からっぽ島開拓記~ナザリック風味~   作:甲斐太郎

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モンゾーラ島編 その①

何もないからっぽ島を開拓するというビルドにビジネスチャンスを見出した船長は、からっぽ島専属の船長となった。しろじいの言うモンゾーラ島への航路も知っているということで、早速大量生産した焼きコンブをしこたま備蓄した収納箱を船に乗っけて、俺たちはモンゾーラ島に向けて出発した。

 

船を海の上を走らせること丸3日、俺たちはビルドが用意してくれた焼きコンブを噛みつつ船酔いに耐え、農業が盛んというモンゾーラ島に辿り着いた。ビルドは島に降り立った瞬間、 じめんだぁー と揺れない大地に感謝するように大の字に寝転がっていた。気持ちはすごく分かる。資材を得たら船を快適に過ごせるように改造してやると心の中で誓う。

 

さて、ビルドと共に農業をしている島民を探すため上陸したのだが、内陸部に差し掛かった時に広がっていたのは緑色のキャンパス……ではなく所々、いや大部分がテラテラと鈍い光を反射する泥だらけになった光景だった。確かにからっぽ島とは違い青々した木々があるが、作物系は枯れてしまっている。ビルドも のうぎょう の さかんなしま? と首を傾げる始末だ。

 

しばらく歩いていると女性の悲鳴が聞こえてきた。遠くの方で桃色の毛が生えた猿のような魔物に襲われている人間がいる。俺たちは走って向かい魔物を倒し、チャコという少女を助けた。これがこの島を復興するための第一歩になろうことなどこの時の俺たちに知る由もなかった。

 

 

 

チャコの案内で村の跡地に向かう途中、ボロキレを身に纏った赤い髪で側頭部に狼のような耳を持つ行き倒れに遭遇した。見覚えがありすぎる行き倒れだった。俺はヘロヘロさんとどうしたもんかと悩んでいたのだが、お人よしの権化であるビルドが近づき話しかける。すると、その行き倒れは地面にうつ伏せの状態で倒れたまま、プルプルと震えた後でこう言った。

 

「ぐー。……はらが減ったっす~」

 

そんな行き倒れに対し甲斐甲斐しく焼きコンブを提供するビルド。彼に変な真似をするならば燃やす他ないなと樫の杖を構える俺。焼きコンブの匂いに体を震わせた行き倒れは起き上がって、ビルドの手ごと焼きコンブを口に含む。唾液でべとべとになった手をズボンで拭うビルド。焼きコンブを食べて腹が膨れた行き倒れは立ち上がり、ビルドや俺たちを睨みつけながら言い放つ。

 

「死にたくなかったら、有り金全部置いてけ……って、モモンガさまにヘロヘロさまぁっ!?」

 

「お前、プレアデスのルプスレギナだな。……伏せ」

 

食料をくれた恩人に対して脅迫するような発言をした行き倒れ、改めナザリックの戦闘メイドの1人であるワーウルフにしてクレリックのルプスレギナ・ベータは、俺を視認すると同時に跳び上がって驚愕し、凄い勢いで土下座を敢行。

 

フルフルと恐怖に怯える犬のように縮こまる。一応、主従関係をはっきりさせるために偉そうな口調で告げたが、俺の素を知るビルドからの視線が痛い。ちなみにヘロヘロさんはからっぽ島での前科があるために彼女に対しては何も言わなかった。しかし、俺やヘロヘロさんと同じようにナザリックのNPCたちもこの世界に来ているだろうなとは思っていたが、事態は結構深刻かもしれない。

 

「ルプスレギナ。今回のことは見逃してやるが、そこにいるビルドは俺やヘロヘロさんの命の恩人だ。今後、ビルドを虐げるようなことがあれば、……どうなるか分かっているな?」

 

「ひぎぃっ、わ…分かりましたっす!肝に命じるっす!怖がらせてごめんっす!」

 

ルプスレギナの謝罪を受けたビルドは きにしてないよ と笑っているものの、しっかりと彼女から距離を取っている。こんなのが毎回続くのかと思うと存在しないはずの胃が痛くなる思いだ。

 

 

 

見習いとはいえビルダーという職業を持つビルドは様々な資材を使って、色々な物を作成するスキルを持っている。対して俺やヘロヘロさん、NPCのルプスレギナといったユグドラシルからやってきた者たちは魔物を倒す他にこの世界で行きていく術を持っていない。例え、ユグドラシルで強大な力を持っていたとしても、この世界では何の恩恵もないのである。ルプスレギナはそれをいち早く学んだ。

 

ビルドが作成した村人の服を身に纏い、俺と同じ樫の杖を手にしたルプスレギナが得た魔法は回復魔法ホイミ。体感にして約30%の体力を回復させるようだ。ルプスレギナは殴った方が早いっすとオレンジ色のスライムをポコポコ何度も叩いていたが、俺が樫の杖を使ってスライムを一撃で消滅させるのを見て諦めたように樫の杖を使ってスライムを殴打していた。

 

チャコの村の近くにはスライムの他に巨大ななめくじのような魔物もいたが、あの程度では我々の気持ち悪いの分類には入りはしない。ナザリックには人並みサイズのゴキブリを眷属として召喚する恐怖公もいたし。ちなみになめくじも落とす素材は油で、松明の作成に大いに役立った。

 

素材集めから帰った俺たちが見たのは、泥水を流す水源と村中央のモニュメント以外を真っ平良に整地したビルドと目を点にして呆然としているチャコたち数人の村人の姿。無いはずの胃がキューっとしまる感覚と共に俺は意識を手放した。

 

 

 

ルプスレギナに揺られて起こされた俺が周囲を見渡すと村はモニュメントを囲うように段々畑が作られていた。ちなみに水源が一番高くなるようにして、コの字になるようになっている。俺はそれが一望できる土壁で出来た部屋を5つ重ねた建物の上から見下ろしている。

 

「ビルドには自重を覚えさせないとな……。ところでルプスレギナ、お前が食べているのは何だ?」

 

「キャベツっす。モモンガさまが休まれている間にカカシを作って畑を耕したビルドが育てたものっす。ほんとはモモンガさまが起きるまで待つつもりでしたけど、新鮮な食材の匂いには勝てなかったっす。ヘロヘロさまは泣きながら食べておられたっす……モモンガさまの分は部屋の隅の収納箱の中に入っているっすよ」

 

両手で瑞々しい鮮やかな色のキャベツをむしゃむしゃと食べながら説明するルプスレギナ。俺はキャベツを食べ続ける彼女を横目に無言で部屋の隅に移動して自分の分のキャベツを取り出す。そして、頬張った。

 

シャキシャキとした触感、溢れ出る旨味を含んだ水分、(無い)五臓六腑に染みわたるとはこのことだと言わんばかりに俺は夢中になって、そのキャベツを一玉食べた。

 

「行くぞ、ルプスレギナ!チャコの話では、この島にはあと4つ、別の種類の野菜があるという話じゃないか!」

 

「はいっす、モモンガさま!このルプスレギナ、地の果てまでもついていくっす!!」

 

 

 

「「ノォオオオオオ、死ぬ!死ぬ死ぬ死ぬっ!」」

 

俺は今、ルプスレギナと共に浜辺を走っている。白い砂浜に青い空と海、夢にまで見たキャッキャ、ウフフのアバンチュール……には程遠いカニの大群に追われる俺とルプスレギナの手にある杖は中ほどでぽっきりと折れてしまっている。

 

杖が無ければ、ただの骨と犬。

 

回復魔法があるからいいと薬草すら持ってきていないため、かなりヤバイ。こんなことなら、魔物の襲撃に備えて村の北側の整備をすると言っていたビルドの作業を待つんだったー!ひぃぃっ、カニの挟みってあんなに切れ味が良かったか!?

 

「はぁ、はぁ……。ひぅっ!?モモンガさま、大きな“ピンク色のスライム”が進行方向に現れたっす!うねうねしているっす!」

 

「ピンク色のスライム!?ええい!武器もない我々では相手できない、避けて村に向かうぞ!」

 

「了解っす!」

 

俺たちはピンク色のスライムを避けるように道の端ギリギリを通る。草や小枝にぶつかって少なくない体力が削られるが、仕方がないことだと突っ切ろうとしたのだが、あろうことかそのピンク色のスライムが俺たちを追い掛け回し始めたのである。

 

こちらに攻撃手段も回復手段も持ち合わせていないところを見て判断したのか。頭が良すぎるだろ!そう考えつつ、なりふり構わず、走り去ろうとした俺たちの耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「待ってー!モモちゃん、私だよー……。まってー……」

 

「「……え?」」

 

聞き覚えのある声と呼称。俺とルプスレギナはその場に立ち止まった。そして、ゆっくりと振り返った俺たちにぴょんぴょん跳ねて疲れた様子で追いついたピンク色のスライム。造形はかなり丸みを帯びた男のパオーンに見えなくもない。だが、彼女はもう随分前にユグドラシルから去り、最後の日も来てくれなかった。

 

「うぇーん。よかった、私だけじゃなかったんだ。……モモちゃん、ごめんね。愚弟と一緒に終わるぎりぎりにログインしたんだけど、間に合わなかったみたいで、しかもログアウトできなくて。……気づいてからここら辺を彷徨っていたんだけれど、オレンジ色の死神に切りつけられるし、オークには槍で突かれるし、カニには群れで襲われるし、心細かったんだよー!」

 

「今、まさに俺とルプスレギナがやられてきたところですよ」

 

俺は手に持つ樫の杖だったものを見せる。折れた部分と、刃物でスパッと切り裂かれたような面がある。それを見て、私もやられたと背面を気にするピンク色のスライム。その時、地響きのようになるお腹の虫。べちょっ、と平べったくなるピンク色のスライム。俺たちの食量も早々に底をついていたため、分け与えられるものは手元にない。俺は疲れた骨の体に鞭を打ち、ピンク色のスライムを肩に担ぐと村に向かって走り出した。

 

 

 

ピンク色のスライムことぶくぶく茶釜さんはビルド産キャベツをもしゃもしゃと食べている。俺たちがいない間もビルドはヘロヘロさんに護衛されつつ、連日徹夜して村の北側の防壁建設、それと並行してキャベツの量産をしていたらしく収納箱の中にはリアルでは終ぞ見れなかった量のキャベツの山が入っていた。

 

ちなみに炒めるとキャベツ炒めになり、生とは違った触感と味が楽しめた。とはいえ、食料がキャベツだけの生活はこの村にいるチャコたちもきついらしく、新しい野菜の種を求められている。気持ちはすごく分かる。

 

「なるほどー。ユグドラシルの常識は全く通じないんだねー」

 

生のキャベツと調理済みのキャベツ料理で腹を満たした後、ビルドの調べでスライムに蝙蝠の羽が生えたような魔物、ドラキーの群れを倒すとなんとキャベツのたねを得られることが分かり、現在樫の杖を装備した俺とルプスレギナとぶくぶく茶釜さんで狩りまくっている。ちなみにビルドはそんな俺たちの近くで枯れ木を次々と伐採し木材にしていっている最中である。

 

「ここはモンゾーラ島といって農業が盛んな島だったみたいなんですが、見ての通り魔物の手で作物が育たない状態の土壌にされてしまっているんです。まずは土壌の改善方法を見つけること、そして野菜の種をゲットすることが目的になるかと思われますね」

 

スパーンっとキレのある動きをして樫の杖でドラキーを叩く俺。

 

「そして、新しい物を作れるのはビルダーのビルドくんだけってことかー。私らが料理しようとしたら炭になっちゃったし、これから何をするにしても彼が生命線になるね」

 

触手の先に装備した2本の樫の杖でぼこぼこドラキーを叩き落すぶくぶく茶釜さん。その横でドラキーを樫の杖でフルスイングしつつ、俺たちがちょっとした傷を負う度にホイミを発動させるルプスレギナ。いくら何でも過保護すぎる。しかし、そのことを本人に言っても馬の耳に念仏だった。

 

「……作業台で何かを作ろうとしても黒い煙が立ち上るだけで何も作れませんでしたからね」

 

ドラキー狩りを終えた俺たちは村に戻り、健康な土で耕されているところに得てきたキャベツの種を植える。水場で汲んだ泥水を畑に撒く。こういった作業をする分には俺たちも問題ないのだが、「至高なる御身にそんな汚い真似はさせられません」と、ルプスレギナに言われ参加できない俺とぶくぶく茶釜さん。

 

当の本人は鼻の頭や服が泥まみれになろうともいい笑顔でキャベツ作りに参加しているのだから、納得がいかない。

 

ちなみにビルドはその間に回収してきた木材を建材にして、土壁で出来た家を早々に取り壊し、温かみのある木の壁や木の窓のある広々とした家の建築に取り掛かっていた。両手の指で足りる人数しかいないのに、その倍以上あるわらベッドを見てそんなに必要あるのかと首を傾げた俺たちだったが、村の西の方にある古びた鐘をビルドが鳴らすとトンデモナイことが起きた。

 

甲高いが心地よく感じる鐘の音に導かれて、チャコたちと同じこの島の農民たちと一緒にぼろきれを身に纏ったナザリックのメイドたちが村にやってきたのである。その数20人以上。予想以上にやってきた移住者たちを見て、ビルドは膝をついて力なく呟いた。

 

しょくりょう たんない……

 

これから増えるだろう農民や多くのNPCたちを養うために一刻も早く土壌改善を行い、大規模農業をする必要があると俺たちが確信した瞬間だった。

 

 




書き手が増えるといいな。

3月17日恐怖公の説明を修正しました。
人並みサイズの恐怖公→人並みサイズのゴキブリを眷属として召喚する恐怖公
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