはよう。ここはどこだ?」
「町の中じゃないな。うん?」
ももんがさんと やくそく したんだ
めどーさぼーるを たおしたあと なかまのぶきをもつ まものを たおしにこようって
事情を察したベルリバーさんから向けられる視線が痛いほど後頭部に突き刺さる。よく見れば、周囲にはメイド長のペストーニャの姿もあり、町に彼女を迎えに戻るという退路すら塞がれてしまっていることを悟る。今まで眠っていた分を取り戻さんと言わんばかりに、大鉄鎚をぐるぐる振り回して自らを鼓舞するビルドを見て、俺とベルリバーさんは諦めた。
「そういえばシャルティアを正気に戻した、あの“矢”の出どころも気にはなっていたんだ。お前ら、正直に言ってみろ?ギルメンの武器を持つ魔物を何体、倒した?」
ベルリバーさんの問いを受けて、隠匿は更なる説教を呼ぶと考えて正直に伝える。
にたい ももんがさん との こんびで
指を2本立てたピースサインしながらビルドが笑顔で告げる。ベルリバーさんはビルドの言葉をゆっくりと噛むように反復し、空を見上げて心を落ち着かせた後、俺とビルドに向かって怒鳴った。
「お前ら、一体何をやっているんだっ!?立場を弁えろ、モモンガさんは俺たちのギルマスで、ビルドは俺たちの生命線だ!そんな重要な立ち位置にいるお前らが率先して無茶してどうする!!」
え でも よわかったよ
「シャラップ!!そう言うことを言っているんじゃねぇんだよ!!」
手があったのなら頭をがりがりと掻きむしっていただろうベルリバーさんを見ながら、ビルドは大げさだよと肩を竦めている。それ以上、ベルリバーさんを刺激すると拙い気がするので、とりあえずビルドの案内で向かった先にいたバルバさんの『血ヲ啜リ肉ヲ喰ウ』を持っていた奴と同系統のドラゴンを相手することになったのだが、メドーサボールとの戦いでまた一皮剥けたビルドの大鉄鎚によるフルスイングは相手の魔物の部位をごっそり削り取る。
ギルドメンバーのこだわりが詰まった武器をもってしても、ビルドのフルスイングの前に為す術なく所有している魔物ごと砕かれて行く様を見て、俺とベルリバーさんは遠い目をしていた。
つぎ いこう つぎ
意気揚々に鼻歌混じりスキップしながら先導するビルドを見て、いっかくうさぎや金色のサソリたちはサササッと巣穴に隠れたり、砂に潜ったりしてやり過ごそうとしている。このオッカムル島に来た当初は容赦なく襲い掛かってきた奴らが、もう見る影もない。
その後、たっちさんの鎧を着込んだがいこつ剣士がいたが、例の如くビルドの大鉄鎚のフルスイングであっちに弾き飛ばされ、こっちに弾き飛ばされ、挙句の果てには敵である俺たちに助けを求めるように手を伸ばしてきた。
しかし、そんな隙を見逃すビルドではない。がいこつ剣士の背中を踏みしめたビルドが大鉄鎚を振り下ろして止めを刺すまで、俺たちは完全にビルドによる虐殺ショーの観客状態だった。
「ははは……はぁ、ウルベルトさんやデミウルゴスが好きそうな光景ですね」
「いや、あいつらもドン引きだろ。こんなの間近で見せつけられたら。しかも、今のがいこつ剣士の顔、モモンガさんに少し似てたから『たっち・みーの鎧を着たモモンガさん』が敵に負けてボコボコにされる光景にしか見えなかったよ」
「やだなぁ、俺はオーバーロードですよ?何で、俺がたっちさんの鎧を着る必要があるんですか?」
「そりゃあ、今回のシャルティアみたいに大切な仲間が敵に操られて、元に戻すには殺すしかないってことになったら、なりふり構わずやるだろ?」
「うーん、あまり想像はしたくないけど、それしか方法がなかったら課金アイテムでごり押しですかね。はははは」
【帰還は??】
うーん もう これで おっかむるしまは ぜんぶ みおわったね
ももんがさん べるりばーさん ぺすとーにゃさん おつかれ
ビルドがいい笑顔を浮かべて労いの言葉を掛けてくるが、俺たちはそれに反応する元気もないほど、いろいろな所に連れまわされた。炭鉱の上層部の奥にある地底湖の底や、下層にあった遺跡の上、マグマが迸る迷宮をあっちこっちに行ったかと思えば、島の表層部を全力疾走。何がビルドを駆り立てるのか理解できない。
「お疲れ、……じゃなーいっ!?まさか、島全体を見ることになるなんてこっちは考えて無かったぞ!島の表面、炭鉱の上層と下層だけに留まらず、マグマが迸る場所まで俺らを連れて行くんじゃねぇよ!?死ぬかと思ったことが数えきれねぇくらいあったぞ!?」
えー だって もったいないじゃない
せっかく きたんだから ぜんぶ みないと
ビルドはベルリバーさんの言い分に即座に反論し、頬をぷくっと膨らませた。俺は遠い目をしながらベルリバーさんに告げる。
「ベルリバーさん、無駄です。ビルドは基本的に、訪れた島は端から端まで、上から下まで全部見ないと納得しないんですよ。それを忘れてた」
「ばたんきゅー……わん」
俺の背後でペストーニャがぐるぐると目を回して気絶した。彼女は俺たちのような戦闘職ではないので、ビルドの強硬探索は完全な予想外だったのだろう。むしろ、よくここまで付いてこれたものだ。そんな俺たちの様子を見たビルドが天使の様な笑みを浮かべて告げた。
じゃあ ふなつきばに いこっか
せんちょうには ちかくに そざいじまが ないかを しらべて もらっていたんだよね
悪魔の様な一言を。
「「「っ!?」」」
俺たちはまだ、からっぽ島に帰れそうにない。
【帰還は???】
拝啓 ヘロヘロ様 お元気ですか。俺ことモモンガは現在、島の地下にて鉱石が取れる素材島にてビルドの素材回収マラソンに付き合わされています。ベルリバーさんとペストーニャは早々にビルドについていけなくなり、身体を壊して船の上で療養中です。何がビルドの素材回収に火をつけたのかというと、オッカムル島にて使い切ったダイヤモンドと新たに入手できたミスリルです。現在、ビルドは掘って掘って掘りまくっている状況です。そのため、まだしばらく帰れそうにありません。敬具
【やっと帰還】
ダイヤモンドとミスリルを1スタックずつ集めてようやく満足したビルド。
その間にベルリバーさんは燃え尽き、ペストーニャは地面が恋しくて震えるようになってしまった。
俺は2人とは逆に開き直ることにした。ダイヤモンドとミスリルは素材島でも希少で、あっても3個か4個しかなかったが、それを囲むのは金や銀といったオッカムル島でも高価な鉱石ばかり。
そこで俺は新しい防具を作ってくれないかとビルドに相談したのだ。その結果出来上がったのはミスリルと金をふんだんに使った全身鎧。手に入れた赤の染料と青の染料と緑の染料で順に染めていったことによって、艶のある黒を基調とした鎧に仕上がった。漆黒の全身鎧が映える赤いマントもお気に入りだ。幅広のグレートソードも作ってもらい、気分は『俺が考えた格好いい旅の剣士モモン・ザ・ダークウォーリアー』だ。年齢は30代前半、各地の魔物を狩りながら旅する苦労人。彼が旅する目的は、かつて倒しそこなった魔物の呪いでがいこつ姿へと変わってしまった自分の呪いを、世界各地を回り解く方法を探している。なんていう設定がポンポン浮かぶくらいだ。
ちなみにビルドの話では、ミスリルは相当魔力を通すのに適した素材だったらしく、漆黒の鎧は『みずのはごろも』と同じく火炎属性と氷結属性に対してすごい耐性があり防御力も飛躍的にアップ。
幅広のグレートソードは魔法使いである俺が扱うことを考慮して、補助魔法であるスカラ(防御アップ)とピオラ(素早さアップ)とバイキルト(攻撃力アップ)にマホカンタ(魔法を跳ね返す)が自動的に発動してサポートしてくれる仕様だ。
そしてお気に入りの赤マントであるが、これには特に効果はない。が、ビルドが金の糸で刺繍してくれた俺の紋章が光輝いている。
これを見たベルリバーさんの一言は「ダメだ。こいつら、早くどうにかしないと……」であった。
誤字脱字修正、本当にありがとうございます。