からっぽ島開拓記~ナザリック風味~   作:甲斐太郎

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AOG教団の襲撃、そして敗北

それは唐突だった。

 

モンゾーラ島やオッカムル島に置かれていたビルダーの鐘のように心地良い音ではない鐘の音が響き渡る。からっぽ島にいる面々に何かを知らせるような、鐘を鳴らした本人の焦りを滲ませる鐘の音に、ピラミッドの建築をしていた俺たちは周囲を見渡して、浜辺の方から聞こえてきた喧騒の音に緊張感が高まる。

 

「モモンガさん、襲撃だっ!浜辺を覆いつくすくらいの魔物の軍勢が!」

 

その時、浜辺の方から轟音が何度か響き、空を黒い物体が横切った。そして、その黒い物体が落下した位置で爆発が起こる。再度、轟音が鳴り響いたが『2度目はやらせない』と金色の装備を身に纏ったぺロロンチーノさんが羽ばたいて上空へ飛び、弓を使って飛来する砲弾を撃ち抜いて爆発させる。

 

「モモンガさん、沖合に船が5隻いやがる!いや、からっぽ島全体を包囲するように船が、20隻近いhがはっ!?」

 

島に向かって放たれた砲弾を撃ち落とし、からっぽ島の現況を伝えたぺロロンチーノさんが船着き場のある方から飛来した何かに蹴り飛ばされ、緑の開拓地に向かって消えた。

 

そして、ぺロロンチーノさんの代わりにピラミッドの上空で佇む形になったのは血のように紅いドレスを身に纏った自動人形。

 

天使の翼に模した機械の翼を持ち、自立行動する浮遊する銃剣を10本従える、ナザリック地下大墳墓における最強。

 

ワールドアイテム『賢者の石』を改変して生み出された存在。

 

領域守護者【ルベド】がそこにいた。

 

 

「ペロロンチーノ撃破完了。……目標補足」

 

 

無機質で淡々とした声が聞こえた。

 

ルベドは手をすっと上げる、すると彼女の周りを浮遊していた銃剣がスカートのように展開。剣先にエネルギーが収束し、からっぽ島の各地に向かって光の銃弾が放たれる。幾度も、連続して。雨のように。

 

島のあちこちから悲鳴が聞こえた。それも次第に聞こえなくなっていく。光の銃弾を発射するのを止めたルベドは俺を見下ろしながら淡々と告げる。

 

「エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ沈黙」

 

「ブループラネット撃破」

 

「ユリ・アルファ沈黙」

 

「やまいこ撃破」

 

「バルバ・トスアタック撃破」

 

「アウラ・ベラ・フィオーレ沈黙」

 

「ぶくぶく茶釜撃破」

 

「マーレ・ベロ・フィオーレ沈黙」

 

「シャルティア・ブラッドフォールン沈黙」

 

「ベルリバー撃破」

 

「ルプスレギナ・ベータ沈黙」

 

「ソリュシャン・イプシロン沈黙」

 

「ヘロヘロ撃破」

 

「掃討完了」

 

 

光の銃弾を放ち終わった自立行動する銃剣を機械の翼と連結したルベドは視線を、剣劇が続いて聞こえる浜辺へと向けると、一気に加速して消えた。

 

俺は呆然としながらも、恐らくビルドが戦っているだろう浜辺へと向かった。砂に足を取られ、盛大に転ぶ。杖を捨てて、みっともなくても、浜辺へと向かった。

 

そこには信じられない程、多くの魔物たちが揃っていた。今までのモンゾーラ島やオッカムル島で見てきた魔物いるが、牛の顔を持つ大きな図体の魔物や鳥の姿をした魔物。機械の身体を持つ魔物や一つ目の巨体を持つ魔物もいた。それらを果敢にも退けて、奮戦を続けてきたビルドの視線が砂に塗れて、情けない姿の俺へと注がれる。そこに聞き覚えのある声が響いた。

 

「久しぶりですね、ビルドくん。そして、モモンガ殿」

 

そこにいたのは先日までからっぽ島に滞在していた魔物のウゾーンだった。不気味な笑い方をし、肩で息をしながらも諦めていないビルドを見て、愉快そうに笑って告げた。

 

「からっぽ島は完全に占拠しました。メイドたちが立て籠もっている建物も包囲してあります。強い力を持つ魔物たちもすべて虫の息。しかし、我らの目的はビルダーであるビルドくん。君だけだ。魔物である彼らは見逃してもいい。どういう意味だか分かりますね?」

 

ビルドはウゾーンの言葉に頷き、武器である大鉄鎚を放り捨てた。そして、周囲にいた魔物たちに蹂躙される。俺はビルドを助けに向かおうとしたが、背後から首根っこを掴まれ持ち上げられる。俺をそうしたのは、ギルドメンバーや守護者たちを叩き潰したルベドだった。

 

「…………」

 

俺は自分の首を掴むルベドの手を外そうと暴れる。だが、華奢な少女ほどの指の細さなのに指いっぽん外せない。そうこうしている内に、ビルドがいた位置の魔物たちが大人しくなっていた。魔物が次第に掃けていく。そこに高々と天に向かって突き出される三又の槍。その先に掲げられていた血濡れのビルドの姿。ぐったりとしており、ここからでは息をしているかも分からない。

 

「ビ……ルド。……お、……お前らぁあああ!」

 

心の底から溢れ出る憎悪。

 

目の前が真っ赤に染まる。

 

仲間を奪われ、ビルドが俺たちの所為で抵抗を諦めざるを得なくなったことが悔しくて、自分自身が愚かに思えて。

 

腸が煮えくり返る。

 

喉を掻きむしりたい。

 

髪を引きちぎりたい衝動に駆られるほどの怒り。

 

目の前の物をすべて破壊したい。そう思った時、魔物共の身体が透き通って見え、それぞれの中心に灯っている焔のようなものが見える。それはその者の命の灯だ。今の俺はそれを一瞬で吹き消せる力があった。

 

「その腐った魂を俺に捧げよ!ザラキーマ!!」

 

俺を中心に吹き荒れる黒い嵐。

 

その風に触れた者は尽く、命の灯が消えていく。赤の開拓地に面した浜辺にいた魔物の8割近くが俺のたった一言の魔法で崩れ落ちた。残っているのは魔法の範囲外だった大きな魔物と、ウゾーン。そして、俺の動きを止めているルベドだけ。俺は振り返り、視線をルベドに向ける。

 

「お前は、いったい何者だ?」

 

「…………」

 

俺はルベドに問う。すると無機質な瞳に迷いが生まれていた。俺の首を掴む手が震えている。ワールドアイテムを元にして生み出された存在故に、彼女の前にはレベルも関係なければ、状態異常や精神汚染なども関係ない。そのルベドが俺を見て恐怖している。

 

「お前は、いったい何者だ?」

 

俺はもう一度、ルベドに問う。

 

「わ……たし、は……、ナザリック地下大墳墓を支配する、……アインズ・ウール・ゴウン、に属する。盟主……モモンガ、様の……矛」

 

俺の首を掴んでいた手が緩められ、地面に降り立つ。その代わりにルベドはその場に蹲り、目の光が消え機能が停止した。

 

これでいいとウゾーンたちに目を向けるとぐったりとするビルドと共に小舟に乗って逃げ出そうとしていた。俺は指をすっと、ウゾーンに向ける。そして、魔法を唱える。先ほどの魔法で生き残っていた魔物がウゾーンを守るように盾となったが即座に死んで倒れ伏す。

 

ウゾーンは恐怖の表情を浮かべ、ビルドを引き摺って逃げ始める。俺が魔法を紡げば、ウゾーンを守る魔物が倒れる。それを幾度と繰り返し、そして残りはウゾーン1人となって、アイツを殺せばビルドを俺の手に取り戻せるとなったその時、魔力が切れたのか『がくっ』とその場に膝をつく。

 

俺は即座に拳で膝を叩き、立ち上がろうとするが、身体が言うことを全く聞かずに浜辺にうつ伏せで倒れ込む。拳を砂浜に突き立てて、顔を上げるとビルドとウゾーンを乗せた小舟は、沖合に泊められた船へと向かっていた。

 

「ま、待て!ビルドを、俺の友を返せっ!!」

 

俺は這いずりながらも、ビルドに向かって手を伸ばす。だが、もうビルドを乗せた小舟も、多くの魔物を運んできた船団も見えなくなっていた。

 

 

 

 

からっぽ島に雨が降り始めた。

 

緑の開拓地に向かってルベドに蹴り飛ばされたぺロロンチーノはふかふかに耕された野菜畑の中で目覚めた。体を起こすと羽や体に大量のトマトが付着していて、遠目から見ればまるで血塗れのように見えた。

 

「はは、ビルドに作ってもらった鎧がバキバキじゃねぇか」

 

ぺロロンチーノは砕けた金色の鎧を脱ぎ捨てると、羽を羽ばたかせて浮かび上がる。そして、周囲を見渡して絶句した。

 

至る所に砲弾が落ちて爆発した痕があり、ナザリックハイツは火をつけられて炎上していた。降り始めた雨で鎮火しつつあったが、この中にメイドたちが避難していたならば危なかっただろう。地下にビルドが襲撃に備えたシェルターを作ってなければ。

 

「げほっ……げほっ……、装備の上からこのダメージとか、出来る奴は限られてくるよな……」

 

ぺロロンチーノは空から被害状況を見る。

 

ビルドとブループラネットが計算して、時には喧嘩して作り上げた森や草原が砲弾を受けて滅茶苦茶になっている。自分好みに飾りつけした部屋があるナザリックハイツは半壊。昨日、宴会騒ぎになった集会所は中央に大穴が開いている。野菜畑は魔物たちによって踏み荒らされ、踏みつけられたかぼちゃやウリがそこらに散らばっていて痛々しい。

 

「くっそ。完全に油断してた。モモンガさんとベルリバーさんは気づいてたっぽいのに……ちくしょう」

 

痛む腹を押さえながら赤の開拓地に向かうと、渋々ビルドが作ってくれたスケスケのシャワー室があるウォータースライダー施設が木端微塵に破壊されていた。建築中のピラミッドも砲弾を受けて、大穴が開いている。無事だったピッキーがヘロヘロとソリュシャンの治療をする姿を見て、俺は浜辺の方へ向かった。

 

 

 

「これ……マジか?」

 

そこにあったのは魔物の死体の山だった。

 

浜辺を埋め尽くさんと言わんばかりに多くの魔物がうつ伏せだったり、仰向けの姿だったりして、身動きひとつせずに倒れている。その目が眩むような大量の死体の先に、モモンガがいた。

 

ぺロロンチーノは少しずつ降下していき、モモンガが泣いていることに気付く。モモンガの慟哭を聞き、ぶくぶく茶釜を含めたギルメンも、シャルティアたち守護者も、戦闘メイドのプレアデスたちも全員敗北し、倒れ伏した自分たちを人質取られたビルドは自ら魔物の軍勢に身を差し出したようだ。

 

ぺロロンチーノはモモンガに掛ける言葉が見つからず、その場には降りないで仲間たちの救援に向かう。重傷者はいれど死んだ者がいなかったことだけは幸いだった。全員を救護室へ運び、ペストーニャの指揮の下、治療が行われる。

 

ぺロロンチーノはそこを抜け出してモモンガの下へ向かう。

 

でも彼は、魔物の死体が消滅した後も、ずっと。モモンガは、この世界で得た友を失ったショックを抱えたまま、赤の開拓地の浜辺で慟哭を上げ続けていた。

 

 

 

「獄長、新たな更生を必要とする人間を収容致しました。どうなされますか?」

 

「興味ありません。あなた方が今まで通り勝手にすればいい」

 

「しかし、獄長。相手は教団がずっと敵視してきましたビルダーの少年だということです。ここは特別の配慮が必要かと」

 

「……分かりました。では、その少年を私の隣の牢獄に。私、自らが監視しましょう。そして、不穏な動きを見せたら私が直接処理します」

 

「おお、分かってくださいましたか、“デミウルゴス獄長”。では、その手はずに動きます」

 

去っていく魔物を見送った私は牢獄という閉鎖された空間で、お仕えすべき方のいない世界で真面目に生きることの虚しさを改めて思い、深くため息を吐いたのだった。

 

 

 

私が目を覚ました時、ナザリック地下大墳墓の崩壊は終わった後だった。

 

しかし、周囲の光景は何度かウルベルトさまの付き添いで訪れたことのある玉座の間へと続く廊下であったが、違和感を覚えて床を触り、実際に触れている感触と目に見えている光景が噛み合っていないことに気付く。今、見えているすべてのものがまやかしであるという異常に、私は思わず玉座の間へと続く扉を押し開けた。

 

「ケーケッケッケ。どうした、デミウルゴス?そんなに慌てて」

 

ウルベルトさまの声に聞こえた。

 

しかし、偉大なる我が創造主であり、誇り高き悪を司るウルベルトさまがそんな下品な笑い声をあげるはずがない。私はウルベルトさまの姿を偽る者へ、容赦なく魔法を発動させようとしたが、先ほどまで使えたはずの魔法もスキルも使えなくなっていた。それでも出来ることはあると、一歩前に踏み出した瞬間、黒い鎧を身に纏った守護者統括であるアルベドが私を取り押さえた。

 

「どういうつもりなの、デミウルゴス?貴方ほどの者が、私の愛しのモモンガ様に反旗を翻すなんて?」

 

「ぐっ……うぅっ!?」

 

「ぎゃーはっはっは。何だ、お前も俺様の姿が見えるのか。執着心の強い女どもは操れても、忠誠心の高い奴は尽く使えないな」

 

アルベドに押さえつけられ、髪を引っ張られて強制的に顔を上げさせられた私の視界に映ったのはナザリック地下大墳墓の支配者であるアインズ・ウール・ゴウンに所属する至高の御方たちの盟主である、世界崩壊のその時まで我らの下に残ってくださった慈悲深い心を持つモモンガ様が座るべき玉座。それに我が物顔で座る魔物だった。

 

私は奥歯を噛みしめ、手を床に付き、アルベドの押さえつける力に負けぬように鍛え上げた肉体の力だけで立ち上がろうとする。しかし、その反抗の手は新たに玉座の間に現れたシャルティアとアウラとマーレによって弾かれ、啄まれる。アルベドの押さえつけの力が増し、意識が遠のく。それでも私はアルベドに告げた。

 

「目を覚ませ、アルベド。そいつは、至高なる御方……モモンガ様ではないっ!」

 

「そんなことないわ、デミウルゴス。私が愛しのモモンガ様を見間違えるはずないでしょう?叛逆の行為を取ったデミウルゴスをどうなされますか、モモンガさま?」

 

「ケーッケッケッケ。そうだな、弱体化したとはいえ頭のいいお前を自由の身にするのはリスクがある。そうだな、監獄島の獄長に任命してやろう。そこで一生を過ごせ、ギャーハッハッハ!」

 

「まぁ、モモンガさま。こんな愚か者にも慈悲を頂けるなんて。ほら、デミウルゴス。モモンガ様の寛大な配慮に感謝なさい」

 

そう言ってアルベドは私の頭を掴むと地面に額を叩きつけて押さえつける力を増し、私を強制的にその魔物に対して頭を下げさせた。

 

 

 

それからはあっという間の日々だった。

 

監獄島という絶海の孤島に作られた収容所の獄長として、何もしない日々。収容された人間が作るキャベツという野菜が主な食事で、やることといえば空か海を眺めるだけ。

 

偶に死んだ人間の火葬や、教団に逆らった人間を処刑する場へ連れてこられたが、それを見ても何も思うことはない。空虚な日々が、只々無為に過ぎていく。

 

監獄島の一番高い位置にある獄長室にいても何もすることがなく、思い付きで収容された人間観察をするために、いる場所を牢獄に移したが、監獄島に収容された人間はどいつもこいつも諦めきった表情を浮かべ人間を次々とやめていくものだから、面白みは一切感じられなかった。

 

そんな時に現れた普通の人間とは一味違う存在のビルダーの少年。私は隣の牢獄に彼を入れさせ、その数日後に更生プログラムに参加する少年と接触するのだった。

 




誤字脱字修正、ありがとうございます。
次回もお楽しみに。
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