【開拓地の方向性】
からっぽ島に帰ってきた俺たちは、船着き場に待機していたメイドたちの案内で緑の開拓地へ向かう。そこにはしろじいもおり、増えた移住者の数を見てホクホク顔であった。ただどこを見てもナザリックのメイドたちの姿が見える。収穫した野菜を抱えるメイド、水を撒くメイド、釣り竿を持ったメイドの首根っこを掴んで引き摺るメイドなど、視界に入る情報量が濃い。
「しかし、なんだか密集している感じがありますね」
「実はモモンガさんたちがいない間にも、しろじいの案内で赤の開拓地を整地しようと思ったのですが、広大過ぎて何から手を付けていいのか分からなくなり、諦めたんですよ。それに方向性も決めておかないといけないと思いまして」
からっぽ島の景観担当大臣のように、ごく普通に話を持って行こうとするブループラネットさん。ここに来た当初は枯れ木だったと思うのだが、俺たちがオッカムル島に行っている間に大分、若木に近い容貌に変わってきている。枝の先に葉が生い茂ってきている時点でここでの生活が彼に合っていることを物語っている。
「そうそう、先に帰ってきたぺロロンチーノやヘロヘロさんはすでに再会したんだが、あのゲートからバルバも来たんだよ。来た当初は「重機が!苦しい、重い、死にたくない、助けて」って暴れまくり、しかも記憶の混乱が激しかったが、メイドたちの献身的な看護で復活して、最近は麦わら帽子を被ってクワを握り畑仕事に精を出しているぞ」
「ああ、やっぱりあの洞穴にあるのはゲートだったんですね。じゃあ、あそこもちゃんと整備しておかないとですね。ビルド、あとで看板をいくつか作ってくれ。案内標識を作ろう」
おっけー
「それはバルバにでもしてもらっておくから、とりあえず赤の開拓地にある石板のところに移動しよう」
俺たちはブループラネットさんの案内で赤の開拓地に向かうのだが、ビルドとブループラネットさんが手を付けていない荒れ果てた荒野の光景がちょいちょい視界に入って、からっぽ島の開拓はまだ始まったばかりなのだと思うと頬(ないけど)が緩む。
赤の開拓地にはこの世界に来たギルドメンバーたちと守護者たちに加え、戦闘メイドのプレアデスの4人も揃っていた。俺と一緒に帰ってきたばかりのベルリバーさんとメイド長のペストーニャ、それとナザリック地下大墳墓の副料理長とオッカムル島から移住してきたペロ、ミルズ、マッシモの3人の姿があった。それと……
「あれって、もしかしてAOG教団の魔物ですよね?何であんなところにいるんですか?」
「いや、何度か追い返そうとしたんだが、ビルダーの物作りの様子をどうしても見たいと言って居座ってな。まぁ、今のところ怪しい動きをしないから妥協した結果だな」
俺は彼らのねっとりとした視線がビルダーのビルドに向けられていることに、聊か不安を抱きつつもギルドメンバーたちが集まっているところに向かった。
「お、来た来た。お疲れー」
「ギルマス、お久しぶりです!」
俺たちの到着に気付いたヘロヘロさんと妙に麦わら帽子が似合うバルバさんに挨拶される。俺は右手を上げて、対応しつつ、奥であーでもない、こーでもないと頭を悩ませる面々を見る。それに気付いたヘロヘロさんが状況説明を行ってくれる。
「緑の開拓地は木々や花々に囲まれたのどかな雰囲気じゃないですか。これからもギルメンが集まって、付近の島々とも交流することになるやもですから、この赤の開拓地は後々観光名所となって、島の外から来た観光客から外貨が得られる商業地区にしようという方向性にようやくまとまってきたところです。それで、この広大な砂漠という環境に建てる建物を巡って、意見を出し合っているところですよ。僕はオッカムル島でもビルドくんが作ったプールを推してます」
「なるほど……しかし、ブループラネットさんが言っていた通り、広いな」
オアシスの跡地らしき窪みが3か所あり、土地の中央は大きな砂山が出来ているだけでどかせばかなり広い建築できる土地を確保できそうだ。俺はビルドやヘロヘロさんたちを連れて、ぶくぶく茶釜さんやぺロロンチーノさんたちが紛糾している会議の場に向かう。
「だから、スケスケのシャワー室は観光名所になるって!」
「なるか、そんなもん!」
「ぐへぁっ!?」
「あぁっ!?ぺロロンチーノさまぁっ!?」
ぺロロンチーノさんの阿呆な主張に思わず、装備していた杖でツッコミをいれてしまった。錐揉み回転しながら砂漠の大地に突き刺さり、犬神家状態となったぺロロンチーノさんの下に赤い服を身に纏ったシャルティアが駆け寄っていく。
見ればぶくぶく茶釜さんややまいこさんが親指を立てて「モモちゃん、グッジョブ」とサムズアップしている。シャルティアが砂漠に突き刺さったぺロロンチーノさんの引き抜き作業を横目に会議は進む。
「懲りないなぁ、ぺロロンチーノくんは。はぁ、エロの権化は放っておくとして、赤の開拓地の象徴となる建物がいります。石像になっていてゴルドン酒場建設に携われなかったペロちゃんの希望で、巨大な建築物を作るのをやりたいということなのでビルドくんには、まずその方向でお願いしたいな」
やまいこさんがそうやってビルドに話を振ると、待っていましたと言わんばかりにビルドは背負っていた本を取り出して考案し始める。そして、羽ペンを手に飛び上がり巨大な設計図を書き、赤の開拓地の砂山があるところにそれを敷いた。完成予想図を見て、それがピラミッドであることをすぐに察した面々。
「あれ、中が空洞だけど、何か案があるのビルドくん?」
ぶくぶく茶釜さんがそうビルドに話を振ると彼は首を横に振った。そして、ニコニコしながら口を開く。
あえて なかみは かかなかった
ここを このしまの かんこうめいしょに するんだよね
めいろをつくったり ざいほうのまを つくったり
なかにぷーるを つくって いがいせいを ねらうのも おもしろいよね?
そう言ってビルドなりの意見を提示する。するとベルリバーさんとブループラネットさんがその案も面白いなと笑う。ビルドは建設するピラミッドの前に収納箱を置いて、必要になるブロックの生産拠点をあっと言う間に作り上げ、その横には建設要員の仮住まいを建てた。さらに食事処とトイレと汗を流すシャワー室を立て続けに建築。その後、炉をいくつか設置し鉱石をインゴットに加工しつつ作業台を使って、ピラミッドの建築に必要なブロックを量産した。出来た分から収納箱に入れるので、俺たちはビルドの設計図に従ってピラミッドの建築を開始した。
砂山をすごい勢いで削っていくバルバの奮闘ぶりを見つつ、ブロックを積み重ねていると作業をしていたブループラネットさんと共にビルドに連れ出された。その先にあったのは机の上に広げられたからっぽ島の地図。何をするつもりなのかをビルドに尋ねると、緑の開拓地から赤の開拓地を1本の線で結ぶ。
しょくりょうを てでもって いどうする めいどさんたちが たいへんそうだから
とろっこのせんろで かいたくちどうしを むすびたい
けど けいかんを こわすから げんちを みながら けんとうしたい
「ほう、さすがビルド。俺たちがこっちに集中している時も色んなことに気を配っている。よし、トロッコによる流通の確保だな。景観をあまり壊さず、あまり遠回りしない方法となるとトンネルを掘った方が早いな。後々、色々なところに向かえる乗り換え専用のステーション的なものを作る必要があるが、それもそれで面白そうだ。モモンガさんはどうする?俺はビルドとこっちの建築に参加するが?」
「俺はこっちのピラミッド作りを監督しつつ建築したいと思います。そちらはブループラネットさんにお任せしますね」
「了解した、ギルドマスター。良い報告を待っていてくれ」
俺はそうやって線路づくりに向かうビルドとブループラネットさんを送り出すと、収納箱に向かってブロックを手にするとピラミッドの建築に参加するのだった。
【エッチな本騒動】
うーん あれぇ どこに いったんだろ?
その日、緑の開拓地にあるナザリックハイツ本館の廊下に、しゃがみ込んで棚や椅子の下を覗き込みながら何かを探すビルドの姿があった。朝食を終えて、ぶらぶらしていたアウラはそんなビルドの様子が気になり、近づいて声を掛ける。
「何か探しもん?」
うん? ああ あねさん おはよう
ぼくが かいた このくらいのさいずで あかいひょうしの ほんを
さがしているんだけど しらない?
ビルドはぶくぶく茶釜の娘で、割とマーレやシャルティアを叱る立ち位置にいることの多いアウラのことをいつの間にか、『姐さん』呼びするようになっていた。当初こそは拒否していたアウラだったが、こうと決めたら貫き通す頑固さを持つビルドは姐さん呼びを止めないので諦めた。その代わりにアウラもビルドのことを呼び捨てにするようになった。
「いや、ナザリックハイツでそんな本が落ちていたって話は聞いてないけど、大事なものなの?」
ううん あたらしく ほんを つくるぎじゅつを かくりつしたけど
なかみが まっしろだったから すけっちちょうに していたんだ
「なるほどね。新しい建物の設計図やアイデアを書いてたんだ。熱心だね、ビルドは」
ううん それは せおっている ほんに かいてる
ぼくが さがしているほんは ももんがさんを もでるに かいた こっかくひょうほんなんだ
だいめいは 『すけるとーももんが』で
おとこゆで ゆにつかりながら こうあんしたから
へろへろさんや ぺロロンチーノさん まーれのあにきと ももんがさんが
せなかをながしたり あわまみれで あらいっこしたり するようすを かいたんだ
あんなもの じゅようないと おもうのに どこいったんだろう?
ビルドはそう言ってアウラに頭を下げると本を探すためにナザリックハイツから出て行った。
ビルドの話を聞いたアウラは汗をだらだら流しながら、目に闘志の焔を燃やし走り出した。ビルドよりも先にその本を確保するために。
だが、ビルドの話を聞いていたのはアウラだけではなかった。ナザリックハイツの掃除をしていたメイドたちの耳にも魅惑的な本の存在が聞こえており、娯楽に飢えていたメイドたち全員に知れ渡った。
◇
いつもはのどかな緑の開拓地。しかし、その日は違った。
からっぽ島に来たばかりのギルメンの1人であるバルバは、持ってこられた休暇願いの書類の山を見て目を白黒させていた。
ブラック企業も真っ青なほど、「至高の御方方のために働くことこそ私たちの生きがいです!」と言って休憩すら取らずに働いていた一般メイド40人が全員まとめて休暇を取ったのである。常々休みを取るように言ってきた身として、休むなとは言えず、バルバはモンゾーラ島から移住してきたチャコとポンペの3人で畑の作物の世話をしている。
視界の端々に映るメイドたちは泥だらけになりながら何かを一生懸命探しており、自分たちの休暇を誰かのために使うなんてとバルバは感動していた。
最近のビルドは赤の開拓地でピラミッドの建設やバーやホテルの建設、開拓地同士の行き来を楽にするために線路つないだりしており、本が落ちている可能性が高いのは、必然的に緑の開拓地と赤の開拓地の間だと目を付けたアウラは目を凝らして目的のものを探し歩いていた。その集中力は彼女の姿を崖上に見つけたぶくぶく茶釜の声掛けを無視するくらいである。娘に無視されたぶくぶく茶釜はショックのあまり泣き崩れた。
「うーん、見つからないなぁ。誰かに聞く?いやいや、ライバルが増えるだけ!」
そうやって悶々しながら探しているアウラは開通したばかりのトロッコを使って大勢のメイドたちが赤の開拓地にやってきた姿を見て、情報が洩れていることを悟った。こうなったら、誰かを抱え込むしかないと考えたアウラは従妹分に狙いを絞った。
◇
「ぺロロンチーノさま、シャルティアを借ります!」
「ほえ?あーれー……」
「……え?」
ピッキーの酒場で少し遅めの朝食を愛娘のシャルティアと摂っていたぺロロンチーノは呆然としながら2人を見送った。
その場には他にもバーカウンターに腰掛けたヘロヘロやモモンガがおり、挨拶もせずに台風のようにやってきて台風のようにさっさと去っていったアウラの姿を見て、お互いに視線を交わして一斉に首を傾げて戸惑いの声を同時に漏らした。
「「「……え?」」」
そんなピッキーの酒場の裏で、アウラは拉致したシャルティアと向き合っていた。
「一体何ごとでありんすか。せっかくぺロロンチーノさまと甘いひと時を過ごしていたでありんすに」
不満を漏らすシャルティアを見て、イラっとしたアウラだったが、深呼吸して言葉を告げる。
「裸のモモンガさまとぺロロンチーノさまがお風呂場で絡み合う本がこの島のどこかにある」
「さぁ、何をしているでありんすか、アウラ!立ち止まっている暇はないでありんすよ!」
一瞬で目の色を変えて、やる気を出したシャルティアが走り出そうとしたが、その行動を読んでいたアウラは彼女の首根っこを掴んで離さない。まずは情報を共有する必要があった。
「すでに一般メイドたちが動いているの。40人という人数で緑の開拓地から赤の開拓地にかけてくまなく探している。そこで見つかってないということは、本はここ赤の開拓地にある」
「一般メイドたちが敵でありんすか。ん……そういえばマーレは仲間にしないでありんすか?」
「その本の中には、ぺロロンチーノさまとの絡みの他にマーレがモモンガさまと絡む描写があるの」
「それは、危険でありんすね。だけど、一般メイドたちはどうして、そんなやる気を出して」
「勿論、ヘロヘロさまとの絡みもあるからよ」
「な、なんともけしからん禁書でありんすね。それは是非ともわらわたちで確保して処分しないといけないでありんす」
「そうよ。マーレの目に留まる前に処分するの。行くわよ」
そうやって同盟を組んだアウラとシャルティアは動き出す。それをオアシスの環境をみみずんと作っているブループラネットは不思議そうに見ていた。
◇
陽が沈みかけた頃、赤の開拓地の先にある砂浜でアウラとシャルティアは海を眺めていた。
結局、本は見つからず、不審な動きをするメイドたちの行動の理由を尋ねたやまいこの手で大規模捜索隊が発足されたが、結局ビルドの本は見つからなかった。1日を無駄にしちゃったなーとぼんやりとしていたら、2人に近づく影があった。
あねさん こんばんは
ふたりで こんなところで なにをしているの
ビルドだった。2人は苦笑いした後、帰ろうかと顔を見合わせたのだが、ビルドは2人を食事に誘った。素材島で手に入れてきた牛の肉を使った料理を振舞ってくれるというのでついていく。のだが、
「え?ここ崖だけど?」
なんてことないオアシス横の岩壁に連れてきたビルドはしゃがみこんで何かをやっている。それを待っていると岩壁が横にスライドし、温かみのある木の壁で出来た家が現れた。ビルドは2人を家の中に入れると青いボタンを押して、岩壁を閉めた。
ビルドの家はごちゃごちゃしていた。色んなものが無造作に転がっている。どうやらビルドはここで色々なものを試作して、出来の良かったものをメイドたちにレシピを下ろしているいるらしい。
部屋の奥にある高級ソファと大きなテーブルがあるリビングに通されたが、そこは大きな窓で仕切られたオーシャンビューがパノラマに広がる超ド級の抜群の立地を持つ部屋だった。
ももんがさんも たまに とまりにきて
いっしょに しさくりょうりを たべたり のんだり するんだよ
へやの ひだりがわが といれと ばするーむ
みぎがわが べっどるーむだよ
いまのところ ももんがさん せんようだけど
ゴフッという音の発生源を見ればシャルティアが興奮のあまり鼻血を出して蹲っていた。幸いビルドには見えない位置だったらしく、不審には思われなかったことを安心したアウラはシャルティアの鼻血を素早く拭う。そして、ビルドに聞こえないように小声で会話する。
「あんた、何をやってんのよ!ここまで来て帰れって言われたらどうすんの!?」
「いや、これで興奮せん方がおかしいでありんしょう!?雰囲気的にモモンガさまが入ったお風呂に浸かり、モモンガさまがお休みになったベッドで寝ることになるでありんすよ!わらわたちは」
「あわわわ……。そう考えたら恐れ多い。けど、身体が拒否できない。ごくりっ……」
おまたせー うしのにくを とうがらしで あじつけした ようがんすてーきだよ
ももんがさん いちおし
こんど めいどさんにも れしぴを おしえるから
ふだんも たべられるようになるよ
そう言って熱々の鉄板に載せられた状態の分厚いステーキが2人分運ばれてくる。2人はナイフとフォークを使って、そのステーキを頬張った。溢れる肉汁、ピリリと辛いスパイスが味のアクセントになっており、とても美味しかった。
食器の片付けもビルドがやってくれて、アウラとシャルティアはビルドに進められてお風呂に入った。シャルティアが『モモンガさまぁん』と蕩け切った表情を浮かべつつ浴槽に沈んでいたがアウラはあえて、ツッコミを入れなかった。
お風呂上りには魔法で凍らされた氷室で保管された氷を使って、冷たいイチゴやモモガキを使ったカクテルが振舞われ、2人はほろ酔い気分に。
「そういえば、びるど~。ほんはみつかったの~?」
アウラがほろ酔い気分で尋ねるとビルドは大きく頷き、赤い本を持ってきた。そして、2人に差し出す。
はい あねさん
けさ いっていた 「すけるとーももんが」だよ
ふなつきばに おちてて せんちょーが ほかんして おいてくれてたんだ
なかみをみた みたいだけど くびをかしげてたよ
やっぱり じゅよう ないよね ほしかったら あねさんに あげるけど いる?
「うんうん!超ほしいっ!」
ビルドは食いつき気味のアウラにちょっとびくっとした後、 そんなにいうなら と手渡す。そして、また試作品を作るからと言って部屋を後にする。
そんなビルドを見送った笑顔のアウラとシャルティアは、出されたカクテルを一気飲みし、ベッドルームに直行した。その夜、ベッドルームから艶のある声が響いたが、作業台で新たなものを生み出す作業に集中していたビルドは知る由がなかった。
◇
後日、泊まりに来たモモンガは部屋の雰囲気に首を傾げる。
「うん?ビルド、部屋に何か甘い匂いの香水を撒いたりしたか?」
こうすいか こんど つくって みようかな
「その様子だと違うみたいだな。うーん?」
知らない方が幸せなこともあるのである。
誤字脱字修正、ありがとうございます。
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