【装備】
「あれ、AOG教団の魔物、いなくなりましたね?」
「なんか白々しく、ビルドくんに『物作りはいいですね、ふっふっふ』と言って去っていったそうですよ。警戒していた方が無難かと」
ピラミッドの第一段階が完成し、ビルドが第二段階目を描くのを見ながら俺はベルリバーさんと話をしていた。俺たちがオッカムル島に行っている間にやってきて勝手に滞在し、ビルダーであるビルドの働きをじっくりと観察し帰っていったAOG教団の魔物たち。
何もないと思う方がおかしい。何らかの対策が必要かと思っていると空に太陽の光を浴びてキラキラと輝く物体があった。その物体は俺たちの側に舞い降りる。
「どーよ!この再現度」
そう言いながら格好いいポーズを決めるぺロロンチーノさんが身に纏う装備は、ユグドラシル時代の金ぴかの装備。それを見てピラミッドの建築に携わっていたシャルティアがダッシュで駆け寄ってきて、ぺロロンチーノさんを褒めたたえる。するとぺロロンチーノさんがシャルティアを抱きしめて、『可愛い』とか『俺の宝』とか『AOGが生んだ奇跡』とかべた褒めしている。
彼とシャルティアが落ち着いたところで、その金ぴか装備がなんなのかを尋ねると、最近になってからっぽ島に流通し始めた本を使って、ユグドラシル時代の装備を書き起こし、ビルドに作ってくれないかを交渉した結果、パーツ事であるが作ってもらえたのだと言う。
「まぁ、装飾のとこ以外は全部が金で作られているんで重いのが難点だけど」
かぽっと金色の仮面を外すぺロロンチーノさんはすでに汗だくだ。
俺もモモン・ザ・ダークウォーリアーの装備を一式作ってもらっているので、すいっと視線を逸らしたら、その先にはベルリバーさんがおり白い目で見られていた。
とにかくぺロロンチーノさんの一件で、装備をビルドに作ってもらうのがトレンドとなり、現在手元にある素材を使ってからっぽ島にいるギルメンの分と戦闘メイドの分を作り上げたビルド。ただし、それはパーツのみで組み立て自体は設計図をもらったメイドたちの丁寧な作りで完成されることになる。
【ビルドの隠れ家】
ピラミッドの第2段階目の完成も視野に入ってきたころ、一緒に作業をしていたヘロヘロさんが俺に近づいてきて話しかけてくる。
「ねぇ、モモンガさん」
「どうしたんですか、ヘロヘロさん?」
ブロックを積む作業を一旦止めて、俺はヘロヘロさんの方を見る。すると彼はプルプル震えたかと思うと、びょいーんと大きく伸びて、思いの丈を騙るように淡々と告げた
「ビルドくんって、隠れ家みたいな作業部屋をもっているんですって?アウラとシャルティアが話をしていたんですけど、モモンガさんは定期的に泊まりに行っているって。ずるいですー!!」
「別にビルドも俺も隠してませんよ?ちゃんと、「ビルドのところに行ってきます」って、宣言してきたじゃないですか」
「ビルドくんの家がそんな状態になっているって知らなかったからですよー!僕も連れてけー!!」
駄々をこねるようにピラミッドの斜面を転がっていくヘロヘロさんを追って地面に降りる。するとヘロヘロさんは目を回しながら、俺の方に近寄ってきて足にしがみついた。別に置いていくような非道をするつもりはないのに。
「いいですけど、ビルドは今日、緑の開拓地でシェルター作りをしているので、そっちの隠れ家になると思いますけどいいですか?」
「え?緑と赤の開拓地に別々にあるの!?入り口はどこに!?」
「滝の裏です」
「マジでっ!?」
灯台下暗しだわーとぼんやりとしながら告げるヘロヘロさんに、そんなに面白いところでもないんだがなと思いつつ俺は今日の分のノルマを達成するために収納箱からブロックを取り出すのだった。
そして、その夜。ナザリックハイツ本館の横を流れる川の上流にある滝へと向かう。ヘロヘロさんを伴い、滝の裏に来た俺は松明で壁掛け松明に火をつける。すると滝の裏の壁がゴゴゴッと動き、トンネルが現れた。
ブロックライトで足元が見えるようになっていて、それを見たヘロヘロさんが「作り込みが半端ねぇ」と驚愕している。俺はトンネルに入る際に壁掛け松明の火をヒャドで消して中に入る。すると滝の後ろの岩壁はゆっくりと閉まり切る。
俺はトンネルの中を足元のブロックライトの光に導かれるまま進む。すると行き止まりに大きな石の顔が置いてあるところまで行く。するとヘロヘロさんが興味深そうに見ていたので見せつけるように足元のブロックライトを踏み込む。すると滝の裏の壁と同様に石の顔が横にスライドし、鉄ブロックの壁と銅ブロックで囲まれた空間が現れる。
いらっしゃいませ へろへろさん
いま ばんごはんの よういを しているから
かりかりちーずと ばぶるばくじゅうを のんでまってて
そう言ってキッチンへと戻るビルドを見送った俺はヘロヘロさんを連れて部屋の奥に行き、掘り炬燵風の席に足を入れる。ヘロヘロさんもそれに倣って足をプラプラさせ、ガラスで作られたジョッキに注がれた金色のバブル麦汁に酒のツマミにチーズを焙ったカリカリチーズを食べる。
「くぅーっ、この焙ったチーズのしょっぱさとバブル麦汁の組み合わせ最高っ!」
見ればヘロヘロさんもチーズを食べ、ぐびぐびとバブル麦汁を飲み干した。そして、テーブルにドンとガラスのジョッキを置いた。
「って、おいぃーっ!?ナニコレ、こんなのずっと僕たちに隠れてやってきた訳!?これは事案レベルだよ!」
「いやいや、ヘロヘロさん。これは成功例ですって。中には綺麗な色して劇薬になっていた飲み物もあったし、味付けを失敗しておいしくないものを延々と食べなきゃいけなかったりして、大変なんですよ。このカリカリチーズだって絶妙な火加減が要求されるみたいで何度も試行錯誤を繰り返して来たんですから」
「いや、でも……ぐぐぐ。今度からこういう時は僕も連れてきてくださいよ。それで手を打ちます」
「不定期にやっているんですが、ビルドから招集されたらヘロヘロさんにも声を掛けますね」
その時、キッチンから香ばしい焼けたチーズの匂いが漂ってきた。
今まで身を乗り出して俺に詰め寄っていたヘロヘロさんも視線をそちらに向けて、釘付けになっている。すると両手にお皿を持ったビルドが部屋に入ってくる。香ばしい匂いの正体はピザだった。小麦を練って作った生地の上にトマトベースのソースと薬の葉をトッピングしたマルゲリータ風のピザと焙った鶏肉にマヨネーズを掛けて焼いたピザ。視覚と嗅覚に訴えかけてくる暴力のような衝撃はそう簡単に耐えられるものではない。
ヘロヘロさんが辛抱堪らんと言わんばかりにペチンペチンと机を触手で叩いている。机のど真ん中に置かれた2皿のピザ。キンキンに冷えた冷たいバブル麦汁。俺とヘロヘロさんは夢中になって食べて飲んだ。
食後は浴室に案内されて、五右衛門風呂に浸りながら夜空を見上げる。備え付けられた棚の上にはルビーラの入った瓶とコップが置かれている。月見酒ならぬ夜空酒だ。
「あ~……これはたまらん。こんな接待されたら、僕どんなことでも頑張っちゃうよー」
ぶくぶくと五右衛門風呂のお湯に口のある部分をつけて、息を吐くヘロヘロさん。そんな彼はにゅっと伸ばした触手でルビーラの入った瓶を取ると、コップになみなみと注いでごくごくと喉を鳴らして飲む。俺もヘロヘロさんに倣ってルビーラをコップに注ぎ、夜空に献杯してグイっとコップを傾ける。風呂で温められている内臓(ない)に酒が入り、体の芯からポカポカする。
「ビルドは俺たちのことをしっかりと見ているから、ストレスが溜まっていると見たらこういう風にもてなしてくれるんですよ。ブループラネットさんとは森の奥に作った庭園でワインを飲んだって言っていたし。バルバさんとは緑の開拓地の裏に作った護岸の上から魚釣りをして、釣った魚をその場で捌いて刺身にしたり、焼いたりして食べたって言っていたし」
「……僕、誘われたことないんですけど?」
「それはヘロヘロさんがソリュシャンやメイドたちに囲まれて幸せそうにしているからじゃないですか?」
「ああ。……そういうことかぁーっ!?それじゃあ、僕がモモンガさんに声かけなかったら一生呼ばれなかった形じゃないですか!やだー!!」
ヘロヘロさんの叫び声が海の方に消えていく。
「大丈夫ですか、へろへろさん。かなり酔ってますよね?」
「キンキンに冷えたバブル麦汁は駄目だ。調子に乗って飲み過ぎたー。視界がぐるんぐるん、まわるぅ~。それに風呂に入りながらのお酒もやばい……うわぁ、これ落ちるわ……ぐーすかー」
完全に酔いつぶれたヘロヘロさんが全身の力を抜き広がっている。俺はビルドに行ってベッドを用意してもらうと、ヘロヘロさんをそこに寝かせて、本来の目的であるビルドの試作品の食事会を始める。
では ももんがさん ししょくのほうを おねがいします
きょうは こうしんりょうを つかった かれーのるぅ を つくってみた
こむぎが あるから なんで たべれるから あるといいかなって
「い、色が。これはカレーの正しい色なのか、真っ赤と真っ黄色と真緑なんだが!?」
たぶん たべれる はず めいびー
◇
「やっばぁ……風呂で寝落ちとか、新入社員か!っての」
ベッドから降りて昨夜ピザを食べた掘り炬燵のあるリビングに行くと、モモンガさんとビルドがスプーン片手に気絶していた。刺激臭が充満しており、見れば2人はそれぞれ赤いペーストのものを食べて気を失ったようだ。
とりあえず、その赤色は避けて黄色のものを舐めてみる。するとココナッツの甘みとバターのコクを感じる一品だった。うまい。次に緑色のものに挑戦してみる。黄色のものよりも香草の味がしっかりしている。体によさそうな苦みがあるが、僕は苦手だ。
問題は赤い奴。モモンガさんとビルドくんを気絶させる殺傷力をもつものだ。僕は用心して、ちょっとだけ触手の先につけて舐めてみることにした。それを口に含んだ瞬間、脳天に杭が突き刺さったような激痛が走る。粘液の身体が沸騰するんじゃないだろうかという熱さが体の中心から沸き起こる。口の中が焼けるような痛みに悶絶するが、種族がスライムだからか、モモンガさんとビルドくんのように気絶できない!
「からいからいからいからい!からーい!みずみずみず!みずみずみずーっ!!」
僕は走った。走って、走って、走り抜けて。
日も登っていない早朝の冷たい滝の中に水を求めて飛び込んだ。
【ヘロヘロ殺人事件】
「きゃああああああ!?」
その日、事件は唐突に起きた。誰もが柔らかな布団に包まれて眠っている早朝、料理当番のために早く起きたメイドが顔を洗いに洗面所に向かった際、窓から見えた川にうつぶせで浮かぶヘロヘロさまを発見。叫び声を上げた。
メイドの叫び声を聞いて、起き出したナザリックハイツの部屋にいた者たちは次々に事件現場に現れ、変わり果てた姿のヘロヘロさまを見て、次々に悲鳴を上げた。
「おい、嘘だろ。ヘロヘロさん!起きろよ、起きてくれよーっ!」
ぺロロンチーノさまが川に入ってヘロヘロさまを抱き起こす。するとヘロヘロさまの身体は普段、艶のある黒い紺色であるにも関わらず、真っ白になっていた。口と思わしき部分からは赤い液体が流れている。その痛々しい姿を見て、集まった皆が悲痛な面持ちになる。そんな中、ぶくぶく茶釜さまが強い口調で告げる。
「誰よ……ヘロっちをこんな目に合わせた犯人は。いったい誰なのよ!!」
ここに捜査本部が設置され、ヘロヘロさまをこんな目に合わせた犯人探しが始まった。
◇
証言その①
「ヘロヘロさまは夜間、どこかへ出かけていらっしゃったようです。部屋のベッドの寝具が乱れていませんでした」
証言その②
「赤の開拓地でモモンガさまと会話し、一喜一憂する姿を見ました。モモンガさまの足元に縋りつく姿も。……モモンガさまなら何らかの事情を知っておられるかもしれません」
証言その③
「今日は。モモンガさまは見ていないでありんすね」
証言その④
「じ、実は滝の方へヘロヘロさまを連れて行く、モモンガさまを見ました。で、でも、モモンガさまがヘロヘロさまをあんな目に合わせるなんて、こんなの嘘ですぅ~」
◇
「目撃者の証言はモモンガさんが黒だと言っているぜ、姉ちゃん。捜査員を動かすか?」
「いやいやいや。私が本部長みたいな感じになっているけど、ヘロっち死んでないでしょ?ペストーニャの診断で刺激物を食べて気絶しているだけってなったじゃない?」
「いや、こういうのがあったほうがメイドたちも面白いかなぁって。見ろよ、マーレはちゃんとこの事件のことを書き残しているじゃん。この島って娯楽が少ないんだから、マーレが小説家になる展開があってもいいじゃん」
そう言ってぺロロンチーノさまが僕を見てくる。
ぶくぶく茶釜さまが無理しなくていいからとおっしゃってくれるが、僕の性にもあっていたのか、割とすらすらと文字を書けているので、このまま最後の展開まで書き記したいと思うことを伝えると、乾いた笑いを漏らしつつ「そっか、がんばって」と告げられる。はい、僕頑張る。
そして、事件は急展開を迎える。
容疑者であったモモンガさまが滝つぼにうつ伏せの状態で浮かんでいる姿が発見されたのである。
第一発見者はキビを収穫してキッチンに運んでいたメイドであった。ローブ姿のモモンガさまが浮いている姿を見て絶叫を上げた際、ゴゴゴッという重いものが動く音がしたと証言をしたのである。
急遽、ぶくぶく茶釜さまが率いる捜査員による滝つぼの調査が行われたが、犯人に繋がるような物的証拠はなく。事件は迷宮入りとなった。
【って、おい!?】
メイドたちの間で流行っていた本を借りて読んだベルリバーは叫んだ。
「事件を迷宮入りさせたまま終わらせたら駄目だろ、マーレ!?」
誤字脱字修正、ありがとうございます、