からっぽ島開拓記~ナザリック風味~   作:甲斐太郎

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監獄島編

からっぽ島という資源が何一つない島を開拓するためにAOG教団の支配下にあった島を、その島のトップを務める魔物を討伐しつつ、勢力を拡大していたビルダーの少年は、全身が包帯塗れで私がいる牢獄の隣の部屋に放り込まれた後、3日ほど目覚めなかった。

 

更生プログラムに参加しに行く前に牢獄の地面に横たわる少年を見たが、階層守護者であるマーレよりも幼い印象を受けた。あんな少年に負けてしまうとは、島を支配する魔物たちは大した強さを持っていないのかもしれない。

 

 

早い。

 

更生プログラムに参加するようになった少年は怪我だらけの身体にも関わらず、精力的に看守長から課せられることに取り組んでいた。その中のひとつであるキャベツの種まきの様子を見ての感想だ。

 

そこそこの広さがあったのにも関わらず、種まきを終えた少年に看守長は自由時間を与える。すると少年は同じ3号棟に収容されている人間ひとりひとりと話をしてこの監獄島のことを聞いて回る。当然、私の所にも話を聞きに来た。

 

そこで真正面からようやく少年を見ることが出来たが、緊張感が欠片も見当たらないのほほんとした笑みを浮かべる普通の少年。私には彼をそう見ることしかできなかった。

 

1週間たった。少年が更生プログラムの初日に植えたキャベツが実った。だが、少年の手で火がたかれ、せっかく実ったキャベツは全てが燃えてしまった。畑を耕し、種に水を撒いて、収穫を心待ちにしていた人間たちが、物作りは不毛なのだと心折られる中、少年は言った。

 

「壊れたのならまた作ればいい」と。少年の目は今までに収監されてきた人間とは違い、死んでいなかった。

 

その翌日、看守長の命令でまたキャベツの種を植えた少年は自由時間の中で、この監獄島で長い時を過ごしてきた老女に話を聞き、かつて脱獄を企てた脱獄王なるものがいることを知る。そして、その脱獄王の仲間だった、この世界の最弱の魔物であるスライムを仲間にした。

 

立派な名前があると憤慨しながら少年に文句を言うスライムだったが、少年がつけた「スラきち」という名前も気に入ったらしい。しかし、その名づけセンス、慈悲深い至高の御方の盟主モモンガさまに通じる何かがあるような気がした。

 

 

知らない内に私も彼の脱獄計画に参加することになっていた。いや、適当に相槌を打っていたが、それでまさか私も参加することになろうとは。人間は上げて落とす方が受けるショックが大きいという。少年が本当にこの絶海の孤島にある監獄島からの脱獄に成功しそうになった時、本性を表すことにして私も脱獄計画に参加することとなった。

 

とは言っても私は少年とは別の牢獄の中におり、夜間に脱獄計画を進行させる少年の手伝いを直接はすることができない。私に出来るのは更生プログラムの空いた自由時間に昨夜はこんなことをしたと話す少年の話を聞き、気になったところを助言する程度。

 

その中で少年は私に一緒にからっぽ島に行こうと誘ってきた。少年が拠点とするからっぽ島は開拓の真っ最中だという。何かしたいことはないかと聞かれた私は咄嗟に牧場を運営したいと告げた。すると少年はいいね!と親指を立てて笑顔で私が出した案を褒める。

 

恐らく私の考える牧場と少年の考える牧場には大きな隔たりがあるだろうとは思ったが、何も言わなかった。

 

私と少年が収監されている3号棟で事件が起き、その主犯として少年は懲罰房にいれられてしまった。少年が懲罰房で過ごす間も、私は他の人間に怪しまれないように更生プログラムに参加しているが、少年がいないというだけなのに私の心に隙間風が吹き込んでいた。

 

そのことに気付いたのは牢獄に戻った後、少年が懲罰房から出てくるのを心待ちにしている自分がいることに気付いたからだ。

 

私と少年の関係は希薄だ。私はこの監獄島の獄長として、教団が敵視するビルダーの監視と変な動きを見せた時に処刑する役割を与えられた。いや、押し付けられたのか。最初は監視するために近づいた。けど、この監獄島で生きる人間たちと違い、希望を抱き、自らの力で未来を切り開こうとする強い意志を感じる少年と過ごす内に私の心にも何かが生まれつつあった。

 

至高の御方がいないと早々に諦めて、この小さな島で過ごすことに何の疑問も抱いてこなかったが、私にはまだやるべきことがあるのではないかと。

 

少なくとも、ナザリック地下大墳墓を、アインズ・ウール・ゴウンの名を汚す、あの魔物を一発殴って、葬り去らないと気が済まなくなってきた。そして、まやかしに囚われた守護者統括であるアルベドの目も覚ましてやらないといけない。それが出来るのは、事情を知る私だけだ。

 

崩壊の最後の時まで私をはじめとした僕のためにナザリック地下大墳墓に残ってくださったモモンガさまが愛したものをあんな下品な魔物に踏みにじらせたままではいられない。そんな思いが私の心に宿った。

 

それから数日後、懲罰房から出て来た少年はけろりとしていた。人間には厳しい環境だったと認識しているのだが違ったのだろうか。少年が懲罰房に入れられる原因となった事件の犯人は別の人間だったことが会話の中で窺え、少年に恨まないのかを尋ねると、「懲罰房にいる魔物に用があったから渡りに船だった」と笑う少年に私は苦笑いを漏らした。

 

懲罰房から出て来た後も精力的に更生プログラムに参加し、自由時間に情報を得る少年はついに脱獄の手立てを得たようだ。抜き打ちの牢獄のチェックを交わした少年だったが、別の脱走者が出たこともあり、牢獄の部屋を変えると言う服獄長の言葉を聞いて、私に今夜脱獄を決行することを告げた。

 

 

 

 

牢獄の地面がなくなり、私は地下に飛び降りる。そこには少年の他に大きな木槌を持つ魔物と口元に髭を蓄えた人間とスライムがいた。

 

「ビルドさん、このお兄さんも連れて行くでヤスか?」

 

うん でみさんも からっぽじまに きてもらうんだ

 

人間の男は少年がそう言うのであればと頷いた。

 

私は長い間、懲罰房に閉じ込められていた魔物に目を向ける。長い間受け続けた更生プログラムによる洗脳で意思疎通が不可能になってしまった可哀想な存在のはずだが、少年とは不思議と意思疎通が取れている。スライムを仲間にした時から思っていたが、少年は不思議な存在だ。

 

大きな木槌を持つ魔物の協力で地面を掘り進み、監獄島の地下にある下水道に出た。少年たちの言うように潮の香りが強くなってきた時、腐敗した肉の臭いがした。見れば腐った死体という魔物が私たちを見つめていた。スライムが何かに気付いたようだが、腐った死体が大きく手を上げて襲い掛かってきたのだが、少年がその死体を制止させる。

 

しばらく身振り手振りをして、意思疎通を図ること暫し。少年は腐った死体と戦わずに仲間にした。しかも、その腐った死体の魔物に、かつての脱獄王の名前をつけるあたり、何か違うものを感じる。そうして、壁ひとつ挟んだ先が海という場所に、副獄長の姿があった。

 

「くっくっく、待っていましたよ。ビルダーくん」

 

副獄長の合図で私たちを取り囲むようにして表れるがいこつ剣士の群れ。スライムが脱獄計画はばれていたのかと叫ぶと、当たり前だろうと私を見ながら言った。副獄長はどういうことだと言わんばかりに驚いている面々の中で、私の正体をばらした。

 

語尾にヤスと告げていた人間の男はもう終わりだと頭を抱え、スライムは嘆き、大木槌を持つ魔物の視線も俯く、腐った死体も諦めるように天井を見上げていた。少年もそうかと思ったが、彼は首を傾げていた。

 

それが なに?

 

デミさんが ごくちょうだから なんだっていうの

 

でみさんは いろんなことを しっているんだ

 

やりたいことも ちゃんと あるんだ

 

こんなちっぽけなしまで でみさんが まんぞくする はずがないだろ

 

ざこは ひっこんでろ

 

 

少年は親指を地面に向けて堂々と告げた。

 

副獄長が私を睨みつけるように見てくる。彼の気持ちが手に取るようにわかる。どうして、始末しないんだと言わんばかりにプルプル震えている。非常に滑稽な状況だ。私はそんな彼を見て、鼻で笑ってやった。

 

「くっそぉおおおお!貴様は最初から気に食わなかったんだ!上の意向で貴様に獄長の座を譲ってやったが、もういい!ビルダー諸共、ここで始末してくれる!!」

 

しかし、私も早まってしまいましたね。ここでやられてしまっては、しなければならないことを果たせない。しかし、私も副獄長もここに集まった魔物たちも認識が甘かった。

 

きづっち それ かして?

 

 

と、大木槌を持つ魔物からそれを借り受けた少年は近寄ってきたがいこつ剣士を粉砕した。壁にぶつかって消滅するがいこつ剣士。大木槌をその場で素振りし始める少年は笑顔で言葉を重ねる。

 

おまえらさ わんぱたーんなの

 

あげておとす のが にんげんに ゆうよう?

 

それは おまえらも おんなじ

 

びるだーと にくいじょうしを ころせる ばんざーい

 

って ばかじゃないの?

 

こんなに あつめてくれて どうもありがとう

 

これだけの まものが いなくなったら かんごくとうも おわりでしょ?

 

じゃあ しね

 

 

赤いオーラを身に纏った少年の姿が掻き消える。

 

私たちを取り囲むように集まっていた、がいこつ剣士がまとめてバラバラになって下水道に散らばる。中には逃げ出そうとする、がいこつ剣士もいたが、1匹も逃さんと言わんばかりに少年が高笑いしながら粉砕していく。

 

その時、壁を破壊して懲罰房の主であるトロルが現れたが、その直後に懐に入り込んだ少年に膝を粉砕され、前のめりに倒れたところで大木槌を振り下ろす少年の姿が。それが彼の最後の光景となった。

 

「ひっ、ひぃえぇええええ!?」

 

ただ1人だけ生き残った魔物である副獄長の前に返り血を浴びた少年がニコニコとした笑みを浮かべて立っている。

 

少年はゆっくりと大木槌を構えて、素振りを始める。風を切る音が、副獄長にとっては死神の鎌にでも見えたのか、叫び声を上げて少年に襲い掛かる。

 

だが、待ち構えていた少年の大木槌によるフルスイングを受けて、副獄長は下水道の壁の染みとなったのだった。

 

 

 

監獄島の船着き場には小さな船が泊めてあった。

 

それは少年に同行していた語尾にヤスをつける人間の男の船で、彼は船長だったのだ。人は見かけによらないとはこのことだろう。

 

魔物たちとは船着き場で別れ、船は少年の拠点であるからっぽ島へと舵を切る。その船の上で少年から、からっぽ島における今後のことを一緒に考えようと話しかけられた。

 

「その前にいいですか、少年。いい加減に自己紹介をしましょう。私はデミウルゴス。デミさんという名前ではありません」

 

うん わかったよ でみさん

 

ぼくの なまえは びるど

 

で でみさんの ぼくじょうを たてるいちの そうだん なんだけど

 

 

「人の話を聞いていましたか?……まぁ、いいでしょう。特別に、ビルドくん。君だけ、特別に、その『デミさん』と私を呼ぶことを許します」

 

ありがとう でみさん

 

で はなしの つづき なんだけど

 

 

そんなことはどうでもいいから、牧場の話をしようと、ぐいぐい来るビルドくんに私は苦笑いを浮かべる。まさか、悪魔である私が人間の子供に圧される日が来ようとは。創造主であるウルベルトさまに見られでもしたら、呆れられてしまうかもしれません。

 

しかし、私はビルドくんのおかげで自分のやるべきことを見つけられた。まずはまやかしに囚われたアルベドたちを奪還し、あのふざけた魔物を討伐する。

 

ビルドくんのからっぽ島で牧場を営むのはそれが終わってからになるでしょう。そのことをどう伝える物か、私は頭を悩ませることになるのでした。

 

 

 

夕闇に紛れて到着したビルドくんのからっぽ島。月明かりだけが頼りの中、ビルドくんは迷いなく先に進む。

 

うーん あかるく なってからの ほうが いいかな

 

ごめんね でみさん みどりのかいたくちまで いきたかったけど

 

きょうは ぼくが はじめてつくった ねどこで ひとねむりしよう

 

 

そう言ってビルドくんが指さしたのは崖下のスペースに作られた部屋でした。牢獄に比べれば、どんな状況でもマシです。先に部屋に入ったビルドくんは、何故か中にいた先客者の相手をしているようでした。ビルドくんに遅れて部屋に入った私が見たのは、彼を抱きしめておいおいと泣く、至高の御方であるモモンガさまでした。私は咄嗟に自分の手の甲をつねり、これが幻でないことを悟った。

 

ああ でみさん あんしんして

 

このひとは ももんがさん ぼくと いっしょに からっぽじまを

 

かいたくして くれている たいせつな なかまなんだ

 

ちょっと じけんがあって はなればなれ に

 

いたいいたいいたいいたいーっ!!

 

「ああ、すまない。ビルド、力が強すぎたな……なっ!?お前はウルベルトさんのところのデミウルゴス!そうか、お前がビルドをここに連れ帰ってくれたのか!さすが、ウルベルトさんの息子だ!来い、デミウルゴス!!」

 

私はモモンガ様に言われるままに近づき、抱きしめられる。

 

ああ、私がお仕えすべき御方はいらっしゃったのだ。

 

私が勝手に至高の御方はいらっしゃらないと諦めて、すべてを放棄してしまっていたのだ。

 

私は涙を流す。モモンガ様は私を力強く抱きしめてくださり、よくやったと褒めてくれる。

 

そんな優しい至高の御方であるモモンガさまに私は心の中で更なる忠誠を誓うのだった。

 

 

 

 

ちなみにビルドは、モモンガとデミウルゴスに挟まれた上に抱きしめられて気絶していた。

 




誤字脱字修正、ありがとうございます。
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